第二十七話 愛
ドラゴンクエストの世界にいってました。(* ̄▼ ̄*) デヘヘ
スライムに深手を負わされたので療養がてら執筆再開しようと思います。
都市ゴクリのほぼ中心に位置する大きな館――同盟軍司令部が滞在するようになって、早二週間が過ぎようとしていた。
そしてそこには流されるままに、のんびり暮らしているタナカの姿があった。この館にきてからやったことといえば、黒装束のガイコツや黒いブーメランパンツ一丁の筋肉が現れたら、タナカの元に案内するよう手配しただけである。
しかしその後なんの進展もなく時だけが過ぎていた。ミジンコよりもでかい器をもつ漢タナカも、さすがに心配になってくる。主に自分の身が……。それもそのはず、タナカにとって自信の源は最強チームタナカなのだから。
「ひさびさのぼっちは不安だな。もしもの場合に備えておいたほうがいいか……」
タナカは与えられた自室のベッドに腰掛けていた。もともとこの部屋は他国の使者が滞在するための部屋でとても広く立派である。そんな部屋でブツブツと独り言をつぶやいていた。とりあえず自身の情報をふまえ、現状の問題点について考えてみることにするタナカ。
「そもそも能力の表示がバグってるじゃねーか! しかもよりによって体力がわかんねーよ!! ……むっ、あらためて考えてみるとやばくないか? 赤子とかいうレベルじゃなくもし1とかしかなかったりしたら……。やばいよ! 段差に躓いただけでゲームオーバーじゃねえか!!」
みるみる顔を青くするタナカ。改めて考えてみると、かなり危うい状況にいたのではないかと思えてくるのだった。
「そういえば、いままで奇跡的にダメージらしいもの受けてないからな。フッ、さすが俺……、ってそうじゃねえ! まずい、まずいぞ! 最近、調子に乗りすぎていたような気がしなくもない。ここは初心にかえって気をひきしめねばな」
ベッドの上で胡坐をかき、うんうんと頷いている。先ほどから一人でツッコミをいれたりしているが、誰かが部屋をのぞいていたら間違いなく変人だと思うであろう。実際変人なわけだが。
「最近の出来事から問題点を洗い出してみるか。最近の戦闘といえばドラゴンとの戦闘だな。アレは結局俺も直接戦闘に参加してしまったな。うむ、失敗だな。俺は隠れて安全なところからサポートに徹しなければ。まさに影に生きる漢……、なんかちょっとカッコいいフレーズだな。これはなにかのときに使おう」
カッコよさの追求に余念がないタナカは、しっかりとカッコいい台詞をメモする。メモをしまってからポーズをとり何度か発声練習をしていて我に返った。
「おっと、本道に逸れてしまった。とにかく戦力の再編成だな。ドラゴンの戦闘でまずかったのは遠距離戦だ。もともとスケさんは接近戦を鍛えてきたからな。『竜殺し』スキルも手に入って近距離戦はまず問題はないだろう。問題はスケさんの魔法では遠距離戦で力不足になる点だな」
スケさんは第九位の基本攻撃魔法を全て習得していた。現在のランク相当の魔物であればそれでなんとかなる。しかしさすがにそれ以上、さらにドラゴンクラスともなると明らかに力不足である。
「いまの俺たちで打開策を練るとすると、加速魔法で近距離を制したように補助魔法を使うか」
タナカは第八位の補助魔法から魔法強化を習得することにした。加速魔法と同系で一時的に能力を増強する魔法だ。
「魔法の制御がハチャメチャな俺には必要ない……、むしろ危険と思っていたが。スケさんに使うのならばイケるな」
ひとまずこれでスケさんの問題点は解決するであろうと安堵する。次に考えるのはカクさんのことである。
「最初は応援だけして使えねえと思ったが……、実はスゲー使えるヤツだったな。でも結局は地雷だったよ!」
全ての魔法を使えるということで万能砲台になるかと思いきや。魔法の制御がタナカと同様の状況でとても使えたものではなかった。実際に二度魔法を使ったが自分たちにハチャメチャが押し寄せてくる結果となっている。しかし魔法についてはタナカも人のことは言えないのでなんともしがたい。そもそもカクさんの魔法の暴走はタナカに原因があるようだった。
「カクさんは俺と一緒に修行してもらって、なんとか制御できるようになってもらうしかないな……」
カクさんについては問題が解決できるかは祈るしかない。もしカクさんの魔法が制御可能になれば、タナカの増設ユニットとして魔法を乱発しまくる予定である。
「ククク、夢が広がるな。まあとりあえず戦力の見直しはこんなとこだろう……。ってぼっち対策になってねーよ! 現状の保身にはなんの役にもたたないじゃねーか!!」
ベッドの上を転がり回り、唸り声を上げ続けた。結局、いい考えは思いつかず……。
「これ以上、悩んでいても仕方がない。気晴らしに庭に出てみるか」
部屋をでて庭を目指す。廊下を進んでいくタナカ。途中で何度か人とすれ違ったが皆同じ反応を示す。一瞬驚き、その後距離をとって顔をふせるのだ。
それもそのはず、結局のところタナカの存在が大陸西部の乱世を終決させたからだ。その力は圧倒的であり、巷では黒き神が降臨したと噂が広まっていた。ここ司令部には実際タナカの力を目の当たりにした者も多く、畏まるのも仕方がないといえよう。
しかしそんな状況を知らないタナカは、あからさまに距離をとられてちょっと気になり暗黒面に堕ちるのであった。
「調子にのりすぎたかなあ。なんとなくこっちの世界に来て歯止めが効いてない気がする。問題ないと思うんだが……、ダメなのか? 『見ろよアイツ、混沌の奈落より現れし漆黒の稲妻=カールハインツ・タナカだぜ。カッコよすぎるぜ』とか陰口たたかれてたりするのか? うーむ」
