第21話
大変申し訳ありません!
文章が途中で切れている個所があり、修正いたしました。
ディルク国王が住まう、テセアート宮殿に向かってキャリントン家の馬車はひた走っていた。
馬車の中ではのんびりと外を眺める夫、そしてその隣で緊張で体を固くしているコーデリアが並んで座っている。
(緊張するわ・・・)
今日、何度目かの深呼吸をしていると、コーデリアの膝の上に載っていた手に夫の手が重なる。「手袋が邪魔だな」などと、意味の分からない事をつぶやいて、コーデリアの様子をうかがう夫。
手袋越しに伝わる夫の手のぬくもりに、コーデリアは緊張が少しだけほぐれるような気がした。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ、コーデ」
「それでも、緊張してしまうんだもの。ジェラルドの余裕が羨ましいです」
すこし唇をとがらせて拗ねてみせるコーデリア。緊張しないでいられるのなら、緊張しないでいたい。何度か陛下に謁見しているが、それでも国王陛下との謁見は緊張を伴う。それを隣の夫は余裕綽々といった顔でコーデリアに笑顔さえ見せる。
「はは、俺は生来こんなものだからな。それより、王宮に着いたら、その可愛い拗ねた顔を貴族のご婦人のそれに変えてくれよ」
「わかっています。貴方に恥をかかせるようなことは決していたしません」
でも、もう少しだけ夫に甘えていたいと、隣に座る夫に寄りかかる。夫は何も言わず、ただ優しくコーデリアの手を親指で撫でてくれていた。
「キャリントン伯爵が到着---」
王宮に着くと門を守る衛兵が大きく声を張り上げる。その声に応じて、鉄製の門扉が音を立てて開かれる。馬車は王宮の荘厳な玄関までキャリントン夫妻を運ぶ。
玄関で待ち構えていた侍従が馬車の扉を開くと、まずは夫が外に出て、コーデリアの手を取り、馬車の外に誘う。
こんなことが一度あった。あれは王妃殿下主催の夜会であったがすでに昔のように思えるから不思議だ。
「しっかりしろ、コーデ」
耳元でささやかれて、コーデリアはハッと意識を戻す。
「申し訳ございません。ぼうっとしてしまいました。」
両手で軽く頬を叩く。そして、差し出された夫の手にそっと自分の手を添える。先導する国王陛下専属の侍従であろう。彼の背中を追って、夫はコーデリアと共に大理石でできた回廊を進む。
謁見の間に続く回廊は白亜の磨かれた大理石を使用した造りで天井はすこぶる高い。そのため、歩くたびに靴の音が響く。
そして謁見の間に入ると、すでに玉座には陛下と王妃殿下の姿が見える。
夫と共に陛下から10歩ほど離れたところで止まり、夫と共に最敬礼をする。
「二人とも直れ、面を上げよ」
夫と共に最敬礼を解くと、陛下の方に顔を上げる。目の前の玉座に堂々と座す国王陛下と穏やかな笑みを浮かべて陛下の隣の椅子にちょこんと腰かける王妃殿下がいる。
「今日はまた何の用だ?」
国王陛下は今日の謁見の理由を知らないのだろうか、夫に向けて理由を尋ねている。
「はっ、恐れながら陛下。この度、国を下がらせていただきたく参上仕りました」
「ふむ。ジェラルド、なぜ国を出る?」
「生家より至急帰宅せよとの便りが参りました」
「ふむ・・・そうか」
思案顔をする国王陛下と夫の会話にミュリエル妃殿下が間に割って入る。
「ジェラルド、貴方は細君をどうするつもり?まさか、一人で帰るわけではないでしょうね?」
「妻と共に帰国いたします」
ミュリエルはコーデリアに向かって微笑むと、またジェラルドに視線を戻す。
「貴方、伯爵位はどうするつもりなの?」
「返上いたしたく、存じます」
「返上ですって?コーデリアはそれでいいのかしら?元は彼女が受け継いだものでしょう」
憤懣やるかたない様子のミュリエルを陛下が片手で制する。
「返上とはまたなぜ。一時帰国なのであればそのままにすればよい」
