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タナカの異世界成り上がり  作者: ぐり
黄昏ゆく世界編
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第九十一話 予言

 一見何事もないような青空。しかし何かが起きているというのを伝えるように、異常な音が空に鳴り響いていた。それは引き伸ばされた時の流れのなかで、激闘が繰り広げられている証であった。

 ほぼ停止した世界で縦横無尽に空を飛び交う二体の化け物。


『――逃げ回ってばかりでは我を倒すことはできぬぞ』


「そういうお前こそ、オレを捉えきれんのでは勝てないだろう?」


 ともに時間干渉する戦いにおいては、本来の速さがものをいった。圧倒的なスピードで破界の化身を寄せ付けないタナカ。しかし破界の化身が言った通り、有効なダメージを与えなければタナカが勝つことはできないというは確かだ。


「受けよ。天空(そら)の審判を! 『星々の嘆き(メテオフォール)』」


 距離を取ったタナカが再度攻撃を仕掛ける。先程と同じように破界の化身にせまる巨石。


『無駄なことを』


 前回と変わらず巨石を無視してタナカに向かう破界の化身。実際、その攻撃はなんの障害にもなりえず、巨石は化身の身体に触れたそばから消滅していく。そして破界の化身が巨石を通り抜けたとき目にしたのは――。


「虚無へと帰れ――『終焉の刻(ジエンドオブシーン)』」


 それは矛盾を体現した漆黒の光。神の力宿りし炎の刃だった。タナカは振りかぶっていたその刃を一気に振りおとす。

 この戦いで初めてと言っていい反応をみせる破界の化身。タナカの攻撃を回避しようと試みるも、スピードで上をいくタナカの奇襲を躱すことができず、その身体は肩口から見事に両断される。


『おのれ……、力を使えたか。しかし――』


 タナカの持つ光の刃はすでにいつもの青白い光に戻っていた。未だ途方もないエネルギーを秘めた刃ではあるが、この状態では破界の化身に追撃を加えても意味はない。


『どうやら使いこなしているというわけではないようだな』


 両断されていた化身の身体が引き合うように合わさり元の状態に戻る。ダメージを与えたのは確かであるが、勝負を決するとまでにはいかなかったようだ。


「まだこれからだ! いくぞ!」


 再び降り注ぐ巨石群。タナカは縦横無尽に飛びまわりその影に隠れながら攻撃の機会をうかがう。

 タナカが神の力をつかうには集中する必要があった。それほど時間を要さないがこのハイレベルな攻防においてはその僅かな時間が命取りとなる。そして神の力の発現は長くは続かない。これらの欠点を補うためにタナカは相手の目から逃れ奇襲するという戦法をとったのだ。


『小賢しいまねを――』


 破界の化身の周りに光球が次々と出現すると、巨石に向かって一斉に放たれた。光球と巨石が触れ合った瞬間、負のエネルギーが巨石全体を一瞬のうちに浸食し消滅させる。あっというまにタナカがつくりあげた巨石の煙幕が無効化されてしまう。しかし――。


「もらったー!」


 破界の化身の背後にまわっていたタナカが攻撃を仕掛ける。奇襲であるのにもかかわらず掛け声をかけるというフィクションならではのお約束。そして高確率で失敗するセリフを選択してしまう芸人魂。涙なしにはみれない雄姿である。

 いっぽうの破界の化身は自身をまもるように半透明のシールドを出現させる。漆黒の刃がそのフィールドに触れるやいなやともに消滅してしまう。

 その結果をみるや素早く距離をとるタナカ。


『ふざけているのか?』


 この発現はさきほどの奇襲を奇襲でなくしたタナカの行動を指してのものだろう。


「……フッ、オレが酔狂で奇襲をミスしたとでも? 貴様こそ冗談はよしてもらおうか。たしかに常日頃から見栄えを気にし、演出には力をいれているのは否定しない。ミスターダンディズムと呼ばれて久しいオレだが、生まれてこのかた戦いにおいて手を抜いたことなど一度たりともありはせん! すべては勝利の方程式に基づいて行動していると知れ」


