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タナカの異世界成り上がり  作者: ぐり
旅立ち編
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第二話 秘めたる力

 第一話で登場したキラキラネーム(笑)の美少女たちは今後登場する予定はありません。

 プリン王国王都――ホワイト将軍邸宅に奇妙な客人が招かれていた。客人の名前は田中太郎(仮)。数奇な運命に導かれたのか。異世界よりやってきた一見普通のオッサンである。現在、応接間にてホワイト将軍と向かい合っていた。


「とりあえず楽にするとよい。とくに危害を加える気もないし、ここにおればとりあえず危険はないじゃろう」


 そう言って安心させるように笑顔をつくり田中に席を勧める。田中も若干遠慮しながらも勧められるがまま席に着くのだった。


「さて……、わしのほうはお前さんの事情をある程度予想できておる。お前さんは現状を理解できておるかね?」


 早速、ホワイト将軍の主導で話が始まる。田中は首を横に振りながら答えた。


「いいえ、正直いって混乱しています。できればいろいろとお聞きしたいのですが……。主に身の安全面の情報を……」


 申し訳なさそうに提案するのは悲しき小市民の性か。しかし田中は遠慮せず情報を得ようとする。そこにはなんとしても危険を回避しようという田中の臆病さが垣間見えた。この漢、実にチキンである。


「いいじゃろう。まずわしじゃがここプリン王国で軍人をしておるホワイト将軍じゃ。まあ畏まらず爺さんとでも呼んでくれてかまわんよ」


 ホワイト将軍はかなり砕けた感じで話をしてくる。それに対し田中も元来ずぶとい性格なのか。はたまた将軍の人柄のなせるわざなのか。将軍の態度にあわせて砕けた応対になる。


「わかったよ爺さん。それにしてもプリン王国か……って全然知らねえ! あえて何か言うとすればなんかおいしそうな名前だな。そしてひそかにエロスの気配がする」


 田中にとって聞きなれない国の名だった。とりあえずプリン王国について感想を述べてみる。最後にキリッとした表情で馬鹿なことを付け加えたところに田中の本質、愛すべき馬鹿な性格がにじみでていた。


「なんじゃいそりゃ。それに自分で言っておいてなんじゃが、お前さんずいぶんと遠慮のない性格じゃのう」


 ホワイト将軍は田中の態度を特に気にした風もない。むしろ楽しそうに会話を続ける。どうやらこの二人、かなり相性がよかったようだ。


「まあ、小心者なんだけど限界を超えるとどうでもよくなって、むしろ腹がすわるかな。それはいいとしてまだ名乗ってなかったな。俺の名前は田中太郎(仮)、名字が田中。まあ畏まらず太郎とでも呼んでくれ」


 先ほどの将軍の言葉を返すかのように自分の名を名乗る。そのとき左手を顔にそえ、指の合間から流し目気味の視線を向けながら言い放ったことに深い意味はないだろう。あえていうなら厨二病。


「ほう、名字があるのか。まあいい、それではお言葉に甘えて気軽にタナカと呼ばせてもらおう」


 とりあえずホワイト将軍は田中の変なポーズを無視した。そしてなぜか田中の要望の名ではなく、名字のほうで呼んでくる。


「……いや太郎って言ったじゃん!」


 田中は素になり思わずツッコミをいれてしまう。


「なんか呼びにくいのう。むしろタナカってほうがお前さんにぴったりな感じがするんじゃが」


 将軍はニヤリと笑いながらそんなことを言ってくる。


「なんだよそれ……ハァ、別にいいよ。勝手に全国の田中さんを代表して田中でいいよ!」


 若干やけ気味で拗ねたように了承するタナカ。


「ゴホン、それでじゃタナカ。お前さんはおそらく勇者召喚によって異世界からやってきた。そうわしは思っておる」


 将軍は気を取り直し話を始める。その内容は田中にとって衝撃的な内容だった。


「異世界から? なるほど! つまり俺にとってここは異世界ってわけか。って勇者召喚ってなんじゃそりゃ!」


 勇者召喚というあまりにも厨二的弩ストライクな単語。タナカは思わず大きな声をあげる。


「勇者召喚とはその言葉のままじゃよ。異世界から勇者を召喚する儀式じゃ」


 タナカとは違いおちついたまま将軍が答える。


「いまこの国はいろいろと面倒事をかかえておっての。それを打開するために勇者の力を借りようとしたわけじゃ……なんともなさけない話じゃがな」


 これまで将軍は勇者召喚について反対の立場をとり続けてきた。しかし結局はとめることができず勇者は召喚されてしまう。そして今、目の前にさらなる犠牲者がいるのだ。若干暗い翳を顔ににじませながら答えるしかなかった。


