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タナカの異世界成り上がり  作者: ぐり
旅立ち編
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第八話 盗賊

「ほぅあちゃーっ!!」


 タナカが疾走し微妙な掛け声とともに剣が一閃。1メートルはあろうかという巨大芋虫が奇声をあげて動かなくなる。


「安心しろ。峰打ちだ……」


 お亡くなりになった巨大芋虫にそう言い放つと両刃の小剣を鞘に納めた。ツッコミどころ満載である。しかし

ノリだけで適当なことをやっている、実にタナカらしい行動でもあった。

 慣れた手つきで巨大芋虫をアイテムボックスに収納するタナカ。それからさらなる獲物を求めて、森を突き進んでいった。

 魔法の修行を終えたタナカが、ハザマの街に帰ってきてから早一ヶ月。その間、タナカはEランクの討伐依頼を黙々とこなしていた。


「むっ、あそこにいるのは角ウサギ……。我が眷属となった黒角ウサギの親戚ではないか。身内に手を出すわけにはいかないな。フフフ、黒角ウサギに感謝するのだぞ」


 そうつぶやくと角ウサギから離れ、別の獲物を求めて森をさまよい歩くのだった。タナカは最近、角ウサギ以外の魔物を狩るようになっていた。完全なる誤解から生まれた行動である。しかし角ウサギたちにとっては、タナカの虐殺対象からはずれたのだから、幸運といえるだろう。

 その後、タナカは出会う敵を片っ端から倒して、アイテムボックスに収納していく。そう、タナカの狩りは、若干常識とはズレたやり方であった。タナカには無尽蔵ともいえるアイテムボックスの収容力がある。だからとにかく魔物を狩ってはアイテムボックスに収納していくのだ。

 朝早くから森に入り狩りを続け、日暮れ前に大量の獲物を持って街に戻ってくる。街でまずはギルドへと足を運ぶ。そしてその場でEランクの依頼とアイテムボックスの獲物を見比べながら清算していくのだ。Eランクの魔物は数だけは多い。討伐依頼は常時でているようなものだ。その結果アイテムボックスに端数となったものだけが余り分として最後に残る。それらは次の日に持越され、延々と狩の毎日は続いていくのだった。

 タナカは自分の変態的能力をまったく気にかけていない。彼自身は自分の無力さから、持ち得る手札すべてを使いただ効率的にやってるだけなのだが。はたから見ればかなり異常である。受付のジョディも最初はその異常ぶりに若干引き気味だった。しかしタナカのアホっぽい雰囲気のせいか。ひと月もたった今では慣れたものである。

 そうした状況が続いたことで、タナカのレベルと所持金は異常な伸びをみせていた。まさに順風満帆な日々をおくっているといえよう。しかしそんな平穏な日々に影が射す。






「交易商が盗賊に襲われた?」


「ああ、今月にはいって3度目だ」


 その日、タナカはいつものように大量の獲物を狩り終え、手ぶらで街に戻ってきた。そして門までやってきてハチに声を掛けられる。


「一時的なものであればいいんだけどね。いやいや、盗賊自体はよくはないんだけどさ。もしこの辺に居着いちゃったりしたら、かなりまずそうだよねえってこと」


 ハチは相変わらずの軽い調子だ。しかしその発言の内容はなかなか深刻なことである。となりのクマも深刻そうな表情だ。


「そうなのか? ギルドに護衛の依頼とか出せば……。いや、いっそのこと討伐の依頼とか出せばいいんじゃないのか?」


 護衛の依頼はDランク以上だ。そのためタナカは他人事のようにお気楽に答える。


「まあそうなんだけどね。問題なのは盗賊事件の3件のうち1件は護衛がいたのにやられちゃったってこと。これってまじやばくない?」


「かなりやばい盗賊ってことか……。まあ、強い人に頼めばいいんじゃないのか?」


「お前、自分の住んでる街のことなんにも知らないんだな。この街で活動してるギルドメンバーはみんなDかEだよ」


 タナカは他人のことはたいして気にしないタイプの人間だ。この街のギルドメンバーの事情は初耳の情報である。


「まじかよ……」


「まあこの街に限らずたいていそんなもんだけどな。C以上の人間は街に腰を落ち着けず、強い魔物の情報でも聞いて移動しながら生活してるもんさ。後は傭兵稼業でゴクリにいってるかだろうな」


