第三十一話 激突
「なんだ? あの不気味なアロマ漂う要塞は……」
ここまで山を越え谷を越え、順調に旅してきたタナカたち一行。しかしマジデ要塞を目視できるところまできて立ち止まっていた。その上空にはドラゴンの群れが飛び回り、要塞からはときおり不気味な唸り声が聞こえてくる。
「あの黒いドラゴン。前に襲ってきた奴らじゃねーか?」
「そうでござるな。ここがあのドラゴンたちの巣だったのでござろうか」
呑気にドラゴンを眺めているスケカクコンビ。二人はまったくもって動じていなかった。そしてひとり深刻そうな様子のタナカ。
「楽園は目の前だというのに……。おのれ、世界め。このような罠を用意していたとは……。ハッ!? まさか最近の順調な流れは俺をここにおびき寄せるためにわざと……」
膝から崩れ落ちるタナカ。ここ最近つちかわれてきていた自信はもろくも崩れ去る。しかしなんとか踏みとどまるタナカ。前門の要塞、後門の追手。現在の切迫している状況がタナカを踏みとどまらせる。実際には切迫してなどいないわけだが。いつもの空回りである。
「フフフ……さすがだといっておこう。だが俺も何百何千というアニメ・ゲームを乗り越えてきた漢。我が叡智にはこのような状況を打破する策など山とあるわ!」
立ち上がるとキッと要塞を睨みつける。
「スケさん! カクさん!」
振り返る二人。彼らに見えたのは瞳には激しく燃える意志をやどしたタナカの姿。めずらしく本気モードのタナカであった。
「……回り道していこうぜ」
スゴスゴと来た道を引き返すタナカ。本気の逃げである。
「あ? 早くかえりたいんじゃねーのか? はやく通りすぎようぜ」
「バカヤロー! こういういかにもな展開にはのらないのが俺の主義なんだよ! お約束ってのは破るためにあるんだよ!!」
逃げ腰のタナカ。その背中にはいくつもの挫折を味わってきた大人の哀愁が漂っていた。
「あー、タナカ殿」
「なんじゃい?!」
「ドラゴンの群れがこっちに押し寄せてきている気がするのでござるが」
「……」
要塞の方をみるとたしかに先ほどまで要塞上空をとびまわっていたドラゴンの群れがこちらに押し寄せてきていた。
「……クッ、……クックック、いいだろう。せっかく見逃してやろうというのに、そちらから襲いかかってくるとは……」
ユラリと振り返り不気味に笑いながら厨二モード全開になるタナカ。
「いくぞ二人とも! フォーメーション『神々の黄昏』だ!!」
「なんだそれ?」
「なんでござるか?」
「……。こういうのはノリなんだよ! ノリ!! いいから並んで打って打って打ちまくれよ! うあ……なんか滅茶苦茶いるぞ! なんでもいいからみんなで撃ち落としてぇえん!!!」
半分悲鳴になりながら魔法を撃ち始めるタナカ。スケさんとカクさんもそれに続く。前回は実験したりと多少余裕があったが今回それはない。最初から全力で狩りにいく三人。文字通り桁違いの数のドラゴンたちが向かってくるのだから仕方がないだろう。
補助魔法で攻撃魔法の威力を高めたスケさんを含めて、三人は一撃必殺の威力の魔法でもって迫りくるドラゴンを次々に撃ち落としていく。巨大な岩が高速でぶち当たり、次々に肉片と化し墜落していくドラゴンたち。しかし数が多すぎた。徐々に防衛ラインがさがっていく。
「なんかまずくね。ここはいっちょう範囲魔法でもぶちかますか?」
「やめてぇ! お願いだからそれだけはやめてえぇ!!」
過去のトラウマが発動するタナカ。その悲鳴はドラゴンが迫ってきたときより大きかった。前回の範囲魔法が余程恐ろしい体験だったのであろう。
「クッ、背に腹はかえられぬか。俺の手札を切ろう……」
タナカから放たれていた大岩が二つ三つと増えていく。新たに得た力……「多重詠唱」である。防衛ラインを徐々に押し返していくタナカ。
「ハーハッハッハ! どうだ?! 地獄に眠りし我が同朋たちの力をかりた魔道の力!」
少し安全になったので調子がでてくるタナカ。そんなタナカを横目で見ながらつぶやくカクさん。
「あいかわらずムチャクチャやってんなぁ」
下っ端だったとはいえ精霊であるカクさんの知識から考えてもタナカの力は異常であった。しかし今さらなのでタナカの事は常識から切り離して考えることにする。カクさん、さりげなく合理主義である。とりあえずは目の前の敵を倒すことに専念するのであった。
しばらくすると状況はかなり好転する。防衛ラインを押し戻すどころかドラゴンが殲滅されつつあった。
「勝った……、俺は世界の罠を打ち破ったぞ! ククク、せっかく回り道をしてやろうと思ったのに。しかしやってしまったものはしかたがない。通らせてもらうとしよう」
ごきげんで前進しはじめるタナカと率いられるスケさんカクさんであったが、そのとき上空から攻撃が放たれる。
「! 緊急回避!」
後ろに飛びのき攻撃を回避するタナカたち。そしてその刹那、巨大な光の刃が降ってきていままで3人がいた場所を切り裂く。後には大きく切り裂かれた大地が残っていた。
