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タナカの異世界成り上がり  作者: ぐり
王国放浪編
35/114

Route35「テンプレ展開キターーーー!」

「なにやら只事ではないようでござるな」


 スケさんが遥か遠方を注視しながら言葉を発する。彼の目線の先には数台の荷馬車とそれらとは不釣り合いなほどの多さの人数の人影があった。そしてそこでは遠く離れたこちらにまで聞こえてくるほどの怒号が飛び交っている。


「おだやかじゃねえな……。どうするよ?」


 カクさんは自分たちの頼れるリーダーであるタナカに言葉を投げかける。当の本人のタナカはというとわずかに身体を震わせていた。それは決して恐怖からではない。その顔からは喜びがにじみでていた。


「……きた。ついにきたぞ! やはりこの国で再出発を図った俺の戦略に間違いはなかった。クックック、商隊襲撃イベントか。まあ最初のイベントとしては妥当なところだ」


 異世界へと堕とされてから1年と少し。永らく理不尽な苦境に辛酸をなめさせられてきたタナカではあったがついに転機が訪れたことを肌で感じる。

 目の前には栄光の異世界ライフへと続くイベントが絶賛実施中。そんな状況に今にも駆け出したいタナカではあったが、その心を強靭な精神力で抑える。


「落ち着け俺。もはや本番に入ったのだ。これからは失敗は許されない。より完璧な攻略法を選択せねば……」


 自分の中に眠る膨大な知識の泉からより完璧な作戦をシミュレートするタナカ。しばらく考え続けたあと、ついに決断する。


「スケさんとカクさんはここで待機。このイベントは……俺一人で攻略する」


「……」


 そのタナカの決断にとまどうスケさんとカクさん。それもそのはず、このチームタナカにおける最重要項目の一つであるにタナカの保身に相反する決断だったからだ。

 タナカを止めようか迷う二人ではあったがタナカの顔をみてその言葉を飲み込む。そこには様々な経験で成長した漢の顔があったからだ。


「わかったよ。今回はお前にまかせるぜ」


「何かあれば駆けつけるでござるよ」


 タナカにすべてを委ねる二人。それは一見、非情ともみえる決断だったかもしれない。しかし同時にこれまで以上の仲間への信頼が生まれた瞬間でもあったといえよう。

 一人壁に立ち向かっていくタナカ。その背中を応援のポーズで並んで見送るスケさんとカクさんなのであった。


「ほぼ100パーセントありえないことだが、スケさんやカクさんに美女の目が移ってしまうとも限らんからな。危険を冒してでもここは確実にとりにいくぜ」


 そこには目的のためならば友情をも犠牲にする非情なる漢がいた。まさに魔を総べるにふさわしい漢である。イベント会場に一歩また一歩と近づきながらも、より完璧な展開を最後の瞬間まで計算し続けるタナカ。そこには一点の油断もありはしなかった。






「おいおい、いい加減にしねえと取り返しのつかないことになっちまうぜ? 早く決断しな」


 髭面の大男がニヤリと笑い顔を浮かべながらも油断ない態勢で催促する。一方、対峙している男も油断することなくただ黙って相手を睨みつけていた。一触即発な場面かともいえるこのタイミングで声がかかる。


「そこまでだ!」


 突然の横やりにその場にいた盗賊たちは当事者を探しだそうと見まわす。しかし該当者らしき人影はなかった。怪訝に思う盗賊たち。


「こっちだ!」


 自分たちの上方より声が聞こえたことに反応し皆がそろって空を見上げる。そこにはどこからやってきたのか華麗に飛び降りてくる漢の姿があった。

 華麗に着地するタナカ。着地点に段差がないこともすでに承知ずみ。まさに完璧な登場であった。

 渋い表情で振り向きながら言葉を発する。


「無事か?!」


 それは短いながらも安否を気遣う優しさと彼らを救おうとする意志の強さのこもった言葉だった。

 周りを確認するタナカ。そこには髭面の大男とむさい男たち。このタイミングで手痛いミス。どうやら声をかけたのは荷馬車とは逆方向だったらしい。しかし様々な経験をつみ漢を磨き上げたタナカ。間髪入れずに軌道修正をする。


「ここは俺にまかせろ!」


 荷馬車のほうを振り返り親指で自分を指し示しながら渋く言い放つ。ジェスチャーを追加することで先ほどのミスを覆い隠し誤解を払拭することを忘れない。これまでのタナカとは一味違うきれを感じさせる絶妙な一手である。

 同時に再び周りを確認するタナカ。そこにはリーダーらしき男とやはりむさい男たちしかいなかった。


「……クッ!」


 膝から崩れ落ちるタナカ。悔しさから地面についた手を強く握り締める。しかし掴めたのはただの乾いた土のみ。つかむはずだったハーレム要員は儚くも消え去ってしまっていた。


