寄生体
寄生虫って聞くと、気持ち悪いとか、怖いってイメージが強い。最近では、レウコクロリディウムって寄生虫が有名だよね。え、知らない?ほら、テレビでカタツムリに寄生して、眼の部分で芋虫みたいにうねうねする映像見たことがあるんじゃないかな?あれの名前がレウコクロリディウムって言うんだ。
彼らはまず、中間寄生者と呼ばれるカタツムリに寄生する。そしてある程度成長したら、脳を支配して最終寄生者である鳥に、見つけて貰いやすい所へ移動するよう仕向ける。最後に眼の部分に体を移動させたら、さも餌の芋虫であるかのように振舞って、捕食してもらうんだ。鳥に食べられた後は、糞と一緒に卵を地上へと落とし、またカタツムリに・・・って流れ。これはより遠くに子孫を残せるよう、進化していった結果だね。
ちなみに、より遠くに子孫を残せるようにって聞いて、君なら何を思い浮かべる?僕ならタンポポかな。綿毛に乗せて遠くに飛んでいく種子。風速0.5mもあれば、何処までも飛んでいけるそうだよ。実際、海を越えてやってきた外来種も、この日本にいる様だし。
先ほどの寄生虫は、体が小さいために、遠くへ行く事ができなかった。対してこちらの植物は、自ら動くことが出来ない。種族は違えど、自分自身の力では限界があるという点で似ていると思うのは僕だけだろうか?
さて、ここで本題。ここまでは動物の寄生と、植物の不動性からくる拡散能力を話したわけだけど、それらを合わせ持つ存在に、君は思い当たりがあるかな?
答えは菌類。菌類は宿主に寄生して拡散したり、胞子を放出して、遠くに飛ばしたりするわけだ。恐ろしいのは、どちらの方法を取っても、先に説明した物達の遥か上を行くレベルで行われるということ。
胞子を飛ばす場合、その加速度は20万Gにも及ぶ。1Gにおける重力加速度が9.8m/s^2。つまり、これの約2万倍の加速度なわけ。種類によっては、18万倍まで行くらしいから、もう想像が出来ないけど、とてつもなく凄いという事実だけはわかってもらえるはず。実際には空気抵抗なんかの関係で、数センチから数メートルしか飛ばせないみたいだけど、それだけのパワーを産み出すポテンシャルは圧巻の一言だね。
そして本命の寄生型。タイワンアリタケというキノコの仲間があるんだけど、これは蟻に寄生して繁殖するんだ。寄生された蟻は、体の栄養を吸われていき、一週間程度で脳に菌糸が到達する。すると蟻は、昼過ぎに葉っぱの裏まで歩いていき、それに噛み付いた状態で死亡すると言うんだ。
何が恐ろしいか、これだけでは分からないかもしれないから詳しく説明しよう。寄生虫と違って意思を持っていない筈の菌、これが体を乗っ取り、行動を制御するという離れ業をやってのけている事。更に、自身が発芽しやすい涼しい時間帯を狙って、蟻を向かわせる事。おまけは、絶命する頃には蟻は筋力が低下していて、葉っぱに噛み付く力が出ないはず。それなのに、そのまま葉っぱに顎だけでぶら下っている。
これは、筋力の低下した顎からカルシウムだけを吸い取り、死後硬直の状態を作り出しているという事らしい。
何故そんなことが、自我を持たないはずの菌類に出来るのか?現在の科学力では判明していない以上、生命の神秘としか呼ぶ他ないだろう。
今は免疫力の弱い人が、ある種の菌を吸った時に感染し、体の一部からキノコが生えるなんて症状くらいしか確認はされていない。でも、人間の発病は60%が他の動物からうつされる物だって知ってた?エイズも結核も麻疹も人間自身から発症したものではなく、他の動物が患ったもの。それらは当初、人間には感染する可能性はなく、危険視はされていなかった。なのに、現在ではどれもこれも人間にうつってしまったよね。
彼らも日々進化し続けている以上、今後も安全かって言われて、100%大丈夫といえる保障はない。医療技術が進歩しているから何とかなる?馬鹿だなあ。医療ってのは、発病・発見・解明・治療というプロセスが必ずある。なら全ては後手に回るんだ。治療方が見つかるまでに、広がりきらないというなんて都合の良い考えは、即刻捨てるべきだね。映画で世界中ゾンビだらけになって、噛み付かれたら自分もゾンビになる。そんな使い古された設定が、明日起きない保障なんてどこにもないって言うこと、理解してもらえたかな?
そのことを踏まえると、吸血鬼は菌に寄生された人間を未来人が書いた預言書だった、なんてこともあるのかもしれないね。馬に寄生する虫、その馬の血を吸う蚊がキャリアーとなり、次に血を吸った人間にその虫が寄生しなおすって事は実際にあるから、どこかの過程で突然変異した種族によって、支配される人間が現れてもおかしくない。それがもしも、蟻のように人がいるところへ連れ出され、そこで驚異的な速度で胞子を飛ばされたら・・・
人間が人間でなくなる日は、そう遠い未来では無いかもしれない。