「つい先ほど勇者召喚の儀が行われたんじゃが……。これがかなり準備不足でのう。無事に勇者は召喚されたのじゃが、いろいろトラブルが発生してしもうた。おかげで今この国は大騒ぎじゃよ。とりあえず勇者には城に控えておいてもらい、今は騒ぎの収拾に専念しておる」


 将軍は現状を端的に説明する。


「ふーん……ってちょっと待った! 召喚された勇者って俺じゃないの?」


 タナカはそれまでだまって話を聞いていた。しかし自分の予想と若干の違いが生まれたため横やりをいれる。


「うむ、なかなか優秀そうな少年じゃったぞ。実際かなりの力を秘めておったよ。とりあえずお前さんは違うんじゃないかの。儀式の間に現れなかったし、大方強引な召喚のあおりを受けて巻き込まれたんじゃないかのう」


 将軍はさも当然といった風にそう結論を出す。


「なんでだよ! たしかになんか召喚っぽいのが起こった後に、唐突に穴に落ちただけっぽかったけど……でも俺も勇者かもしれないじゃん?」


 何度もいうようだがタナカはいい歳して若干厨二病をわずらっている。そのため願望のこめられた異議を強めに唱えた。そんなタナカとは対照的に落ち着いた態度で将軍は答える。


「そんじゃ確かめてみるか? お前さんら異世界人には信じられんことのようじゃが、この世界では自分の情報を明確に知ることができる。それを確かめればお前さんが勇者かどうかわかるじゃろう」


 将軍は異世界特有の事象を説明する。その内容はタナカにとってかなり興味を惹かれるものだった。


「なにそれ!? すげえー! って異世界人の俺もそんなことができるの?」


 タナカはファンタジーっぽいことに興奮していた。しかしはたして他の世界からきた自分に可能なのかという疑問が生まれる。そんなタナカの疑問に将軍は答えてくれた。


「うむ、この世界は創造神の加護が生きておるからのう。この世界にやってきた時点でお前さんも世界と契約されているじゃろう。言葉が通じておることがなによりの証拠じゃ。それにしてもお前さんら異世界人はなんの加護もなしに生きておるそうじゃが、わしらにとってはそちらのほうが驚きじゃわい」


 タナカの疑問に答えながらも、この世界の住人である将軍は地球の環境のほうこそ信じられないといった風に答える。タナカはそんな将軍の感想などまったく気にしない。そして興奮を抑えられず問い詰める。


