第十七話 魔法Ⅲ
魔法修行に出発する前。タナカはナナシの街で情報を集める。タナカが求めるのは大きめの洞窟。ついでに言うと壊してもいい洞窟。酒場やギルドで情報を集める。魔物領を北上した場所。そこに魔物の巣窟となっている洞窟が点在していることがわかる。魔物がいるのは余計だ。しかしここであまり時間を使いたくない。仕方なくその場所に決める。
修行場所も決まり、早々に旅の準備を整えると、タナカとスケさんは魔物領の北へと旅立つ。道中、魔物を狩ってスケさんのレベルアップを図る。しばらく進むと僅かに草木の残る岩場に到着する。タナカたちは辺りを探索して洞窟を探し始める。洞窟はすぐに見つかり、早速修行を始めようとするタナカ。
「洞窟に入らないでござるか?」
スケさんは洞窟から離れ始めるタナカを不思議がる。タナカはニヤリ顔で離れ続ける。
「ああ、近すぎると危ないからな。まあ見ていてくれ」
そのまま洞窟から離れた場所までくる。そこでタナカは修行を始める。
「修行が伸びに伸びていたおかげで、いろいろと構想が練れた。フフフ、呪文を調整するだけと思ったら大間違いだぞ。我が新たなる攻撃呪文を創り出してくれるわ!」
タナカは徐に洞窟を見据える。自称カッコイイ構えをとると、投石の魔法を放つ。巨大な岩石が高速で洞窟の中に消える。その後、辺りに地鳴りが響き渡る。
「いっ! いまのはなんでござるか?!」
スケさんは目の前で起こった現象に驚く。我に返るとすぐにタナカに質問してくる。
「いまのは第九位魔法の投石だ。制御が未熟なおかげで、こんなトンデモナイ状態なわけ」
タナカはあいかわらずな投石魔法に溜息をつく。しかしスケさんは肯定的な感想を述べる。
「未熟というか、これはこれですごいのではござらぬか?」
タナカも確かにすごいとは思っている。しかし彼はいつまでも小心者の心を忘れない漢だ。保身の面から厳しい意見を出す。
「いや、これでは標的が間近だった場合、自分まで爆発に巻き込まれてしまうぞ。狭い場所では使えないし、広い場所でも味方を巻き込みかねん」
岩石の破片が飛んできて、自分の頭に直撃する様を想像し震えるタナカ。スケさんも巻き込まれた自分を想像してみる。
「たしかに拙者も巻き込まれたくないでござるな」
先ほどの強大な岩石を思い出し、ぞっとするスケさんだった。
「というわけで調整が必要なわけだ。しかし調整だけではないぞ。ついでに改良もくわえる。まず岩石を小さくする。そして同時により高速で放てるようにするのだ。もともとの物理的な衝撃に咥え、摩擦で炎属性も追加するのだ。さらに研究すれば、摩擦で消滅させることもできる。狭い場所でも使えるようになるぞ。ククク」
タナカの厨二的な構想は膨らみ続ける。スケさんはよく解らないのでとりあえず黙っていた。しばらくするとタナカが現実に戻ってきて、スケさんに今後のことを提案する。
「まあとりあえずはひたすら打ち続けるのみだ。試行錯誤な俺カッコイイなわけだが、その間はスケさん暇だろう? 魔法を覚えてスケさんも修行してみてはどうだ?」
そういうとタナカは第十位魔道書と契約書を取り出して、それらをスケさんに渡す。
「おお、これが魔道書でござるか。それじゃあ遠慮なく使わせてもらうでござる」
興味深そうに魔道書を受け取るスケさん。どうやら魔法を使ってみたかったようだ。
「ちなみに俺は点火と生水を覚えている。他のを覚えてもらうとありがたいかな」
結局、スケさんが契約したのは気流と盛土だ。気流は空気をある程度自由に操る魔法である。まだ春でそれほど暑くはないが、今後の暑さ対策にできないかとタナカは期待している。盛土は土を操り盛り上げる魔法である。工事や農業などで使われる魔法だ。特に使い道はないが、タナカが面白がって契約させただけである。
こうしてタナカは魔法制御を会得するため、ひたすら洞窟に投石していく。洞窟が潰れると新たな洞窟に移動し、また投石し続けるのだった。ときどき経験値が増えるのは、そこが魔物の巣だった場合なのであろう。なんだか当たりくじをひいたようで、気分がよくなるタナカだった。その傍らでスケさんは空気を操ったり、地面を盛り上げたりして遊んでいた。
そんなある日。あいかわらずタナカは投石し続けていた。しかしどうも落ち着かない。スケさんが正座をして、じっとこちらを見つめているのだ。
タナカは延々と魔法を使い続けられるのだが、スケさんはそうはいかない。魔力が尽きれば回復する必要があるのだ。その間スケさんは、ぼうっとタナカの修行を眺めている。その状況にタナカがついに我慢できなくなり、スケさんに相談する。
「スケさん。そうしてると、なんかすんごく気が散るんだけど……」
「そうはいっても魔力が尽きて何もすることがないでござるよ」
いつまでも小心者の心を忘れない漢の悲しい性か。ストレートにこっち見んなとはいえないタナカだった。
「うーん、そうだ! こういうのは定番の魔法があるはず」
