第二十二話 蹂躙Ⅲ
「なっ、何なんだ一体……」
物見台で唖然としている将軍。それは無理もないだろう。同盟軍の東側への逃走を阻むため、両翼を伸ばしていた共和国軍。その中央の軍を巨大竜巻が丸呑みしてしまったのだから。
その隣では将軍ほどではないが、やはり驚いて竜巻の去った現場を見つめているブルータスがいた。
「どうやらあの化け物どもは、風系最上位レベルの魔法を使ったようですね。まさに伝説に違わぬ恐ろしい威力です」
現在、一般的に手に入る魔法は第五位まで。一部の権力者や優秀な術者が伝え続けているのが第三位まで。そして第二位以上は人間たちの間では失われており、伝説として物語などで語り継がれていた。
いま共和国軍を襲った魔法は、まさに伝説に語り継がれる上位魔法にひけをとらぬ一撃だった。ブルータスは驚き以上に、この現象を引き起こした化け物たちに興味をもつ。
「そ、そうだ。ブルータス殿! ドラゴンだ! ドラゴンを奴らにぶつけるのだ!」
通常の用兵ではどうすることもできそうにない敵の出現。将軍はその打開のためドラゴンの力に頼ろうとする。
たしかにドラゴンの力は強力である。しかしあの化け物たちはそれをはるかに超えた存在だろう。いまある共和国軍の戦力ではあの化け物たちには勝てない。ブルータスはそれが解っていながら将軍の命令に従う。そもそも将軍の命令を拒絶する権限は自分にはない。なによりあの化け物たちに興味が湧いたのだ。
同盟軍を上空から攻撃していたドラゴンを一匹、化け物たちのほうに向かわせる。戦力を出し惜しみできる相手ではない。しかしすべてのドラゴンを向かわせたところで、先ほどの魔法で全滅させられるであろう。ならばその力を効率的に消耗させるのみ。
将軍からなぜ1匹だけなのかと怒鳴られたが、策を手短に話して納得させる。あれほどの上位魔法をそう何度も使えるとは思えない。あの化け物たちを止める手立ては、まず魔力を枯渇させる。その強力な魔法を封じた上で数を頼りに倒すしかない。ブルータスはそれ以外に思いつかなかった。なにより30匹以上もいるドラゴンたちとの連戦。果たしてあの化け物たちがどう戦うのか非常に興味深かった。
この場から遠ざかろうと移動していたタナカたち。最初に敵の接近を感知したのはカクさんだった。
「おい、なんか来やがったぜ。ありゃドラゴンみたいだな」
「まじで? ドラゴンとかやばくね? ……やっぱめちゃくちゃ強かったりするんだよな?」
ドラゴンと聞いてちょっと興奮したが、まずい状況をすぐに察しドラゴンについて確認するタナカ。カクさんがたんたんと説明してくれるが、やはりその力は脅威でしかなかった。そうこうしているうちにドラゴンが上空からブレス攻撃をしかけてくる。
「きっ! 緊急回避!!」
カクさんは変身を解き、いつもどおりタナカの頭上定位置におさまる。タナカとスケさんはドラゴンから次々と放たれるブレス攻撃を回避していく。
「スケさん! どうにかできるか?!」
「無理でござる! これだけ遠距離だと、拙者の基本攻撃魔法の威力は殺されるでござるよ!」
タナカは回避しながらもスケさんと現状打開について検討しあう。しかし、スケさんの手札では打開できそうになかった。
「もう一枚カードを切るしかないか……。こんな大勢が見ているところで使いたくないが仕方ない――」
タナカは覚悟を決めるとカッコイイ体勢をとり、自身で魔法攻撃に移る。
「古より封印されし魔獣どもよ。我の前に立ち塞がりし敵を喰らいつくせ!」
そう言い放つと投石魔法を懸命に連射するタナカ。旋回しながらタナカたちを攻撃しようとしていたドラゴン。そのドラゴンに超音速で飛来した岩石が炸裂する。その身体じゅうから小規模な爆発が、止むことなく続く。頑強な天然の鎧、鱗に覆われたドラゴンの表皮が、見るも無残に破壊されていく。未知の攻撃を回避しようと、より高速で飛翔するドラゴンだったが、その努力も無駄に終わる。ほぼ時間差なく、超音速で飛来するタナカの投石魔法は、たとえドラゴンの飛行能力をもってしても回避不能の攻撃だったのだ。
