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タナカの異世界成り上がり  作者: ぐり
王国放浪編
37/114

Route37「初撃ですら見切る、それがカラーテの真髄」

 プリン王国西部に広がる荒野。見渡す限り風にさらされた赤い裸の大地。そんな荒野にも逞しく生きるものが存在する。そしてそこには他の土地より厳しい弱肉強食の掟があった。その厳しい世界の中で上位に位置する魔獣ラビッドファング。この猛獣、特質すべきは不釣り合いなくらいの巨大な牙。そして集団戦力。単体では自分より強い魔物であろうと集団で狂ったように襲い掛かり勝利する獰猛さ。その好戦的な習性からこの地方で最も危険視されている魔獣である。

 そんな強者といえるラビッドファングたちが今、荒野の片隅で死体の山を築きつつあった。ラビッドファングが集ったその中心では荒れ狂う竜巻を思わせるような男がいた。回転しながら手に持った双剣で次々とラビッドファングの死体を量産していく。その強さは彼こそが本物の化け物と見間違えんばかりだ。なによりその表情は見るものすべてを震えさせるような怒りに彩られていた。


「くそっ! アイツ! なんだってんだ! 俺はこの地方最強と言われるラビッドファングを蹂躙できる腕なんだぞ!」


 身を焦がす怒りを発散させるため次々とラビッドファングを葬りさっていく男。数刻後、そこには無数のラビッドファングの亡骸と未だ怒りのおさまらない男が残っていた。


「……ちっ! 気に食わねえ……」


 短く言葉を吐き出すと怒りを消化できぬままその場を立ち去る男。向かうは今彼が拠点とする町。プリン王国西部各地への中継地として発達してきた宿場町ハブルナヨである。






「この町に限らず、いい人材は軍がもってっちまうからな。ギルドで働くのは残り物のEランクだらけさ」


「ほう、そんな事情があるとはな。それじゃあEランクでは対処のしようがない事件とか起こったらどうするんだ?」


 ここは宿場町ハブルナヨにある酒場。この町に立ち寄った交易商や地元のギルド員たちで賑わっていた。そんな中で酒場のオヤジと会話する漢――我らが主人公タナカである。


「そうだなあ……。流れ者の上位ランカーが近くにいることを祈るくらいか……。まあ最終的には軍に頼ることになるだろうな」


「ふむ……」


 いつものように単独で町に入り情報をあつめているタナカ。己の力のなさをその類まれなる知謀によって覆すために今日も今日とて情報収集に余念がない。

 格好良く足を組んだ姿勢で酒場のオヤジの話に聞き入るタナカ。時折ミルクで喉を潤すその姿もいつ美女に話しかけられても問題がないように計算された動きだ。やはりこの漢、酒場ではいつも以上に力を発揮する。


「まあ、今はそんな心配する必要はないがな。なんてったって今この街には――」


 今まさに酒場のオヤジから重要な情報がもたらされようとした瞬間。乱暴に開かれた扉によってその言葉は中断させられる。そして酒場に漂っていた独特の喧騒も静まっていた。いや、正確には乱暴に扉を開けた男の雰囲気にのみこまれたといったほうがいいかもしれない。異常な空気につつまれたことを気にすることなく無遠慮にカウンターに進んでくる男。


「オヤジ、一番強いヤツくれ」


「あいよ」


 乱暴に椅子に座ると強い酒を求める。そのイラついた様子から、酒の力で嫌なことを忘れようとしているのは一目瞭然であった。

 通常であれば誰もが触らぬ神に祟りなしとばかりに彼に近づく者はいなかっただろう。しかしここは酒場。感覚のマヒした連中がたむろしているこの場所で一騒動起こるのは必然だったのかもしれない。空気の読めない酔っ払いが彼に近づく。


「よう! 景気よく稼いでるかい? アンタらがきてくれたおかげで魔物の被害もずいぶん減った。カレーパン先生さまさまだぜ!」


 酒の注がれたコップを掲げながら陽気に話しかける。決して悪気があったわけではなかったであろう。しかし見事に地雷を踏んでしまった。


「俺の前でその名を出すんじゃねえ……」


 機嫌の悪かった彼は即座に酔っ払いを睨み付ける。


「俺の名はカレーマンだ!」


 カレーマンは酔っ払いに向かって殺気をこめて言い放つ。


「ひぃっ!」


 常人では耐えられないような殺気。それは当然Eランカーのものではなかった。

 先ほど酒場のオヤジからもたらされようとした情報。現在この街には偶然にも強者が幾人か滞在していた。彼はそのうちの一人。双剣のカレーマンといわれるAランカーだった。

 人類最高峰Aランカーの放つ殺気。酔っ払いの酔いをさめさせるには十分すぎる威嚇だった。しかしカレーマンは止まらない。最高に機嫌の悪かった彼は酔っぱらいの胸ぐらを乱暴に掴むとその身に宿る怒りを拳を使って吐き出そうとする。