「……なんだこれは。いったいなにが――」
突然のことに唖然とし原因であろう上空を見上げるタナカ。その瞬間、タナカの身体に激震がはしる。
「あのけしからん胸は! あの時の女かぁあああああ!!」
そうそれはかつて出会った翼人の女性。どっちに転んでもキャッキャウフフなイベントを台無しにしてくれた張本人。タナカにとって女性との縁のなさに拍車がかかったのはあのときから。そう思えるほどの出来事であった。もちろんただの逆恨みである。
「フッ、フォオオオオオオ!!」
魂の叫びがあがる。それは怒りか悲しみか。いや復讐の時がきた喜びの叫びだったかもしれない。とにかくテンションがあがりまくったタナカは……。
ビリッ――と無慈悲な音を響かせマントを引きちぎってしまった。送風魔法で……。この状況でも律儀に魔法でマントをはためかせていたタナカの才能たるや恐ろしいものではあるが、さすがに興奮しすぎたのか誤ってコントロールをしくじる。一気にテンションがさがるタナカ。地面におちたマントの切れ端を悲しい目で見つめる。ふつふつと怒りが湧いてくるタナカ。
「またしてもあの女……。ゆるさん……、ゆるさんぞぉおおおお!!!」
怒りが最高潮に達する。すばやく代えのマントをとりだし装着するタナカ。どんなときでもカッコよさに気を配る漢。それがタナカ。
準備がおわるとキリッとした顔でスケさんとカクさんに振り返る。
「ちょっと逝ってくる。この場はまかせた」
キリッとしていても鼻の下が伸びていた。実に正直な漢である。そして返事も待たずに文字通り飛んでいくタナカ。
「待てよ! ……ああ、行っちまったか。それにしてもアイツ。かなりやべえぞ」
「カク殿の上司を倒した御仁でござるな」
はるか上空に浮かぶ天使キャラメルをみつめるスケさんとカクさん。
「奴の強さもそうだが、問題はあの槍。かなりやばい力を感じるぜ……」
カクさんの元上司である上位精霊の核を造作もなく破壊した神の力やどる槍。その存在感に不気味なものを感じるのであった。
「まあ、でもタナカのやつならどうにかなんだろ」
「そうでござるな。拙者たちはタナカ殿の言われたとおりこの場をどうにかするでござるよ」
大鎌を取り出し要塞に向かって構えるスケさん。その先、要塞から次々と現れる巨人系の魔物たち。こちらに向かってゆっくり迫りくる。
「そんじゃあ俺はサポートに専念するからあとはよろしくな」
そういうとカクさんは精霊の姿になってスケさんの頭の上に居座る。同時に補助魔法が発動されスケさんの戦闘力が爆発的に上昇する。
「それでは推して参る!」
黒い疾風となって巨人たちの群れに突撃していくスケさん。頭のカクさんからはレーザーのごとき魔法がまわりに掃射される。地上では無慈悲な蹂躙が始まろうとしていた。そして――
天使キャラメルが試しの一撃を放った後、しばらくするとタナカは飛翔してきて目の前に対峙した。
「レビテーションか。器用なものだな」
空の上で重力にさからって対峙するタナカを見てそう呟く天使キャラメル。生活魔法のひとつである浮遊の魔法。本来は物を浮かせるためのものである。これは今回の修行でタナカが手にいれた奥の手だ。もちろん逃げるための。しかし今のタナカはリビドー全開である。攻めるためにおのれのすべての力を使おうとしていた。
「ククク、ここであったが百年目。貴様を俺のものにしたあかつきにはもっと清楚な服を着せエロスのなんたるかを教え込んでやる。チラリと見えるその隙間に魂を震わせる力があるということをな!」
「わが主にたてつく愚かなるものよ。いまこの場でうち滅ぼしてくれる」
話がかみ合わないまま、両陣営最強戦力が今激突する。
名前:タナカ レベル:35 経験値:2145/3500 ギルドランク:E
体力:5.2e13/5.2e13 魔力:8.1e13/8.1e13
力:5.2e12 器用さ:5.5e12 素早さ:6.0e12 賢さ:7.8e12 精神:8.1e12
スキル:剣(3.11) 魔法(3.71) 信仰されし者(8.83) 竜殺し(7.56) 精霊主(3.02) 詠唱破棄(1.60) 多重詠唱(1.55)
装備:剣 格好いい服 黒いマントセカンド
お金:4522000G
名前:スケ レベル:28 経験値:728/2800 ギルドランク:E
体力:390.00/390.00 魔力:710.00/710.00
力:212.00 器用さ:210.00 素早さ:293.00 賢さ:332.00 精神:339.00
スキル:矛(2.88) 魔法(3.53) 竜殺し(7.03) 信仰されし者(5.92)
装備:大鎌 黒いローブ
お金:100000G
名前:カク
体力:32768.00/32768.00 魔力:32768.00/32768.00
スキル:人化(10.00) 魔法(10.00) 大魔法(1.03) 使徒(3.02) 信仰されし者(5.23)




