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第2話

 「いってらっしゃいませ」

 コーデリアは登城する夫を見送ると執事のダドリーに家のことを任せて、庭に足を向ける。庭に身を置き草花の世話をしたり、掃除をしたりするのがコーデリアの心の慰めとなっていた。


 庭師のエルマーは別邸から戻ってきた伯爵令嬢であるコーデリアが、いの一番に庭にやってきて「手伝いをしたい」と申し出た時はとんでもないことだと丁重にお断りした。執事のダドリーもその申し出を聞いた時は苦い顔をしていた。

 しかし、この伯爵令嬢は「庭仕事をしているときが一番落ち着くのだ」とエルマーのそばに毎日訪れては、仕事の様子を観察して帰ったり、雑草を抜いている様子を見て庭師は根負けした。庭が好きなのは幼いころから変わっていなかったらしい。

 今ではコーデリアにそれぞれの草花の世話仕方や肥料の種類など、エルマーの庭の知識をコーデリアに余すことなく伝えるようにした。コーデリアは優秀な庭師の弟子であり、紐を通した帳面を頚から下げて、伝えられたことはきちんと書き記していた。

 その優秀な弟子が物憂げな面持ちで雑草を抜いている。気がかりではあったが、主人の立ち入ったことは聞くまいとエルマーはコーデリアの様子を見守っていた。


 コーデリアは庭の雑草をひたすら抜いていた。夏の時期はすぐに雑草が生えてくる。頚に巻いた手拭いで汗をぬぐう。午前中から夏の日差しがコーデリアとエルマーを強く照りつけていた。

「エルマーは大変ね。夏場は草を抜くだけで一日が過ぎてしまうわ・・・何でも手伝いますからね」

 一息ついて庭師に声をかける。庭師は伸びた庭木を剪定している。

「それが仕事ですから。お嬢様はいつでも休んで下さい。手伝ってもらってだいぶ楽しとりますので」

「ふふ・・・お嬢様はやめて、もう結婚しているのよ」

 照れてはにかむ様子はエルマーから見れば少女のようである。キャリントン前伯爵夫妻が事故で亡くなり、コーデリアがこの屋敷から別邸に移ったころの面影をそこに見る。

「わたしにとってはコーデお嬢様はずっとお嬢様ですわい」

「まぁ。ずっと子ども扱いのままかしら?」

 先程見た物憂げな様子からは想像できないほどまぶしい笑顔を見せたコーデリアにエルマーも誘われて笑顔で答えていた。

 

 庭仕事をしている途中で執事ダドリーから声がかかった。結婚前までコーデリアの後見をしていた叔父が屋敷に訪れているという。突然の訪問に戸惑いながらもエルマーにその場を離れることを告げて屋敷に戻る。冷たい手拭いで汗を拭い、すでに用意されていたドレスを身にまとう。帽子を被っていたため結っていた髪が崩れ落ちていたのを侍女のアビーが綺麗にまとめあげてくれた。

「ありがとう、アビー。いつも素敵に結ってくれて」

「いいえ、お嬢様を綺麗にするのは私の生きがいですからね。それより応接間にお急ぎくださいませ、バロウズ卿がお待ちです」

 応接間に待たせている叔父のことを思い出し、コーデリアは自然と急ぎ足となった。


 コーデリアが応接間に入ると、長椅子に腰を掛けていた叔父が片手をあげた。

「お待たせいたしました、叔父様」

 ドレスの裾を両手でつまみ軽く一礼をし、挨拶を交わす。叔父レイモンドはコーデリアの父の弟にあたる。バロウズ子爵の一人娘と結婚するも不慮の事故で早くに妻を亡くしていた。

 幼いころに両親を亡くしたコーデリアは大人になるまでレイモンド叔父に支えられてきた。第二の父親と言っても過言ではない。

「お母さんに似てきたね、コーデリア!ああ、それと・・・今日はすまなかったね、突然の訪問で驚いたろう」

「ええ、とっても驚きましたわ。ところで今日は何かあったのですか?」

 長椅子の斜め前に置いてある一人掛けの椅子に腰を掛けたコーデリアが心配な面持ちで叔父レイモンドの様子をうかがう。

「いや、可愛い姪御がどうしているのかと様子を見に来てみた。それと、キャリントン伯爵が妻を伴わずに社交の場に顔を出していると聞いて、うまくやっているのかと心配でね」


 突然の訪問はコーデリアのことが心配でその様子を見に来たのであろうことは明白である。社交界が苦手とはいえ、夫婦同伴が当たり前のそのような場で夫を一人にしていたこと、招待を受けていたことを知らされていなかったことを哀しく思えた。

「わたくしがそういう場が苦手なので一人で行ってくださっていたのです、それで夫ジェラルドに恥をかかせてしまったでしょうか」

 ジェラルドに聞いていなかったことを上手に隠してレイモンドに伝える。

「大丈夫だろう、その辺はうまくやるさ。傭兵上がりでも」

 

 語尾はコーデリアに聞こえないようなほど小さな声になる。コーデリアはそれを聞きのがすことはなかった。レイモンドは王命での結婚こそ喜んでくれたものの、ジェラルドという一人の人間は認めていないように思う。ジェラルドのことを気に入っておらず、何かにつけて「傭兵上がり」と侮蔑したような発言を叔父が繰り返していることにコーデリアの心は傷ついていた。

 

ここまで読んでいただきありがとうございます。


誤字・脱字がありましたらご一報ください。


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