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ウイニー王国のワガママ姫  作者: みすみ蓮華
2章 それぞれの事情
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進む道歩むべき道 2

『なんじゃ?』

 失礼と判りつつも、思わず話を止めてしまった。

 女王も話の腰を折られて不快そうに眉を寄せている。


『すみません!ただ、その、何で私の名前も、ここに来る事も、夢の事も全部知っているのか不思議で…』

 私が言うと、女王は更に眉を顰めた。


『何で?と言われてものぅ…妾は軌道修正さえ出来ればそれで良いと思うのじゃが、それはお主にとってそんなに重要な事かの?』


 女王はさも面倒臭いという態度で眠虎みんこを撫で回す。

 すると玉座の左横下に控えていた兵士が小さく嘆息した。

 私を案内してくれた兵士だ。


『陛下は結論を急ぎすぎる癖をどうにかなさった方が良いかと思いますよ?ハニエル様はこの国に来たばかりでウイニーとは文化も政治も全く異なっているのです。一つ一つ説明して差し上げないとハニエル様を困らせるだけになってしまいますよ』


 兵士の呆れた様子に、幼い女王は「むむむ〜」と腕を組む。


『そうか、妾はどうもその辺の気遣いが苦手での。すまなかったなレティアーナ。あ、いや、ハニエルじゃったな』


 ニッと無邪気に笑う女王にまたまた私は目を見開く。

 本名までバレているってどこまで知られているのかしら。ちょっとだけ怖いかも。


『いえ…』と私が返事をすると、女王は満足そうに頷く。


『して、何を知りたいんじゃ?…ああ、何故妾がそちを知っているかじゃったか?それは勿論この眠虎の力じゃ。眠虎はユニコーンと同じように未来や過去を見る力がある。ただしそれはユニコーンよりもずっと大きな力じゃ。限定的ではあるが、妾が知りたいと願えばその者の全てを見ることができる』


 女王は少し得意げに指を立てて説明をする。

 掻い摘んで説明すると、眠虎は目の前にいる人物、又はハイニア大陸にある国々に影響があるであろう人物の人生のごく一部の過去と未来を見ることができ、未来に関しては複数の可能性を見ることが出来るらしい。

 それは避けようがない確定的な未来から、まだ不確定な未来まで様々で、どういう行動を取ればその未来へ近づけるのかを助言するのがこの国の女王の仕事の一つなのだという。


『ユニコーンとの大きな違いは、妾が見たものがはっきりと過去か未来か解る事じゃ。して、お主はハイニアの未来にとても深く影響を与える人物となるであろう。そのためにもお主が見た歪んだ運命を正してやる必要がある』


 私がハイニアの未来に深く影響を与えるですって?!

 なんだかとんでもない話になってきてないかしら…


 私が目を白黒させていると女王はケラケラと楽しそうに笑い『そう気張るでない』と私を宥める。


『影響を与えると言っても、お主自身が大陸で何か大きな事を成す訳ではない。別の方向ではお主は偉業をなすかも知れぬが、歪んだ運命とお主の偉業はまるで関係がない。しかし、歪んだ運命を正さずに放っておくと、大陸からリン・プ・リエンとベルンの一部が消える事になるであろう』


 リン・プ・リエンとベルンが消える自体になる?!

 テディが死んでしまう夢を見ただけで何故そんな自体が起きてしまうのか皆目検討がつかない。

 しかも私が夢を見たことで影響を与えてしまうかの様な言い草だ。

 ますます混乱する私に今度は真面目な顔で女王は語り続ける。


『消える。というのは文字通り消えるのじゃ。そこに何もない状態じゃ。陸どころか海もない。真っ黒じゃ。無論この国も例外ではないぞよ。何故そうなるかはあえて語るまい。知ってしまえばお主はきっと全く別の道を歩いてしまう。それはそれで危険じゃからな。重要なのはとにかく歪みを正すことじゃ』


 解らない事だらけだけどとりあえず女王の話に頷いて見せる。

 私に何かしらの原因があってそんな事態になってしまうのならば、是非歪んだ夢を治したい。

 そもそもテディが死んでしまうなんて嫌!


