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タナカの異世界成り上がり  作者: ぐり
旅立ち編
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第六話 魔法

「よし、今日の分はこれで完了だな」


 タナカは森の中で、今しがた仕留めた角ウサギを手にしている。満足そうな笑みを浮かべながら獲物をアイテムボックスに収納した。

 タナカがハザマの街で暮らすようになって、すでに一ヶ月が経とうとしていた。その間、毎日かかさず受け続けた依頼がこの角ウサギの討伐である。厨ニ病を患っているタナカにとって、異世界はロマンであった。そんな彼が異世界での生活の糧を魔物討伐に求めるのは、必然であったといえよう。とはいえタナカは小心者である。さらに赤子並の戦闘力で魔物に立ち向かうとなると、慎重にならざるを得なかった。そこでタナカが選んだのが、この角ウサギの討伐なのである。黒角ウサギに対して絶対的自信を得ていたタナカ。黒角ウサギの同種の魔物でランクの劣る角ウサギ。これらの材料から導き出されろ答えはひとつしかなかった。

 というわけで一ヶ月もの間、タナカは角ウサギの討伐依頼をこなし続けたわけだ。圧倒的な安全性、小心者のタナカにとってはまさにうってつけの仕事であったといえるだろう。


「さてと、いよいよ今日で最後の魔物だな」


 タナカはメモを見ながら移動を開始する。それは角ウサギ討伐が目的ではなかった。この一ヶ月、角ウサギの討伐とともに日課にしていたある目的のためだ。その目的とはギルドランクEで受けることのできる魔物の調査である。

 石橋を叩いて他人に渡らせるくらい慎重な男タナカ。彼はあるときは他のギルドメンバーの討伐を遠くから盗み見、ある時は魔物同士の争いを眺め、実際に自分の目で魔物の強さをチェックし続けてきた。そして今日、すべての魔物のチェックを終えようとしていた。


「フフフ、どうやらEランク討伐依頼の魔物は、赤子並の戦闘力しか持ち合わせていないらしいな。これで勝つる!」


 タナカはこの調査結果に満足する。今後の生活に目途がたったのだから喜ぶのも無理はない。しかしタナカはそこで満足する漢ではなかった。早くも次の野望に向けて行動を開始するのだった。


「これで魔物討伐で生活していく目途は立ったな。となると次は手段を増やさねばなるまい……ククク」


 不気味な笑い声をあげつつ厨ニ病の発作を起こすタナカ。森の中なので変人な彼を気にする者はいない。まあとにかく彼がここまでテンションをあげるのも無理はないといえよう。なぜならタナカの次の目当ては魔法。厨ニ病の彼にとって異世界における最大のロマンであった。想像の中で期待を膨らませながら歩みを進める。自然に足早となって、タナカは街へと急ぐのだった。






「はぁ? 魔法が使いたい?」


 街へ戻ったタナカは早速ギルドにおもむく。依頼達成の報告を行いながら、受付のジョディに相談した。ちなみにジョディとはギルド登録以来、お世話になっている受付嬢のことである。


「アンタ魔法使えなかったんだ。アイテムボックスの収容力が規格外だから、てっきり魔法使えるんだと思ってたわ」


「アイテムボックスと魔法って関係あるの?」


 タナカは初耳の情報に興味をそそられる。ジョディは仕事をしながら簡単に説明してくれる。


「はっきりとは解らないらしいけど、魔力が多いと収容力も高い傾向があるらしいわ。……ということはアンタのは単に変態的なだけってことかしら」


 ジョディは仕事の手をとめて、タナカを変なものを見るような目で見つめる。


「なんか勘違いされそうなんで、そういう表現やめてください。お願いします」


 タナカは居心地が悪くなり、ジョディに懇願する。そして自分の「低い魔力とアイテムボックスの高い収容力」という矛盾する謎を心に留めたのだった。


「冗談よ。まあ魔法が使いたいのなら、魔道具屋に行くといいわ。魔道書と覚えたい魔法の数分の契約紙を買うのね。ただしこの街の魔道具屋じゃ第十位魔法の魔道書しかないわよ」


