第一次マレー半島沖海戦1
1941年12月17日サイゴン
この日の早朝、哨戒に出ていた伊58潜の『英東洋艦隊出撃ス、全軍警戒セヨ』の一報に南遣艦隊司令部は色めき立った。
南遣艦隊司令長官近藤信竹中将は、直ちに麾下全艦隊に出撃を下令。
伊勢型戦艦2隻からなる第五戦隊及び、金剛型高速戦艦4隻からなる第六戦隊の戦艦6隻を主力とし、第十九戦隊の軽巡4隻、駆逐艦16隻を擁する大艦隊が英東洋艦隊を撃滅すべくサイゴンを出撃した。
1941年12月18日コタバル沖
「早朝より索敵に出ていた第二十二航空戦隊の哨戒機より入電!『英東洋艦隊発見。「クアンタン」ヨリノ方位四五度、距離百浬。北進中ノ敵艦隊ノ戦力ハ戦艦二、巡洋艦四、駆逐艦八。速力二十ノット』以上であります」
「戦艦2隻か...勝てない相手ではありませんな」
「ああ、だが敵艦隊には新型戦艦が含まれているらしい。油断は禁物だぞ」
「心得ております」
「うむ。それと哨戒機には引き続き触接を保てと伝えろ」
「はっ!」
両艦隊が互いに敵を視認できる距離に達するまで後、二時間であった。
*
同日巡洋戦艦インヴィンシブル艦橋
「長官、日本艦隊を捕捉できるでしょうか?」
「昨日の潜水艦に続き、先程も敵の偵察機に発見された。ほぼ確実に出撃しているとみて間違いない。だとすれば、我が方の偵察機が敵を発見するのも時間の問題だ」
イギリス軍は、この日の朝から空軍の総力を挙げた敵艦隊の捜索を行なっていた。
未だ発見には至っていないものの、その強大な索敵網は敵艦隊をその手中に収めるには十分なはずだった。
案の定、それから僅か十数分後に敵艦隊発見の一報が飛び込んだ。
だが、僅か30浬という敵艦隊との距離は、英東洋艦隊首脳の予想を遥かに下回っていた。
「案外近いところにいたものですな」
「そうだな。艦長、砲撃準備を」
「了解、砲撃準備っ!」
「イエスサー!」
*
同日戦艦伊勢艦橋
「水平線上に排煙多数確認!敵東洋艦隊ですっ!」
「弾着観測機射出用意!」
6隻の戦艦、4隻の軽巡洋艦の射出機に水偵が載せられていく。
「射出用意よし!」
「全機発進せよ!」
小気味好い射出音と共に次々と水偵が発進し上空へと駆け上っていく。
『弾着観測機全機へ告ぐ。高度2,000へ上昇後、敵艦隊上空へ進出せよ』
砲術長が弾着観測機に指示を出す。
「艦長、いよいよだな」
「はっ。我が艦隊はエニウェトク環礁沖海戦に参加できませんでした。その鬱憤を晴らすためにも必ずや敵を撃滅して見せます」
「頼もしいことだ」
「報告!敵艦隊との距離、三〇〇(30,000m)まで近づきました!」
「長官、砲戦距離は如何致しますか?」
「距離二〇〇より砲撃開始だ」
「はっ!」
日英戦艦部隊の激突の火蓋が切って落とされようとしていた。
かつて帝国海軍の基礎を築いた師匠たる英国海軍と、その弟子とも言える帝国海軍の激闘の初戦。
シンガポールを巡る日英の激戦はまだ始まったばかりだった。