「完璧な作戦だったはず……。すべてをリセットしてやり直したというのに、再び世界が偽りの神による秩序の均衡を保つため因果を歪めるというのか……」


 苦悶。まさにそう表現するしかない表情で嘆き悲しむ漢タナカ。そんな珍入者に唖然としていた男たちであったがようやく再起動する。


「なんだコイツは? いきなり現れやがったと思ったら崩れ落ちやがって……。まあいい、とにかくわかったろう? このあたりは奴隷業者が頻繁に行きかっているせいもあって軍も定期的に巡回している。おかげで辺境のわりには人通りがあるんだ。このままこの場に居続けたらやっかいなことになるぜ? 分け前は俺らが4でそちらが6だ。襲撃の御膳立ての分だけで3対7はもっていきすぎだろう」


「チッ、わかったよ。そのかわりそのわけのわからん侵入者の身ぐるみはこちらが剥がさせてもらうぜ。身に着けているものからすると割と裕福そうだからな」


「ああ、それで構わないぜ。よし、野郎ども引き上げだ! 積荷を残らず頂いていくんだぞ!」


「おおう!」


 荷馬車に群がる男たち。どうやらタナカのお目当てであった商隊襲撃イベントはすでに終わっており、盗賊どうしで分け前の言い争いをしていただけだったらしい。

 タナカ痛恨のミス。つねに冷静であろうとして行動してきたタナカ。しかしその前、最初の状況確認ですでに罠に陥っていようとは、さすがのタナカもないものは手に入れようがない。あらためて世界の恐ろしさを痛感するタナカなのであった。


「オラ! おっさん! 金目の物をだしな……、いやそれはいい。無抵抗に殺されちまいな。お前がぶちまけたアイテムボックスの中身はありがたく俺らが頂戴してやるからよ」


 盗賊たちに取り囲まれるタナカ。


「……クックックック。盗賊風情がかつて天界と雌雄を決した我が前に立ちふさがろうとは……、愚かなり!」


 ゆらりと立ち上がったタナカは最初から厨二モードで全力でとばす。目の前に立ちふさがる愚か者への怒りか。将又、世界の罠にはまった自分への怒りか。


「あんだぁ。やろうってのか。おい! おめえら! 痛めつけてやりな!」


 むさい男たちが得物を手にじりじりと迫ってくる。


「……いいだろう。永きにわたり地獄に封じられてきた我らの苦しみ。貴様らにも味あわせてくれよう! トゥッ!」


 かっこいい叫びとともに飛び上がるタナカ。突然のことに反応できない盗賊たち。タナカは美しく放物線を描きながら近くにあった大岩の上に華麗に着地……することなく大岩の向こう側へと消えていった。


「……」


 盗賊たちは予想外の展開になにもできずにいる。しばらくすると大岩のわきからひょっこりと顔を出すタナカ。


「スケさん! カクさん! やっておしまい!!」


 その叫びは若干恐怖で声が裏返り、まさに小心者の鏡ともいえる漢の姿だった。


「ったく、しょうがねえなあ」


「まあまあ、タナカ殿らしいではござらぬか」


 そういいながらやってくる二つの影。そこから放たれる圧倒的強者のプレッシャーに盗賊たちは無意識のうちに呑み込まれる。


「な、なんだこいつらは……。おめえら! やっちまえ!!」


 恐怖からか。自然と大声になりながらも目の前の異物を排除しようと必死になる盗賊。しかし所詮は盗賊。人外の道を突き進む二人の前に描写するまでもなくあっけなく殲滅させられるのであった。


「フッ、盗賊風情が、至高の座を目指す我らの前に立ちふさがるなどなんの障害にもならぬわ」


 いつの間に現れたのか。スケさんとカクさんの間でふんぞり返り勝利宣言をするタナカ。その速さは仲間である二人にも認識させないほど。まさに神速を貴ぶ漢タナカ。圧倒的速さを見せつけての勝利である。


「まあ、これで一件落着だな。積荷は世界中のめぐまれないタナカのために有効活用してあげるとするか。クックックック」


 タナカはそんなことを言いながらスキップで荷馬車に駆け寄る。そして荷物を確認しようとして動きが止まる。プルプル震えだしたかと思うと突然飛び上がる。先ほど飛び越えた大岩の上に華麗に着地すると片手を大きく振り上げる。


「テンプレ展開キターーーー!」


 その拳は固く握られ今のタナカの力強さが表現されているといっても過言ではないほどの凛々しい姿だ。その瞳からは光り輝くなにかが零れ落ちていた。しかしそれはこれまでのものとは明らかに違う。そう確信できるほどにタナカの表情は晴れやかであった。

 突然のタナカの奇行。スケさんとカクさんはいつもどおりのタナカなので華麗にスルーする。とりあえず原因であろう積荷を確認するのだった。

 そこは牢になっており隅のほうには影が蠢いている。それは寄り添いながらもこちらを伺う女子供たちであった。


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