Route45「我の自滅を企んだな!」
創世暦5964年秋。冬がせまりつつあるというのに猛暑が続くプリン王国西部。異変調査を目的とした勇者カムイたちは国境まであとわずかの所にまで来ていた。
国境が近づくにつれ緑が少なくなる荒野。そこは聞いていた以上に魔物が活発化する魔境と化していた。原因は魔族の失踪。
王国の貧しい土地には少なからず魔族の集落があった。王国が意図したことではない。しかしそれは知らず知らずのうち王国に利をもたらしていた。貧しい土地ながらも魔族はそこで生きるしかない。自衛のために当然魔物を狩ることになる。こうした魔族の行動は王国の魔物増加を抑える役目を担ってきたのだ。しかしここしばらく発生した魔族の失踪はこのバランスを崩してしまった。魔族の奴隷によって成り立っていた王国の辺境は経済が悪化していたところにさらなる打撃をうけてしまう。そして勇者カムイが訪れたこの王国西部はそれが最も顕著に現れた場所だった。
「せりゃー!」
勇者カムイが飛翔する。すれ違いざま巨大なミミズ型の魔物タイラントワームの身体に炎がほとばしる。見えないほど研ぎ澄まされた剣戟。精練されたその剣技は彼の成長の証といえよう。彼が使う炎の魔法剣の力で炎に包まれるタイラントワーム。たまらず地面を転がり苦しむ。炎が消えかけたところに疾走するひとつの影。瞬時にタイラントワームの頭に小剣が突き立てられる。ギルドAランカーのテツジンによる攻撃だった。彼女の素早さはさらに磨きがかかりその攻撃はまさに疾風迅雷。
「燃え尽きなさい!」
声に反応しテツジンが飛びのいた途端にタイラントワームのいる場所が灼熱の地獄と化す。プリン教徒カルトビッチの魔法攻撃。動くのもままならないタイラントワームは彼女の燃焼魔法から逃げ出ることも敵わず巨大な身体が崩れ落ちていく。下位の攻撃魔法でこれほどの効果を発揮するのは彼女の魔法技術がさらなる高みに達したことを物語っていた。
「……この先にまだいる」
まるで今の戦闘がなかったかのようにテツジンが敵を求めて前に進む。カムイとカルトビッチも当たり前のようにテツジンに続く。
カムイたちは貪欲に戦い続けていた。なにかに追われるように。いや、なにかに追いつくためにか。そんな彼らにとって魔物あふれるこの場所はまさにうってつけの修行場であった。まるで水を得た魚のよう魔物を狩り続ける勇者カムイたち。いったいどれほどの高みに到達すれば満足するのか。本人たちにもわからないまま。今はただ戦いにその身をゆだねるのだった。
「――ほれ。次、行くぞい」
大賢者マーリンのなんとも気の抜けた声。間髪入れず勇者ミコトは魔獣ラビッドファングに襲われる。
ここは宿場町ハブルナヨ近郊。カムイたちは調査を終えれば王都に戻る。ミコトとマーリンは彼らの調査につきあうのはやめてこの場で待つことにした。そして謎の敵に対抗するため修行に集中する道を選んだ。
「――クッ!」
ラビッドファングの巨大な牙をなんとか躱したミコトは後方に飛び退き態勢を立て直す。その動きはラビッドファングに比べると精彩に欠く。本来の彼女であれば危なげなく勝利できる相手だ。それができないのは彼女の指に輝く指輪に原因があった。
マーリンがその叡智を惜しみなく発揮して創り上げた一品。あらゆる能力を低下させる呪いを飲み干した「呪いの指輪」。その呪いは勇者たる彼女を未熟な戦士レベルにまで衰退させていた。魔法で上空に浮かんだマーリンは苦戦するミコトを眼下に見下ろしながら囁く。
「相手をよく見据えよ。その本質を見極め先を読むのじゃ。さすれば己より速き者とて恐れることはない」
大賢者マーリンのスパルタ教育。彼はただ強くなることをよしとしなかった。自分たちが相見えるかもしれない難敵。その絶対的強さはどれほど鍛えようと届き得ないと直感した。もちろん強くなることに努力は惜しまない。しかしそれだけでは圧倒的に足りないのだ。ならばこそのこの訓練。
「知るしかあるまい。強者を……。そしてその身に刻むしかあるまい。強者との戦い方を……」
人の力の源は知にある。それは大賢者たるマーリンならば当然の帰結だった。知によって力の差を覆す。これはそのための下拵えにすぎなかった。
「――って貴方も修行しなさいよ!」
襲いくるラビッドファングをなんとかいなしながら叫ぶミコト。
「いや、いまさら老人が修行してものう。わしもう十分修行したし。これからはおぬしに魔物をけしかけることで悪知恵だけ鍛えていこうかと思っておるんじゃ」
そういいながらミコトを鍛えるのに効率のよい相手を魔法で探すマーリン。しかしその裏ではミコトのスカートを舞い上がらせるため頭の中でシミュレーションを繰り返していた。おそるべき大賢者。その権謀術はさらなる進化を遂げようとしていた。いろんな意味で勇者ミコトの苦労は続く。