タナカは命の危機に、一生懸命に攻撃を続けていた。そんなタナカにスケさんが声をかける。
「タナカ殿。この距離ならば、わざわざ力を抑える必要はないのではござらぬかな?」
「……」
タナカは攻撃を続けながらも、キリッとした表情で振り向くとスケさんに応える。
「ちょっと敵の強さを計りたくてな。しかしそこに気が付くとは、スケさんも成長したな」
「そうでござるかな」
ほめられてちょっとうれしそうなスケさんだった。タナカは再びドラゴンに向き直ると、恥をかきそうになった恨みを込めてドラゴンに強めの投石魔法を放つ。
「次元開放爆烈波!」
飛翔していたドラゴンが爆散する。いくつもの残骸が無残にも空を漂い落ちていく。
「こんなとき一部の地域で『汚ねえ花火だ』みたいなことを言う風習があります。しかし、ライバルに差をつけられたり、ラスボスクラスの敵に殺されたり、いろいろ危ない目にあう可能性があるのでやらないように! ただしだれかの恋人を寝取って、嫁を手っ取り早く手にいれたい人はそれもありです。その場合は髪の生え際が急激に後退するのできちんとメンテナンスして、死亡フラグをがんばって回避してください」
「わかったでござる」
「まじかよ」
タナカは爆散後を指さしながら、スケさんに世の中の厳しいルールを教授する。いつのまにか人化していたカクさんは角刈りの生え際を気にし始めていた。
「……」
将軍は物見台からドラゴンが爆散した後を、言葉もなく唖然と見つめていた。その隣でブルータスは冷静に状況を整理していた。
当初、敵はドラゴンに対し小規模な魔法で攻撃していた。先の竜巻よりはるかに劣るが、それでも強力な未知の魔法だった。ドラゴンの身体中で爆発がおこり、その強靭な天然の鎧を破壊していった。しばらくその状況が続き、やがて大きな爆発でドラゴンは倒された。
おそらく敵はドラゴンが強化されていることを、いち早く見抜いたのだ。小規模な攻撃でその力を計り、やがて必要最小限の一撃で勝負をきめた。
あの化け物たちは強大な力を持ちながらも、その力を驕ってはいなかった。驕りがあればそこから何がしかの新しい打開策が見つかったかもしれない。しかしその目論見はもろくも崩れ去った。あの化け物たちは冷静に、的確に判断して戦っている。
あの化け物たちのやっかいさを改めて思い知ったブルータス。しかし手ごたえもあった。効率的な戦いを行っているということは、その力に限りがあるがゆえに力を抑えている可能性が高い。当初の目的通り敵の魔力の枯渇を狙うのはありだと考える。しかし先ほどの爆発魔法。あれであれば30匹のドラゴンとの連戦を、余裕で切り抜けられそうな感じがする。
しばらく考えたブルータスは作戦を変更する。魔力枯渇には数が足りないと判断した。ならばドラゴンの強靭な生命力にかけて肉弾戦を挑む。至近距離で戦い、強力な魔法を封じるのだ。そのためにはまず近づかなくてはならない。
同盟軍を空から攻撃していたドラゴンを、全てこちらにまわすブルータス。最初に放たれた竜巻の範囲に入らない距離でドラゴンたちを旋回させる。まずは四方から四匹のドラゴンを最短距離、最速で敵へと接近させる。
どれかが敵に到達できればよし。強大な魔法が使われたら、タイミングをみて第二陣を放つ。いくらあの化け物でも強大な魔法を放つには時間がかかるはず。なんとしても敵との接近戦に持ち込む。これがブルータスの出した結論であった。
「おいおい、どうなってんだ。またドラゴンが来やがったぜ。しかもなんか企んでそうだ」
遠い距離でタナカたちの周りを旋回しているドラゴンを見ながら、カクさんが警戒する。
