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Coffee Break : 災難殿下

Coffee Breakは本編ではありませんが、

その時々の物語の背景となる為、若干ネタバレ要素が含まれます。

気になる方は飛ばして読んで下さい。

 翌朝。

 執務室で1人昨日の事を思い出し、頭を抱える。


 夜更けに侵入してきたかと思えば、茶席を設けろと催促をし、言う通りにした結果がこれだ。

 あいつがあの場を去った後は散々だった。


 用意してもらった茶や食事を無駄にする訳にもいかず、渋々1人中庭に出ると、

 心なしか給仕が冷たい視線を向けてきていた気がした。

 …茶に心を休める効果があるというのは嘘だという事が証明された。


 部屋に戻るとオヤジから呼び出され、

「お前も年頃だからな…女の子と遊びたいという気持ちも解らないではない…しかしな、もっとこう、相手を選ぶとか、巧く嗜めるとか…云々かんぬん」

 小一時間程説教される。


 ようやく終わったと部屋に戻ろうとすると、今度は母上に呼び止められ、

「よもや、殿下がこのような事をなさるとは…私は育て方をどこかで間違ったのかしら…」

 悲しい目で避難される。


 夕食になると、その視線は更に増えていて、

 何を食っても味がせず、殆ど食事を取ることが出来なかった。


 その上寝付けず、トップルを数杯引っ掛け自室に戻ると、

 いつの間に侵入したのか、ベッドサイドで気持ち良さそうに(くだん)のソレが寝ていた。


 もういっそ衛兵呼んで、牢にぶち込んでやろうかと思いもしたが、ゲンコツ一発で何とか耐えた。


 今朝は今朝で寝不足で、ただでさえ辛いというのに、

 廊下ですれ違う兵や、朝食を用意する給仕の冷たい視線がまたまた更に昨日より増えていた。

 流石に耐えるのも辛くなってきたので、執務室に逃げこんで現在に至る。


 確かに俺は今まで、噂というものを多少なりとも軽んじていた所がある。

 所詮事実に勝るものは無いと思っていたし、大概の事は対処出来た。


 が、今回の事で噂とはかくも恐ろしいものだったのだと痛感させられた。

『寛大で聡明な殿下』が、今じゃ『女好きの二股王子』だ。


 どうしたものかと悩んでいると、コンコンとドアを叩く音が聞こえた。


「…入っていいぞ」

「失礼します」

 と言って入ってきたのは、事の発端といっていいアベルだった。


 扉を閉めると、神妙な面持ちで口を開く。

「殿下……相手は選んで頂かないと…流石に……」

 と、言い出したので、

 あぁぁぁぁ〜!と更に頭を抱え、机の上に突っ伏した。


 おそらくコルネリア殿から話を聞いたのだろう。

 あの状況でどう説明すれば信じて貰えるのか。


 …絶望でしかない。


 しかし、その様子を見たアベルが、クスクス笑って居るのに気がつき顔を上げる。

 訝しげにヤツの顔を見上げると、


「ごめんごめん。マリーからコレを預かってね」

 と、手紙を渡される。


 2人の時はコイツもレティと同じように砕けた喋り方をしてくる。

 俺としては常にそのままで構わないのだが…


 手紙を読むと、

「これから起こる事に驚かずに話を合わせて欲しい」といった内容だった。


 どうやら昨日コルネリア殿に渡すように頼まれた、レティの手紙だと確信した。

 余計に取り繕う必要が無くなった事にホッとしたものの、

 コルネリア殿も加害者の1人であったことに、内心複雑な思いに捉われる。

 …そしてコイツは冗談がキツイ。


「妹とマリーがごめんね?」

 と妹そっくりな仕草でアベルが言ってきたので、またまた頭を抱える。

 見た目似てなくてもこういう所は兄妹なんだな。


「あと、もう1通。封筒の中にレイ宛ての手紙が入ってたらしい。」

 そう言って折りたたまれた小さな手紙を渡してきた。ご丁寧に封をしてある。


「…謝罪文と今後の指示だな。お前がコルネリア殿を帰るまで慰めろ。とある」

 はあぁ〜と大きく溜息を吐く。

 昨日の夜更けと就寝前に、浴室から侵入して同じように誤ってきたレティを思い出す。

 一応、良心の呵責は持ち合わせているみたいだ。


 その俺の様子に苦笑しつつ「ホントごめん」とアベルは言った。


「アレは一体誰に似たんだ…」

 俺は机の上に突っ伏しながら、ポツリとボヤく。


「それは、まぁ、…レイだろうなぁ」

 と顎に手を当て、アベルは即答した。


「俺はアレを育てた覚えはないぞ」

 俺が憮然として答えると、「えぇー?」とアベルは腕を組む。


「言っておくけどな、レティは僕や父上といた時間より、レイと過ごした時間の方が多いんだ。そりゃぁたまに家に帰れば可愛くて、多少甘やかしたりしてたかもしれないけど、レイの悪戯に付き合って悪知恵付けてた事の方が、悪影響を及ぼしてると思うぞ?」


 甘やかしたのは多少じゃないだろう。と思ったが、悪戯に関しては確かに心当たりがあった。


 アベルが兵舎に入った直後位から、あいつも俺の所に来る様になって、

 勉強にしろ遊ぶにしろ、ついて回るようになっていた。


 俺もあの頃はまだ、人に合わせるなんて性分は持ち合わせてなかったし、

 どちらかというとレティが俺に合わせて剣術ごっこや悪戯に付き合っていたような気がする。


「つまり今回の騒動は、おおむね俺が招いた事だと……?」

 愕然がくぜんとして言うと、アベルは肩をすくめてみせた。

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