灰色の空。常にたちこめる霧が空を覆っていた。
灰色の大地。雑草すら生えない枯れた大地が広がっていた。
灰色一色のその世界は結界のせいかどこまでも続いて見える。そんな世界に三つの影。小高い丘にタナカたち三人が佇んでいた。封印された地に閉じ込められて早二月。彼らはゴキブリのように逞しく生き延びていた。
これまでの敵とは一線を画す強さをもつ幻獣。出会った当初は見た目のおどろおどろしさから逃げ腰だったタナカも思ったより強くなかったせいか。「どうやら賞味期限切れだったようだな。ラッキー」と今では経験値としか認識していない。
「――そろそろだな」
灰色の地平を見据えながらタナカが言葉をこぼす。スケさんカクさんも油断なく注視している。突然霧が立ち込めるように一体また一体と出現する幻獣。やがて万を超える幻獣の軍勢が地平を埋め尽くした。定期的に起こる幻獣の大発生。なにもない封印された地での数少ないイベントだ。アイテムボックスに貯蔵された一年分の食糧もすでに食べ飽きもはやこのイベントが唯一の娯楽と化していた。なにより今回は一味違う。彼らにとって初の連携技。そのお披露目の日だったのだから。
統一性のない姿をした幻獣たちがタナカたち異物を見つけ一斉に動き出す。まるで灰色のキャンパスにおちた黒いインクを塗りつぶすように灰色の軍勢が波となって襲いくる。
「――ゆくぞ。『虹色の誓い』」
中央にタナカ。左右をスケさんカクさんが固めて勝利のポーズをとった。戦いの前の勝利。それは彼らのこの技への絶対的自信の表れといってもよいだろう。
「――第一の矢」
なぜかドイツ語。なぜならカッコいいから。掛け声とともに疾走するスケさん。身体能力だけですでにこれまでとは違う別次元の速さ。そしてタナカとカクさんの魔法を纏う。ひとつは加速。その速さはさらに壁を超える。そしてもう一つの魔法「幻惑」。そのとき幻獣は自分たちを超える死神の軍勢を見た。
勢いを殺される灰色の軍勢。しかし幻獣は本能にしたがい目の前の死神を襲う。高密度の魔力で形成された牙や爪が死神を切り裂いた。精霊の核をも破壊する一撃。
――手ごたえがない。幻影なのでそれも当然。しかし目の前に現れる死神の幻影に無意味な攻撃を繰り返すしかない幻獣たち。かつて世界の管理者たる使徒をも凌駕した幻獣が翻弄されていた。幻影といえども逃れることのできないカクさんの強力な幻惑。そして死神の幻影のなかで認識外の攻撃を放つスケさん。幻獣たちは何が起こっているのか理解する間もなく切り刻まれていく。
されどさすが幻獣。その異常ともいえる回復力はドラゴンですら比べ物にならない。スケさんの人外といえる攻撃も彼らを滅することは叶わなかった。しかしタナカは不敵な笑みを浮かべたまま。そう……、すべては彼の手の上。彼らの放った初撃は攻撃ではない。それは万の軍勢をも止める足止めに他ならない。
「――第二の矢」
死神の軍勢からカクさんが躍り出る。
「ネオマッスルレインボゥー!」
カクさんから放たれる火、氷、土、風の基本攻撃魔法。タナカの魔力供給を受けたそれは幻獣をも超える高密度のエネルギー体。大魔法を使ってひとつひとつの魔法の造形がカクさんになっているのに特に意味はない。色とりどりのカクさんが千を超える虹となって幻獣を襲う。ここであえて言っておくことがあるとすれば千を超える多重詠唱より造形の魔力消費のほうが圧倒的に多いのはカクさんの筋肉へのこだわりの深さ。
爆散する幻獣たち。スケさんの斬撃ダメージに続くカクさんの魔法攻撃。さしもの幻獣も耐えきれず消滅していく。数度の照射で世界は灰色の煙で覆われる。しかしそれでも幻獣すべてを滅することはできなかった。煙から舞い上がる幻獣たち。そのまま飛翔してタナカに襲い掛かろうとする。
「――最期の矢」
ここでなぜか英語。なぜならドイツ語をよく知らないから。タナカも飛翔し迎え撃つ。身体を回転させながらカッコよく突撃。
「――絶対者の暴走零式」
かつて天使キャラメルをおいつめた光と風の属性をもつタナカの奥義「絶対者の暴走」。対個人として絶大な力を発揮したこの技も神代の戦いの末期には影をひそめた。天界に圧倒的劣性を強いられつつあったタナカはどうしても多数を相手にしなければならなかったからだ。その戦局を打開すべくこの技を昇華させたのが「絶対者の暴走零式」。前者が内に力を集約させる必殺の技なのに対し後者は外に力を放射する技。しかしこの技を必殺たらしめるには膨大なる魔力を必要とした。そのため使用に制限がかかりついに戦局を覆すことが敵わなかった不遇の技だ。しかし今、タナカの度重なる経験がこの技を完全なるものとして再現させる。もちろんすべてがタナカの妄想設定だ。