「たしか内乱状態なんだっけか?」


 タナカはこの世界に来た時に、ホワイト将軍から聞いたことを思い出しながら答える。


「ああ、そういうわけでやっかいな盗賊が居着いたとなったらかなりまずいんだよ。いつ来るかわからないCランク以上のギルドメンバーを待つか。ヒノキに連絡して兵隊がくるのを待つかだな」


 ヒノキというのはこの地方の中心地ともいえる都市でヒノキが特産品となっている。非常時には各地に派遣する兵が駐屯しているらしい。ヒノキというのはハチいわくキノコの王様らしい。それを聞いたときタナカが世界に向けてツッコミをいれたのは言うまでもない。


「ふーん。まあ俺はいつもどおり、魔物狩りに勤しむとするよ」


 確かに深刻そうな話ではあった。しかしタナカは自分にそれほど影響はなさそうだと結論を出す。これ以上、盗賊について話をする必要はないと考え、この場を離れようとする。しかしハチの言葉がそれを遮る。


「お前ほんとにギルドメンバーかよ……。もしやばいレベルの盗賊が居着いたとなったら、兵が到着するまで緊急依頼ってことになる。Eランクであっても手伝わされるっての」


「なに! 本当かよ?!」


 緊急依頼とは全住民の安全にかかわるような場合に、かなり強要的に依頼されるものである。たとえば強力な魔物の出現や戦争だ。そういった場合、住民の安全確保のために、その名のとおり緊急で出される。


「盗賊の規模によっては、街が襲われるかもしれないからなあ。まあ今の段階じゃなんともいえないか」


「……」


 タナカは門を離れる。非常に嫌な予感が湧きあがってきていた。自称天才的頭脳をもってして打開策を導き出しながら、ギルドに向かうのだった。






「俺、この依頼の清算が終わったら、田舎に帰って農業はじめるんだ」


「ふーん、とりあえずアンタの指名手配書出しておくわね」


 ジョディは仕事を淡々とこなしながら、タナカのアホ発言を即座に切り捨てる。


「なんでだよ! なんで農業で指名手配なんだよ!!」


「冗談よ。だいたい突然変なこと言い出すアンタがいけないのよ。どうせ盗賊のことハチにでも聞いて逃げ出そうとでも考えたんでしょ」


「……」


 タナカの考えの一歩先をいく女ジョディ。まさに天敵。タナカはここに至り目の前の受付嬢の恐ろしさに戦慄する。実にどうでもいいことである。

 タナカが恐怖している間にジョディは手早く依頼の清算作業を終える。そしてその達成料をタナカに渡しながら言い放つのだった。


「まあすぐにどうこうってわけじゃないでしょうけど。時が来たら覚悟を決めて、ちゃんと依頼をうけなさいよね。それまでは今まで通り好きにやってればいいから。まあ緊急依頼がでるときまったわけじゃないんだし、気楽に待ちなさい」


