② 僕の妹は……
僕にはうるさい妹が一人いて、学校の中でも僕を見つけると、走り寄って来ては下らないことを騒ぎ立てたり、逆に泣きついて来たり、と表情がころころ変わる、感情豊かな女の子だった。
その日も僕が廊下を歩いていると、その妹が「兄貴!」と叫んで近づいてきて、突然肩をつかんだかと思った瞬間、何かを騒ぎ立て始めた。
「ねえ私、現代文が学年二位だよ? すごいと思わない? 兄貴の言う通り、国語だけは天才的だ!」
「わかったって……引っ張るな。というより、廊下の真ん中でがなり立てるなよ。さっさと友達のところ、行けよ」
「兄貴はテストの順位、どのくらいだった?」
僕はそんなのいいだろ、と彼女の頭をつかんで思い切り突き放しながら、歩き出そうとした。けれど、そこで向こうから、佐山さんが歩いてくるのがわかった。僕らを見つめて笑いながら横を通り過ぎ、軽く会釈してきたのだ。
僕は何だか複雑な気分で頭を下げ返して、妹の腕を引き剥がして佐山さんの後を追おうとする。
「ねえ、今の人……誰?」
早苗が興味津々といった様子で身を乗り出しながら、佐山さんを見つめてそう言う。
「ただのクラスメイトだよ。少なくとも、お前よりかは真面目で容姿も端麗だな」
そう言うと、思い切り拳で頭をぶん殴られた。
「兄貴の彼女かと思った。兄貴の、好きそうなタイプだね」
「何言ってるんだよ、そんなのどうでもいいだろ……さっさと教室に帰れ」
彼女はまだぶつぶつ言っていたけれど、やがて「兄貴、頑張ってね!」と廊下に響き渡るほどの大きな声で叫んで、けらけら笑いながら、階段へと消えて行った。
「あの、くそったれ……」
僕は肩をすくめながら、その場を後にする。
確かに僕は佐山さんを意識していない訳ではなかったけれど、それ以前に佐山さんには好きな人がいるし、容姿もすごくいいので男子からの人気も高かった。そんな人が振り向くとは、万が一にも思えなかったのだ。




