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タナカの異世界成り上がり  作者: ぐり
王国放浪編
41/114

Route41「オレは男女のイロハを知り尽くした漢」

 タナカと勇者たちの邂逅からおよそ半月。

 宿場町ハブルナヨよりさらに西。勇者カムイたちは荒野に点在する町や村を転々としていた。名目は国境付近の異変調査。しかし彼らが西進を急ぐことはなかった。町や村を転々としながら積極的に付近の魔物を討伐しまくる。戦闘自体は一方的に魔物を蹂躙するような内容だった。しかしその様子はどこか余裕がない。まるで自分たちが追い詰められたかのように。ただ必死に戦う奇妙なものだった。

 そんな彼らと行動を共にする勇者ミコトと大賢者マーリン。ミコトはカムイに自分たちの仲間にならないかすでに誘っていた。しかし色よい返事はもらえずじまい。そしてその後もカムイたちはプリン王国の方針に従い続けた。一国家の利益に協力するカムイをこのまま放置することもできず、かといって非情な判断をすることもできず。ミコトは一定の距離を保ってカムイと行動を共にしていた。

 今も魔物と戦うカムイたちの後方で、いつでもサポートできるよう待機している。彼らが相手にしているのは巨大なミミズ型の肉食獣サンドワーム。この地方ではめずらしくない魔物だ。ギルドの規定ではCランクに位置づけされる討伐対象である。


「相変わらず張りつめている感じね。うーん……、『あの話』嘘ではなかったってことか」


 カムイたちを観察しながら呟くミコト。半月ほど前、カムイたちの様子が急に変わった。その後、仲間に誘った際の雑談で得た情報は信じられないものだった。それはある意味、彼らの強さを誰よりも認めていたミコトにとっては衝撃的な内容。

 敗北。それも無様としか言えないほどの完敗。当初は敗北を謙虚に受け止めているだけかと考えていた。しかしあれ以降どこか影のさした様子のカムイ。カムイにイチャつく振る舞いがパッタリと止んでしまったカルトビッチ。そして相変わらず無表情だがどこか切羽詰まったものを感じさせるテツジン。そんな彼らに実感させられるのだった。敗北の話は真実だったのだと。


「あの様子だと私たちが仲間になった位じゃどうにもならないってことかしら。全く……、一体どんなやつに喧嘩売ったっていうのよ」


 ため息をつきながらミコトはひとりごちた。そんな彼女に傍にいたマーリンが律儀に返答する。


「精霊、あるいは神といわれるような存在かのう。なんにしても厄介なことじゃわい」


 やはりこちらもため息まじりの声。


「精霊や神なら謝ればなんとかなるんじゃない?」


「さて……。秩序を重んじる精霊や神もいれば、災害扱いされる魔神と呼ばれるものまでおるしの。あまり希望を持たぬほうがよいじゃろう」


 どうやら状況はあまりよくないらしい。ミコトはマーリンの知に一縷の望みをかけて訪ねてみる。


「精霊や神クラスを相手にするのになにかいい方法はないの?」


「まず思いつくのは神器じゃが……、すでに持っておきながらの完敗じゃしの。となると別の精霊や神を味方につけるか……。やっぱり無理かのう。人間の都合で戦い合うとは思えんし」


「結局打つ手なしってこと? ハァ……、私たちも彼らみたいに必死にレベルアップしなきゃいけないのかしら」


 早くもあきらめムードのミコト。しかしマーリンの知はさらなる答えを導き出す。


「深淵の魔女。アヤツの力を借りられればあるいは……」


「深淵の魔女? 一体何者よ? その人ならどうにかできるわけ?」


「深淵の魔女――それは創生の時代から続く魔女の系譜。才能ある者を見出しその力を継承し続けてきたという。大賢者とも言われるわしでも深淵の魔女の足元にも及ばんじゃろう。数千年蓄積された力。それは精霊や神に劣るものではないと思うがの……」


 いまいち歯切れが悪いマーリン。ミコトは遠慮なく質問する。


「なにか問題があるわけ?」


「うむ、深淵の魔女は創生神からある役目を与えられたと言われておるんじゃが……。その役目というのが世界の終焉と言われておっての。その不吉さゆえに忌避されたのじゃ。まあ物騒じゃからといって創生神の関係者を始末するわけにはいかんしの。結局存在は隠され続けてきたというわけじゃ。」