「それで! どうやればいいんだ?」


 タナカは身を乗り出して将軍にせまる。そんなタナカの様子に将軍は動じた様子もなく端的に答えた。


「うむ、意識を集中して自分の情報を見ようと思えば確かめられるはずじゃ」


 将軍からやり方を教わり早速確認を始めるタナカ。かなりの興奮状態だ。


「よーし! 集中集中! こい! われに封じられし暗黒の知識よ。いまこそ我にその全貌を明らかにせよ」


 興奮が臨界点に達したのか厨二病が発症する。タナカの口から痛々しい台詞が垂れ流され始めた。


「なに言っとるんじゃい……」


 興奮ぎみのタナカとは対照的にあきれる将軍。それをよそにタナカはいままで経験のない不思議な感覚で自分の情報を知覚した。


「おおー! なんかわかる! わかるぞーーー! ふわっはっはっは!」


 テンションがあがりまくりのタナカ。そんなタナカに将軍は冷静にアドバイスする。


「それじゃあその情報にある能力値を教えてくれんかね。それで勇者かどうかだいたいわかるじゃろう」


 将軍の言葉に現実に戻ってきたタナカは内容の確認を始める。


「わかった! フッフッフ、驚くなよ……まずは名前はタナカ! ってタナカだけかよ! 太郎はどこいったんだよ!」


 ハイテンションなままタナカは世界に向けてツッコミをいれる。


「まああれじゃろのう。さっきわしがタナカがいいと言ったとき、お前さんが了承したじゃろう。そのとき名前が定着したんじゃと思う」


 将軍は悪ぶれた風もなく淡々と答える。


「じいさんのせいかよ! ……いや、俺が認めたんだし俺のせいだよな。うむ、まあタナカで問題ない」


 将軍にツッコミをいれるタナカ。しかし若干おちつき思い直すと気を取り直し次を読み上げる。


「レベル 1!」


「まあ当然じゃのう。勇者であってもなくても最初は1じゃろう」


 将軍の反応は薄い。


「経験値 0/100!」


「それも同じじゃ」


 テンションの高いタナカとは違い、淡々と答え続ける将軍。


「体力と魔力 1.0e13!」


「は?」


 それまで調子よく返答していたが、ここで将軍の変な声がストップをかける。


「だから、体力と魔力 1.0e13!」


「ちょっとまてい! なんじゃい、その『イー』って?」


「アルファベットのeだよ!」


「なんじゃそりゃ? なんでそんなものがあるんじゃい!」


「知らねーよ! なんかあるんだからしかたないだろ……ん? なんかこんな感じの数字見たことあるような? なんだっけ……」


 お互い興奮して言い合っていたがここでタナカが考えにふける。しかしその見たことあるような数字についてなにも思い出せない。


「まあなんじゃ。お前さんかなり変則的な状況でこの世界にやってきたからのう。なんか問題があるのかもしれんの」


 将軍が落ち着きを取り戻し、とりあえずそれなりの答えを口にする。


「えー? なんかいやな感じだなそれ」


 異世界のファンタジーな出来事に興奮してたタナカだったが、ここで若干テンションがさがってしまう。


「まあ数字はあるんじゃろう。そのわけの解らん文字の部分は取っ払って数字だけ答えてくれい」


 とりあえず続けようと将軍が話を進める。


「わかった。体力と魔力 1.013!」


「……」


 それを聞いたとき将軍はタナカをなんともいえない表情で見つめた。


「……な、なに?」


 将軍の反応に期待しつつ聞き返す。


「その値、赤子なみじゃぞ……」


 タナカのテンションはこれでもかといわんばかりに急降下する。


「一般的な男性が成人したときの値が平均50くらいなんじゃが……、とりあえず他のはどうなっとるんじゃ?」


 将軍はとりあえずすべての情報を確認してみようと催促する。そしてタナカは沈んだ口調で答えていく。


「力、器用さ、素早さ、賢さ、精神 1.012……」


「……それらは平均じゃと5くらいじゃ。才能のあるものは8とか9ある場合もあるのう」


「……」


 タナカがうつろな表情でたたずんでいる。そんなタナカに留めとばかりに将軍の言葉が突き刺さった。


「ちなみに勇者の体力と魔力は200、他の能力は20以上が相場だったかの。しかし今回の勇者の少年はかなりすごかったのう。体力と魔力は400、他の能力は50くらいじゃったよ」


 突然タナカが立ち上がる。そして天に向かって吠えた。そんな奇行を将軍はだまって見つめている。


「なんじゃそりゃあ! ずりいだろうそれ? なんだよ俺の能力値は? 赤子なみ? 異世界の赤子は化け物か!」


 当初タナカは異世界に期待が膨らみに膨らんでいった。そしてそれが頂点に達した後、タナカにとっては厳しい話がだんだんと続いていったのだ。その落胆は相当なものだったのだろう。堰を切ったようにタナカの中にたまった怒りが噴き出していった。


「まあまあ落ちつけ。というか何気に失礼なやつじゃな。この世界の赤子は普通にか弱いぞ。お前さんがダメすぎるだけじゃ」


 将軍はとりあえずタナカを落ち着かせようと話しかける。しかしタナカは収まりがつかない。


「なんだよそれ! 俺の時代キター! と思ったら俺以外の時代が来てるよ! っていうか俺だけダメなのかよ! ……そうか、俺がダメなのか……」


 怒りが噴き出した後、またもおとなしくなり力なく席に腰を下ろす。


「まあなんじゃ、とりあえず今後のことについてもいろいろ相談しようじゃないか、なあ?」


 どん底まで落ち込んでしまったタナカ。そんな彼に将軍はやさしく声をかけることしかできなかった。


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[一言] タナカとタロウ、果たしてどっちの方が多いのやら
[気になる点] eを知らないのか...(困惑) 例の素数臭い雰囲気がしてきたぞ
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