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二回目の戦い、二つ目の拠点

「これは……」

「なんというか、神様の人格を疑いますね、これは」

 喜びに満ち溢れた私たちが下駄箱を出ようとしたところ。いきなり雨が降り出したのだった。先ほどまで晴天だったため、今も数人が強行突破を試みている。

 今日は運が良かった、気まずい思いをしなくてもよさそうだ。

 鞄から傘を取り出しながら、理愛は私に聞いた。

「はい、今日は大丈夫ですよ、理愛」

 私が傘を取り出して答えると、理愛は安心したように微笑んだ。

「よかった、それじゃ、帰ろうか」 

 私たちは普通に校庭を通り、すぐ近くの寮に入った。そう、普通に。どこにでもいる学生のように。





 自覚すると、かなり違和感があった。

 思えば視点は低いし、胸の感覚もあって、体全体がやわらかくなった感覚がある。それは、現実の僕が男で、このキャラクターが女の子であることからして当然だった。

「推測ですが、『ああ、やっぱり女の子だな、このキャラ』とか考えてますよね」

「やっぱりばれたか……」

 そう言った後佐奈は僕の胸の辺りを凝視してから

「……やっぱり私よりもありますね」

 それは佐奈が無さすぎるだけじゃないかと考えると……

「考えてる事はほとんどわかってますが私は発展途上です、まだ大きくなります」

「……応援するよ」

 そう言った次の瞬間、何かの吼えるような音が聞こえた。

「……言いたいことはありますが、まずあのモンスターたちを何とかしましょうか」

「了解。佐奈」

 僕は佐奈の一歩前に出た。そのときモンスターはちょうどはっきり見える範囲にきた。

 ――大角山羊ヒルグリス――と呼ばれる魔物が数匹。相手もこちらをしっかりと確認して突進を始めた。

 ヒルグリスは大きな角と身軽な体で接近戦を挑むモンスターだ。だからもちろん「接近させる理由は無い」。



               

無慈悲な裁き、(Flamma non)破壊の鉄槌 (parcet)


我が体を弓として、(Profecto)その焔を(occidere)矢とする(me secum)  ―放たれよ―( Faiabor)                                                   

重ねて放つ(Respell)  ―射抜け―(Faiabor)



死の神にして(Praesent)祝福の聖母(iam in) 我は呼ばん、(omnibus)死の神を(valet aqua)  ―貫け―(Aisnidor)

                    

重ねて呼ぶ(Respell)  ―仕留めろ―(Aisnidor)



 高速詠唱クイックキャスト、単体魔法でのみ使用できる技能だ。

 僕の腕からは炎、佐奈の腕からは氷の槍が飛ぶ。氷の槍は先行して飛び、地面へ突き刺さる。

 無論其処を通るヒルグリスが無事である道理は無い。先頭の一番大きな個体が片方の氷槍に足をぶつけた。大きな衝撃に氷が耐えられるわけもなく、欠片となり弾けた。ただし、その個体は大きくバランスを崩し他の数体に激突した。速度が極端に低下した数体が後ろから来るヒルグリスに突き飛ばされ転倒する。転倒した者は起き上がるのに手間取り、突き飛ばした者はさらに速度を遅くされた。

 しかし、それはあくまで速度を緩められただけ。致命傷とはならず、すぐに立て直して突撃を再開するだろう。「本来なら」。

 そう、それは僕が放った火球ファイアボールが無ければの話だ。火球は氷槍アイスニードルに比べて極端に速度が遅い。この距離の場合当たる確立は極端に低いはずだ。

 ただしそれはヒルグリスの速度があっての話、「なんらかの理由」で減速していればその命中率は大きく上昇する。そして今回は十分な理由があった。故に当たる、二つの火球が、数体のヒルグリスに。

 小規模な爆発が2つ起こり、その場には3つのヒルグリスの死体が残され、すぐに土へ消えた。炎が消えて後ろが見えるようになると、二体のヒルグリスが敵討ちとばかりに走っている。よく見ると、一体の腹には消えかけの氷槍が刺さっており、かなりのダメージを受けているようだった。