飛び交う幻獣の群れを切り裂くタナカの突撃。タナカが飛び去った後に動きが止まる幻獣たち。ぎこちなく震えたかと思うと土塊が崩れ去るようにその身が霧となって消えていく。タナカが使ったのは第十位魔法「気流」。空気を操る換気用の生活魔法だ。しかしタナカが操るとなるとこの魔法も一変する。タナカの空気を動かそうとする意志はまわりの気体を分子レベルにまで超振動させた。そしてその衝撃はついに幻獣の高密度の魔力から成る身体構成を分離分解させるに至る。タナカが空に描く無色の虹が幻獣の群れを霧散させていく。より一層上空に飛び上がりタナカがカッコいいポーズを決めたときすべての敵は消滅していた。
「――クックック、ハーハッハッハッハ!」
上空で高笑いするタナカ。
「ついに完成したな」
「感無量でござる」
身体を回転させてながら突撃したせいで目を回し、今も上空でクルクル回りながら高笑いを続けるタナカ。それを見上げながらスケさんとカクさんは連携技の完成に満足するのだった。今後どのような危機をむかえようと三人の力を結集させれば乗り越えていける。そう自信がもてた一撃だった。
「――確信したぞ。赤子の力に見合わぬこの魔法の力……。世界よ、我の自滅を企んだな!」
天を睨み叫ぶタナカ。
「自らの手をかけぬその卑劣なる罠。しかし! 我は乗り越えたぞ。もはやこの暴走する魔力で自滅する愚は犯さぬ。クックック、見誤ったな。自滅させるためとはいえ迂闊にも我に力を与えたこと後悔させてやろう……。我を滅ぼすためのこの力で勇者を滅ぼしてくれるわ。――待っていろ。勇者に力をすべて奪われる前に決着をつける!」
数奇な運命に導かれし者たち。奇しくも時を同じくしてその力を開花させる。彼らが再び集うとき一体なにが起こるのか。
それ以前にタナカたちは封印された地を脱出することができるのか。
今回のエピソードをつくっていて作者は気づいたことがあります。
この中に明らかに違うものが混じっていると。
まあ実際話を作っている作者であればこそ気づいたんだと思うんですけど。
ひょっとしたら鋭い読者さんなら気づいたかもしれませんね。わかりますか?
そう、それは勇者ミコトちゃんです。一人だけ女の子の異世界人です。
しかも彼女のチームだけ二人組です。ペアです! デュオです! なんかオサレです!
それに比べて他のチームは三人組でなんか引き立て役っぽいですよね。トリオですよ。トリオ!
もうこいつらからは三枚目臭がプンプンにおってきます。
いやあ作者も反省しました。なんだかんだで作者も男だったんだなあと。
無意識のうちに女の子ひいきしてたんだなあと。
作者はきちんと第三者的な目をもってバランスを考えないといけませんよね。
これからは反省してパワーバランスとか崩れないように注意したいと思います。
ヽ(°▽、°)ノデヘヘ
名前:カムイ レベル:41
体力:2221/2221 魔力:1909/1909
力:1101 器用さ:1077 素早さ:1128 賢さ:922 精神:871
スキル:剣(3.46) 盾(2.74) 魔法(2.23) モリナーガの加護(1.73) 竜殺し(0.22)
装備:炎の片手剣 プリン王国軍近衛用鎧 神盾ビスケット
名前:ミコト レベル:60 ギルドランク:A
体力:1744/1744 魔力:2003/2003
力:840 器用さ:937 素早さ:984 賢さ:982 精神:872
スキル:剣(4.21) 盾(3.65) 魔法(3.33) 創生神の加護(2.90) 大金星(0.64)
装備:雷の細剣 セーラー服 力の小盾 呪いの指輪
名前:タナカ レベル:866 ギルドランク:E
体力:3.07e15/3.07e15 魔力:6.75e15/6.75e15
力:2.75e14 器用さ:2.82e14 素早さ:3.53e14 賢さ:5.15e14 精神:5.94e14
スキル:剣(4.42) 魔法(10.00) 信仰されし者(10.00) 竜殺し(7.74) 精霊主(7.09) 詠唱破棄(10.00) 多重詠唱(10.00) 大魔法(0.25)
装備:剣 夏物の格好いい服 黒いマントセカンド
お金:5154000G
名前:スケ レベル:866 ギルドランク:E
体力:24176/24176 魔力:43529/43529
力:10342 器用さ:10081 素早さ:16808 賢さ:15603 精神:15894
スキル:矛(10.00) 魔法(7.31) 竜殺し(7.05) 信仰されし者(9.01) 詠唱破棄(2.07) 多重詠唱(2.03)
装備:大鎌 黒いローブ 白面 魔法の手袋
お金:100000G
名前:カク
体力:524288/524288 魔力:524288/524288
スキル:人化(10.00) 魔法(10.00) 大魔法(3.08) 使徒(7.09) 信仰されし者(8.32)




