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タナカの異世界成り上がり  作者: ぐり
黄昏ゆく世界編
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第九十七話 神の雷

「とりあえず落ち着けって。とにかくいままでの流れから考えるにさっきのヤツがやらかした可能性が高い。そして状況はかなり逼迫していると言っていいだろう」


 やや興奮状態のトビーに気づき、コンビ解消という最悪な事態が頭をよぎったのか。タナカは会話の軌道修正を図り、現在進行形で起こっている事件に話を戻す。


「そんなのわかってるっす! あんなにデカくて強そうなやつが暴れたら大惨事っすよ!」


「いいや、お前は事の重大さが全然わかっていない。アレが暴れて大惨事? そういう問題じゃないんだよ」


 その冷静な判断力と正確な分析力により、今後起こりうる最悪の事態を多角的に導き出したのだろう。さすがタナカさん、真面目にやればできる子である。


「ど、どういうことっすか?」


「伝説によればあの龍はどんな願いでもかなえてくれるといわれている。このままではヤツが邪な願いをかなえるのは明らかだ。お前のいう大惨事どころではないことになるぞ」


「ええっ! そ、そんなヤバいことに? まっ、まずいっすよ!」


「ああ、わかってるさ。だからトビー。お前は急いであの龍のところにいって願い事をかなえてもらうんだ。あの男が『さっき戦った強くてカッコいい漢みたいになりたい』と願う前に『僕の尊敬するタナカさんがモテモテになって、世界一のハーレムを築けますように』ってな」


 ここにきてさらなるボケ。貴重なツッコミ要員を失うかもしれないという状況にありながら、チャレンジ精神を失わないタナカの芸人魂には驚嘆せざるをえない。


「なんでタナカさんの邪な願いをかなえてもらわなきゃならないんすか! なんなんすかいったい! 真面目に考える気まったくないっすよね? この状況で揶揄って遊ぶとかやめてほしいっす!」


「くそっ、ヤツとの戦いで受けたダメージさえなければ、オレがすぐにでも駆け付けたものを」


「いやいや! ダメージなんて受けてないっすよね? あれは完全に自爆っすよ!」


 怒涛のボケを続けるタナカ。突如現れた光の龍という前代未聞の大事件を前に、タナカたちはただ醜態をさらすしかないのか。






「なんだ……。なんだこれは!」


 創生神がもたらす祝福の光のなか、魔剣バーンダムを天高く掲げていたガナッシュは自分の予想とはまるで違う事態に混乱していた。


「――見事なまでに滑稽な姿ね」


 そこに突如出現する一団。転移魔法陣の輝きととも現れたそのものたちの正体は、魔法陣が消えるとともにすぐ明らかとなる。それはララ王女をはじめとしたプリン王国の関係者たちだった。

 魔族の参謀たるシュトレンは不測の事態に呆然としていたが、この一団の正体が明らかとなったとき、見覚えのある人物を見つけ激情にかられる。


「貴様はあのときの!」


「フフフ、参謀であるあなたでも、強大な力が手に入るとあっては慎重さを失ったようですね」


 それは一見するとただの翼人の女性だった。しかしその翼は通常の翼人ではありえない純白の輝きをはなっている。それはプリン教があがめるモリナーガの使徒である証だった。


「魔剣バーンダムはモリナーガに封印されたわけではなく、モリナーガの力を封じるための器だった……」


 シュトレンは言葉をかみしめ怒りに震えていた。それを肯定するように使徒は笑みを返す。この真事実には人気アクションスターもびっくりであろう。


「なるほど、裏で糸を引いていたのはあなたがただったということですか」


 それまで静観していたエチゴヤがここでようやく口を開いた。


「なんということを! おぬしらの身勝手な所業がどれだけ我が民を危険にさらしたと思っておるのだ。あまつさえ創世神様の儀式を利用するなどと――」


 ビンタハル14世がララ王女を糾弾する。しかし当の王女はどこ吹く風といった感じで笑みを浮かべていた。


「本当に愚かね。もはやあなたたちがどれだけ騒ごうとすべて無駄なこと。モリナーガ様が復活した今、いままでの世界の枠組みは無意味なゴミになりはてたのよ。これよりモリナーガ様こそが唯一の神。プリン教の教えが唯一の信仰。そして我がプリン王国がこの世界唯一の国家!」