「なんすかその第十位とかなんとか」


 またもや気になる発言をされ、質問するタナカ。しかし今度は話を続けてはくれない。


「あたしも専門外だから。そういうことは魔道具屋に尋ねるか、魔道書を読むのね……、はい! 今回の依頼料」


 ジョディはタナカに報酬を渡すと仕事用の笑顔で手を振ってくる。どうやらこれ以上は相手にしてくれないらしい。タナカは最後に魔道具屋の場所だけは教えてもらい、早速足を向ける。とはいえギルドからそう遠くない場所にあったためすぐに到着した。

 魔道具屋にはタナカの厨二心をくすぐる妖しげな物がたくさんあった。しかしとにかく目当ての魔道書と契約紙を手に入れる。いろいろと魔法について尋ねようかとも思ったタナカ。しかし店員の婆さんの顔が思いのほか怖かった。それはもう怖かった。クールな漢は早々と店を後にするのだった。店を出る間際に魔法を室内で練習しないよう忠告してきたので、結構いい人なのかもと思ったがそこは小心者のタナカ。立ち去るほか選択肢はなかった。実に残念な男である。

 早々に宿に戻り、タナカは部屋で魔道書を読みふける。第十位魔法の魔道書ということで、いろいろと基本的なことが書かれてあった。未知の領域の知識はタナカにとってとても新鮮で、順調にそれらを頭に入れていく。

 魔法は最も高度な第一位から基礎的な第十位まである。そして魔法のスキルが上達しないと上位の魔法は契約できないらしいことがわかった。さらにこの魔道書に記されているのは第十位魔法の契約法とその使用法。熟読し続けるタナカ。


「なんだか想像してたのとちょっと違うな。まあ第十位だから仕方ないのかな。それにしても庶民的なものばかりだな……」


 特に契約数の縛りなどはなかった。しかし使わないものをたくさん覚えても後でめんどうそうだと考えた。結局、覚える魔法の数をしぼることにする。

 こうしてタナカは火をおこす点火の魔法、飲料水が確保できる生水の魔法を契約する。それらは庶民の間でも使用され、親しまれている魔法である。そして狩りを生活の糧としようと思っているタナカにとっても、かなり有用に思えたのでこの2つを選んだ。

 ひとまず魔法の練習は明日に森で行うことに決め床につく。庶民的とはいえ魔法という未知の体験に期待を膨らませながら桃色の夢に旅立ったのだった。





 次の日、タナカはさっそく街をでて森にはいった。しばらく歩き続けると少し開けた場所にでる。この場所で問題ないと判断し、早速魔法の練習を開始。


「まずは点火の魔法からにするか。よーし、集中集中……」


 タナカは魔道書に書かれていた内容を思い出しながら、魔法を使うため手順を踏んでいく。準備の出来たタナカは足を広げ片手を掲げる。


「イグニッション!」


 タナカは人差し指を立てながら呪文を唱える。ちなみにこのようなポーズをとる必要はない。

 ともあれ魔法は見事発動する。指先のあたりから、轟音とともにすさまじい勢いで光が放出されていた。その青くかがやく光は空に向けて高く放出されている。


「……」


 タナカは無言で魔法をとめ、アイテムボックスから魔道書を取り出す。一通り読み返すと再びカッコイイポーズをとり呪文を唱えた。


「イグニッション!!」


 再び指先から青くかがやく炎が噴出する。その炎に触れた木々は瞬時に消滅してしまう。残った木々の端は黒く焦げており少し煙が上がっていた。生木なので火事は起こらないであろう。そんな安心感がわくこともなくタナカが絶叫する。


「点火ってレベルじゃねーだろ! 火種が消滅するわ!! こんな点火、危なすぎて使えねーよ!!!!」


 魔道書に書かれていた内容とも、自分の想像とも違った現象だった。世界に激しくツッコミをいれるタナカ。厨二病のタナカであれば喜びそうなものだが、指先から生まれた炎はあまりにも強力すぎた。その想像をはるかに超えた火力に、さすがに引いてしまったのだった。