「それにしてもなんか変だな。ちょっと普通のドラゴンじゃないぜ」
カクさんがその知識と経験からドラゴンの異常さに気づく。
ドラゴンはかなり知能は高いが、あれほど統率された動きはしない。なによりその動きが普通のドラゴンよりはるかにいい。
タナカがその空気を察して返事をする。
「ああ、わかってる。あのドラゴン……、病気だな」
「……」
手を顎に当てキリッとした顔でそう結論付けるタナカ。自分が言おうとしたこととは全然違うことを、自信満々に話すタナカになにも言えないカクさんだった。
「俺もなんかおかしいと思ったんだよ。なんか無茶苦茶弱いし。しかし竜殺しスキルは伸びている……」
そこで言葉を区切り、ニヤリ顔になるタナカ。
「……これはチャンスだな。カクさんの魔法に問題がでた今、頼みの綱はスケさんだ。そしてここでうまくやればスケさん無双化計画は大きく前進するだろう……クックック」
そういってる間にドラゴンたちも動き始める。四方から高速でこちらに向かい接近し始めたのだ。
「よし! スケさん無双化計画発動! 俺が投石で削りまくる。スケさんは弱ったヤツラを刈り取れ! スケさんに最強の竜殺しになってもらう!」
「大丈夫でござろうか……」
タナカは前もってスケさんに加速魔法をかけると、四方の敵に投石魔法を連射し続ける。四方からせまるドラゴンたちは爆発にまみれながら高速で飛翔し続ける。ようやくタナカたちの元にたどり着いた頃には全身ボロボロであった。
ここでようやく接近戦にもつれ込むかと思いきや、タナカのやや強力な投石魔法が発動。ドラゴンの四肢と翼を吹き飛ばす。移動ができなくなったドラゴン4匹にスケさんが襲いかかる。涙ぐましく首だけで挑んでくるドラゴン。
本来であれば時間がかかったであろうが、すでにドラゴンはその強靭な鎧を失っている。ボロボロの身体をスケさんの大鎌が次々と切り刻んでいく。1匹1匹順番に狩られていくドラゴンたち。すべてのドラゴンの首を切り落としたところでタナカが訊ねる。
「どうだスケさん? 竜殺しの力は手に入ったか?」
「成功でござるよ。実際1匹倒すたびに、攻撃が楽になっていったでござる」
スキルも無事手に入り、実際効果も現れたようだ。満足して笑い声をあげるタナカ。
「フフフ……、ハーッハッハッハッハ! やった! やったぞ! これでチームタナカの戦力はうなぎのぼりだ!」
笑い声を上げ続けていたタナカだったが、しばらくして落ち着くと決めポーズをとって世界に宣言する。
「世界よ……。我らが至高の座へ到達するため。喰らわせてもらうぞ! ……ドラゴンの力!!」
スケさんとカクさんも同じポーズで並び、ドラゴンを待ち受けるのだった。
名前:タナカ レベル:25 経験値:2220/2500 ギルドランク:E
体力:3.9e13/3.9e13 魔力:5.5e13/5.5e13
力:3.9e12 器用さ:3.8e12 素早さ:4.0e12 賢さ:5.2e12 精神:5.3e12
スキル:剣(2.33) 魔法(2.34) 信仰されし者(1.51) 竜殺し(2.71) 精霊主(0.19)
装備:剣 格好いい服 黒いマント
お金:4548000G
名前:スケ レベル:13 経験値:939/1300 ギルドランク:E
体力:168.00/168.00 魔力:232.00/232.00
力:81.00 器用さ:79.00 素早さ:114.00 賢さ:96.00 精神:99.00
スキル:矛(1.05) 魔法(1.34) 竜殺し(1.98)
装備:大鎌 黒いローブ
お金:100000G
名前:カク
体力:4096.00/4096.00 魔力:4096.00/4096.00
スキル:人化(10.00) 魔法(10.00) 大魔法(1.03) 使徒(0.19)




