Route52「アンタはいい目をもっている」
欲望渦巻く大都市ケタバナハ・オーに君臨していたレッド将軍。この邪悪で非道な権力者は、強くてカッコいいタナカさんの活躍によって倒れた。しかし世にはびこる悪はまだまだ後を絶たない。そんな悪のもたらす理不尽と戦うため、スケさんカクさんと合流したタナカさんは、今日も旅を続けているのだった。
――なんてことを考えながら、タナカは今日も歩き続けていた。長閑な平原地帯を横切る東へと続く街道。タナカたち一行はあいかわらずのんびりと旅していた。そんななか立ち寄った小さな農村で珍しい風景と出会う。
「むむっ? あれは……」
相変らず人里で単独行動をとるタナカ。いま彼がいるのは村のちょうど中央にあたる広場である。そこには大きめのテントが設置され、その前に広げられた敷物の上には様々な品物が陳列されていた。どうやら村に交易商がちょうど訪れた場に遭遇したらしい。
これはタナカにとって降って湧いたように飛びこんできた幸運だった。将来有望な若者のためとはいえ、彼は己が半身ともいうべき魔剣を手放していた。その雅量に富む行動は器が大きすぎて、もはや器として使用不能状態のタナカさんらしいといえるかもしれない。しかしその代償はあまりにも大きすぎた。今の彼は非武装なのである。
確かにタナカさんは徒手空拳最強の武術カラーテ正統伝承者である。しかし世の中には打撃系と相性の悪い魔物もいる。さらにいえば徒手空拳での戦いとなると、気持ちが悪い敵に直接触れなければならないということ。その苦行を続けることはあまりに危険だった。半日絶食を完遂した経験のあるタナカさんにとっても、それは精神の崩壊を招きかねない。それほどに危険な行為なのだ。
本来、このような小さな村で武器を調達できる機会など、そうそうあるものではない。タナカは日頃の行いが良すぎる自分を心の中で自画自賛しながら、交易品を物色していくのだった。
「お? お客さんこの村の住人じゃないね。旅人さんかい? だったらこっちの品も見ていってよ。いろいろ取り揃えてあるよ」
人のよさそうな商人は旅に必要な消耗品などを勧めてくる。しかしタナカは無尽蔵ともいえるアイテムボックスをもつ漢。必要かどうかわからないようなものまで常に大量に用意しているのだ。商人が勧めるようなものはタナカにとっては不要といえた。
「いや、そういうのは足りているからいい。オレがいま探しているのは武器なんだ。なにかいいものはないか?」
「武器ねえ……。西部の内乱が終わってからはあまり仕入れてないんだよなあ。おい! ちょっと替わってくれ」
荷物整理でもしていたのか。テントのなかから若い商人見習いらしき青年が現れた。ここで美少女が登場しないあたりはタナカの呪われし運命を感じさせるところだ。店番を替わると商人がテントのなかに案内してくれる。なかには未だ整理中らしきふたを開けられた木箱がいくつも転がっていた。
商人は積まれた木箱の前までいくと、目当てのものを談笑を交えながら探し始める。聞くところによるとこの商人はハル皇国の出身らしい。これまで交易のために、何度も皇国と西部諸国の間を行き来しているそうだ。
「あったあった。しかし大した数はないよ」
タナカは武器のはいっているらしい木箱を確認し始める。たしかに商人のいうようにあまり数はなかった。そしてそのラインナップは小剣、小斧、ナイフ、こぶりの棍棒といったところだ。質は良いようだがそもそも選択肢が少なく、その数少ない選択も本格実践派のタナカさんを満足させるものではなかった。
「うーん……。たしかにいまいち派手さにかけるな」
チームリーダーとしての自覚からか。第一に見栄えを気にするあたり、人の上に立つ者の風格をますます感じさせる漢だ。
「そうかい。そうだなあ……。他にあったかなあ……」
商人は再び木箱の群れに向かう。――とそのときタナカの身体に激震が走る。
「そ、それは!」
タナカが見つめるその先。積まれた木箱の横には剣が立てかけてられていた。
タナカの背丈ほどはあるのではないかと思わせるほどに巨大な剣だった。ドラゴンを両断してもビクともしないであろう分厚く頑強そうな刀身。鍔には見る者すべてを魅了するであろう装飾がふんだんに施されている。「世界に災厄を招くほどの力を秘めている」そういわれても納得できそうな、宝石っぽいなにかが埋め込まれている点も良い。タナカの厨二心をぐいぐい刺激した。柄頭にも鍔と同じく「邪魔にしかならないだろう」といわんばかりに施された、毒々しい装飾が目を楽しませてくれる。
「……これだ。オレがコイツと出会うために、魔剣を失うという運命を与えられたのだ……」
大剣の握りを掴むタナカ。まるで失われた部品がカチリと装着されたような感覚。
――確信する。この出会いは運命の邂逅。この先、幾万もの戦いをともにするであろう相棒を今まさに得たのだと。
