違和感と説得力
幸い、街道までの道にモンスターは出現しなかった。おそらく先ほどの群れが此処のモンスター達だったのではないかと思う。
街道は分かりやすい道だった、現実には存在しない硬い石のようなもので固められている。これは魔物に壊されない為の物だと思う。
ただし、そんなものはどうでもよかった、別に驚きはしない、これはゲームなのだから。僕が驚いたのは別のことだ。
「このキャラクター……女の子だ」
ステータス詳細を見なくても分かる、微かに服を押すものが胸元に二つあったからだ。
キャラクターのほうが若干女顔だが、佐奈の言うとおり殆ど変わらない。
自分が女顔なのはある程度は自覚している。そのせいで昔はクラスメイトに馬鹿にされたものだ。 今思い出しても、「男の服を着てもファッションに無頓着な女の子にしか見えない」は酷いと思う、そしてそれを肯定した佐奈も佐奈だ。
そんなことを悩みながら、僕は寮の広間へと向かった。
私が広間で理愛を待っていると、すこし怒ったような顔の美少女――ではなく美少年が現れた。
「っ……理愛、気づきましたか?」
言うまでも無く私の幼馴染の暮井理愛その人だ
「流石に気づいたよ!何ですぐに教えてくれなかったの……」
彼は顔を真っ赤にして机に伏せながら私に聞いた。深い絶望に包まれた声だ。
「教えてもどうしようもなかったじゃないですか、あの状況では」
「たしかにそうだけどさぁ……」
彼が言いたいことはわかる、そういう問題ではないのだろう。勿論私も分かっている。
「いいじゃないですか、そっくりでしたよ。きっと男キャラじゃあそこまで似せられなかったと思います」
「ないから、それはないから」
まぁそこは私も本気ではない。
「というか、そんなに否定してても理愛自身髪もすこし長いし、女の子の服や靴を持ってるじゃないですか」
「それは僕が男物を着たり髪を短くするたび佐奈が似合わない似合わない言うからじゃないか」
だって考えてみて欲しい、艶のある黒髪と大きな瞳の美少女が虎やら竜やらが描かれた服を着ていたら違和感がありすぎると思う。
「それは否定しません、むしろ今のその男子学生服にも違和感を覚えるくらいです」
私は脱いで椅子にかけていた上着を彼に当てた
「うん、やっぱりこっちの方が似合いますよ絶対に。これはプロも認めてますよ」
「それは3年前のことじゃないか……」
プロが認めた、というのは理愛が12歳の時高等部の制服の採寸に行ったとき、自然に女子の制服を渡されてしまったのだ。下こそ着ることは無かったが、上着をそのまま着てしまったということがあった。
この学校の女子制服はリボンがついていたりしてかなり女性的なデザインになっているが、理愛には非常に似合っていた。むしろ男子制服を着た理愛に謎の違和感を覚えることになるほどだった。
「でも、間違いを抜きにしても似合っていた思いますよ、私は。一人称も自然に私を使えば完璧に女の子にしか見えませんよ」
「そんなことないから!昔はともかく今は絶対違和感あるよ、可愛くないよ」
彼は本気で否定した、これは本当に信じていない声色だ。流石の私もこれには少々腹が立った。
「そんなことありませんよ、絶対に」
これは紛れもない本音。正直女の私からしても理愛が羨ましくて堪らないことが多い。身長は私の方が10cmほど低いし、力も弱いがこれは「可愛らしい」というよりは「ちんちくりん」と表現される類の特徴だと思う。
なので、個人的に「可愛らしい」の極地にいる理愛が自分を卑下するのは非常に腹が立つのだ。貴方が可愛くないのなら私は一体なんなのだろうか。
「自分で言うのも恥ずかしいけど、昔は少しは似合ってたと思うよ?でも今は無理だよ、いくらなんでもね」
……
「いいですか?理愛、まず貴方の身長を言ってみてください」
「それ、言わせるの?一応気にしてるのに……」
理愛の身長は私も知っているが、苦悩する様子が可愛いので言わせることにする
「……大体155センチ」
「正確には?」
「……154センチ」
「四捨五入すると?」
「ひゃくご……待ってそれ関係ないよね」
流石にひっかかりませんでした。
「では次に体育の成績を」
「それは2だよ、飛びぬけて悪いわけじゃ……」
「運動の小項目は?」
「……1」
