眼帯
青年は言葉通り30分くらいで戻ってきた。
その手には袋が。何か買ってきたみたいだ。
「はいこれ。ずっと眼を瞑っているわけにもいかないだろうしね」
「なるほど、眼帯ですか」
手渡されたそれは、革製の眼帯だった。右眼用で、病院とかでもらえる白いやつではなくファッションの一環としても使えそうな代物だった。
「でも、本当にいいんでしょうか」
「なにがだい?」
「これ、頂いてしまっても」
いくらかかったかは知らないけど、タダではないのは間違いない。何も返せないおれが、もらってもいいものかどうか。この人も、何か企んでるようにもみえないしなぁ。打算があるように見えた方が、こちらもやりやすかったんだけど。
「いいっていいって。大した金額でもないしさ」
「……わかりました。そういうことならありがたく頂戴します」
彼がここまで言っているのだ。ここは大人しく貰っておこう。
にしても結構オシャレだな眼帯。あまり重くもないし、利便性は高そうだ。
眼帯なんか初めてでどうつけるのかわからないけど、直感を信じてやってみることにした。
眼にあてがい、細いバンドを頭の後ろで結ぶ。
それだけなんだけど、勝手がわからず上手くいかない。
というか、見ないで結ぶの難しいんだけど。
「最初は慣れないと難しいかな。眼帯かして。僕がするよ」
「すみません。お願いします」
素直に任せた方がいいと判断したおれは、青年に眼帯を渡した。
青年は優しく眼帯をおれの眼にあてがい、頭の後ろでバンドを結んでくれた。
「これでよし。うん、似合う似合う」
「ありがとうございます。助かりました」
お互いかなり接近していて、ちょっとドキドキした。
仕方ないね。こういう機会あまりないからね。
「それじゃ下に行こうか。出るときに朝食用意しておいてって宿屋のおばちゃんに頼んでおいたからもうできてると思うよ」
「ご、ご飯……」
ごくり、と。
お腹空いていたからか、わかりやすい反応をしてしまった。
「立てるかい?」
「はい。大丈夫です」
ベッドからおりて、おれは立ち上がった。
しかしこの青年、わざわざそこまできいてくるとは、お人好しレベルマックスだな。いつか詐欺師にでも騙されるんじゃなかろうか。こっちが心配になってくる。
「問題なさそうだね。じゃあ行こうか」
青年の言葉に、おれはコクリと頷く。
それから、眼帯をつけたおれと青年は、宿屋の1階、食堂に向かうのだった。