「そう……、力の点では問題なさそうだけれど、世界の終焉の話が本当だとすると頼るわけにはいかないわね。助けてもらえたけど、ついでに世界が滅んでしまいましたじゃ洒落にならないわ」


「うむ、それを聞いて安心したわい。実は駆け出しじゃったころに一度見かけたことがあるんじゃ。それはもうこの世のものとは思えんほどの美女でのう。もう一度会ってお近づきになりたいと思ったもんじゃが、いまはもういい歳のバアさんじゃろうし。苦労して探す気になれんわい」


 相変わらずの大賢者に生暖かい目を向ける。勇者ミコトの苦労は今後も絶えそうにない。






 ちょうどその頃。タナカたちは東進を続け王国中部に到達しようとしていた。

 そこは森が点在する丘陵地帯。荒野と比べて人里が多く農地に開拓された土地も目立つ。

 軍が定期的に巡回しているので治安もいい。そしてその軍によって魔物は点在する森に追いやられていた。そんな森の中、狩りを続けながら順調に東進するタナカ一行。しかしリーダーたるタナカに以前の明朗快活な面影はなかった。


「相変わらず元気がないでござるな」


「タナカがいないときに雨の中のビクトリーポーズを作ったせいか……。あいつ意外と寂しがり屋だからなあ」


 運命のあの日。作りたてのポージングで迎えたときからタナカは沈み込んだままだった。心配する二人であったが特に何もすることはない。それはタナカを信じていたから。これまで培ってきた仲間の絆は決して揺らぐことはなかった。


「俺は信じてるぜ。そのうち俺たちをアッと驚かすくらいのポージングを披露してくれるってな」


「そうでござるな。さらなるアイデアのための雌伏の時でござるよ」


 スケさん、カクさんは待ち続ける。タナカが再び立ち上がることを。そこには一点の疑いもなかった。あるのは近い将来みせてくれるであろう成長の証への期待。漢たちはさらなる高みを目指し続けるのだった。

 そして当のタナカであるが確かに雨の中のビクトリーポーズにショックを受けていた。しかしそれ以上のショッキングな問題を抱えていた。

 それは当然、例の勇者に力を奪われているという問題である。半月ほどたった今でも打開する答えは見つかっていない。それでも東進を続け日課の修行も怠らなかったのは、この問題に潜む危険にたいする恐怖ゆえだった。もしも修行を怠り体力が残りわずかとなった時に勇者の吸収がおきてしまったら……。最悪は死。そうはならないかもしれないがそれを確かめるにはあまりにも危険な問題だった。そのため今はただあがき続けるしかなかったのだ。この暗闇の先に光があることを信じて――。

 そして現状、他に問題があるとすればあまり人里に近づけないということだった。この辺りは軍が頻繁に巡回している。軍とのトラブルを避けたいタナカとしては街や街道を避けて進まざるを得なかった。せっかく新調したスケさんの装備も無駄になってしまったが仕方がないだろう。最も魔族であることがばれなくても激しく怪しい姿である。街に入れば結局なんらかのトラブルに巻き込まれるであろう。そういう観点からみれば森を進まざるを得ないという結論に至ったタナカは幸運の持ち主なのかもしれない。

 こうして人を避けさらに東進を続けるタナカ一行。

 いつものように森で狩りをしていたのだが――。


「この先は我ら一角族の集落。人間が立ち入ることはまかりならん。早々に立ち去れい!」


 突如現れた男。十分に鍛えられていることが見て取れる体躯。そして額からは立派な角がそり立っていた。その角はまるでキラキラと輝く宝石。タナカは思わず好奇の目で眺め続けた。そんな様子のタナカに立ち去るつもりがないと勘違いする。男は猛然と襲い掛かった。


「卑しい人間どもめ。追い払ってくれる!」


 手に持った槍を構えて迫ってくる。しかしその技量はタナカたちから見れば未熟。力任せに振り回された槍は簡単に避けられる。


「フッ」


 絶望に打ちひしがれ元気がなくともそこは常にカッコよさに気を配る漢。さわやかに髪をかきあげながら華麗に回避していた。すかさずスケさんが相手の腕をとってねじりあげ武器を手放させる。見事なチームワークである。