 タナカはビシッとカッコいいポーズで宣言する。いったいいつ誰がミスターダンディズムと呼んだのかはわからないが、今の彼が全会一致のカッコよさであるのは間違いない。

 それにしてもこれまでの戦いで幾度となく見せた滑稽ともみえる彼の佇まいが、すべては計算の上での作戦だったというのは驚くべき事実である。

 すると先ほど破界の化身に応える前の間も、意味がわからず考えたあげく自分の行動の恥ずかしさにようやく気づき、適当な言い訳を考えてしまったわけではないということなのだろう。ちょっと早口気味で言い訳ぽかったのもすべては気のせいというわけである。


「さて、神の力の扱いについては十分見させてもらったことだし、次はこちらが見せてやろう。このオレが手にした新たなる力をな!」


 タナカの身体から湧き上がる高密度の魔力。


「タンタンス・コユビ――」


 その膨大なエネルギーの発現に大気が震える。


「ペーパ・ナイナイ――」


 高エネルギーが破界の化身を取り囲む。


「キタコレ・アシツリ!」


 臨界点に達した高密度の魔力がついに具現化する――。


「『大罪三重奏殲滅陣(アーディ・アマルタ)』」


 破界の化身を取り囲む三つの光。その正体は三大悪魔をかたどった魔神像だった。二足歩行で荒ぶるポーズをとったハムスター像が、見るものすべてを恐怖のズンドコにたたきおとさんと威嚇している。それぞれが微妙に違うポージングなのは「タンスの角に小指をぶつけたときの悲嘆」「用を足して紙がないときおとずれる絶望」「足がつって目が覚めたとき響き渡る慟哭」を表現しているゆえだろう。さすがタナカさん、図画工作で五段階評価三の記録保持者というのは伊達ではない。


『なにをするのかと思えば、ふざけた真似を――』


 破界の化身がその手で薙ぎ払うような仕草をとると、強力なエネルギー波が放射されハムスター像が呑み込まれる。その輝きが収まった後には――。


『馬鹿な……』


 すべての存在を無に帰する力を浴びながら未だ顕在のハムスター像たち。


「クックックッ、貴様にこの陣は破れはせん。たとえすべてを無に帰す破界の力だろうが、このオレが即座に三大悪魔を召喚すればすむこと」


『だからなんだというのだ。もはや問答無用。今すぐ滅してくれる――』


 破界の化身の腕が伸長し、タナカを捉えようと迫った。しかし、まるで見えないなにかに呑み込まれたかのように腕が失われる。どれほど伸ばそうと次々に消滅し、タナカに届くことはなかった。


「無駄なこと! もはや三大悪魔の結界は完成した。この神の力を用いた結界ある限り外への干渉は不可能!」


 恐るべき大魔法『大罪三重奏殲滅陣』。この秘技を説明する前にここに至るまでの、タナカさんの血と汗と汁っぽいなにかがあんな感じでそんな感じの険しい道のりについて話そう。

 タナカは自身の戦闘力が生まれたての小鹿のプルプル震える足程度なのは十分に理解していた。そんな自分がもつ唯一無比の手札が魔法であることも。

 膨大な魔力ゆえに暴走の恐れがあったのももはや過去の話。その制御を極めつつあったタナカにとって魔法は心の支えでもあった。そんなタナカが最も恐れたのは魔法無効化などの対魔法戦術なのは読者にも周知のことだろう。そしてそのなかでも彼がもっとも恐れたのが魔法反射――カウンターである。強力な魔法を武器とできたのはいいが、それが自分に返されるとなると危険極まりない。いうまでもなく脆弱なステータスを誇る自分が即ゲームオーバーとなるのは理解していた。

 直接攻撃を避け、搦め手で攻めるなどの小手先の工夫でごまかしてきたが、今後の険しい戦いに備え今回の一人旅で根本的な改善に取り組んだのだ。その結果生み出されたのがこの『大罪三重奏殲滅陣』なのである。

