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ワガママ姫の逆襲 3

 ゲホゲホと咳き込んだ後、

「…よく私が侵入したのがわかったわね?」

 と両手を上げながらレイに話しかける。


「んん?」と顔をしかめ、

 レイは私のキャスケットを持っていたナイフに引っ掛け、すぽっと外すと、

 まじまじと私の顔を確認し、呆れたような顔でこちらを見た。


 私は「おはよう」とレイに手を降りながらにっこり挨拶する。


 その直後、部屋の異変に気づいたのか、

「殿下!どうかなさいましたか!?」

 と外からお兄様の声が聞こえてきた。

 どうすんだ?と視線を送ってくるレイに、首を横に振って応える。


「何でもない。悪い夢を見ただけだ。寝直すから下がっていいぞ」

 レイが浴室から顔を出し、声を掛ける。

 お兄様は「そうですか?」と、訝しげな返事をしてその場を立ち去った。


 外に人の気配が無くなったのを確認し、

 レイは部屋にあったランプの火をともしてから浴室に戻って来ると、

 呆れた顔で溜息をついた。


「お前なあぁ〜…おはようじゃ無いだろう。何時だと思ってるんだ?こんな時間に。しかも、こんな所から…そんなに熱烈な俺のファンだったのか?」

 バスタブに座りふふふと笑う。


「あら?今頃気がつきまして?じゃあ、ついでにファンレターを差し上げますわ」

 そう言って胸ポケットから手紙を取り出し、レイに渡す。


 ただし宛名はコルネリアとなっている。

「レイから直接コルネリア様に渡してね。中は見ちゃ駄目よ?女同士の秘密だから」

 口先に人差し指を立ててウインクして見せる。


 はあぁ〜と、更に大きな溜息。

「こんなことの為にわざわざ人を起こしたのか?」

「あら、起こすつもりはなかったわ。寝首を掻いてから手紙だけ置いて行こうとは思っていたけど」


 お前ねぇ…と、レイは脱力する。

「浴室から壁が動く音がすれば誰だって起きるだろう。」

 あぁ、なるほど。それは盲点だったわ。と相槌を叩く。


「もういいだろ?用が済んだならとっとと帰れ」

「まぁちょっと待って」

 もう一つ重要な頼みごとがあるのだ。


 レイがこれを実行してくれない事にはどうにもならない。

 まぁだ何かあるのか?とレイは自室に戻りかけた足を止め、肩を落とし振り返る。


「今日の午後、お茶の時間にコルネリア様を誘って庭園の方に連れて来て欲しいの。お兄様は…出来ればいない方が良いかしら。コルネリア様とゆっくりお話がしたいし」

 わかったわかった。と言いながら私を追い払おうとする。


「手紙、忘れずに。ちゃんとエスコートして差し上げてね」


 床に落ちた帽子を拾い上げ、

 念を押してから、ではお茶の時間に。

 と言って部屋を出ようとしたが、はたと立ち止まり、少し考え込む。


 そして、くるりと振り返りレイを見上げると、

 レイの目がもう勘弁してくれ。と訴えているのが判る。


 それでも、真剣な顔つきでレイを見つめ続けていると、

 ただならぬ私の様子に、レイも眉をしかめつつ、

 真剣にこちらを見つめ返してくる。


「レイ…」

 私は少々重い口を開く。


「な、なんだ…?」

 とレイは、ビクビクしながら聞き返してくる。


「先に謝っておくわね。ごめんなさい?」

「は?」


 両手を合わせ、首を傾げて謝ってみせる。

 想定していなかった私の言葉に、レイは呆気に取られる。

 その顔を尻目に、じゃあ!と片手を上げて挨拶をし、浴室の壁をすり抜けた。


 もと来た道を戻り、屋敷に帰りつく頃には、

 城壁の奥から朝日が顔を覗かせていた。



 =====



 さて、ここからが本番。


 屋敷に戻ると、急いでネグリジェに着替える。

 着ていた服はクローゼットの鞄の中に隠し、自分はベッドに潜り込む。


 間髪入れずに、

「お嬢様、起きてらっしゃいますか?」

 と侍女が起こしに来た。

 割とギリギリだった事に内心ヒヤリとする。


「今起きたわ」と、身支度を整え朝食へ向う。

 朝食を終えると、執事に午後のお茶の時間に王城へ向う事を伝えた。

「お城はすぐ目の前だし、送り迎えは要らないわ。後、今日の昼食は少し早めにお願いね」

 と言うと、せめて供のものを付けてください。と青い顔で言われてしまったので、

 仕方なしにメルを連れて行く事にした。


 昼食までは、まだだいぶ時間があったので厩舎へ向かい、使用人に声を掛けた。

「ご苦労様。馬の調子はどう?」

 と聞くと、

「皆元気がいいですよ。乗っていかれますか?」

 と返って来たので、

「今日は忙しいからまた今度ね」

 と言って暫く馬を何頭かチェックをした後、屋敷に戻る。


 その後は暫く自室に籠り、早めの昼食をとる。

 昼食を終えると今度は図書室へ向かい、本を読み漁る。

 あれでもないこれでもないと本を選んでいると、あっという間に時間が経ち、


 ふと、手元の懐中時計をみると、もう2時近くになっていた。

「大変!」と言って急いで一冊だけ自室に持って行き、机の上に本を放り投げると、

 急いでメルを呼び、屋敷を後にした。



 =====



 城門はすぐ目の前だけど、ワザと歩調をゆっくり歩き、メルと話しながら城へ向う。

「お嬢様、僕なんかがついてって本当にいいんですか?」


 またまたメルの弱気発言が飛び出した。

 もっと自信持っていいと思うんだけどなぁ。


「大丈夫よ。他の人なら門の前で待たせるんだけど、メルは中まで連れてっても恥ずかしくないもの」

 ううう〜。緊張します。と両手で胃を抑えるメルに思わず苦笑してしまう。


「丁度いいから、メルにも協力して貰おうと思うのよね」

「協力?」とメルは首を傾げる。

 ふふふー。と笑いながらメルに笑顔を向ける。


「取りあえず、お城を出るまで内緒。さ、着いたわよ」

 ツカツカと門を潜ると、慌ててメルは追い掛けてくる。


 廊下を歩き中庭に出ようとすると、

 丁度反対側の角から、レイがコルネリアを連れてくるのが見えた。

 お兄様がいない事を確認し、コルネリアに視線を向ける。


 こちらに気がついたコルネリアは私を見ると、

 若干不安そうに小さく頷くのが確認出来た。


「ご・め・ん・な・さ・い」と口パクでコルネリアに向かって言うと、

 ニコリと笑顔を見せてくれたので、

 これはイケる。と確信し、早足でレイに近づく。


 レイも此方に気が付き、私に声をかけようと口を開いた。


「ん。はやかっ…」

「最低!」



 ばっちーーんと気持ちのいい音と私の声が広い廊下に響き渡る。

 全てのセリフを言い終える前に、私はレイに思いっきり平手打ちをブチかました。

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