「ぐぅおお……、な、なんなんだ、てめえら……」


 簡単に無力化されてしまった男はうめき声をあげることしかできなかった。


「コラーーー! なにやってんのよ!」


 声をあげながら駆け寄ってくる美少女。その額の角が男と同種族なことを教えてくれていた。ひさびさに美少女を目にしてほんの少し元気を出すタナカ。しかし揺るぎない小者の精神は警戒することも忘れない。

 そして状況は意外な方向に進む。意表を突いたことに美少女は取り押さえた男の頭を叩いたのだった。


「ムールガイ! アンタの脳みそは筋肉でできてるの? 融和路線でいくってみんなで決めたでしょ? 人間襲ってどうするのよ!」


 ムールガイと呼ばれた男の頭を叩き続ける美少女。そんな彼女をみながら考え込むタナカ。さっそく脳内データベースから元気系ヒロイン攻略法を検索し解析を始める。かつて甲種一級フラグ建築士を目指した漢の判断力はさすがといえよう。


「あー、お嬢さん。それぐらいで許してやってはどうかね」


 タナカは紳士的な態度でファーストコンタクトをはかる。その姿勢は元気いっぱいの少女とは不釣り合いなくらいの冷静さだ。これは体育会系が自分にないものを求めるであろうことを計算しての知的さを全面に出した攻め。恐るべき戦略である。


「あっ……、すいません! このバカが失礼をしました!」


 元気よく頭をさげて謝る少女。はからずもタナカが有利な状況から始まったこの出会い。タナカとしてはこのチャンスを生かすため会話を切らすわけにはいかない。


「いやいや、彼も反省しているようだし私はかまいませんよお嬢さん。私の名はエチゴヤ。ハル皇国で呉服問屋を営んでいます。一仕事終えて帰る途中だったのですが……。そうそう、よろしければお嬢さん方の名前を教えていただけないかな」


 さりげなくエチゴヤの名前を使う。自己保身のため本名を隠すところはさすがである。しかしエチゴヤにばれたときのことを考えてない浅はかさもさすがタナカである。


「私はシジミといいます。こっちのバカはムールガイ。この先にある一角族の集落に住んでる者です」


「おお、もしよろしければ少々休ませてもらえないでしょうか。お恥ずかしい話ですが慣れぬ長旅で疲れがたまっておりまして」


 優位な立場を利用しお近づきになるチャンスを得ようとさらに攻める。紳士な姿勢とは裏腹にそこには攻略の鬼となった漢がいた。


「いいですよ。ほら! いつまで寝てるのよ! お客さんたちを案内しなさい!」


 度重なる少女の攻撃ですでに倒れ伏せていた男。悪夢の最中にいたムールガイがシジミの蹴りで返ってくる。


「ぐっ……、お前が案内しろよ。俺は集落に人間をいれるのに反対なんだから」


「アンタねえ、族長の息子のくせに勝手なこと言うんじゃないわよ。いい? 人間と仲良くするって一族で決めたことでしょ? 早く案内しなさい」


 タナカは内心舌打ちする。ここで男に案内されては優位な立場が途切れてしまう。しかしここで口を出すとこちらの狙いに気付かれる可能性が高い。そう直感したタナカはとりあえず集落にもぐりこむことを優先する。口を出さずに流れに身を任せたのだった。


「わかったよ。人間をいれるのに反対しない。だが案内はお前がやったっていいだろ?」


 めんどくさそうにシジミに言い返すムールガイ。「よくいった! さすがムールガイ。クールガイっぽい名前なだけのことはある!」タナカは心の中でムールガイを称賛するのだった。しかしここで大どんでん返し。


「あたしはこれからデートなの! アーモンド男爵様との約束があるのよ! じゃあね」


「なにぃ!」


 ムールガイとタナカが同時に声をあげる。


「なんでお前が声を荒げてるんだよ!」


「うるせえ! 戦略の練り直しをするんだからだまってろよ!」


 言い争いを始める二人。そんな二人を置いてシジミは街に向かって駆けていく。


「あっ、待てよ! あんな優男のどこがいいんだ!」


「うるさい、バカ! アンタがガサツなだけでしょ。男爵様とっても礼儀正しくて優しいんだから!」


 そのまま駆け去るシジミ。その姿を見送りながら悔しそうな声をあげるムールガイ。


「あの優男なにか企んでるって。お前、絶対だまされてる……」


 その言葉はもはや届かない。ムールガイは小さくなったシジミの後ろ姿をただ見つめ続けた。そしてふと視線を感じるムールガイ。


 ニヤニヤ――


 そこには恐ろしく小物臭い漢がいた。耐えがたいほどの生暖かい視線とムカつくほどにニヤついた顔。それはまさに小者の中の小者、キング・オブ・小者。そう、それは誰もが忘れさった小者の理想像。それを体現した漢がそこにいた。