 この秘技で生み出されたハムスター像はタナカのおおまかな指示をうけて自動防衛、あるいは自動迎撃を行う。タナカの魔力のバックアップをうけて大魔法さえ使えるという高性能ぶりで、タナカの分身体といってもよかった。直接的な攻撃をこれら分身体にまかせ、自分は安全圏で高みの見物という小物らしい発想。じつにタナカらしいと言わざるをえない。


「貴様には感謝しているぞ。完成したと思っていたこの秘技のさらなる可能性に気付かせてくれたのだからな」


 そのヒントとなったのは破界の化身という存在そのもの。目下現在進行形で戦っているわけであるが、その結果がどうであろうと本体たる破界神の危機が去るわけではない。すなわちそれはタナカとハムスター像の関係そのもとといってもよかった。ならば試す他なかったのである。このビッグウェーブに乗り遅れないために。

 こうしてその場のノリでやってみたらなんだかうまくいってしまったのが、この完全版『大罪三重奏殲滅陣』なのである。

 ハムスター像でも運用可能だった神の力。使用する際のタイムロスと持続時間の短さを見事にカバーしたハムスター像たちのローテーション。

 攻撃手段のひとつとして完成をみた『大罪三重奏殲滅陣』が神の力を運用するためのツールとして機能していた。


「この世界を無に帰するわけにはいかんが、せめてもの礼だ。貴様自身を虚無へと帰してやろう」


 三体のハムスター像に囲まれた空間からタナカがいる側への影響はもはや一切ない。遠慮なしに攻撃ができるのだ。


「過去――、現在――、未来――。終わることなき負の連鎖――。疎まれし負の根源――。無尽無限の力にてすべてを滅ぼせ――」


 神の力の発現は刹那。その一撃で勝負を決めるために魔力を振り絞る。


「『巡り来る月曜日(アンラ・マユ)』」


 閉ざされた空間に高エネルギーが充満する。それは人々から憎悪をあびされ続けた月曜日に溜まりに溜まった負のエネルギーが、具現化したといっても過言ではない破壊のエネルギーだった。

 この月曜日を忌避するタナカさんの思いを前に破界の化身は自分の消滅を悟る。


『今は我の敗北を認めよう……。だが忘れるな……。我は再び降臨しこの世界を無に帰す……。これは決して避けられぬ運命……』


「フッ……、オレを甘く見るなよ。すべてわかっているさ」


『……ナニ?』


「ようやくすべてが一つに繋がったぜ。皇都の影で蠢く陰謀……。貴様の狙いがな!」


『ソンナバカナ……。ナゼ……』


 とどめとばかりにビシッとポーズを決めるタナカ。


「オレの桃色の脳細胞をもってすれば、この程度の推理は造作もないこと! 貴様がオレのハーレムを阻止するため動いていたことなんて当にお見通しなんだよ! そして! すべての始まりとなるコンパイベントを潰すのが、今回の目的だということもな!」


『ナニヲ……イッテイ……』


 混乱のさなかついに破界の化身は消滅する。やがて大魔法も消え、残るのは空に浮かぶタナカただひとり。彼から自然と笑みがこぼれる。


「クックックッ、もはやヤツが何度蘇ろうと恐るるに足りん。復活怪人など弱体化しているのがお約束だからな。完成した『大罪三重奏殲滅陣』で何度でも返り討ちにしてくれるわ!」


 爽快と立ち去るタナカ。空をゆく彼には近い将来、エチゴヤに接待されて美女に囲まれキャッキャウフフしている自分の姿がありありと見えていた。






「まさかあれほどの守り手を用意していたとは。創世神(ヤツ)もなかなかあなどれぬものよ。しかし、我が計画が為ればすべては無駄なこと。幾許も無くこの世界は無に帰することになろう」


 この戦いの一部始終を見届けているものがいた。大空の戦いのさらに上空にいたその存在は、立ち去るタナカを見送りながら不気味な予言を残すのだった。


(((( ;゜Д゜)))月曜KOEEEE!

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