死亡通知書
死亡通知書
A氏殿
貴方様の寿命が二週間後に尽き、死亡することをここに通知致します。
残り短くはありますが、あと二週間という時間を有効にお使いになり、悔いのない人生を歩まれることを望みます。
<死亡確定確立に関しまして
A氏殿のナノマシンから検出した寿命波長はAタイプとなります。Aタイプの寿命予告精度はここ三年の内、的中率九割九分、外れた予告に関しても最長一ヵ月のズレとなります。故に予告が外れる可能性は有りますが、予告が外れても高い可能性がある事をここに付記します。くれぐれも明るすぎる希望は抱かず、暗すぎる絶望は持たず、ロウソクの炎程度の希望を持つまでにしてください。
自暴自棄抑止制度に関しまして
御自分の寿命通知に対して自暴自棄となり、犯罪行為にはしる方が最近多発しております。それらの行為に対して政府は「天寿抗争者抑制法」を制定しました。この法律により一般刑法に違反する犯罪行為が確認された場合、対内のナノマシンから睡眠増進効果を活性化、強制的に睡眠状態に移行、天寿抗争者専用の隔離施設へと移送致します。くれぐれも節度ある行動をお願い致します。
それでは良い余生を過ごせることをお祈りいたします。
週刊一口「天寿全うの理想世界」
赤ちゃんの頃にナノマシンが投与され、このおかげで現代社会の人間はあらゆる病気に対しての抗体を持ち病気知らずになりはや幾十年。病気しらずの上に、怪我をしても治癒が早いもんだから、この世界は大体が天寿まで生きられるって理想社会ときたもんだ。更にこの恩恵は人の寿命だけに非ず。ナノマシンのおかげで医療費は大幅削減、財政再建の目途も立ち、社会福祉士費はナノマシン以前と以後でガラリと大変わり。なんせ今や我が国の死亡率一位は天寿全う、二位は交通事故、三位は殺人。いやはやナノマシン様様、人間は機械に頭が上がらないね、コリャ。
そんな理想の天寿全う社会にまた逸脱者が出たって話だ。A県のA氏、自分の天寿に絶望してから十日後。自分の妻は殺すし、子供も殺す。あまつさえ孫にも手をかけたとか何とか。何、「天寿抗争者抑制法」? そんなものは結局のところそれが確認されるまで効力がない机の上でしかしゃべらん人たちの戯言、綺麗ごと。A氏はそんな戯言は右から左、何するものぞの狡猾者。先立つものを祝う会「先葬式」の食事に睡眠薬を入れるのは犯罪か? いや違うってなわけだ。少ナクトモ現状ハネ。その後の出来事は書くまでも無し、これをお読みの聡明賢者諸君なら既にご理解、そしてその先もネ。今年の国会では成立成らずだが、来年の国会ではこれで成立ってなことだ。と言う事はだ。再来年から死亡率三位の殺人は消えるなァ。
いやはや、全くもってこの世ノ中。理想社会ダネ。