第五話 ハザマの街
タイトル変更しました。少しは内容がわかるタイトルのほうがいいかなと思いまして。
あとお金について投稿済み分にも情報追加しました。
ここはハル皇国にあるハザマの街。プリン王国との国境近くに点在する街の内のひとつである。
森に囲まれたハザマの街は防衛のため、簡易的な柵に囲まれていた。出入り口の門には門番がいて、人の出入りを監視している。とはいえ大して出入りの多い街ではない。そしてその多くはギルド所属の者たちである。狩りや交易のため定期的に通過する人がほとんどであった。皆顔見知りのためほとんど素通り状態。もはや出入り口から魔物が侵入しないためだけに、監視をしているようなものだった。
そんななか見るからに怪しい人物が街に入ろうとしていた。これまで動かなかった門番もさすがに反応をみせる。門番は街に入ろうとしていた挙動不審な怪しい男に声をかけた。
「はいー、そこの人。ちょっといいかい? この街は始めてだよね。はい、始めてと言って言って。それじゃあ、ちょっと調べさせてもらっていいかな? いいよね? とは言っても、断られても調べるんだけどね」
「……」
怪しい男タナカは思わず無言で立ちすくむ。あまりにも門番らしくない門番に、軽い調子で話しかけられたためだ。しかも勝手に話続ける始末。反応できなかったタナカであったが、なんとか再起動して調子をあわせる。ちょっとだけキリッとした顔になったのは奇襲にたいするせめてもの抵抗か。
「あ、ああ。いいですよ、どうすればいいですか?」
「それじゃあ……、ちょっと待ってね」
門番はそういうと、門のそばにあった小屋みたいなところに入っていく。そして書類をもってすぐに戻ってきた。門番はその書類を一枚一枚確認しながら、タナカに話しかけてくる。
「ああ、これは極悪人の手配書。すべての犯罪者のチェックなんてめんど……、無理だけどせめてこれくらいはやっとかないとね」
「……結構厳しくないんですね」
タナカは正直いうと、もう少し厳しいチェックがあるかと思っていた。結構警戒していたのだが、軽いチェックだけだったので若干拍子抜けする。
「まあ、このあたりじゃそんなに犯罪多くないしね。もしなにかやらかしたら、捕まえればいいだけだし。それより君、この街になんの用があって来たんだい?」
門番はあいかわらず手配書を確認しながら、話しかけてくる。
「ギルドに登録して、しばらくこの街にやっかいになろうと思いまして」
「ああギルドに登録するのか。それじゃあ問題ないかなあ」
そうは言いつつも意外とまじめなのか、最後まで確認を続ける門番。すべての確認が終わると、書類を片付けてからあらためて話しかけてくる。
「ようこそハザマの街へ。俺は門番のアントニヌス8世。皆からはハチって呼ばれてる。よろしくな」
「なんか略すとこ変! っていうか門番やるには勿体ない名前ですね。それにしてもなんで8世なんですか?」
思わずツッコミをいれてしまったタナカだが、気を取り直し丁寧に話を続ける。
「ああ、俺の家は長男にいつのころからか、代々同じ名前をつけるようになっちまっててな。親父に理由を聞いたら、慣習に流されてつけただけで意味は知らないそうだ」
「……なんというか、ものぐさな一家ですね。ああ、名乗るのが遅れましたが、私はタナカといいます。しばらく諸国を旅してきましたが、そろそろ落ち着こうと思いまして」
なかなかに変なところだと思いつつも、タナカは簡単に自己紹介をする。これは街に着く前に必死に考えた適当な回答である。
「へえ、まあとりあえずその丁寧な口調はやめてくれ。この街で暮らしていくんなら、今後顔をあわすことも多いだろうしさ。仲良くやろうぜ」
「ああ、わかったよ」
タナカの説明事体は気にした様子もない。それよりむしろ話し方を気にして、フレンドリーに接してくる。タナカとしても、そちらのほうが気楽でいいので相手にあわせた。
「ああ、それとあっちにいるのが俺の相棒でトラヤヌス9世。皆はクマって呼んでる」
「さらにものぐさな一家がいた!」