「なんなんだよ! そのニヤついた顔は! やめろ、無性に腹が立つんだよ!」


 そんなムールガイの激しい抗議もどこ吹く風。タナカは馴れ馴れしく肩に手を置いてくる。


「まあまあ、落ち着けって。話聞いてやるから。とりあえずお前の家いこうぜ」


「なんでだよ! なんで家にくるんだよ! 俺は人間が嫌いなんだ。他のやつのところにいけよな!」


 拒絶。しかし小者のニヤニヤを消し去ることはできない。


「だから落ち着けって。ちゃんと相談に乗ってやるから。なあ同志」


「いらねえよ! ってだれが同志だ!」


 そう。タナカはその恐るべき嗅覚によって察知していたのだ。ムールガイという漢が童の帝足りえる因子を持つ漢であると。ゆえにどのような暴言を吐かれようとタナカは猪口なみに広い心で受け入れることができた。タナカもまた童の帝たるにふさわしい因子をもつ漢なのだから。


「おいおい、いいのか? オレは男女のイロハを知り尽くした漢……」


 さらに馴れ馴れしく顔を寄せる。


「モテる秘訣を教えてやるからさあ」


 恐るべき一言。一度もモテたことがないというのに恐るべき自信。その自信の根拠はアニメやゲームによって蓄積された膨大な知識であるのは言うまでもない。


「……ほ、本当か?」


 そしてその甘い誘惑に抗いきれないムールガイ。すべてはタナカの手の上。本当に恐ろしい智謀の持ち主である。

 しかし本当に恐るべきは垣間見せた魔の棟梁たるにふさわしい資質。このタナカという漢は愛するものを奪われた者の悲しみにつけこんだのだ。しかもそれを糧に自らの心の傷を癒そうという腹積り。なんたる悪、なんたる小者!

 絶望に堕ちた漢はついに魔の道を歩み始めたというのか。


「なにやら元気になったようでござるな」


「ふぅ、ようやく機嫌がなおったか。……それにしてもなんでエチゴヤの名前使ってるんだろうな?」


 偉ぶってムールガイに説教をするタナカを見つめるスケさんとカクさん。その元気を取り戻した様子に安堵したのだった。そして一角族の集落に向かうタナカとムールガイについていく。

 それはこれまで走り続けてきた漢たちの僅かな休日の始まり。

 タナカは一角族の集落で心の傷を癒すべく、ムールガイの家に居座り始めたのだった。


( ̄ー ̄)ニヤニヤ


名前:タナカ レベル:56 経験値:1418/5600 ギルドランク:E

体力:1.4e14/1.4e14 魔力:2.8e14/2.8e14

力:1.4e13 器用さ:1.5e13 素早さ:1.8e13 賢さ:2.3e13 精神:2.7e13

スキル:剣(3.49) 魔法(5.66) 信仰されし者(10.00) 竜殺し(7.72) 精霊主(4.73) 詠唱破棄(2.77) 多重詠唱(2.84) 大魔法(0.09)

装備:剣 夏物の格好いい服 黒いマントセカンド

お金:4495000G


名前:スケ レベル:50 経験値:3967/5000 ギルドランク:E

体力:1050/1050 魔力:2032/2032

力:513 器用さ:496 素早さ:758 賢さ:776 精神:819

スキル:矛(4.15) 魔法(4.70) 竜殺し(7.03) 信仰されし者(8.13)

装備:大鎌 黒いローブ 白面 魔法の手袋

お金:100000G


名前:カク

体力:65536/65536 魔力:65536/65536

スキル:人化(10.00) 魔法(10.00) 大魔法(1.10) 使徒(4.73) 信仰されし者(7.44)


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