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タナカの異世界成り上がり  作者: ぐり
黄昏ゆく世界編
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第八十一話 皇国闘技祭

 皇都オーエド――この世界最古の都市にしてハル皇国最大の都市である。

 タナカがこれまでの旅で訪れた都市と比べても、桁違いな数の人々で溢れ返っていた。魔道奥義を完成させ自信に満ちていたタナカさんが、思わず下半身をヒュンとさせたことからもその規模の大きさが計り知れよう。


「べっ、べつにビビッてなんかないし! 電気街に慣れ親しんだオレにはなんてこともないし。夏と冬の祭典のほうがよっぽど熱気があるしい~」


 いったい誰にむかって言い訳をしているのか。タナカは予想外に大都市だった皇都オーエドの巨大な門を前にして、ブツブツと独り言をこぼし続けていた。

 たしかにこの程度の人ごみをかつていた世界でタナカは何度も経験していた。しかしそれはキャッキャウフフな極上の獲物につられてのこと。周りがよく見えていないからこそ耐えられたプレッシャーなのである。元来ヒキコモリ体質のタナカにとってこういった場所は毒の沼地にも等しい。

 そんな苦境から解放されるためなのか。タナカは無意識のうちに彼のなかにある安全装置を作動させる。


「クックック、この胸を締め付けるような疼き――。弱者どもを相手に必要ないとこれまで封印してきた第二の心臓が目覚めようというのか……。一見ただの賑やかな街並みのようだが騙されんぞ。まぎれこんでいるのだろう? 我を本気にさせる強者よ」


 あいかわらずの発症ぶりである。


「でなければ魔の棟梁たる我がこの程度の――」


「どいたどいた!」


「アッ! スイマセン!」


 立ち止まって厨二病ぶりを発揮していたところに商人らしき人が追い越していく。瞬時に小物モードにチェンジしてその場をやりすごすところはさすがタナカとしかいいようがない。そして相手が人波に消えたのを確認してから再び尊大になる。


「フッ、たしかに活気があってよい街だ。しかし! この程度の擬態では我が第三の眼はごまかされん。さしずめ――」


「ちょっとアンタ! 天下の往来で立ち止まってなにブツブツいってんだい。邪魔でしかたないよ。いい歳した大人なんだ。人様の邪魔になるような真似してんじゃないよ」


「スイマセン! スイマセン!」


 どんな世界でもオカンなキャラには逆らってはいけない。タナカはどこからともなく現れたオカンを平謝りでやりすごすと、とりあえず道のわきに避難する。


「クッ! まさかいきなりの強襲をうけるとは。まずは相手に先制点をとられたといったところか。だがまだだ。まだ終わりはせんぞ!」


 魔道奥義を完成させ、ワンランク上の小物となったタナカをしても劣勢にならざるをえないとは、恐るべし大都会。


「それにしてもあのオカン、なんというプレッシャーだ。アレはスケさんの先制攻撃を耐えきるほどの猛者とみた。やはり『大罪三重奏殲滅陣』を完成させておいたのは正解だったな。しかし、この大都市にいったいどれだけの強者がいるのかもわからん今の段階で、こちらの手の内をみせるわけにはいかない。ここはひとまず街にはいって情報収集といくか……」


 そしてタナカは気づいてしまう。


「――ってこの街の酒場にいるのもいつものおやっさんじゃね? ここに来る前からいろいろ聞いておくんだった!」


 出だしから後悔するという順調な滑り出しにはじまる大都市散策。さすがとしかいいようがない。とりあえずタナカは門のわきに常駐してる衛兵らしき人に、近くの酒場を紹介してもらおうと声をかける。


「すごい恰好だな――」


 などという応えに始まり酒場やギルドの場所を確認する。ついでに少し情報収集をしておこうと雑談にはいったところで面白い話を耳にする。


「皇国闘技祭?」


「なんだ? 知らないのか? てっきりアンタも見に来たんだと思ってたよ」


「その皇国闘技祭ってのはなんなんだ?」


「この皇都オーエドで四年に一度開かれるお祭りで、皇国を守るという熱い魂をもったやつらがその技を競い合うイベントさ。優勝者には創世神様の祝福があり、以後四年間『皇国の守護者』という称号が与えられるんだ」


「ほう、なかなかにカッコいい響きだな。それになかなか燃える展開のようで面白そうだ」


 その厨二心をくすぐる名称と設定には、さすがのタナカさんも目を付けざるをえない。


「カッコいい響きってそれだけかよ……、アンタなあ。『皇国の守護者』ってのはその名の通り、この国を守る礎となる大事なお役目でもあるんだぞ。昔の王国との戦争のときだって、当時の皇国の守護者様は自ら先頭に立って活躍なさったそうだ。いったいどれほど国民の心のささえとなってくれていたことか」