 と思ったところで、私はハッと顔を上げる。

『あの、テディは、私があの夢を見たことで死んでしまったりとかして無いですよね?!』

 女王は私の問いに笑顔で「うむ」と頷く。


『安心せい。あれは既に起きた事ではないし、実際に起きるとも限らない不確定な夢じゃ。ただ、可能性は全く捨てきれない。完全に断ち切る事も難しいかもしれぬが…避けるように導いてやる事は出来る』


 女王の言葉にごくりと息を飲む。


『私…ワタクシは何をすればいいのでしょうか?』


 ジッと女王を見上げると、女王は苦笑しながら私を見下ろしていた。


『そう気張るでない。お主はそのままで良いのじゃ。わざわざ自分を作ろうとせずとも素直な気質の持ち主じゃ。誰となく寄ってくるじゃろうて。ただ…そうじゃな、ユニコーンのぬしの事は自分から探そうとか正体を確かめようとかしない方が良いじゃろうな。時が来れば自ずとヤツから話すじゃろう。それだけ肝に命じておれば良い』


 そう言って女王は柔らかく笑う。あどけなさの中に何処か大人びたものがある。

『さて、妾が手助けするにあたって、お主に一つ問わねばならぬ事がある』

 問わねばならぬ事?私の全てが見えている筈なのに何を問われるんだろうか。

 ゴクリと私は喉を鳴らし神妙に頷く。

 私の疑問を理解したかのように女王は続ける。


『妾は確かに可能性のある未来全てを見る事が出来る。じゃが、選択するのはお主自身だという事を覚えておいてくれ。私が問うのは"お主の心からの願い"じゃ』


 心からの願い?

 それならーー

 と口を開こうとした所で、女王に止められる。


『ただし!じゃ、この願いは未来永劫、お主がお主の人生を終えても、生まれ変わっても、魂が尽きるまで残り続けると肝に命じるが良い。そして妾も一度しか聞かぬ。よく考えて答えるが良い。今すぐ答えを出せとは言わぬ。答えが出るまではここでゆっくり過ごすと良い』


 未来永劫残り続ける願い…

 なんだか答えるのが恐ろしい問いね…


『答えなくちゃダメですか?』

『ダメじゃな。それが出来ねば妾はぬしの手助けが出来ぬ。なに、些細なことで構わないのじゃ。あまり大きな願いは身を滅ぼすでの。答えが出たらそこにいる妾の夫にでもまたここに連れて来てもらうがいい』


 女王が顎で指した方を見れば、先ほどの兵士がいる。

 目を瞬かせ、まじまじと彼を見る。年齢は30代位だろうか?


『お、夫?!』

 私が驚きのあまり声を裏返すと、女王は呆れたように彼を見た。

『なんじゃ、言うてなかったのか?お主、妾に説教をする前に自分の無口を治したらどうなのじゃ』

『…申し訳ありません。失念してました。改めまして、ライリの夫で兵の総括を務めます。ジャハー・キアーと申します』

 ジャハー様はそう言って深々とお辞儀をする。

 長い黒髪に濃い蒼い目をしていて落ち着いた雰囲気の持ち主だ。


 って、夫婦として成り立ってるのかしら?!


 私の思いを知ってかしらずか、女王はくすくす笑いながらジャハー様に指示を出す。

『そう言う事じゃ。ジャハー、ハニエルをちゃんと案内するんじゃぞ?妾も少し疲れた。ハニエルもゆるりと休まれるがいい』

 女王はすくっと立ち上がりニコリと笑う。


 私も慌てて膝をつき、

『ありがとうございます』と言って深々と頭を下げると、

『よいというのに…』と女王から苦笑の声が聞こえた。

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