恥ずかしいのか小声で呟いた。総合が2なのはテストの点は良い方だからだ。
「はい、知ってましたけどね」
「知ってたの!?」
「知ってるも何も成績表くらい何時も見せ合ってるでしょう」
ちなみに理愛の運動の成績は入学以来ずっと1だ。無論初等部の頃からである。
「そして面白い情報があります、これは去年の物になりますが……」
理愛が怯えるように体を引いた
「大丈夫です、唯の比較ですよ、理愛の運動テストの結果と女子の平均を比べただけの」
彼は少し安心したように息を吐いて
「あ、それなら流石に……」
「ちなみに、比べた動機は男子最下位になって落ち込んでいた理愛を励ます為だったのですが途中で止めました」
「……まさか」
……流石に可哀想になったので言うのは止めた。
「……」
理愛が目を上げてこちらを見た
「……」
私は目を合わせた
「黙らないでよ!」
ああ、焦れていただけだったんですか。
「まあ理愛、貴方が女キャラを一番似てると思った時点でもう結果は出てるのですよ」
「……じゃあさっきまでの質問は」
――――。
「理愛、身長伸びてるかなって?」
「絶対からかってただけだよね!」
彼は真っ赤になった顔を腕に埋めた。
「まあまあ、元気出してくださいよ理愛、そのうち伸びますって」
「だといいけど……」
くてりと力を抜きながら、真底落ち込んだ声で返された、少しからかいすぎたかもしれない、だけど……
「そういう仕草の一つ一つに色気があるから男子からラブレターが山のように届くんですよ」
「待って、貰ったのは一通だけだからね、漫画みたいに何十通も貰ってないからね」
一通貰ったのか、と心の中でつっこみながら、調子を戻した理愛に反撃(身長と胸)をされるのを防ぐ為、話題を逸らした。
「落ち着いてください理愛、私達がこんな馬鹿なやりとりをしてる間も、私達のキャラは街道でキャンプをしているのです。なので私達は本来明日のレアリタットでの行動を考えるべきです」
「確かにそうだけど……」
彼は腑に落ちぬといった様子だ。
「はい、それでは理愛先生、町についてからの行動を教えてください!」
理愛は基本的に押しに弱いので、勢いに任せればどんな無茶な話題転換も大体通じる。
「うん……まあいいけどさ、大体佐奈と同じことを考えてると思うよ?」
「大丈夫です、とりあえず言ってみてください」
「分かった、町に到着したら僕等のほかに少人数で活動している人を探せないかなって思うんだ」
「私もできるならそれはいいと思いますが、みつかりますかね?」
「多分、3人以上のPTを組めている人は、僕等の向かう方じゃなくてあっちの近い町に行くと思うんだ」
彼ほど大きな差があるとは思わないが、私も一理あると思った。あの時私もPTが組めていればあちらに向かおうとしたと思う。
「たしかに、あちらの町なら組めてない人が集まっているかもしれません、PTを探すことが出来るかもしれませんね」
「うん、そして一番の狙い目は」
「ウェポンバトラー、ですよね」
これがダンジョンウォーカーでないのにはきちんとした理由がある。ま
ず、ダンジョンウォーカーというのは洞窟や遺跡等を探索することを重視したクラスであること、そしてウェポンバトラーがいればダンジョンウォーカーがいなくても地上で経験値を稼ぐことが出来るが、ウェポンバトラーがいないと洞窟にもぐっても全滅するのがオチだからだ。
「とりあえず、ウェポンバトラーが見つかるまではエレクトリックを使える僕が前に立つよ」
彼が珍しく男らしいことを言った。
「はい、私は支援兼遠隔攻撃系ですからね、前衛は近接型の理愛に任せます。」
「……普通に返したみたいだけど今珍しく男らしいとか思ったでしょ」
……このやけに鋭い勘はどこから来るのだろうか
「まあまあ、もうすぐ夕飯の時間ですからね、お膳を取りに行きましょう、間に合わなくなりますよ」
「はいはい、そんなに早く閉まらないよ、……それと」
彼は薄笑いしながら言った。
「話戻るけど、そういう佐奈の胸も少しは大きくなったの?」
・
「貴女のその無駄に高性能なマルチタスクはどこからくるんですか!?」
――私が夕食をとりに行く途中、「男はシングルタスク、女はマルチタスク」という言葉を思い出したのは必然だと思う。