 タナカは「なんだかちょっとめんどくさそう」と思ったが、それを口にだしてしまったらヤヴァイと小物心に察する。


「へえ、なんだかちょっとめんどくさそう」


 しかし芸人としての彼の心がそれを許さない。目の前にバナナの皮があったら足を踏み出さずにはいられない漢。それがタナカ。

 本当にそれでいいのかタナカ。みるみる衛兵さんが不機嫌な顔つきにかわっていくぞ。


「おいおい、なにいってんだアンタ。この国を守っていらっしゃる方にめんどくさそうはないだろう」


 これはまさに危険が危ない。大丈夫なのかタナカ。危険(イコール)危ない(イコール)タナカだぞタナカ。


「まあ確かにめんどくさそうだけどな」


 お前もか衛兵。それでいいのか皇国。皇国の未来が実に心配である。


「だがな。『皇国の守護者』はこの国では人気者なんだぜ。それはもうモテモテよ。めんどくさそうって意見でおわってしまうアンタには縁のない話だろうがな」


「なん……だと……」


 衛兵が放ったその一言に言葉をなくすタナカ。そしてタナカのショックはそれだけでは終わらなかった。


「それに当代の『皇国の守護者』はこの国の皇女様だ。『皇国の守護者』を軽んじる奴は皇女様の大ファンである俺がゆるさん」


 なんというビッグウェーブ。

 皇国闘技祭に参加すればコンパの話題としては申し分ない。もはやコンパでモテモテは確実だろう。

 そして皇国闘技祭に優勝しようものなら、その時点で問答無用のモテモテぶり。しかも皇女様とお近づきになれるかもしれないという特典つきなのだ。

 もはやタナカ的には乗るしかない。このビッグウェーブに。


「すいませんでしたセンパイ! オレが間違っていました。反省してます! だから教えてください。皇国闘技祭に参加する方法を!」


「誰が先輩だよ、誰が! 明らかにアンタのほうが年上だよな? というか参加する気かよ。無理無理、ボロボロにやられるのがオチだって――」


 そう言いながらも丁寧に教えてくれるこの衛兵は案外いいひとなのかもしれない。そして聞くことを聞くと実に小物らしく態度がかわるタナカ。


「フッ、まあ見ていろよ。『皇国の守護者』を目指し、血のにじむような特訓を続けてきたのは伊達ではない。いずれ皆が知ることになるだろう。オレという新しい『皇国の守護者』の存在をな」


 そのあまりの態度に思わず言葉を失う衛兵。爽快と立ち去るタナカをただ見送ることしかできない。そしてその後ろ姿が人ごみに消えていくところで、ようやく衛兵は息をつくように言葉を吐き出したのだった。


「いや、アンタ皇国闘技祭のこと知らなかったじゃん。……ってアレ? そういえば皇国闘技祭の受付って――」


 その後、皇国闘技祭受付があった場所にて。前日に闘技祭参加がしめ切られていたのを知り、崩れ落ちる漢が見られたという。

 こうして誰に知られることもなくタナカの熱い夏は終わる。立ち去る漢の後姿はまさに理想的な人生の敗北者の姿だった。

 しかしこの人生の敗北者をみた人々には覚えておいてほしいものである。勝利することだけに価値があるわけではないということを。そう、こういうイベントは参加することに意義があるのだと忘れないでいただきたい。あ、この人参加してませんでしたね。

 とにかく、がんばれタナカ。がんばろう東京オリンピック。


 まずは無事に武道大会編を終えることができてホッとしました。

 武道大会編というのは創作家にとって重要な題材のひとつですからね。

 人気がでやすいテンプレでありながら、あつかいを間違えるととたんに袋叩きにあって評価が下がるのが武道大会編です。

 今回作者が「タナカの異世界成り上がり」で武道大会編を扱うにあたり気をつかった点は、あまり冗長にならないようにシンプルにまとめていこうという考えでした。それでもかなり長々とした話になってしまったのは作者の実力不足でしょう。

 まあこういうことをいってしまうと感想で「話長すぎて全体の流れがわかりにくかったよ!」とか「登場人物多すぎてわかんなかったよ!」とか「作者さんステキ。抱いて!」とか書かれてしまうんでしょうが。

 まあつまるところ今回作者が言いたかったのは「がんばろう東京オリンピック」ということです。こういうイベントはみんなで盛り上がらないといけませんからね。

 え? 気が早い? 大変失礼いたしました。


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