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タナカの異世界成り上がり  作者: ぐり
混乱の西部編
33/114

第三十三話 新たなる時代

 マジデ要塞陥落――


 要塞守備隊の伝令によりいち早くもたらされたこの一報。西部国家同盟はその対応に苦慮する。

 すでに西部の内乱は終決しており、都市ゴクリにいた実動部隊のほとんどは西部各都市に帰還させていた。

 ゴクリも一都市国家として西部国家同盟に加入がきまり、この時滞在していた同盟軍司令部は協議のための各国代表外交官と武官が数名ずつといった状態。そんななかトローチ王国の代表として未だにゴクリに滞在していたアイサ、ショウサ、タイサの三人はこの危機にたいし精力的に動いていた。浮足立つ各国代表の足並みを揃えていき、近隣の都市国家からは緊急に兵を招集する。

 まずは前線となった街の防衛を強化し、要塞を落としたという魔物の群れの西進を防ぐ必要があった。準備は難航したが魔物が動きだす前に小規模ながらなんとか同盟軍を再編する。すでに前線の街の防衛についていた要塞守備隊と同盟軍は合流し防衛ラインを構築。とりあえずの対策を整えることに成功した。しかし、この段階で別ルートからもたらされた情報に同盟軍司令部は凍りつく。


 プリン王国軍西進開始――


 立て続けにおこる事件に混乱する同盟軍司令部。やがて怪物たちとプリン王国軍が敵同士で潰し合いをやってくれればいいという意見に始まり。要塞を落とせるものなら落としてみるがいい。怪物よりプリン王国軍のほうがましだといった意見までがでる始末。そんな中、この一連の事件の奥に潜む危険性に気づいた者たちがいた。アイサもその一人である。


「もしも怪物たちによる要塞陥落とプリン王国軍の西進につながりがあるとしたら……」


 このアイサの言葉にまさかといった空気が流れる同盟軍司令部。しかし当事者であったアイサの口から内乱における漆黒のドラゴンを使った作戦やその魔道具を研究していたカシウスが姿を消した情報を報告されなんともいえない雰囲気となる。その後、ゴクリ代表からカシウスの出生や研究所所長にまで上り詰めた経緯に不明瞭な点が多いという情報がもたらされる。しかしこの段階ではまだ推測の域を出なかった。その後、プリン王国からもたらされた情報のなかに、西進する軍中枢にカシウスらしき人物ありとの報告があり最悪の状況を考えざるを得なくなる。

 怪物たちによる要塞陥落がプリン王国軍の手によるものだとすると、今後同盟軍は怪物たちとプリン王国軍を相手に戦わざるを得ない。質も量も圧倒的に不利な状況。いや、もはや防ぐ手立てがないといっても過言ではなかった。

 そしてさらに緊急の報告がはいる。またかと半ば投げやりな雰囲気さえでていた同盟軍司令部はその報告を聞いてしばらく思考停止に陥る。


 マジデ要塞近辺消滅――


 最初はなにいってんの? といった顔をする面々。その後、消滅ってなんだよ消滅って。意味わかんねえよ。状況が想像つかないよといった怒号に包まれる。結局まともな審議ができないまま時間だけがすぎていき、このまま同盟軍による近隣調査が決定された。






「想像を絶するとはまさにこういうのを差していうんだろうな……」


 同盟軍の指揮官として参加していたショウサは目の前の景色を前にそんな言葉しか出てこなかった。本来続くはずの路は突如として途切れその先は崖になっていたのだ。左右に目を向けると崖は延々と続いているが僅かに曲線を描いていることが確認できる。マジデ要塞があった場所を中心に広範囲にわたり土地が消滅していることが予想された。しかし実際にそれを確認することはできない。この巨大な穴から未だに立ち上る煙のためこの先がどうなっているかは確認しようがないのだ。

 このあたりはもともと進軍不能な山地だった。そして唯一の路がなくなってしまった以上プリン王国軍の脅威はなくなったとみてよいだろう。そして調査の結果、近隣には怪物どころか魔物の姿もほとんどなく司令部の視察も行われていた。ここしばらく悪い情報に翻弄されていた同盟軍の人々は目の前に広がる世界に思わず声をもらしていた。まるで観光地であるかのような状況である。そんななか苦境を脱することができた幸運をよろこぶ声も聞こえる。


「幸運なんかじゃないよ……」


 ショウサのとなりで目の前の絶景を見つめながら声をもらすタイサ。彼女は目の前の出来事が偶然などではないことを知っていた。あの日、彼女の前から姿を消した漢の背中が思い出される。最強と信じて疑わなかった彼が決死の覚悟で挑んだ戦い。ある意味目の前の絶景は納得できる結果である。


「そうね。私たちはまた彼に救われたのね」


 タイサを気遣うようにアイサが彼女の肩にそっと手を置いた。要塞守備隊が撤退の最中に魔神とおぼしき者たちとすれちがったとの報告がすでにアイサの耳にはいっていた。彼女もまた目の前の出来事が意図的なものであると確信していた。目の前の絶景を眺めながら姿を消してしまった彼のことを考える。そして自分たちがこれからどうすればいいかを……。

