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ワガママ姫の逆襲 4

 レイは自分の身に起こった事が把握できずに、暫くぽかーーんとしていた。

 それは私以外の周りの人間も同じで、

 廊下の奥では何事かと、

 兵士や使用人達が隠れてこちらの様子を伺っているのが判る。


「お前、なに…」

「最低ですわ!あれだけ気を持たせる様な事をしておいて!今日は他の方とデートですの?!」

「はぁ!?」


 腫れた頬を抑えながら、訳がわからないという風にレイはこちらを凝視する。

 そりゃそうだろう。この事は何も言わずにここまで来たんだから。


「お前がコ…」と言いかけたレイのセリフに、被せるように反論する。


「しらばっくれる気ですの?!一昨日の夜は珍しくダンスに誘って、ワタクシの手をなかなか離そうともせず、可愛いとまでおっしゃって…ワタクシ殿下の事を信じていたのに…」

 あんまりですわ〜と顔を伏せて泣いてみせる。


 私がコルネリアを呼び出すように頼んだと言いたかったんだろうけど、

 それを今周りの人間に知られる訳にはいかない。

 呆気に取られていたレイは、ちょっと待て!と慌てて反論してくる。



「お前、何言ってんだ?俺がお前相手に本気でそんな事いう訳無いだろうが」


 レイのそのセリフに周りが凍りつく。

 ッハ…っとレイ自身が気がついた時には遅かった。

 あーあ…そこまでの決定打は求めてなかったんだけどなぁ…と内心苦笑する。


「いや…違うぞ…?誤解だ…罠だ!」

 顔面蒼白でレイが叫ぶ。

 うーん。これはレイが結婚出来るのか、少々心配になってくるけど、

 自業自得って事で許して貰えない…かな?


「殿下…最低です……」

 辛辣にそう言ったのは、私ではなくコルネリア。


 朝方、レイに手紙を預けたのは彼女に協力して貰う為だったんだけど、

 演技ってよりホントに最低だと思ってる口振りだなぁ。


 私は顔をあげ、レイを驚いた様に見つめた後、

「ひ、ひどいぃ…」と更に涙をボロボロ落として泣いてみせる。


 見兼ねたコルネリアが可哀想に…とギュッと私を抱きしめてくれる。

 うん、なんか、流石に良心が痛み始めたかも。


 しかしここまできて止めるわけにもいかないので、とどめのセリフに、

「殿下なんて…殿下なんて大っ嫌い!」

 と叫んでその場から走り去る。


 終始唖然として見ていたメルは、レイをキッと睨み付けてから私を追いかけて来る。

「えっと…私、部屋に戻りますね」とコルネリアもその場をそそくさと後にする。


 その場に取り残されたレイは、ガックリと膝が砕けてしまい、

 暫くその場から動けないでいた。

「女ってこえぇ…」

 レイは頭を抱え、小さく呟いた。



 =====



 バタバタと泣きながら城門を走り抜け、城壁沿いに町外れの丘の方へ向う。

 人がいない事を確認すると、はあぁ〜。と溜息を吐き出す。


「お嬢様ー!」とすぐ後ろからメルが追い掛けてきた。

「あの、大丈夫ですか?」

 と此方を気遣う様に声を掛けてくれる。


「うーん。ちょっと流石に良心が痛むかなぁ」

 と答えると、

「っへ?」と豆鉄砲を食らったような顔をされてしまった。


「さ、メルの出番よ」

 ポンポンと肩を叩き、にっこり笑って見せる。


「さっき見た茶番劇の内容を含めて、殿下が私にフラれたって噂を流してきて頂戴」

「茶番…?」

「そ」

「あの、さっきの、ウソだったんですか?」

「そう」


 えええええ?!とメルは驚いて尻餅を付いた。

 なにもそこまで驚かなくても。


「最近の妙な噂を一掃するならこの方法が1番だと思ってね。レイには悪いけど利用させて貰っちゃった」

 それを聞くとメルは、「あわわわわ…」と顔を青くする。


「僕、流石にその噂流すの嫌ですよぅ。後でお咎めとか洒落になりません!」


 涙目で訴えてくる。う、うーん…確かにレイの沽券こけんに関わるからなぁ。

 そう言われちゃうのは当たり前か。


「大丈夫大丈夫。あの場の目撃者は割と多かったしどの道噂にはなるのよ。早いか遅いかの違いでしかないから」

 それを聞いてメルは眉をしかめる。


 どの道噂になるなら、わざわざ自分が広める必要は無いじゃないかって

 …まぁ、思うよね。


「うーん。私としては、出来れば早く噂になってくれると都合が良いのよ。まぁ、無理にとは言わないわ」


 当初はメルを連れて行く予定もなかったし、

 それならそれで予定通りにはなるので問題なかった。

 噂が広まっているかどうかの確認くらいはして貰おうかと思っていたけど。


 それでね、と話を続ける。


「また手紙を2通渡すわ。1通は今から肉屋に行って配達して貰って。もう1通は貴方に。これは夜寝る前に、誰にも見られないようにこっそり読んで。いい?」


 この時間だと流石に今日中に配達は無理かもしれないけれど、

 商会に頼むより、肉の鮮度命!の肉屋に頼む方が格段に速いのだ。

 1番速いのは魔法使い便だけど、魔法使い自体が稀少過ぎて、

 この街で見つかるとは思えない。


 それくらいなら…とメルは頷く。


「ありがと。手紙間違えないように。読むのは寝る前だからね。その前に開けちゃダメよ?」

 念には念を入れ、メルの背中をそっと押して送り出す。


「お嬢様は真っ直ぐ帰って下さいよ?」

 と言ってくるので、「ハイハイ」と苦笑混じりに、私は手を振った。

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