気が付いたら、異世界
気が付いたら知らない場所に倒れていた。
薄暗い場所だ。それに、なんだか埃っぽい。
足元には大きな魔法陣のようなものが描かれている。が、当然詳細はさっぱりわからない。
とりあえず起きよう。こんなとこで寝てたら汚いし。
起きた。でもなんか違和感あるな。
まず視線がいつもより低い。なんで? おかしくない?
続いて自分の身体を見た。
……あれ。こんな色白だったっけ。
うーむ。考えてもわからないな。
とりあえず行動しよう。そうしよう。
ここ、薄暗くてなんだか不気味だし、一刻も早くお日様の光を浴びなければ。
階段を上る。とっとこ上る。ハムスターの如く。
上り終えると、扉があった。
普通の開いた。鍵はかかってなかったみたいだ。
外は……というかまだ屋内だけど、洋館のようだった。
あまり日本っぽくない。どちらかというと西洋ファンタジーのような場所だ。漫画とかアニメとかゲームに出てくるようなやつ。想像力が趣味全開に偏ってて申し訳ないけど。
ここで立ってても埒が明かない。
とりあえず先に進むことにした。
しばらく歩いて、ようやく外に出た。
でも、そこは森だった。しかも木々のせいで日の光が遮られている。加え、見たことのない植物がひしめき合っていた。おれは目を疑った。
ここまででわかったこと。それは、森の中にある洋館の地下室で、おれは目覚めたということだ。
……どうしてこうなった?
経緯を説明してほしい。経緯を。
そもそもここはどこなのか。頭がこんがらがってくる。
目をこすり、慣れない道を歩く。
すると、急に視界が眩んだ。
為すすべもなくおれは目を瞑り、声にならない声を上げた。
――直後。
「へぶっ」
可愛らしい声を上げ、おれは地面にうつ伏せに倒れた。
痛い。特に鼻が痛い。砂利痛いよう。
鼻を押さえながら立ち上がると、そこは川辺だった。
どうしてここに瞬間移動したのかわからないが、さすがのおれもこの状況が異常だとわかる。
流れる河の水面を覗き見ると、そこには少女の姿が。
……どうやらおれのようだ。
信じられないことに、27歳社畜系男子であったおれは、可愛らしい女の子になっていた。まさにファンタジー。いや、奇跡だ。ミラクルだ。
「なにごと……?」
夢にしては痛みがリアル過ぎる。
土手の上の道には、馬車とか走ってる。
遠くに見える街は、明らかに日本の建築物じゃない。中世西洋風だ。
「異世界……?」
なんか、文化が違うよ。アスファルトないし。
それにしても、まいったなぁ。明日も仕事あるのに。女の子やってる場合じゃないんだけど。絶対に成功させないといけない物件の話もあるっていうのに。このままだと今月ノルマいかないんだよ。また課長に怒られるよ。
「こまった、こまった……」
服に付いた泥を落とし、おれは再び歩き出した。
転位したせいか、辺りは先ほどの森ではなくなっている。
とりあえず人を見つけよう。そうすれば何か判るはず。
土手を上がり、街目指して歩く。
身体が小さくなったからか、歩幅が短い。幼女歩きだ。いや少女? まあ、どっちでもいいや。
「あ、馬車だ」
見ると、街の方へ馬車が走っている。
いいね、馬車。さっきも通ったけど、雰囲気でてるよ。
あわよくばおれも乗せてほしい。お金持ってないけど。
「おー、近くにきた。すごい」
結構でかいね、馬車。日本にいたおれには無縁の存在だったもんな。こうして間近で見るのは初めてだ。たまには幼女になってみるのもいいもんだ。いやよくはないか。明日も仕事だし。
「……ん?」
通り過ぎる、と思ったら、何故だか馬車はおれの目の前で停車した。
「そこのお前……!」
いきなり3人の騎士風の男たちが降りてきた。
しかも剣とか槍とか構えてる。すごい形相だ。
「もっと顔をよく見せろ!」
いきなり怒声を浴びせてくる騎士。失礼な。
というか、その位置からならしっかりとおれの顔見えてるだろうよ。
「おい、聞いているのか!」
「は、はい、聞いてます」
まずは落ちつこう。そして話し合おう。
って、そんな雰囲気じゃないね、悲しいことに。
というか、どう見てもおれを囲んでいるわけだけど、なんで? 何かわるいことしたおれ? 邪魔にならないように隅っこにいたつもりなんだけど。
「その瞳の紋様、魔族だな!」
いきなり決めつけられた。
相手は銀色の防具に身を包んだ騎士だ。鎧のせいで顔が見えない。
でも、なんか怒ってるっぽい。まいったな。非常にまいった。
「いえ、"わたし"は普通の人間ですけど……」
いつもの調子で一人称を『わたし』に。
初対面の人だからな。これが社畜の嗜みだ。
でも、よくよく考えてみれば今は女の子になっているわけだし、これで問題ないのか。
「嘘をつくな! その瞳、魔族でなくてなんなのだ!」
「なにと言われましても……」
紋様とかあったっけ、おれの眼。
水面で見ただけだしなぁ。そこまで自分の顔のこと気にしなかった。
でも、可愛かっただろおれの顔。瞳とか関係なくこんなに可愛い女の子に武器向けるとか、なんてゲスなやつらなんだ。ゲスの極みだ。
「とにかくついて来い! 貴様には裁きを与えねばならん!」
偉そうな騎士の人が、強引におれの腕をつかんだ。
痛い。出来ればやめてほしいんだけど、顔の剣幕とか凄いし、抵抗しても無駄そうだ。
「あの、痛いのですが」
「抵抗するのであれば、もっと痛めつけてもいいんだぞ」
えー……。
その言い草はひどいって。
どんな扱いだよ、魔族。
「あの、どこに連れて行かれるのでしょうか」
「黙ってついてこい」
ひどい。言論の自由もないのかこの国は。
「なんだその顔は。魔族に人権などないのだ」
あちゃー、言論の自由どころか人権なかったかー。
にしても、何故おれは魔族とやらになっているんだ。
わからない。さっぱりわからない。
「さっさと乗れ」
馬車に乗せられるおれ。
こういう時って、勇者様か王子様か助けに来てくれるモンじゃないのかな。だって今のおれ女の子だし。ヒロインだし。――魔族らしいけど。
「できるだけ、優しくおねがいします」
はぁ、仕方ない。大人の世界では、時に妥協も必要なのだ。
でも、なんかダメそうだ。人権ないらしいからね。仕方ない。
そうして、おれは腕に縄を巻かれ、連行された。