「やめておけ」


 そこに待ったをかける漢がいた。酒場ではハードボイルドになる漢タナカである。

 先程この街にいるのはEランクばかりであるという情報は入手済み。そしてこれまでの様々な経験でEランクならなんとかなるという自信。タナカは堂々と仲裁にはいる。


「ここは酒場。漢たちの憩いの場。多少のやんちゃも酒場の魅力だがそこには越えてはならない一線がある――」


 カウンターでミルクのつがれたコップを傾けながら背中で語るタナカ。おもむろにコップを置くと立ち上がりゆっくりと振り向く。


「それ以上は漢の流儀に反するというものだ」


 カッコイイポーズで相手に対峙するタナカ。片手は顔にかざし指の隙間から相手を見据える。もう片方の手もかっこよさを微妙に醸し出すための位置取り。足幅は肩幅ほどに開きいつ美女が「素敵! 抱いて!」と駆け寄ってきても受け止められる態勢だ。

 しかしタナカは知らない。酒場のオヤジのセリフの続き。いまこの街には幾人かの強者が集まっていることを。目の前の男がAランカーであるということを……。


「なんだてめえは? 気に入らねえなあ」


 酔っぱらいを乱暴に突き放すとタナカに向かってくるカレーマン。


「代わりにてめえに相手してもらおうか」


 怒りに身を任せているというのに隙も無く洗練された動きで近づいてくる。さすがAランカーといったところであろうか。


「やめておけ。俺は伝説に名を残す武術カラーテの正統継承者だ。カラーテを極めていまだ負けたことはない。俺の相手をするということは自分の黒星を増やすことと同義。まずはそれをよく理解するのだな」


 カラーテの詳細設定を追加し正統継承者になりたてのタナカ。不敗なのは当然であった。言葉のマジックを巧みに利用し自分を有利な立場につけようとするその知謀。おそろしい漢になったものである。

 そしてこのような心理戦を繰り広げながらも微妙にポーズを変え、周りに美女がいないかもチェックしているタナカ。この状況でこの余裕。まさにハードボイルドの鏡だ。


「そんな武術知らねえなあ。さあ、俺の怒りを発散するために踊れや!」


 カレーマンの拳が放たれる。誰もがズタボロになるタナカをイメージした。しかし次の瞬間。何事もなかったかのように対峙する二人。タナカは先ほどと変わらぬ姿で立ったままだ。カレーマンのほうも拳を突き出した状態で静止している。

 周りの人々はカレーマンがすんでの所で踏みとどまったのではという結論に達した。この状況ではそう判断しても仕方ないだろう。これでケンカも中止かと安堵する周りの面々。それとは裏腹にカレーマンは得体のしれない恐怖を感じていた。

 確かに拳を相手に叩き込んだはずだった。当たったと思った瞬間、拳は空を切る。間合いを間違ったわけではない。だがその瞬間、まるで世界が切り替わったかのように今の状況になった。相手が引いて距離を置いたとかいう話ではない。

 カレーマンほどの熟練者ともなれば相手の体の微妙な動きでその次の行動がわかる。相手が引いたならすぐさま距離を縮めて攻撃に移るだけの話だ。しかし先ほどの攻防。まったく予備動作を感じなかった。たとえ自分より格上の相手がいたとしても、まったく認識できないなどありえない。そう思ったが、そのありえないことが今目の前で起こったのだ。

 カレーマンは対峙したまま相手を見据える。相手の強さがまったく感じられない。これまでの経験がまったく役にたたなかった。ここに至って気づく。人類最高峰Aランカーの自分が理解できないほどの高みにいる存在。それが目の前の漢だと……。

 ギルドに入っていままで格上の魔物と遭遇し生き延びたことは何度かある。その度に恐怖と向き合い危機を乗り越えてきた。しかし今感じている恐怖はいままで感じたどの恐怖とも違う。どう対処していいかわからない。その結果混乱したカレーマンは生存本能と言うべきか。思わず腰の双剣を手にし必殺の連撃を放つ――。

 しかしその望みは叶わない。先ほどと同じようにまるで場面が切り替わったかのように目の前に佇む漢。連撃を放ったはずの双剣は刃を相手につままれ微動だにしなかった。


「一流の武芸者に同じ技は通用しないというが、俺に言わせれば甘い。初撃ですら見切る、それがカラーテの真髄」


 弱者に対してはどこまでも強気になれる漢、それがタナカ。その姿を目の当たりにしてカレーマンはようやく気付く。この漢には到底かなわないのだと……。


名前:タナカ レベル:54 経験値:240/5400 ギルドランク:E

体力:1.1e14/1.1e14 魔力:2.0e14/2.0e14

力:1.1e13 器用さ:1.2e13 素早さ:1.4e13 賢さ:1.7e13 精神:2.1e13

スキル:剣(3.41) 魔法(5.01) 信仰されし者(10.00) 竜殺し(7.72) 精霊主(4.54) 詠唱破棄(2.44) 多重詠唱(2.54) 大魔法(0.05)

装備:剣 夏物の格好いい服 黒いマントセカンド

お金:4495000G


名前:スケ レベル:48 経験値:1489/4800 ギルドランク:E

体力:896/896 魔力:1747/1747

力:467 器用さ:451 素早さ:662 賢さ:688 精神:727

スキル:矛(4.02) 魔法(4.34) 竜殺し(7.03) 信仰されし者(7.92)

装備:大鎌 黒いローブ

お金:100000G


名前:カク

体力:65536/65536 魔力:65536/65536

スキル:人化(10.00) 魔法(10.00) 大魔法(1.08) 使徒(4.54) 信仰されし者(7.23)


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