ハチが門に立ったままのもう一人――巨体の門番を紹介してきた。またもや世代つきで、思わずノリで叫んでしまう。
「……いや、あいつの家は代々続いてる武術家の名門だ。それで名を継ぐしきたりなんだそうだ」
「すいませんでした!」
ハチを逆恨みつつも、態度を180度改める。タナカは腰を直角に曲げて、得意の美しい平謝りを披露した。まさに小心者の鏡である。
巨体に似合わずクマさんは片手をあげ、笑みを浮かべていた。意外と温和な人だったようで、ほっとするタナカ。そんなタナカの気持ちなど露ほども知らず、ハチは話を続けてくる。
「それにしてもタナカか……、うらやましいぜ。皇国で一番人気があって、多い名前だからなあ」
「まじで? ちょっと意外……」
思わぬことでうらやましがられ驚くタナカ。
「まあ皇国は農業がさかんだからな。野菜の名前は人気があるぜ」
「野菜かよ! タナカって野菜なのかよ!! ……まあいいや。とりあえずギルドの場所教えてくれる?」
タナカはツッコミをいれながらも、ハチとの会話に疲労を覚えはじめた。早々に話を切り上げようとギルドの場所を尋ねる。
「ああ、あそこの大きな建物だ」
ハチは通りを少し進んだところにある、大きな建物を指さしながら答えた。タナカは予想より大きく構えている建物に驚く。
「おお、意外と大きいなあ。っとそんじゃあいってくるよ、これからもよろしく」
「おう、じゃあな」
タナカはハチとクマに別れを告げる。異世界らしくなってきたと期待を膨らませながらギルドに向かうのだった。
ギルドの前までやって来て、タナカは改めてその大きさに驚く。3階建てでかなりの敷地面積を誇る建物だ。あたりの建物とは大きさがまったく違う。タナカは若干プレッシャーを感じつつも、中に入っていく。
酒場みたいなところで、あちこちで荒くれ者がにぎやかに談笑しているのをイメージしていた。しかしそんなタナカの予想とは違い、建物の中は意外と静かである。まるで役所のようなところだった。タナカはさっそくギルドに登録しようと、受付のようなところに向かう。
「どのようなご用件でしょうか」
年のころは30歳前後、美人というほどではないが清潔感のある女性だった。なんだか若干疲れたような口調で訪ねてきた。
「ギルドに新規登録したいんですけど」
少し雑談をしてみたくもあったが空気を読む。なんとなく手続きを手早くすませたほうがよさそうだと感じたのだ。というわけで簡潔に話を進めていく。
「それじゃあ、よいしょっと! この魔道具に手を付けて」
タナカは受付が持ち上げてきた水晶なようなものに手を置く。すろと台座の部分から、カードのようなものが出てきた。
「はぁ、ようやくちゃんと動いたわね。一ヶ月くらい、この辺り一帯魔道具が動かなくて、大変だったのよ。全部手作業でやっていたから大変で……」
聞いてもいないのに受付の女性は愚痴をこぼす。おかげで事情を知ることが出来た。
「へえ、魔道具が動かないとなると、街中いろいろ問題あったんじゃないですか」
「ええ、おかげで依頼は増えるし、しかもその手続きは手作業だし。まさに悪循環よ……。もうヘトヘトで……」
タナカは世間話をするようにして状況をさぐる。それにしても例の勇者召喚の影響が、こんな遠くまでおよんでいたことに内心驚く。
しかし消失していた大気の魔力も元に戻り、丁度おちついた時期のようだ。自分が煽りを食うこともなさそうで、ひとまず安心するタナカであった。
「えーっと、名前はタナカ、レベルは11で問題ない?」
いつの間にかくだけた口調になっていた。受付の女性はカードの内容を確認してくる。
「はい、それであってます」
「それじゃあこのカード、大事に持っておきなさい。今後ギルドを利用する際には使用するから。それからギルドの簡単な説明をするわね」
タナカにギルドカードを渡すと、ギルドについての説明を始める。異世界の人間であれば皆割と知っていることのようで、受付の女性は簡潔に説明していく。しかしタナカにとっては大事な情報なので、真剣になって記憶していく。