つまりいつものタナカである。そのまま悩みながら廊下を進んでいく。
「それにしても、ここでまともに相手してくれるのは大佐殿と少佐殿だけだな。でもあの二人未だに名前教えてくれないんだよなあ。こっちも冗談で軍曹と名乗ってしまったから聞きづらいし……」
まさに自業自得であった。それ以上にバカであるがいまさらである。
そうこう悩みながら歩いているうちに庭に到着する。そこにはすでに先客がいた。この館にきてからずっと部屋にひきこもっていたアイサである。
庭にひとりたたずむ姿が実に絵になっていた。美しいブロンドの髪は風にやさしく揺られている。タナカが会ったときは色気のないローブ姿であったが、いまはおとなしめだが女性らしい服をきていた。
タナカのテンションが最高潮に達する。心の中で「ついに恋愛イベントキター!」と吠える。そんな心を表に出すことなくゆっくりアイサに歩み寄る。そばまで近づいたところでアイサが振り向く。
「なぜ貴方は死の淵にいた私を生かしたのですか?」
ごく自然に問いかけるアイサ。その表情には陰りが見える。
「両親だけではなく多くの同胞をも手にかけてきた私が生きていてよいのでしょうか?」
軽くうつむくアイサ。魔道具の洗脳から解き放たれて以来、ずっと自分を責め続けていたのだ。
さすがにタナカもそのことは察することができた。そして予想と違う話の流れに戸惑う。基本ヘタレなタナカではあったが、ここは嫁を手にいれるため。目の前に立ち塞がる壁に立ち向かうのだった。
「その答えはたとえ神であろうと持ち合わせてはいない。もし答えがあるのだとしたら、それはお前の中にあるであろう」
「私の中に……」
タナカの言葉にわずかに反応するアイサ。しかしまだアイサの心を動かすことはできない。タナカは自分の中にある知識を総動員させる。
「いまのお前のように大きな罪を背負ったものを幾人も知っている。ある者はお前よりも年若く、ある者はお前より弱き者だった。あるいはお前よりもっと深い罪を背負うものもいた」
アイサがタナカの言葉にじっと耳を傾けている。
「皆が悩み、悔やみ、心を砕き、自らを傷つけていた。俺の言葉は届かず、差しのばした手も取ろうとはしなかった」
アニメやゲームの登場人物なので当然である。
「彼らは自ら答えをだし生きる道を選んだ。答えを出して終わりというわけではない。それからも罪はのしかかり続け自身を苦しめ続けるだろう。それでも生きることに道を見出したのだ」
昔見た好きなキャラクターに思いをはせる。今度脳内で懐かしいアニメの試写会を開くことを誓う。
「お前は自分が手にかけた者たちのことを考えたか? 彼らはなにを望む? なんのために死んでいったのだ? 彼らはお前の死を望むのか。お前を殺すために戦ったのか? 違うであろう」
アイサはなにも言わない。ただタナカの言葉を聞いている。
「彼らは大切な者のために戦ったのだ。親、妻、子。愛する者たちが幸せに生きていける世を創るため、命を懸けたのだ。ならばお前は生きねばなるまい。死んでいった者たちの代わりに、残された者たちが生きる世を創らねばならない。お前は王なのだから!」
タナカはアイサを見つめる。彼女の瞳に強い意志が宿り始めたのを感じた。タナカはイケると手ごたえを感じる。おもむろに歩を進める。夕日に向かいカッコイイポーズをとる。
「そして死んでいった者たちが夢見た世を創りあげたとき初めてお前は死ぬことを許されるのだ。いやそこからお前の人生が始まるのだ。その時こそ――」
このときタナカは勝利を確信していた。キリっとしたイイ顔で振り向き最後の言葉を放つ。
「俺の愛に応えるときだ! キャッキャウフフな未来をともに歩んでいこうではないか」
そしてタナカは再び思い知る。世界がタナカに優しくないことを。
「……」
すでにこの場にはタナカ独りだった。しばらくして再起動したタナカはとぼとぼと館に戻る。自室に戻る途中でなにやら人が集まっている。その中心にはアイサがいて先ほどまでとは違う覇気がみなぎっていた。
アイサはタイサ、ショウサと抱き合っている。ともに力を合わせ西部を立て直そうと盛り上がっている。その後も感動の名場面的なドラマが繰り広げられていた。
「あの……、話はちゃんと最後まで聞いてほしいんですが……」
震える声で抗議するタナカだったが、その小さな声は誰の耳にも届くことはなかった。
名前:タナカ レベル:30 経験値:720/3000 ギルドランク:E
体力:4.4e13/4.4e13 魔力:6.6e13/6.6e13
力:4.4e12 器用さ:4.6e12 素早さ:4.9e12 賢さ:5.9e12 精神:6.2e12
スキル:剣(2.33) 魔法(2.38) 信仰されし者(6.68) 竜殺し(5.69) 精霊主(0.20)
装備:剣 格好いい服 黒いマント
お金:4548000G
名前:スケ レベル:21 経験値:13/2100 ギルドランク:E
体力:246.00/246.00 魔力:311.00/311.00
力:131.00 器用さ:129.00 素早さ:180.00 賢さ:154.00 精神:158.00
スキル:矛(1.32) 魔法(1.36) 竜殺し(5.36) 信仰されし者(3.21)
装備:大鎌 黒いローブ
お金:100000G
名前:カク
体力:4096.00/4096.00 魔力:4096.00/4096.00
スキル:人化(10.00) 魔法(10.00) 大魔法(1.03) 使徒(0.20) 信仰されし者(2.43)