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タナカの異世界成り上がり  作者: ぐり
黄昏ゆく世界編
86/114

第八十六話 潜入

 皇国闘技祭のおかげで連日盛り上がりが続く皇都オーエド。

 華やかな祭りの裏側では、タナカたちがいまだ全貌の見えない陰謀を阻止すべく動き出していた。


「美少女の頼みを断るわけにはいかないとはいえ、とんでもないことになってしまったな。ヤレヤレ」


 皇都上空。誰にも見られることのない夜空を背景に、可変ピッチ式ヤレヤレで飛行する我らが主人公タナカさん。今日も主人公らしさ五十パーセント引きのバーゲンセールで妖しく移動中だった。

 そんな感じで空中をフラフラ遊泳しているうちにタナカは目的地に到達する。


「やはりここを調べるしかあるまい」


 そこは皇国の中枢――オーエド城。

 タナカは城を見下ろしながら先日の話し合いを思い出していた。


 結局のところ魔族強硬派について、その目的などなにもわからないという状況だった。はっきりいってトルテたちは後手後手に回っているといってよい。

 しかしそれも無理からぬ話だ。彼ら強硬派は十年以上も前から計画を練り動いてきたのだから。トルテが穏健派の勢力をまとめあげようと奔走していたときも。強硬派と穏健派で権力闘争をしている裏でも。着実に事を進めていたのだ。そう簡単にその差を縮めることなどできるわけがない。

 さんざん悩んだ挙句、彼女たちはとりあえずいくつかの方針を決める。

 まず闘技祭については、強硬派の明確な目的はわからないがまさか参加だけが目的ではないだろうということで、彼らの勝ち上がりを阻止する方向で動くことになった。

 しかし出場選手を闇討ちするというわけにもいかない。そんなことをすれば皇都は大混乱に陥り厳戒態勢となるだろう。こちらはその後の動きを封じられ、権力側に少なからぬ関係をもつ強硬派はこちらの目が届かぬところでどんな動きを始めるか、わかったものではない。

 そこで白羽の矢が立ったのが、今やヤシチの相方となっていたトビーである。

 彼が勝ち上がればいずれ魔族側の用意した選手に当たることになるだろう。その試合に勝つことができれば魔族の陰謀は一歩遠のくことになる。

 かなり強引ではあるがこの正攻法で彼らを阻止する方向に決まった。本人の知らぬところでやっかいごとが押し付けられるあたり、相変わらずトビーの不運は絶好調のようだ。

 そしてここで問題となるのがトビーの実力である。ヤシチによると筋は悪くないとのことだ。しかし、この作戦では場合によって最悪優勝を目指す必要性が出てくる。それを考えると彼の実力では心もとなかった。

 とここで重大な事実が発覚する。なんとエクレアが出場登録をしていたのだ。彼女いわく――。


「なんとなく面白そうだったのでつい登録を――。いえ、こんなこともあろうかと登録していたのでございます。そう、すべてはお嬢様のお役に立つであろうことを見越して……」


「ウソをつくなぁあああ!」


 とその後しばらくの間トルテの説教が続いた。叱られている間エクレアがひそかに幸せそうだったことをここに記しておく。さらにつけくわえると、「こんなこともあろうかと」をうまく活用した同志エクレアにタナカさんが感心していたそうだが、どうでもいいことなので書き記すのはやめておこう。

 というわけで図らずも二本の矢を得たわけだが、それでも強硬派の勝ち上がり阻止が困難な状況は変わらなかった。そこでヤシチが直々に二人を特訓するという話が持ち上がりそれがあっさりと決定する。

 こうしてエクレアと巻き込まれたトビーは、闘技祭で試合をこなす一方でヤシチの特訓を受けるというハードなスケジュールをこなすことになった。

 一方トルテは皇都での強硬派の動きに目を光らせながら、魔族領の同胞たちに指示を送ることになる。

 魔族領に戻り自ら先頭に立って強硬派の軍に対応しようとしたのだが、エクレアが自分も一緒に行くと駄々をこねたのだ。

 このときチャンスとばかりにタナカが動いたのはいうまでもない。隙をついて立ったまま寝ていたのは伊達ではないのだ。このときのためにイケメンパゥワァーを貯めていたタナカは、貯まっていた0ポイント全てを使い切りイケメンスキル「ニコポ」を発動。当然のごとく失敗した。