そう言ったかと思うと、アイテムボックスから魔道書を取り出す。そしてページをめくり、なにやら必死に探し始めるタナカ。スケさんはすでに慣れたもので、そんな状態のタナカには口を挟まず、じっと待っている。
「あった、魔力転送! しかし第八位魔法か……。よーし、魔法の制御は後回しで、まずはスキルアップを優先だ。まってろスケさん!」
そういうが早いか、再びカッコイイポーズで投石魔法を連射しはじめる。
「フハハハ! 難しいこと考えずに、打ちまくるのは気持ちがいいなあ! テンションあがってキター!」
いままでとは違い、実に楽しそうに魔法を打ちまくるタナカ。とりあえずどうしようもないので、スケさんはそのすさまじい光景を眺めているしかなかった。その後、タナカは笑い声をあげながら、延々と連射し続けた。
やがて三日後には魔法スキルがあがる。異常な成長だがまったく気にしないタナカ。スケさんもそれが普通だと思って、平然と受け入れている。第八位魔法の契約が可能になったので、早速タナカは魔力転送魔法とついでに加速魔法を契約する。
「ムフフ、加速魔法でスケさん無双伝説がはじまるな。おっとこれはとりあえず置いておこう。では魔力転送を試すとするか」
「わかったでござる」
あらかじめスケさんには魔法を使い続けてもらい、魔力が空の状態。タナカは慎重に魔力を制御する。いままでの訓練を生かし、かなり力を抑えて魔法を発動する。
「マナトランスファー」
「ぐふっ!」
スケさんがなにか衝撃を受けたようふらつき膝をつく。それを見て慌てるタナカ。
「スケさん! どうした? 大丈夫か?」
大したことはないと手を挙げ、立ち上がるスケさん。
「突然のことで驚いただけでござる。それにしてもかなりの衝撃でござった。……おお、魔力の方は満タンでござるよ」
本当に大したことはなかったようで、魔力転送の成功を確認して喜んでいる。一方、タナカの方は怪訝な表情だ。
「とりあえず一安心だが……。俺の方は相変わらず魔力が減ってないな。もうこれは表示をあてにはできないということか。それとも特異体質で魔力消費がされないとかか? どちらにしても魔力に関しては、今のところメリットだけなのでよしとするか」
改めて自分の能力の不可思議現象について考え込む。しかし考えたところで答えがでそうにない。すぐにあきらめ修行を再開することにする。
そこから修行の内容は若干変更され、タナカが投石の制御訓練、ときどきスケさんに魔力転送。スケさんは魔力転送をうけて、延々と生活魔法で遊び続ける。
約束の一週間も過ぎようとした頃。タナカの新投石魔法は完成した。スケさんも丁度スキルがあがり、第九位魔法の基本攻撃魔法四種と回復魔法、治療魔法を契約。レンタルDVDを延滞するかのごとく、かるい気持ちでそのまま修行を続行した。ちなみにタナカが過去なんのDVDを借りていたかは、超極秘事項である。
スケさんが新しく覚えた魔法を調整しつつ、タナカの加速魔法もスケさんに試してみる。とりあえずこれは実戦の面はもとより、修行にも使えそうだった。思わぬ収穫に喜ぶ。その後、お互いが持つ手札を確認しつつ、戦術をいくつか考え出す。カッコイイ立ち位置、二人でバランスよくとるカッコイイポーズとタナカに妥協はない。そんなこんなで約束の期日を堂々とやぶり、なんとか満足のいく結果を得て修行を完了させる。
「フフフ、予定より時間はかかったが、なんとか戦力の増強は成ったな。まあ期間は一週間ほどということだったし一日や二週間の違いくらい大目にみてくれるだろう」
「なんだか単位がおかしい気がするのでござるが」
こうして今回の修行は終了となる。二人はすぐに準備をして旅立つ。来た時と同じように、実戦訓練もかねて魔物を狩り続ける。スケさんが魔法を使えるようになり、かなりの戦力アップだった。今回の修行の成果に満足しつつ、のんびりと帰還する。
そんな二人がようやく街へ着こうとしたころ。遠くに見える街から煙があがっているのが見えた。その上空にはまるで獲物に群がるアリのように、たくさんの影が飛び駆っていた。
名前:タナカ レベル:23 経験値:1257/2300 ギルドランク:E
体力:3.7e13/3.7e13 魔力:5.1e13/5.1e13
力:3.7e12 器用さ:3.6e12 素早さ:3.7e12 賢さ:4.9e12 精神:4.9e12
スキル:剣(2.33) 魔法(2.14) 信仰されし者(1.49) 竜殺し(0.51)
装備:剣 格好いい服 黒いマント
お金:4018000G
名前:スケ レベル:8 経験値:270/800 ギルドランク:E
体力:113.00/113.00 魔力:159.00/159.00
力:45.00 器用さ:44.00 素早さ:59.00 賢さ:54.00 精神:57.00
スキル:矛(0.83) 魔法(1.08)
装備:大鎌 黒いローブ
お金:100000G