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新宿ゴールデン街

新宿ゴールデン街


かあー、クワ~、クワ~!

おーいたか、お前もひとりか。


この街のこの順路をこんな気持ちで歩くのは、数十年ぶりかもしれないし、そんなことがあったのかどうかも定かではない。


その頃はカラスたちが無数にいた。この街には。

何度も何度も夢の中に、幻覚のように現れては消えた街がまだそこにあった。スマホでアーカイブできるように画像記録する。


そのころ一晩中芸術論やらなんやら語り合った今でも著名な風俗評論家みたいなことやってるエロ映画の監督がしていたように、ロケハンの時のように両手指で四角を作り、アングルを決めてからスマホの不確かな画像スイッチに触れる。

手応えなくかすかな音を立てハードディスクかクラウドかどこかに吸い込まれて「記録」されたよう

だ。仮想の世界へ。


何のためにではなく、そうでもしなければまたすぐに幻覚となり、どこかへいってしまいそうな風景アングルだからだ。風景などから何らかの主張とか、メッセージを感じるとその都度条件反射のようにそうする最近。いや、口が裂けても懐かしいからなんて言いたくない。

懐かしいからではない。青春をいとおしんでいるわけでもない。そこんところきつく自分に言い聞かせる。


終電に乗り損ねて朝までこの辺りをひとりで歩き回っていたころは、朝出しの残飯を求めて無数の彼ら、カラスたちが群がり飛んでいたはずだ。

そういう連中とオレは言葉を交わし、なにか知的でアグレッシブな会話をしたような気もする。ちゃんと言葉が通じたような気がする。


幻想かなにかわからないけれど、確かにそうした。

そのことを、そういうことが確かにあったのだよと言うことを、お前は一声で今の俺に教えてくれたかったとでも言うのかい? オイ。カラスよ。


ここはどこかの国のアンビュランスに迷い込んだようでもある。 異邦人と言う曲のメロディーが溜息のように出かかるが、陳腐な連想だと思えてつい飲み込む。

異邦人?いや、そうじゃないだろう。いい加減なところで納得してはならない。なんせ今のこの世に断定できることなんか何一つないしな。あのころのこと以来。


誰かが「今の自分だけが過去を決定する資格がある」とか言ってたが、その通りだ。

砂浜に残した自分の足跡振り返って見つけようとするようなもので、時代の波や「時間」という強力な解毒剤がそれを消し去る。跡形もなく。


俺はそんなふうな世の中になっちまうのを当時わかっていたのだが、ずっと黙認せざるを得なかった。毎日のエサ漁りで追われて来たからな。お前と同じだよ。


お前も知ってるように、あのとき、国会裏門からみんなと突入したとき、若い機動隊員のヘルメットを思いきりたたき落とし、目ん玉に竹竿の先を突っ込んじまったんだ。


その時の俺より若い奴だった。「ギャーッツ」と言った切り、片目から血流してへたりこんで、もう一方の目でこっち見てた。恐怖の顔と言うよりとてもとても悲しそうな顔だったよ。


ご免な!もう俺こんな不毛な革命ごっこ止めると誓ったよ。キミのその悲しそうな片眼をみて一瞬ひるんだとき、隣にいたもっと腕っぷしの良い、きっと剣道か何かの有段者だと思うが、そいつが権力側の「正義」の力で、俺の左足にケリを入れてきた。ゴリッと音がして俺のスネの骨が割れたさ。お前たち機動隊員の「正義」が勝って、俺は黙ったよ。泣いてへたり込んだ。痛くてそうしたのではない。そんなことやってる自分が情けなく、その滑稽な自分の姿が無性に滑稽に見えて、国会議事堂の真上を飛ぶカラスみたいな心境で泣けてきたのかもしれない。無力で馬鹿な自分の姿がおかしかったのかもしれない。


「そのころ」は長髪を揺らし、ぼろぼろのショルダーバッグに一冊の分厚いノートを忍ばせ、時々立ち止まり、詩だか散文だか、なんらかの「表現」をこまめに書き留めながら、この同じ街を同じコースで何度も何度も歩き回った。

誰にも無数の「そのころ」はあるけどね


「そのころ」は思い出やノスタルジーを語り安い酒を飲みながら、それを共有し慰めあっている大人たちを心底軽蔑していた。どんなに歳とっても「思い出」は語りたくない。出来事やその時自分が何を感じて生きていたかはしっかり記憶しておく必要はあるが、決して思い出や回想として語りたくはない。懐かしさという、一種の退行、甘え、いいわけでそこんとこ語らないようにしようと思って生きてきた。


だから、いわゆる同窓会はあまり好きではない。もと職場の飲み仲間とのきわめて非生産的な、ちっとも楽しくない自慢話やら死んだ誰かの噂話も聞きたくない。もうそれってみんな終わった話だぜ。

で、キミたちは今何を感じてあしたからどういうこと考えながら「死ぬまで生きるんだ」よってことを聞きたいんだ。

正義や愛独自の世界観やら、独りよがりのなにかについてのうんちくをを語ろうて言うわけじゃないけれど。


彷徨


もう、ここは「風鈴会館」の四つ角。オカマたちの誘いの声に誘われたお化け屋敷の入口、交差点。


KWA~!と一声。混血かなにかどうでも良いけど、対話にはょっと工夫を要するオカマ?のカラスが誘いをかける。

いいだろう、追いて行ってみるよ。  


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