 このときのタナカさんの絶望は筆舌に尽くし難いほどのものだった。カップ焼きそばの湯切りに失敗し、流し台さんにブッカケてしまったくらいの喪失感に襲われていたのだ。

 しかし彼も第二次カップやきそば論争で、UFO派として勇名を馳せたほどの漢である。

 失意のうちにありながらも穏健派をタナカ王国(エロ・ドラード)へ避難させることを提案していた。その恩着せがましい態度はギリギリのところで小物としての矜持を保ったといったところだ。

 トルテは始めタナカの話を疑っていたが、タナカへの信頼度マックスなヤシチの助言もあり話はまとまる。

 こうして各々が役割を果たすため動き始めていたわけだが。当のタナカさんの役割はというと。


「最強勇者の兄貴の代役を務められるのはオレくらいのものか。フッ、自分の有能さが恨めしいぜ」


 そう、タナカの役割はヤシチの代わりに強硬派の目的を探ることである。そしてタナカが標的としたのがここオーエド城なのだ。


「陰謀なんてもんは権力の中枢で、アブラギッシュなおっさんたちがシコシコやってると相場がきまってるんだよ。幾千幾万のアニメや漫画を見てきたオレにはわかる。間違いない! となると――、この城が大いに怪しい」


 なんという冷静で的確な判断力なんだタナカ。

 というわけでタナカは城の建造物の中でもひときわ目立つ大きな屋根に舞い降りた。

 あたりの様子を確認するタナカ。ちょうど目の前にはまるでお姫様が幽閉されてそうな塔っぽい建造物がそびえたっていた。


「こ、この状況は!」


 なにを思ったのかタナカがフラフラと屋根を下り始める。やがてその歩みは駆け足となり大きな屋根を猛ダッシュで突き進んだ。


「あららららららら!」


 そう、これは漢なら誰もが一度は夢見るシチュエーション「お姫様の心を夢泥棒」。その過程で決して避けることはできぬ大ジャンプイベントだ。

 ただし、これは命をかけなければならない最高難度のイベントである。本来、タナカが見逃すべき小物厳禁のイベントのはずだった。

 しかしタナカには空中浮遊の術がある。これでは最高難度のイベントもたちまち絶対に負けはないチュートリアル同然のイベントになりさがってしまう。

 ならばタナカとしては乗るしかない。このビッグウェーブに!


「うぁあああれぇええええ!」


 ノリノリで叫び声をあげながら猛然と屋根を下り続けるタナカ。

 そして運命のBジャンプ。

 最後に足を踏み込んだ瞬間――。盛大な騒音とともに屋根を踏み抜いてしまった。

 世界で最も古いハル皇国。その長い歴史において初となる本城への威力偵察を受けた瞬間だった。

 瓦礫とともに落ちていくタナカ。しかしなぜか浮遊魔法を使わない。

 このときタナカは思ったのだ。これはこれでおいしいシチュエーションだと。

 なんということだろうか。こんな非常事態にタナカさんの無意味な芸人魂が発動してしまっていたのだ。

 しかしそこは小物の帝王たる漢タナカさんである。着地に失敗して死亡なんて愚は犯さない。華麗に床へと着地した。

 その瞬間――。

 喉元への鋭い刺突攻撃。

 並の人間ならばそこで人生終了となっていただろう。しかしタナカの場合はそうはならない。

 襲撃者は無表情な顔でタナカを見据えたままだった。喉を貫いたはずの剣先に立ちすくむタナカを見て内心驚いていたのだが、そんな事はおくびにもださない。剣を避ける動きが認識できなかったことで極度の警戒態勢にあった。


「何者」


 そしてタナカも驚きの最中にあった。いきなり攻撃されたからではない。目の前に美女がいたからだ。

 はじめはミコトを連想させた。軽装ないでたちに細身の剣。ミコトとよく似た印象を受けたのは装備のせいだけでなく黒髪だったのも理由だろう。

 しかし驚いてばかりもいられなかった。「目の前に美女」な状況で何もしないわけにはいかない。タナカは禁断のオサレスキルを発動する。


「突きが綺麗ですね」


「……そう」


 ネタは通用しなかった。


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― 新着の感想 ―
[一言] つまり、月会うと付き合うと突き合うというお話ですね。ええ。 ナニを突き合うかって?? そりゃあお前剣に決まってんだろ。
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