演奏(あらし)の前の静寂
教室は既に学び舎としての意味を失っていた。
机は集められ禁止されている雑誌も持ち込まれている。
昨日まではマシだった、なぜ今日はここまで盛り上がっているかと言うとその理由は勿論
「一般配布日は今日」
だからである。
僕は政治などに興味は無いが今日ばかりは完全社会主義に感謝をしている。其のおかげで歴史的な娯楽を一部の人間だけが楽しんだり、馬鹿な親のせいで子供がプレイできなくなるのを防ぐことができているのだ。
実際にこの学校の生徒の母親達がメーカーに抗議する計画を話していたのを聞いたことがある。しかし次の日には警察すら介入して鎮圧されていた。
当然だ、そのような親を放置していたら発売前後の暴力事件の発生率が普段の倍を越えてしまうだろうから警察も放置など出来なかったのだ。
一応、この国の法律により親が子供の思想を犯すことができないと言う理由もあるのだ。
――かくいう僕もこの法律によって救われた一人である。
授業は予定通り行われたが、内容は全く頭に入らなかった。
隣の席の佐奈とずっと話をしていた記憶しかない、内容は勿論レアリタットのことだ。
そして待ちに待った放課後、寮には既に機械がセットされているはずだ、部屋に戻ればすぐにログインが出来る。
校門や道路での事故を防ぐ為か、集団下校となった。
面倒くさがる人が大半だったが、校門の下校戦争が起きれば僕らは確実に敗者になるので感謝している。
皆が校庭で集合している時、僕は佐奈と足早に寮に向かった。
寮の入り口には誰もいなかった。
興奮で頬を紅潮させた佐奈は普段の礼儀正しさを捨て去るかのように小走りで寮に入り靴を乱暴に脱ぎ捨てると
「では理愛、ゲーム内で会いましょう、打ち合わせどおりアバターは自分そっくりで!」 という言葉を残し走っていった、僕も同じく返事を返してすぐに部屋に向かった。
廊下に鎮座していたのは誰が設置したのだろうか、と思うほど大きなコンピューター、自室のベットには小型の機械があった。
僕は制服のままベットに座り、前日に配布された取り扱い説明書通りにヘルメットのようなものを装着し、体を横にした。
違和感は一瞬、気がつけば僕はプリセットキャラの画像の前で横になっていた。目の前のボタンのような画像を押すと表示されるキャラ画像が変わった。
元々僕はプリセットを使用するつもりだった、ランダムで生産されるため他人と被る可能性はほぼ存在しないのと、キャラメイクには専門知識と時間が必要になるからだ。
いくつかスライドしていくと、少々小柄で女顔だが僕によく似たキャラがあった、決定ボタンを押し、名前「Ria」を入力すると、僕の意識は再び失われた。
今思えば、僕より小柄で女顔という時点で怪しむべきだったのかもしれない。
そのまま進めると、クラスと初期スキルを選ぶ画面に出た、僕は迷わず
クラス:スペルキャスター
初期スキル:ファイアボール(火の遠隔魔法) エレクトリック(風の近接魔法)
を選択した。
すると目の前の背景が変わり、一瞬の浮遊感と急に現れた重力に戸惑った僕の目に映ったのは、サーバーにより適切に初期位置を分散させられたプレイヤー達と広大な草原、それに――