 そういうといつも通りの仕事用の笑顔でタナカを追い出す。

 その後盗賊がいなくなることを祈りながら、ジョディに言われたように日常をこれまでどおり淡々と過ごすタナカ。

 しかし嫌な予感どおり、盗賊被害はなくなることはなかった。そしてむしろ被害は激増していき、結局……






「やあ、君達が今回の護衛ですか。私の名はエチゴヤ、新進気鋭の交易商です。よろしくたのみますね」


 人当たりの良い若い商人が、護衛にきたギルドメンバーに気軽に挨拶をしてくる。

 盗賊被害が激増したとはいえ、すべての交易商が襲われるわけではない。むしろこの街の交易全体からみれば無事に終わる可能性のほうが高いだろう。

 とはいえこのように明るく振舞えるのはこの商人が若いがゆえか、それとも大物になる器なのか。

 しかしタナカはそんなことを考えている余裕はなかった。護衛のギルドメンバーのうちのひとりに選ばれてしまったタナカは、ひとり沈んでいた。


「まずい……まずいぞ。なにがまずいってエチゴヤって、名前がまずやばそうだ。なにか事件に巻き込まれそうな気がする……」


 そんな悲観的思考におちいっていたタナカの妄想をよそに、準備は順調に整いエチゴヤ一行の馬車は出発する。北隣のフグの街まで二日間の行程だった。

 ちなみにフグの街も森に囲まれた小さな街である。タナカはこれまでの経験からフグとはなにか怖くて聞けなかった。実にどうでもいい話である。

 旅は順調に進み、いつの間にかタナカはエチゴヤと気さくに話をするようになっていた。なかなかにイケメンであるエチゴヤはタナカに敵認定されそうなものである。しかし新進気鋭と自称するだけあって、優れた商人であったようだ。エチゴヤはその話術でタナカと良好な関係を築きつつあった。


「へえ、じゃあ君はEランクなんですね」


「そうなんですよ。せっかく逃げようと……いや田舎に帰って農業始めようとしたのに……。んぎぎぎぎ」


 ジョディたちに逃げ道を塞がれたことを思い出し憤慨するタナカ。


「ハハハハハ、でもそれじゃあEランクの君には、あんまり無茶な頼みはしないほうがよさそうですね」


「そうですねえ、多少魔法は使えますが生活用だけなんで、野宿はまかせてください。あと逃げ足は自信があります」


「頼りにしてるますよ。でも逃げ足のほうは勘弁してほしいですね、ハハハ」


 キリリとダメ発言をするタナカ。それを笑って受け答えをするエチゴヤは、やはり大した人物のようである。実際にエチゴヤは頭の中では、タナカ以外のDランク二人をメインに非常時の計画をたてなおしていた。

 そんなこんなで時間は流れ、盗賊に襲われることもなく、日が暮れようとしていた。一行は馬車を止め野宿の準備に取り掛かる。

 タナカは長旅で鍛えた家事スキルを使い、テキパキと野宿の準備をすすめる。まあ家事スキルはたいしたことはないのだが、タナカには規格外のアイテムボックスがある。なぜそんなものを持ってきているのかというエチゴヤの疑問をよそに、満足いく食事と寝床の準備をする。

 その後、手早く食事をすませた護衛の三人。タナカ以外の二人はその場に待機し、タナカは森に薪を拾いに行く。


「実はアイテムボックスの中に、薪用の枯れ木もあったりするんだけど……。これじゃあだめかなあ」


 そんなことを呟きながらもタナカは自重する。まじめに薪を拾い続けるのであった。しばらく森を進んでいるとだいぶ枯れ木が集まってきた。そろそろ帰ろうかとしたところで視界が開ける。ちょうど近くに小川があって川原にでたようだ。

 その小川の傍らには3人の大柄な男たちが立っていた。


「ほう、わざわざそちらからやってきてくれるとはな」


 3人の男たちはすでに剣を抜いており臨戦態勢だった。

 創世暦5963年秋、タナカは始めて人間と生死をかけて戦うこととなる。


名前:タナカ レベル:16 経験値:1143/1600 ギルドランク:E

体力:2.9e13/2.9e13 魔力:3.8e13/3.8e13

力:2.9e12 器用さ:2.7e12 素早さ:2.7e12 賢さ:3.8e12 精神:3.8e12

スキル:剣(2.01) 魔法(1.04) 信仰されし者(1.02)

装備:小剣 布の服

お金:2872000G


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― 新着の感想 ―
[一言] さすが召喚さらし者、数値が一般人に届きそうだな
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