「オヤジ……、これを貰うぞ」
「ん? そいつは……。いいのか? そんな大物ほしがるなんてアンタ旅人じゃなくて武器屋だったのかい」
タナカは商人を見ることなく、魅了されたように大剣を見つめ続けていた。
「恥ずかしい話、なにを血迷ったんだか交易だってのに、かわった物を買い取っちまってね。当然売れるわけもなく長らく持ち歩いちまってたって代物だよ」
その品物が何故このような相応しくない場所にあるのか、その経緯を話して聞かせる商人。しかしタナカにとってもはやそんなことはどうでもよかった。タナカの心を掴んで離さない大剣。使い手を魅了するその様は、まさしく魔剣たるにふさわしい業物といってもよいだろう。
「頑丈さだけは胸をはって進められる一品だ。まあ長らく売れ残ってた品物だからねえ……。三万ゴールドってとこでどうだい?」
その値段にタナカの顔が曇る。
「だめかい? うーん……、仕方ない。だったら二万七千! さすがにこれ以上は無理だよ」
破格ともいえる値引きだがタナカの表情は曇ったままだった。商人はさすがにだめかと諦めかける。しかしそんな商人の考えとは裏腹に、タナカはアイテムボックスから大金のはいった袋を取り出すと商人に投げてよこした。
「釣りはいらない」
不機嫌そうに短く呟くと大剣を背負ってテントから出ていくタナカ。ふと立ち止まり商人に語りかける。
「アンタはいい商人だ。気前よく値引きしてくれるのはありがたいんだが、ひとつ覚えておくといい」
商人はずっしりと重い大金のはいった袋を手にタナカの言葉を聞いた。
「本当にいい品物は『どれだけ金をだしてもかまわない』そう思わせてくれるものだ。それなのに過剰に安い値段をつけられては、大金を出してでも買おうとした者の心を傷つけるってもんさ」
そう、タナカは値段が高くて不機嫌になったのではない。強くてカッコよくて器のでかいタナカさんに限ってそんなことあるわけがない。あまりの安さにまるでこの大剣の価値が損なわれたような、そんな気がして不機嫌になっただけなのだ。
「アンタはいい目をもっている」
この商人のおかげでタナカは生涯の友とも呼べる相棒にめぐり合えたのだ。その感謝の意を込めて商人の成功を祈る。
「多くの街に大商人となったアンタの店が開かれるのを楽しみにしてるよ」
そう言葉を残し立ち去るタナカ。そんなタナカの背中を見つめながら商人も呟く。
「いや、言わんとすることはわかるよ……。ただ、さすがに武器屋用の看板にこれだけ大金を出されると怖いんだが……」
三十万ゴールドもの大金がはいった袋を手に、商人は変わり者の客の後ろ姿をいつまでも見送っていたという。
「――ふんっ!」
気合とともに上段から大剣を振り下ろすタナカ。剣先が地面スレスレの所で停止する。と同時にその剣圧がまるで爆発でもおきたかのように粉塵を舞いあげた。
「おおっ!」
それを見たスケさんが驚きの声をあげる。その反応に満足したのかタナカは不敵な笑みを浮かべていた。
「これが神魔大戦終結後。勝利した神々がその圧倒的な力を恐れ、封印したといわれる魔剣のひとつ――『滅の魔剣デスアビアゲーテ』。いまだ完全に封印は解かれていないが、なかなかイケてるだろ?」
村を出てスケさんとカクさんのところに戻ったタナカ。早速、新しく手に入れた武器を見せびらかしていた。
「いいでござるなあ。拙者も街や村を散策したいでござる」
どうやらスケさん、人里に楽しいことがたくさん溢れていると勘違いしたようである。街にいきたそうな態度を隠しきれない様子。しかしそれは勘違いだけが理由ではないだろう。
いまだスケさんは新装備「世界を嗤いし白面」「無形の奇術師」を人前でお披露目していない。新武器を携えながら街を散策するタナカの姿を想像し、触発されたというのも理由のひとつだと思われる。
「うーん……、いってみたいのもわからなくはないが……。この国いろいろやばい感じなんだよなあ」
さすがに鈍感系主人公のタナカもひしひしと感じていた。亜人にたいする過剰ともいえる偏見が、プリン王国に蔓延しているということを。
「というわけで皇国に帰るまで我慢してくれ」
「……残念でござる」
スケさんの新装備のお披露目は延期に決定した。余計なトラブルを恐れての発言ではない。そのことをタナカさんの名誉のためにここに明記しておく。あくまで仲間の身を案じただけである。
「ふん、新しい装備に浮かれてんじゃねえよ」
そしてご機嫌ナナメのカクさん。精霊は装備を身に着けることができない。そのことが二人との間に距離があるような、そんな感じがして複雑な気分だったのだろう。そのうえ見栄えを気にするカクさんにとっては、新装備で着々とおしゃれ度をアップさせていく二人は羨ましかったはずである。