 両手を広げ熱弁をふるう王女の姿に誰もが正気を疑いたいところだったが、彼女の背後に浮かぶ強大な光の龍がそうさせない説得力をもっていた。


『我を崇めぬ人間どもよ。我が力の前にひれ伏すがよい』


 光龍モリナーガの身体がさらなる輝きを帯びる。そしてその力はいくつもの稲妻となって辺りに降り注いだ。

 稲妻の轟音――。

 破壊による爆音――。

 人々の悲鳴――。

 皇国闘技祭の会場は一瞬にして地獄と化す。


「なんということを……」


 ビンタハル14世は眼下を見下ろし力なく崩れ落ちた。


「――シュトレン。いますぐに封鎖を解くよう指示を出せ」


「しかし……」


「これ以上、我に恥をかかせるな。観衆たちを誘導し避難させよ」


「はっ!」


 ガナッシュの命をうけ儀式場にいた魔族たちが会場に散る。これにたいしララ王女をはじめとしたプリン王国の関係者は、魔族たちの行動を邪魔する様子はない。それどころかなんの興味もしめしていないかのようだった。もはや自分たちの野望を邪魔することなどできはしないと踏んでいるのだろう。

 魔族でただ一人残ったガナッシュがビンタハル14世に近づく。その前に静かに立ちふさがったエチゴヤをみて力なく笑みを浮かべた。


「言い訳はせぬ。すべては我が選択が招いた災厄よ。この上そなたたちに頼み事をするなど愚陋の極みであることは重々承知。だがそれでもなお頼みたい。もしこの災厄を乗り越えられることができたならば忘れよとはいわぬ。ただ今回の謀にかかわった者に寛大な処置と、無関係な魔族が不条理に苦しめられぬよう取り計らうことを願いたい」


 そう言い残すと答えも聞かず振り返る。彼の目に映るのは宿敵たる光龍モリナーガ。


「もちろん我が身にどれほどの罰をうけようと文句はいわぬ。ただし我が命が残っていればの話であるが 」


 ガナッシュがゆっくりと光龍モリナーガへ向かっていく。

 その後ろ姿にエチゴヤは何も言えない。この国のことを考え行動してきた彼にとって、ガナッシュのしでかしたことは決して許すことのできないことだったからだ。しかも不躾な願いをしてきたうえに言葉遣いは相変わらず不遜なままである。エチゴヤが怒りの声を返したとしても誰も文句はいわないだろう。

 事実エチゴヤのなかにガナッシュへの怒りは確かにあった。しかしガナッシュの願いと超常の存在に向かっていくその姿をまばゆくも感じていた。


「よかろう。そなたの願い――、このビンタハル14世がしかと聞き入れた」


「父上……」


 ガナッシュはビンタハル14世の言葉に足を止める。


「感謝する」


 再び進み始めたガナッシュの足は力強く、駆け足となっていく。それは後顧の憂いがなくなった彼の心の内をあらわしているかのようだった。


「すべては時代が産み落とした悲劇の産物よ。今ここでそれを断ち切らねば、我らは終わることのない憎しみとともに生きていくことになろう。それに無器用ではあるが、あれも人の上にたつに足る漢よ。ならばそれに答えるのがこの国の皇としての務め。もっとも最期の務めになるかもしれぬがの」


 凡庸と言われる皇だった。実際貴族たちの専横を許し、そんな父親の姿を不甲斐なく思ったことも一度や二度ではなかった。しかし今ここにいたり、エチゴヤはこの父を救いたいと心から思うのだった。






「――モリナーガ!」


 駆けるガナッシュ。その手に握るは魔剣バーンダム。


「この魔剣の力もて、いま一度封じてくれる!」


 魔剣バーンダムの力は失われたわけではない。その力を解放したガナッシュの強さはかつての魔王に決して劣るものではなかった。しかし――


『愚かなり。小さきものよ』


 大惨事を引き起こした破壊の力が再び放たれる。いくつもの稲妻がガナッシュを貫かんと煌く。

 両者のもつ強大な力が衝突し大爆発を引き起こす。その爆発から跳ね飛ばされる何か。エチゴヤたちが見たのは大ダメージを負ったガナッシュの身体が宙を舞っている姿だった。

 かつてモリナーガが封じられたのは数多くの神や精霊たちの助力があってこそのもの。たとえ強力な魔剣があろうともこれは当然の結果だった。


「――これ以上、むやみに犠牲を出す必要などないでしょう」


 この様子をみていた勇者カムイは言葉をしぼりだすように吐き出していた。


「それはモリナーガ様が決めることですよ」


 そう返したララ王女の言葉は冷たく、カムイはこれまで知っていた彼女とはまるで別人のように感じた。

 そしてカムイをみつめるララ王女の瞳が妖しく煌めいた瞬間、カムイは強烈な激痛に襲われたのだった。


活動報告を更新しました。興味のある方は覗いてやってください。

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