ギルドではいろいろな仕事の依頼を受け付け、それを広く紹介している。ギルドに登録した人間は、簡単な手続きで仕事を依頼することができる。そして紹介されている仕事を受けることもできる。
仕事にはランクがあり、ギルドが基準を設けていた。依頼する際には、ランク相応の料金を払う必要がある。そして依頼を受ける際には、そのギルドメンバーのランクが規定以上でないと受注はできない。
タナカのランクは最下級のEランク。一定の仕事を達成すると、昇格試験を受けることができるらしい。
「まあ、仕事を受けるんなら、これくらい知っておけば大丈夫なんじゃない? あとはおいおい解らない時に聞いてくれればいいわ」
門番のハチと同じような軽さを感じる。心の中でギルドの心配を少ししてしまったタナカであった。とりあえず質問してみる。
「旅の途中で魔物を倒したんですけど、素材の買い取りとかしてもらえますか?」
「できるわよ。なんの魔物?」
タナカは心の中でガッツポーズをしながら冷静に話を続ける。
「これです」
「これは黒角ウサギ?……めずらしいわね」
意外と好感触かと期待を膨らませるタナカ。
「そうなんですか? 襲われたのでよくわからずに狩っていたんですが」
「国境近くの山岳地帯に多くいる種よ。だけどその辺に行くのなら、もっとお金になる魔物を刈るのが普通だから、あまり持ち込みはないわ。ちなみに今言ったように珍しいけど、買い取りはそんなに高くないわよ」
期待が膨らんでいた分少しテンションが下がった。しかしお金にかわるのは確かなので気を取り直し話を進める。
「たくさんあるんですけど大丈夫ですか?」
「魔物の素材は国から援助金がでてるから、大量でも一定の相場で買い取るわ。まあ国防と経済対策なんでしょうね」
なるほどとタナカは納得しつつ、大量の黒角ウサギの死体をアイテムボックスから取り出していく。最初はなんの反応もなかったが、次第にあきれたような表情になる受付。そしてやがては驚愕の表情へと変わっていった。まわりにいたギルド職員も、受付にできた黒角ウサギの山に唖然としている。
「アンタよくこれだけの黒角ウサギを狩れたわね……。というかこの量をアイテムボックスにいれておけるなんてアンタ何者よ……」
「へ? アイテムボックスってそんなに入らないものなんですか?」
「多少個人差はあるけど、こんなに収容力のある人間はじめてだわ」
「まあアレですよ。火事場のバカぢからみたいな? ほら、オレやるときはやるって感じの漢でしょ?」
キリッとした顔になってちょっとドヤ顔気味のタナカ。まわりの人間はあいかわらず唖然としていた。タナカはなんとなく気まずくなる。まさに小者。
「食い物もなくなってアイテムボックスにこればかり夢中につめこんじゃって……ハハハハ」
適当なことを言ってごまかす。結局時間はかかったが無事まとまったお金――155万6000ゴールドを手に入れることができた。だいたい一月5万ゴールドもあれば生活できる相場なので、かなりの大金といえるだろう。タナカは自分の思惑通りことが運んだことを素直に喜ぶ。そして今後の異世界生活の展望に手ごたえを感じたのだった。
その後いい宿屋を紹介してもらい、そそくさとギルドを後にしたタナカ。宿について一月分の宿賃3万ゴールドを気前よく払うとようやく一息つく。部屋に落ち着いた頃、気が付けばちょうど日も暮れようとしていた。久しぶりのまともな寝床に早々と横になるタナカ。これからの異世界ライフに考えにふけっていたが予想以上に疲れがたまっていたのか。煩悩まみれの桃色の夢にあっという間に落ちていったのだった。
創世暦5963年夏、ハル皇国ハザマの街にて、タナカの新たな生活が始まろうとしていた。
名前:タナカ レベル:11 経験値:802/1100 ギルドランク:E
体力:2.2e13/2.2e13 魔力:2.0e13/2.0e13
力:2.2e12 器用さ:2.1e12 素早さ:2.1e12 賢さ:2.0e12 精神:2.0e12
スキル:剣(2.00)
装備:小剣 布の服 匂い袋
お金:1576000G