「ハァハァ……、ま、まあ火はついたわけだし後は制御の問題だな……。うむ、とりあえずこれは置いておこう」


 しばらくして興奮がおさまったタナカ。とりあえずこの問題は保留として、もう一つの魔法を試すことにする。


「なんか、激しく嫌な予感がするが……。とりあえず一度やってみないことにはな……」


 タナカは魔法を発動するため、気持ちを切り替え集中しはじめる。


「ウォーター!」


 呪文を唱えるとほぼ同時に、目の前に小山程度の水塊が現れる。


「……ぁ」


 タナカには時間がゆっくり流れるように感じられた。水塊はうまれた瞬間重力の影響を受け始めまわりになだれ込む。


「……ウブブブ! ……チョッ! ……待っ! ゲフゲフ!!」


 水流に巻き込まれ、森の中をしばらく流される。水は森に広がり、すぐに水かさはさがっていく。


「ゲホッゲホッ! ……ハァハァ!」


 とりあえず伏せり、息を整えながら回復を待つタナカ。多少落ち着くと身体がプルプルと震えだす。そして怒りをあらわに叫んだ。


「たしかに水は飲めたけど……、問題外だろ! いつか溺れ死ぬわ!! ゲホゲホッ!」


 いやな予感はしていたが予想以上の事体だった。大変な目にあってしまい、たまった怒りを発散させるタナカ。


「ハァハァ……、それにしてもこの世界の魔法怖ええよ! なんでみんなはこんなの平気で使えてんだよ!」


 徐々に心が落ち着き始め、冷静になって考える。


「とりあえず両方とも魔法は発動した。問題は規模だな。攻撃魔法として危なすぎて使えないレベルだ。そもそもこれ攻撃魔法じゃなくて生活用の魔法だし……」


 タナカは魔道書を取り出し読み返す。魔法は賢さや精神の影響を受け効果があがるらしい。さらに魔力の消費を上げることでも効果をあげられるとある。


「賢さと精神はともかく、魔力の配分に問題があるのか? 集中しすぎなのかな?」


 タナカは自分の状態を確かめてみる。



 魔力:2.1e13/2.1e13



 ……まったく消費されていなかった。タナカは再び魔道書を読み返すが答えが見つからない。いろいろ考えたあげく結論を出す。


「まあ制御がまずいんだろうな。使えるレベルになるまで練習するしかないか。魔力の消費がないのはよくわからんが……。もともとなんか表示がおかしいし、文字化けのある数字はあまり当てにはならんのかもしれんな」


 しかし練習するとはいっても、かなり危険な気がするのだった。とくに生水はシャレにならない現象である。そこでタナカは再び山岳地帯におもむき、魔法の特訓をしようかと考える。あの場所であればまわりに迷惑はかからない。なにより低地にむけて生水を唱えれば溺れることはないだろう。

 早速ここでの魔法の練習はとりやめることを決め、街に戻ることにするタナカ。帰り道では急ぎ足で戻りながら、旅の準備の計画を練る。まだ午前中なので今日中には旅立とうと決意するのだった。

 そして街に戻るとちょうど門のところでハチが神妙な顔で話しかけてきた。


「さっき、遠くで青い火柱みたいなのがみえてさ。その後なんか地鳴りみたいなのが響いてたし……。森のほうでなんかやばいことが起こっているかもしれねえ。今ちょうど領主とギルドマスターが対策について話し合いをはじめたみたいだぜ」


「……」


 タナカはなにも聞かなかったことにする。そそくさと挨拶をすませハチと別れた。おのれの身に災厄がふりかかるのを敏感に感じ、手早く逃げる準備を終えたのは悲しき小者の性ゆえであろう。

 創世暦5963年夏、タナカは魔法の特訓のため、再び旅立つのであった。


名前:タナカ レベル:12 経験値:452/1200 ギルドランク:E

体力:2.3e13/2.3e13 魔力:2.1e13/2.1e13

力:2.3e12 器用さ:2.2e12 素早さ:2.2e12 賢さ:2.1e12 精神:2.1e12

スキル:剣(2.00)魔法(0.01)

装備:小剣 布の服

お金:1554000G


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