「お言葉でございますが陛下・・・私は生国にて皇位継承権を有します。その私が貴国の爵位を持つべきではないと考えます」
「なんと、一介の傭兵ではなかったのか!?」
陛下は驚いたのか、玉座から立ち上がりジェラルドの方へ歩を進める。近衛騎士たちはそれをとどめようとしたが、陛下はそれをまた手で制する。
「そなたが生国は?」
「北にあるラングラド大陸の南方にあるラグナ=シークという国です、陛下」
「・・・ラグナ=シーク。大国ではないか・・・そうか、皇位継承権とな」
「黙して語らなかったこと、お詫びの仕様もございません」
夫は深々と頭を垂れ、謝罪の言葉を述べた。コーデリアも夫に倣い、顔を伏せて謝罪の意を表する。
「というか、全部知っていたがな。ははは」
急に表情を変えて陛下は笑いだす。「余の驚いた芝居はどうだったか」などと、いいながら夫の肩を叩いている。気安いにもほどがあると、我が国の王の豪胆さにコーデリアはハラハラする。
夫が万が一、陛下のお命を狙っていたらどうするのだろう、そんなことは絶対にありえないが。
夫は今一度陛下の方を向き直る。半歩下がっている状態で夫の表情は読み取れないが、きっと苦笑しているだろう。
「やはり、ご存知でしたか。おかしいと思ったのです、傭兵を雇うなど」
「ミュリエルは驚いているようだがな」
その言葉に三者が妃殿下に視線を向けると、驚いた様子で瞳を彷徨わせていたが、しばらくするとその表情にほんの少しだけ怒りが滲んで見えた。
「コーデリアは初めから知っていたの!?」
ミュリエルの矛先がコーデリアに向く。コーデリアは左右に首を振る。
「いいえ、全てを打ち明けられたのはつい最近のことでございます」
「まぁ、ジェラルド!不誠実でしてよ。それにしても、コーデリアは優しいのね。私ならば、ずっと大事なことを黙っていた夫のことを許せませんもの」
陛下をちらりと一瞥すると、ミュリエルは非難の言葉を陛下に飛ばしていた。大事なことを話してもらえなかった知った時、寂しさが胸の内にあったのは事実だ。
それでも、許せないと思ったことはなかった。きっと、信頼のおけない妻なのだと、自分自身を詰っていたくらいなのだから。
「妃にはあとでゆっくり叱られよう。さて、ジェラルド。そなたの言いたいことは分かった。出国については勝手にするといい。ただし、伯爵位は返してもらう。」
「陛下、格別なご配慮を賜り、ありがたき幸せ。しかし、屋敷はどうなりましょうや?」
コーデリアが一番心配していたことを夫が察して口にする。
「そうよなぁ、あの屋敷は美しい。そなたたちが戻るまでミュリエルの別宅にしようか?」
「ええ。私があずかりましょう」
すっかり気を取り直したのか、妃殿下は眩しい笑顔を顔に張り付けている。
「しかし、ジェラルド…ずっとこの国に縛り付けておきたかったがなぁ、残念でならない。その剣の腕も瞬時に戦況を見極める目、そして策を練る頭脳・・・惜しい」
「お褒めの言葉、恐悦至極に存じます」
「褒めてなどおらん、悔しがっているのだ。もうよい、二人とも下がるといい。気を付けるのだぞ」
陛下があらぬ方向に向かって、言葉を投げる。
「まぁ、陛下は拗ねていらっしゃるのね。ジェラルド、コーデリアを幸せになさい。そしてどうか達者でいらして。コーデリア、貴女も他国へ行くのは大変だと思うけれど、体を大切になさい」
他国から嫁いできたミュリエル妃殿下の言葉は何よりもありがたいものだった。
国王陛下と妃殿下との謁見が済み、謁見の間を後にした。
「さてと、束の間の我が家に戻ろうか」
ジェラルドはコーデリアの手を引き、コーデリアの歩に合わせて、長い回廊を悠然と歩く。
「ええ、キャリントンの屋敷へ戻りましょう」
「髭もそらねばな。」
ぼそっと零す夫の独り言に、思わずコーデリアは笑いが漏れてしまった。
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