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ワガママ姫とイジワル殿下 4

 屈んだまま、止まった思考をなんとか回転させようとする。

 目の前で親しげに女性と話し込んでいるのは

 どう見ても先程会場に居た筈の兄だった。


 相手の女性よりも、何故?どうして?と言う言葉が浮かんでしまい、そこで思考が停止する。

 お兄様にそのような相手が居たなんて聞いた事がない。

 どうして?レイはこの事を知っていたの?一体いつから?

 私には言えないような相手なの?

 何故?


 放心状態の私に「とりあえず立ったら?」と頭上から声がかかり、

 ぐいっと腕を持ち上げられ、抵抗することなく立ち上がる。

「あー…お前には落ち着いてから話した方がいいと思ってだな……っておい!」


 レイの話を無視してツカツカとお兄様の元へ近づく。

 悩んでいても仕方が無い事は、本人に直接聞くのが手っ取り早い。

 その後ろを慌ててレイが追いかけてくれば、

 流石のお兄様もこちらに気がつき顔を強張らせる。


 女性の方はというと、驚いた顔をしてこちらを見ていたが

 レイがいる事に気が付いて軽く会釈をしていた。


「レティ…」

 顔面蒼白という言葉がピッタリくるお兄様の顔。

 後ろから「スマン」とレイの小さな声が聞こえる。


「随分と楽しそうですこと。紹介して貰えます?コリン?」

 細い目でじっとりとお兄様を見据え、問いただす。


 因みに

 コリンはお兄様のミドルネーム。

 お父様のお父様、つまりお爺様の名前がコリンだったので、父がミドルネームに付けた。


 ただ、アベル・Cコリン・ビセットという

 何とも響きの悪い感じとコリンと言う子供っぽい名前が、

 お兄様はあまり好きではない。

 こういう時は「お兄様」と呼ぶよりも、ミドルネームの「コリン」で呼ぶと天罰覿面てんばつてきめんだったりする。


「お知り合いですか?」

 と傍らに居た女性がお兄様に声をかける。

 いっそ「コリンとは親しい間柄ですの」

 とでも言ってしまいたい衝動に駆られるが、流石に我慢した。


「始めまして。ワタクシ、レティアーナ・ビセットと申します」

 にっこり微笑み挨拶をする。あえて「お兄様がお世話になっています」とは言わない。


「コルネリア・Mマリー・リヴェルと申します。えっと…」

 と、コルネリアと名乗る女性は、少々困惑した表情でお兄様に視線を送る。

「妹です…」と、情けない声で注釈を付けるお兄様に、

「ああ、妹さん…」と、ホッとしたような表情を彼女はしていた。

 何だかますます面白くない。


 コルネリアは不穏な空気を感じてはいるのか、おずおずと

「お兄様には以前、大変お世話になりまして…」

 なんて言ってきたので、

「そうですの…」とだけ返しておく。


 レイが相手ならば、「私の相手はロクにしないのに?」

 とかなんとか続けていたと思う。

 我慢しただけでも、ホント褒めて欲しい気分だ。


「で、彼女とはどういう間柄ですの?コリン」

 腕を組み、仁王立ちして見せる。

「ええっと…まだ、どういう間柄…でもない……かな?」

 歯切れが悪い上に、目が泳いでいる。


 窓にもたれながら、手袋を外そうとしていたレイが、目線は手に向けたまま

「猛烈口説き中だ」

 と、あっさり答える。


 その言葉に、お兄様とコルネリアは真っ赤になる。

 …どう見ても、その段階を既に通り越しているようにしか見えないけど?


「彼女はその、辺境伯のリヴェル侯爵のご令嬢で…国境付近に住んでるから、なかなか会えなくて…」

 しどろもどろに照れながら、お兄様は説明する。


「説明になってないわ!いったいいつ頃からお付き合いしてるの?そしてレイはいつから知ってたの?!」

 いや、だから、まだそういう間柄では…とお兄様が縮こまって言うと、

 見るに耐えないといった感じで、レイが口を開いた。


「以前侯爵の治めるダール地方に騎士団の視察へ行ったことがあって、その時偶々居合わせた彼女にこいつが惚れてしまってな。

 それならば、なんとか話す機会は作ってやれないだろうかと思案して思い付いたのが、今日の舞踏会へ招待ってわけだ」


 視察の礼と言えば喜んで来るだろう?と片眉を上げながら自慢気にレイは言った。

 なるほどね。と納得して見せる。


「つまりレイは始めからこの事を知っていた上に私に内緒で……お父様はこの事は?」


 ふと父の顔が頭をよぎる。

 この兄に限って女遊びなんて器用な事が出来るわけないのは明白で、

 とすると、やはり彼女を伴侶にと考えている事になる。

 結婚を前提としてるなら、お父様もこの事を知っているのでは?


「いや、相手が相手だから…ビセット公爵にはまだ言ってない」

 相手が相手?侯爵家なら身分的にそこまで問題になるとは思えない。

 そもそもお父様はそういった事を気にする人でもない。


 訝しげにレイを見ると、私の疑問を察したのか、

 はあぁ〜とレイは大きな溜息を吐き出し、更に話を続けた。


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