乙女ゲームに転生したのでモフモフします!
今更ながら乙女ゲーム転生ものに手を出してしまいました。
大好きな要素を詰め込んだらこうなりました……Orz
あいかわらずヤマなしオチなしですが温かい目で読んでくださると嬉しいです。
黄昏時学園高等学校。
私にとっての鬼門。最大の死亡フラグ。私終了のお知らせが響く場所。
そして私たち妖と呼ばれる人外の子供たちが将来のパートナーを探す場所。
人外の理事長によって人間とモンスターの共存を理念に創設されたこの学園は他種族との人脈づくりの他にいつしか花嫁探しの場所として重宝されるようになった。
例外なく私の両親もこの学園出身者で、父様が鬼、母様が人間である。
そんな両親は私がどれだけ嫌がってもこの学園以外の学校に通うことを良しとしなかった。
私にもここで自分たちのような素敵な出会いをしてほしいらしい。
無理だ。
私こと月影璃桜は今世は鬼と人間のハーフではあるものの前世はただの乙女ゲーム大好きな女子高生だったのだから。
私には前世の記憶というやつがある。そしてそれが、この世界をひっじょーによく覚えている。
つまり、だ。ここは前世でプレイした乙女ゲームの世界だったりするのだ。
しかも私の転生先は鬼の次期頭領である従兄様ルートのライバルキャラ!!詰んだ!!
もちろん私は従兄様に恋なんてしてません。むしろフルネームを聞いた瞬間ぶっ倒れて記憶を思い出してからは実の兄のように慕っている。
逃げようとしたけれど、家出も本気で考えたけど、それを許してくれる両親でも従兄様でもありませんでした。涙
ここまで言えばもうわかりますよね?乙女ゲームのライバルキャラの末路なんてみんな似たようなもんです。
私の場合、よくて一族追放。最悪、ブチ切れた従兄様に殺されます。
ああ、詰んだ。詰んだわ。
絶望でいっぱいの気持ちで『入学式』と書かれた看板のたった校門をくぐる。
「璃桜、入学おめでとう」
なぜ、そこにいる。
生徒会長自ら受付ってどういうことだ。
甘い笑みを浮かべる従兄様こと月宮要の姿に笑みがひきつる。
「ありがとうございます。要兄様」
「ん?緊張しているのか?大丈夫だ。俺がついている」
ひぃいい!!ほっぺたを撫でないでください!
むしろあなたがいることが問題なんです!!
そう叫ぶわけにもいかず私は一歩下がることで従兄様の手から離れ、もう一度ありがとうございますと微笑んだ。
その笑みに満足したのか従兄様が去っていく。
よかった。席までエスコートするとか言われたらどうしようかと思った。
入学式は滞りなく行われ、従兄様がどれだけ人気なのかも再確認して顔を引きつらせた。
何、あの崇拝するみたいな視線。怖い。この学校怖い。
何よりもHRでヒロインっぽい子が自己紹介していた時は本気で逃亡しようかと思った。
攻略対象―――猫又が自己紹介してた時はどうして意識が飛ばないのだろうかと泣きたくなった。
なんてクラスだ!!
HRが終わった時点でげっそりしていた私はそそくさと寮へと帰った。人数の関係で一人部屋なので寮の部屋は絶対に安全だ。
従兄様からの『一緒に帰ろう』というメッセージは気づかなかったふりをした。
そしたら5分おきくらいにメッセージが届いて怖いことになったので今気づきましたを装って先に帰ってきましたと返事してスマホの電源を落とした。
ひと眠りしたらいい時間だった。ご飯をどうしようかと思い立ったところで気づいてしまった。
黄昏時学園の寮は男子寮と女子寮が共有スペースでつながっている。つまり食堂に行けば従兄様がいるかもしれない。
そうすると必ず捕まる。つまり取り巻きに睨まれる。というか下手したら兄様の周りにいる攻略対象―――妖狐やら鴉天狗とお知り合いになってしまうかもしれない。
もちろん彼らとよろしくする気はないので自炊しました。
お風呂に入ってスマホの電源をつけたら案の定、恐ろしいことになっていたので従兄様をブロックしようかと本気で悩んだ。
でも後が怖いので素直に謝っておいた。
なんとなく寝付けなくてパーカーを羽織って外に出る。
星がきれいだった。
中庭に備え付けられているベンチに腰掛ける。
従兄様はしょうがないとして、ほかの攻略対象とは絶対にかかわらない。
もちろんヒロインとも。
それが私の命を守る絶対条件だ。
そんなことを考えていたらなんとなく気持ちが重くなってため息を吐く。
ガサリと繁みが音を立てる。無意識にピンと緊張の糸が張った私の視界を銀色が遮った気がした。
それを見つけた私の行動は早かった。
「大きなわんこ!
ちっちっち!おいで!怖くないよー」
金色に輝く瞳に宿る警戒心を刺激しないようにできるだけゆっくり、慎重に距離を詰める。
大きなわんこが近づいてくることはなかったけれど、逃げることもなかったので私は遠慮なく手を伸ばした。
もふり。
「~~~~っ!!可愛い。癒されるー」
銀色のつやつやの毛並みは月の光を反射してキラキラ輝き、触った感触はモフリと柔らかくこの上なく私を癒した。
存分に撫でまわしましたとも!
「わんこはこの寮の近所に住んでるの?」
なんて尋ねてみても答えてくれるわけがない。
それでも私の手と口は止まらなかった。
わんこも嫌がるそぶりは見せずにおとなしく撫でられていてくれる。
「野良、ではないよね。すごくいい匂いがするし。
あ、もう帰っちゃうの?また、私と会ってくれる?」
答えるように尻尾を一振りしたわんこを見送って私も寮に戻った。
思いがけないところに大きな癒しを見つけた私はご機嫌だった。
これが人狼ルートのフラグだったことにも気付かずに……。