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ワガママに癖あり 5

 ふーっ、と一度深呼吸をする。

 時間勝負と言っても、焦って全てがダメになってしまったら元も子もない。

 なるべく早くとは思うものの、

 やはりここは旅に慣れているクロエの案を検討してみる事にする。


「仮にその通常の旅程で行くと、ダールにつくのは何日後になる予定?」

「順当にいけば、5日か…6日かといった所でしょうか?場合によっては7日以上掛かる事もあり得ますが、団体で動かない限りはそこまでかからないかと」


 クロエの話を聞いて、おもむろに鞄からメモ帳とペンを取り出す。

 仮に6日目に到着するとなると…

 とブツブツ言いながら計算している私を、不思議そうな顔でクロエが見ている。


「地図を見せてもらってもいいかしら?」

「あ、はい、どうぞ?」

 今の道順を指をさしながら確認する。

 足りない情報をメモに書きたしていく。


「団体で移動した場合でも今のルートを通る?」

 メモ帳と地図を睨めっこしながらクロエに聞く。


「そう…ですね。真っ直ぐ南下するルートもあるにはありますが、そちらの方から行くと森の範囲が西側より広くなっているのでまず団体でそこを通る事はないと思います」

 戸惑いながらもキチンとクロエは答えてくれる。


「んー。じゃあ、団体で移動したとして、クロエがさっき言ってた、海側のこの…イオドランに立ち寄る事はある?」

「…まぁ、団体ならば、補充や休憩の為に何日か滞在する可能性が高いですね。この国で4番目位に大きい街ですし」


 そういえば、この街はどっかの侯爵が住んでいたような気もする。

 誰だったかは思い出せないけど。

「そうなると…」と計算を続ける。


「…うん。よし!今日は次の町まで進んで馬を売って宿に泊まろう。で、私たちも2日目はこの街で1泊しよう。後はクロエの予定通りでなんとかなりそう」


「承知」とクロエは応える。

 全てを語らない私に対してなにか言う訳でもなく、ただ返事を返してくれた。

 やっぱりクロエは、相当出来た兵士なんだろうなと感じた。



 =====



 村を出て、一泊予定の次の町へ着いたのは、日が傾き始めた頃だった。


 フェンスと名付けられたこの町は、

 東西南北いずれの方向からも旅人が集まり賑わいをみせている。

 大きな街道がすべての方向にある為、旅の中心地と言っても過言ではない。


「思っていたより大きい町ね。この時間なのに、人が減る気配がまるで無いわ」


 厩舎で馬を売った後、明日の馬の予約をし宿探しがてら町の中を散策する。

 とにかくありとあらゆる人が居て、王都よりも栄えている印象を受ける。

 町というより街と言った方がしっくりくるくらいだった。


「西には港街ブール、東には国境、南にはダール、北には王都がありますからね。町は毎回訪れる度に大きくなっていますし、そろそろ街と言っていい気がしますね」

 クロエが私と全く同じ事を考えていた事に、ふふふっと思わず笑みがこぼれる。


 港街ブールは、明日滞在予定の港街…イオドランよりもはるか西

 ウイニー国の最西にある港街で、

 別の大陸や島から来る人々の玄関口を担っている国内で1番大きな港街だ。


 フェンスの町はほぼ円状の構造で、中心地は大きな広場となっている。

 そのさらに中心には開拓者の像が飾られており、

 その広場を起点に放射状に街路が伸びている。

 宿は主に町の出入り口と広場付近にあるようだった。


 私たちはとりあえず、広場付近の宿へ行ってみる事にした。


「こちらの宿はどうでしょうか?」

 とクロエが立ち止まる。


 この町で1番豪華と迄は行かなくとも、

 それなりに品のある風情を漂わせたホテルだった。

 上流階級の貴族は利用しなくとも、下級階級の貴族ならまず出入りして居そうだ。


「クロエ…確かにお金は割と持って来たけど、流石にここはダメよ。いかにもお金持ちが利用する場所は、足がついちゃうわ」


 ぐるりと辺りを見渡して見る。宿の数はそんなに多くない。

 パッと見た感じでは3件といった所だけど、

 どれも似たような感じで値が張りそうだった。


 どうしたものかと広場をぐるぐる歩く。

 すると、開拓者の像の裏手にある噴水の横に、ご案内と書かれた看板を見つけた。

 どうやら町内地図になってるらしく、大まかな店の場所が記号で標されていた。


 私は「あ!」っと、町の南側にある、とある場所に目がいった。


「クロエ、ここに行くわ!」

「えっ!?」

 と、クロエの声が聞こえたが、構わず店のある方角へ歩く。


 町の繁華街を抜け、裏通りにほど近い場所にその店はあった。

 裏通りはほぼ娼館が立ち並んでいる。

 表通りに面してはいるが、おそらくここも例外ではない。


「今日はここにお世話になるわ」

 嬉々として私が宣言すると、慌てたようにクロエが引き止める。


「お待ちください!ここは姫が泊まるような普通の宿では…」

 もごもごと語尾が小さくなる。心なしかクロエの顔が赤い。


「大丈夫大丈夫」と言って、制止するクロエの手を振り切って、

 思い切り扉を開ける。


 扉にかかった2足の赤いハイヒールの飾りが、カラコロと音を立てた。

 ハイヒールのかかとの部分は片方だけ折れている。

 王都にあるのは1足の折れたハイヒールだったけど、ここは2足。

 それでも折れたヒールの飾りに同じ店だと確信を持てた。


「こんばんわー!誰かいますかー?」

 店中に響く大きな声で問いかける。

 後ろでは、あぁ…と、頭を抱えるクロエの声が聞こえた。


 店内は王都と同じ造りになっているらしく、

 一階部分が酒場になっていて2階部分が宿になっている。

 店はまだ準備中らしく、客の姿は無かったが、

 驚いた顔でこちらを見ている男性が数人いた。


 暫くすると、奥の方からバタバタと中年の女性が姿を現した。

 長い黒髪に翡翠の瞳の女性は真紅のドレスに身を包んでいて、

 貫禄はあるものの、未だにその美貌は衰えていない。


「なんだいなんだい?!まだ店は開いちゃいないよ!騒いでるのは一体どこの誰だい?」


 この忙しいのに!とでも言いたげに私の方へツカツカと早足で近づいてくる。

 んん?とこちらをマジマジと見てくるので、

 私は頭に被っていたキャスケットを外し、女性に向かって二ッと笑って見せた。

 私に気がついたその人は、驚愕の目で私を凝視した後、ぎゅーっと抱きしめてきた。


「誰かと思ったらお嬢ちゃんじゃないかい!大きくなったねぇ!」

 私は嬉しくなり同じようにぎゅーっと返した。

「久しぶりね!アルダ!」

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