「精霊は装備できないからって、なに拗ねてるんだよ……。いや、ちょっと待てよ。そういえばあのぷるんぷるんの使徒も呼び名が違うだけでカクさんと同じ世界の管理者とやらなんだよな? なんであいつらだけ装備できてるんだ?」
いまさら矛盾点に気が付くタナカ。張られた伏線を軽く飛び越えて、その先に張られた氷で滑ったあげく、後頭部をしこたま打ちつけたところで、ようやく伏線に目がいったという感じか。やはりこの漢、根っからの芸人気質である。
「ん? ああ、あいつか。ありゃ受肉したんだろうよ。そうすりゃ物理干渉できるようになるからな。それにしても通常は力が弱まるもんなんだが、もともとすげえ力の持ち主だったのか。それとも依代が優れていたのか……」
「それではカク殿も受肉とやらをすれば、装備ができるようになるのでござるな」
これで問題解決と思ったのか。うれしそうな様子のスケさんだったが、それに対し嫌そうな顔をしてカクさんは答えた。
「そりゃ勘弁してくれ。受肉すると多少見た目は変わるが、依代に依存しちまうからな。俺を満足させられる依代なんていないだろうよ」
なにより見た目を気にするところはタナカといい勝負である。
一方、タナカは是非とも美女を依代にしてほしいと切望するのであった。しかしそれを口にすることはない。依代になる者の身を案じたからに他ならないだろう。断じて受肉の影響で美女にヒゲがついたり、筋肉漢女になったりしたら困るからといった利己的な理由からではない。タナカさんに限ってそんな理由なわけはないはずだ。
「そもそも世界を管理するのに受肉する必要なんてねえんだよ。大魔法さえ使えればいいんだからな」
「それでは、あの使徒はなにか別の目的があるということでござるか? なにが目的なのでござろう……」
スケさんが素直に疑問を口にする。それに応えたのはカッコいいポーズをとったタナカだった。
「知れたこと。やつらは直接人間を支配したいのさ。いや、それだけではないな。世界のすべてを自分の思い通りに動かしたいといったところか。力に溺れた超常の存在など、ありきたりすぎにも程があるがな」
さすがタナカさん。敵の目的を簡単に解き明かしてみせる。膨大な量のアニメ鑑賞やゲーム攻略はだてではないのだ。そして不敵な笑みを浮かべて続けた。
「とはいえオレたちが至高の頂を目指す以上、ヤツらとの戦いは避けては通れんだろうな。これまで以上に気を引き締めていくぞ」
相手がいないところではどこまでも強気。あいかわらずブレない漢である。
「というわけで『精霊は装備できない』なんて固定概念に縛られているようじゃ、チームタナカの一員として失格だぞカクさん」
リーダーたるにふさわしい風格を溢れさせながらタナカは言った。大剣を手にした新たなカッコいいポーズも忘れない。
「パンツだって具現化してるんだ。だったらさらに上を目指して自分の望む得物も具現化してみせる! それくらいの野心を持ってもらわないと困るぜ」
「なっ!」
ドヤ顔で語るタナカの一言に衝撃を受けるカクさん。
「本物の天才ってやつか……。へっ、おめえには敵わねえな」
さきほどの不機嫌さが不思議となくなっていた。そして同時にこの漢についてきてよかったと心からそう思えた。あいかわらずのツンデレさんである。
こののちカクさんは新体操のリボンを具現化することに成功する。それを嬉々として披露するカクさんを前に、後悔で崩れ落ち号泣するタナカさんがいたことについては、特に記す必要はないだろう。
がんばれタナカ。負けるなタナカ。
活動報告更新しました。興味がありましたら覗いてみてください。
名前:タナカ レベル:866 ギルドランク:E
体力:3.08e15/3.08e15 魔力:6.78e15/6.78e15
力:2.75e14 器用さ:2.82e14 素早さ:3.54e14 賢さ:5.16e14 精神:5.95e14
スキル:剣(4.42) 魔法(10.00) 信仰されし者(10.00) 竜殺し(7.74) 精霊主(7.15) 詠唱破棄(10.00) 多重詠唱(10.00) 大魔法(0.27) 創世と破界(-) 深淵の詐欺師(-) 鈍器(0.01)
装備:看板 格好いい服 黒いマントセカンド
お金:4842000G
名前:スケ レベル:866 ギルドランク:E
体力:24291/24291 魔力:43667/43667
力:10342 器用さ:10081 素早さ:16808 賢さ:15603 精神:15894
スキル:矛(10.00) 魔法(7.40) 竜殺し(7.05) 信仰されし者(9.20) 詠唱破棄(2.09) 多重詠唱(2.05)
装備:大鎌 黒いローブ 白面 魔法の手袋
お金:100000G
名前:カク
体力:524288/524288 魔力:524288/524288
スキル:人化(10.00) 魔法(10.00) 大魔法(3.11) 使徒(7.15) 信仰されし者(8.51)




