第5話
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ジェラルドと共に広間に足を踏み入れれば、そこはシャンデリアが燦然と輝き、床には敷き詰められた大理石、優雅に流れる王国の誇る宮廷楽団が奏でる音楽が広間中を包み込む。いろいろ見てまりたい気持ちを抑えて、優雅に見えるように広間を見回す。細かくちりばめられた彫刻に銀の装飾品、天井を見上げれば王都でも当代屈指と呼び声の高い天才絵師による天井画が色鮮やかに描かれている。
まさに豪華絢爛という言葉がふさわしい広間に感激していると、方々から視線を感じる。
(見られている?)
ジェラルドにとられている手に力が入る。それに気が付き、落ち着けとばかりに夫の手がコーデリアの手に重ねられる。頭一つ身長の高い夫の顔を見遣れば、穏やかな微笑みをたたえている。
今まで妻を伴わなかったジェラルドが妻を伴って社交の場に現れたことは、注目の的になるのも仕方のないことである。
「大丈夫か?まずは陛下のもとへご挨拶に伺おう」
「はい」
緊張して力むコーデリアに優しく付き添う夫。夫の優しさを痛いほど感じられ幸せな気持ちに包まれる。コーデリアの歩に合わせながらも背筋がしゃんと伸び、颯爽と隣を歩く夫はコーデリアが幸せに満たされていることを知っているのだろうか。この幸せを夫に伝えられたらとコーデリアは思う。
陛下の御前に行くまでに何組かの貴族と思われる夫婦に挨拶される。軍の正装をした者や文官と思われる者、ジェラルドが城で築いた人間関係を見るのも、コーデリアにとってよい刺激になる。
生国でもないこの国にやってきて間もない夫はすでに人脈を形成している。人と接することを避けてきたコーデリアにとっては驚きを隠せない。夫は無口で穏やかな人だが他者を惹きつける何かを持っているのだろう。国王陛下もまたジェラルドの何かに魅せられて、この国にとどまるように尽力したのだ
その国王陛下の御前は夜会に招かれた貴族や大身の商人、今を時めく文化人などが列をなしていた。列が少しずつ前に進むたびにコーデリアの緊張が高まっていく。
これで陛下にまみえるのは3度目になるが、謁見するのに慣れることはないのか緊張が収まることはない。傍で支えてくれるジェラルドは緊張感漂うコーデリアの背中をゆっくりとさする。
挨拶の順番が来てジェラルドは左胸に右手を当て、コーデリアはドレスの裾をつまみ国王陛下と王妃殿下に敬礼をした。
「よく来たな、ジェラルド!そして、久しいな、コーデリア。2人とも顔を上げい。」
国王ローレンス3世が据わっていた椅子から立ち上がり、壇上から降りてジェラルドの肩に手を置いている。そして、王妃ミュリエルも立ち上がりコーデリアのもとに楚々とより、コーデリアの手を取った
「まぁまぁ、聞きしに勝る美貌ね!陛下からうかがっていました。髭もじゃジェラルドにはもったいない程の妻女だって。」
「なんと恐れ多いお言葉・・・」
指先が薔薇色に染まった王妃ミュリエルの小さな手がコーデリアの手を包み込んでいることに、緊張も最高潮に達し、体が思う通りに動かないほど固くなる。
「わたくしもそう思うわ。キャリントン伯爵が誰の目にも触れさせないために愛妻を屋敷奥に隠しているって噂、納得してしまいました」
「妃殿下、お戯れを。コーデリアが困っています。このような場に慣れない妻をいじめないでください」
ジェラルドは王妃ミュリエルに掴まり、すっかり萎縮してしまっている妻を見て助け舟を出す。いじめてなどいないとコロコロと笑いながら、王妃ミュリエルは椅子に腰を掛ける。国王陛下も座っていた椅子に戻って深く腰を掛けて、楽しんでくれと2人に声をかけた。
これであいさつも終わったとホッとコーデリアが気を抜いたところで、王妃ミュリエルが小声でコーデリアを呼んだ。
「ねぇ、コーデリア。今度、貴女とゆっくりお話しをしたいわ。お誘いするから、そのときはぜひ」
そういうと王妃は片目を瞑って、嫣然と微笑んだ。コーデリアは小さく頷き、ドレスの裾をつまんでお辞儀をした。
国王陛下と王妃殿下に挨拶を終えて、広間から庭に続くテラスに2人は身を寄せていた。緊張から解放されたコーデリアは大きく息を吐いた。
「つ、疲れたわ・・・」
「陛下とは3度目だろう。まだ緊張するのか?」
「しますよ。何度だってあの威風堂々とした姿に圧倒されちゃうんです。だからこそ、髭もじゃジェラルドがいてよかったです」
そういってコーデリアは自分の頭をジェラルドの肩にそっと預けた。ジェラルドがコーデリアの肩に腕を回した。
「コーデは頑張ったよ」
「ふふ、箱入り娘も夫のためなら頑張りますよ。でも緊張しすぎて喉がカラカラです・・・」
「何か飲み物を持って来よう」
それは私がとコーデリアが言いかけたのをジェラルドが片手をあげて制する。
「コーデはここにいて。絶対にどこかに行かないこと」
「ありがとうございます。でも、子ども扱いはよしてください。ちゃんとここで待っていますから」
いいこだ、と人の悪い笑顔を残してジェラルドは広間に飲み物を取りに行った。
テラスに一人で残されるというの寂しいものである。結婚なんてしていなければ、きっとさびしいとは思わなかった。一人でいることに慣れていたから。
しばらく、ぼんやりと庭を眺めているとコーデリアの背後からこそこそと話す女性の声が聞こえてくる。途切れ途切れに聞こえてくるその話の内容はコーデリアのことのようだ。気になって耳を澄ますと、それは自分にとって、よくない噂。ここにコーデリアが知ってか知らでかまったく身に覚えのない誹謗中傷であった。
「キャリントン夫人って、昔は別邸に籠っていて、若い男性を誘い込んでいたんですってよ」
「まあ。虫も殺さぬなんて言うけれど、恐ろしいわね。破廉恥だわ・・・」
「でしょ。それも金持ちばっかり狙っていたとか・・・」
「私も聞いたことある。もっとひどいのは・・・」
女たちは噂話に花を咲かせていて話は止みそうになく、これ以上聞きたくないとコーデリアは己の耳をふさいで、その場にうずくまってしまった。
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