 アイサはこの場で同盟軍の人々に魔神について話し始める。噂話としてすでに同盟国に広がりつつあった話である。しかし正式に魔神について話をするのは初めてだった。アイサは語る。ドラゴンによって殲滅させられるところであった同盟軍をすくった魔神がいたことを……。戦場で戦う者を贄とした邪悪なる儀式を打ち破った魔神がいたことを……。そして今回、西部地域に生きる者たちの危機に立ち向かった魔神がいたことを……。


「――彼は私に言いました。生きろと……。そして今回、わたしたち西部地域に生きるすべての人々が彼に救われました。彼は姿を消してしまったけれど、もし彼がいたならば私たちにやはりこういったと思うのです。生きろと……。長い戦乱で人は減り、疲れ、土地は荒れはて貧困のさなかにいます。だからこそ私たちは力をあわせ強く生きていかねばなりません。それこそが彼が望んだことだと思うのです」


 それまでの弛緩した空気がなくなる。同時に同盟軍の人々から熱い想いが湧きあがる。アイサの話が終わると人々は歓声をあげる。西部国家同盟の新しい時代はこの時から始まったのかもしれない。そう感じられるほどの熱気が湧きあがる。

 撤退準備を始める同盟軍。アイサもまた新しい時代を歩もうと歩き出そうとするが最後に一度振り返る。そこには大地を深く抉った傷跡。もうもうと上がり続ける煙。その向こうにいるかもしれない恩人に向かって感謝の言葉を残すのだった。


「ありがとう」






 大陸西部には広く人々に伝わる魔神の物語が存在する。その魔神は確かに存在し西部地域を襲った未曾有の危機を救ったという。この魔神が人々に求めたのは力強く生きること。長く続いた内乱で疲弊した西部が奇跡的に短期間で復興できたのはこの魔神への信仰が強く影響したと言われている。

 創世暦5964年夏、西部国家同盟は新たなる時代が始まろうとしていた。






「おいおい、いいかげん元気だせって、なっ。結構イケてるって。まあ俺の筋肉には劣るがな」


 立ち止まって得意のサイドチェストポーズをとるカクさん。


「無事だったのでよしとするのがよいでござるよ。そのフワフワさわっていいでござるか?」


 同じくとなりでポーズを決めるスケさん。そしてそのままトボトボと歩き続けるアフロヘアーのタナカ。


「……なんてことだ。こんな恐ろしい法則が存在する世界だったとは……」


 天使キャラメルとの衝突。そして神槍の消滅。そこに発生した強大な破壊のエネルギーに巻き込まれたタナカは気づいたときにはアフロヘアーになっていた。どうやったらこうなるのかわからないこの法則にタナカは恐怖する。そしてあらためて世界の恐ろしさを実感するのであった。


「俺は世界をナメていた。世界の秘密の一端を解き明かしただけですべてを理解したつもりでいた。自分が赤子程度の実力であることも忘れて……」


 タナカは思い出す。天使キャラメルとの戦い。最後に光に包まれたときのことを。無我夢中で気づいたら少し離れた山中に立ちすくんでいたことを――


「あのとき――。着地点に段差があったら、俺は死んでいた……」


 これまで何度も修業し、戦闘にもなれたつもりであったが、あげくのはてにあの醜態。


「こんな姿になるのも当然か。いや、これでもましなほうか……」


 地面に移った自分のアフロヘアーの影を眺めながら自嘲気味につぶやく。それはこれまで積み上げてきた自信をすべて壊された漢の悲しい姿だった。


「だが、まだだ。まだ俺の心は折れない。この国は俺の出発点。やり直すにはふさわしいといっていい。いやここから始まるんだ。これまでのは練習だ。ここからが本番なんだ」


 タナカはあらためて誓う。女の子とのキャッキャウフフなイベント満載な異世界生活を手にいれてみせると。そんなタナカの独り言はまったく耳にはいらずアフロヘアーに夢中のスケさんカクさん。

 これからもタナカの苦難の道は続いていくだろう。しかしこの頼もしい仲間とともに乗り越えていくに違いない。がんばれタナカ。負けるなタナカ。

 創世暦5964年夏、プリン王国にてタナカたちの新たな冒険が始まる。


アフロは次の日なおったそうですヽ(°▽、°)ノ デヘヘ

名前:タナカ レベル:48 経験値:3619/4900 ギルドランク:E

体力:8.0e13/8.0e13 魔力:1.3e14/1.3e14

力:8.0e12 器用さ:8.5e12 素早さ:9.3e12 賢さ:1.2e13 精神:1.3e13

スキル:剣(3.20) 魔法(3.84) 信仰されし者(10.00) 竜殺し(7.72) 精霊主(4.11) 詠唱破棄(1.66) 多重詠唱(1.59) 大魔法(0.00)

装備:剣 格好いい服 黒いマントセカンド

お金:4522000G


名前:スケ レベル:43 経験値:3105/2800 ギルドランク:E

体力:709.00/709.00 魔力:1195.00/1195.00

力:370.00 器用さ:362.00 素早さ:516.00 賢さ:552.00 精神:562.00

スキル:矛(3.62) 魔法(3.61) 竜殺し(7.03) 信仰されし者(7.09)

装備:大鎌 黒いローブ

お金:100000G


名前:カク

体力:65536.00/65536.00 魔力:65536.00/65536.00

スキル:人化(10.00) 魔法(10.00) 大魔法(1.03) 使徒(4.11) 信仰されし者(6.40)


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