 先に接近したのは無論無傷のほう。火球を使う時間は無い、しかし、それは何のデメリットも生まなかった。僕は近接戦闘において火球より強力な魔法を覚えていて、それは正面から迫る相手に対して抜群の相性を誇るからだ。

        

雷撃は(I dat a)我が手に(fortissimo)より処刑(sionis)の刃と(fulgura)なる ―奔れ―(Electollic)


 雷撃、接近した相手にしか使えないが火球を凌駕する威力を持った魔法。火球で倒れる相手がそれ以上の攻撃力を持つ雷撃に耐えられる理由は無い、それ故に迷わず放った。

 そして、無傷の相手を倒せた以上、傷を負ったものが倒せない道理もない。

                        

重ねて走れ(Respell)  ―突き刺され―(Electollic)


 二発目の雷撃の音は、戦闘終了を告げる鐘の音となった。


 戦いが終わって一息つくと、頭の中に直接音が響いた。

「佐奈、これは……」

「はい、レベルアップだと思いますよ、メニュー画面を見てみましょう」

 目を閉じて集中して、メニュー画面を開いた。

 すると青い正方形の画面が現れ、「スキルポイント+2」の文字。このポイントを使って魔法などのスキルを覚えるのだ。とりあえずこれは佐奈と相談して決める事にしよう。

 HPとMPを確認した僕は、メニュー画面を閉じた。

「確認できたよ、とりあえずスキルポイントは取っておくことにしたよ」

「はい、私も相談して決めようと取っておきました。町についてから決めましょう」

「うん、了解」

 僕らはいくつか言葉を交わして、町への歩みを進めた。




数分歩くと、大きな壁と門が見えた。

「これは……」

「町、ですね」

 客観的に見れば、ただ最寄の町に着いただけ。だけど僕らは無性にうれしかった。

「やった!もうすぐですよ理愛、町に着きます!」

「うん!急ごう!」

 僕らは早く町へ行くために歩みを速めた……いや、身長的に普通の人と同じ速さだろうけれど。

「あ、衛兵のNPCが見えました」

「近寄ったモンスターを倒してるね」

 衛兵NPCは町に近づきすぎたモンスターを倒す役目のあるNPCだ。彼らがいるおかげで町は安全ともいえる。

 衛兵NPCは流石といえるほど強かった。人間のような巧みな回避こそしないが高い防御力と攻撃力で近づいた群れを接近して力ずくで殲滅してゆく。必死に避けながら魔法で削る僕らとは正反対だった。

「逆の戦い方ですね、私たちと」

「うん、そうだね。あれがウェポンバトラーの正しい戦い方なのかもね」

 佐奈も同じ事を考えたようで、僕の返答に頷いていた。

 衛兵NPCとモンスターの戦いを見ていると、町の門へはすぐに着いた。


 門は閉まっていて、衛兵はその左右にいた。

「これは、自分で開けるのかな?」

「どうなんでしょうねぇ?」

 僕らが戸惑いながら門に近づくと……

「「冒険者よ!我々は汝を歓迎する!!」」

「ひゃ!」

 左右から大きな声が聞こえて、衛兵NPCが門を開けた。

「佐奈、衛兵NPCだから固まらなくて良いよ」

 衛兵NPCが鎧の音を響かせながら門を開けるのを見て、僕は横で固まっている佐奈を軽く揺すった。

「は、はい、そうみたいですね。驚きました」

 若干涙目になりながらも佐奈が反応したのを見て、僕は門の中を見た。

 門の中には、石のようなもので簡素ながらもしっかりと作られた家が見えた。世界観には合っていないが、これはモンスターに破壊されないためだろう。

「理愛、よく分からないけど私、すごく感動し……」

「「君たち!早く中に入ってくれないか!!」」

「きゃぁぁ!」

 佐奈の言葉は、衛兵の声と僕の悲鳴にかき消された。

 僕は停止した佐奈を再び再起動すると、意味は無いが衛兵NPCに頭を下げながら町に入った。


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