第十五話 相棒
ハル皇国の西域北部。未だに開拓の最中であり、どこの街も活気にあふれていた。タナカの同行するエチゴヤ一行はそんな街々を経由しながら最北端の街に到着する。街に入り荷馬車はそのままギルドへと向かう。
「なんというか、とりあえずツッコミいれていいかな……」
タナカはギルドへと向かう荷馬車から街を眺め呟く。
「どうかしましたか? タナカさん」
エチゴヤがプルプル震えているタナカに声をかける。
「あきらかに人間じゃない何かがうろついてるんだけど! なんで皆落ち着いてんだよ!」
街を指さしながらエチゴヤに食ってかかる。その指さす方向では人々が人外なものと混ざって生活をしていた。
「面白いでしょう。この街は魔族の皆さんが働きにきているんですよ」
タナカの慌てぶりを気にした風もなくエチゴヤは笑顔で答える。
「魔族? 魔物とは違うの?」
タナカはこの世界に来てから魔物という言葉は聞いたことがあったが魔族は初めて聞いた。ちょっと興味を惹かれて尋ねてみる。
「タナカさんはあまり歴史をご存じないのですね。かつて人族以外の知性ある種が集まってできた国家が存在しました。その国の人々を総じて魔族と呼んだのです。そして1000年ほど前に戦に敗れた魔族の方々は北に追いやられました」
エチゴヤから聞いたことがあるような話を聞かされる。
「あれ? なんか人類と魔物の間に戦があって魔物を北側に追い詰めたとか聞いた気が……」
以前にタナカがホワイト将軍に聞かされた話に似ていた。しかし少し違っているようだったのでタナカは確認してみる。
「ああ、それはプリン王国がしきりに吹聴してまわった話ですね。彼らは自分たち至上主義なので魔族の方々を魔物と一緒くたにしているんですよ。おそらくそうすることで自分たちこそ正義とでも言いたいのでしょう。ですが1000年前の戦いは良くも悪くもただの国家間の戦争ですよ」
「へえ、そうだったんだ」
タナカにはどちらが真実か判断しようがなかった。とりあえずそんな話があると心に留めておくことにする。
「もともといろんな種族が集まっていたためまとまりに欠けていたそうです。その上北に追いやられてしまったので国家としての体をなさなくなりました。そして現在まで北の過酷な環境で魔族の方々は相当苦労して生活していたようです。皇国はそんな魔族領の現状を憂えてこの街の開拓に魔族の方々を雇いいれているのです」
「へえ、皇国ってなんか立派だね」
エチゴヤから教えられた皇国の対応にタナカは素直に感心してそう口にした。
「まあ表向きはそういうことにしてますが現実的なことをいうと新たな市場開拓ですね。物を輸出して労働力を輸入するといったところでしょう」
タナカのためにオチを用意したかの如くエチゴヤが内実を暴露する。
「言わなきゃよかったよ……というか素直にそうですねっていえよ! わざわざ俺に現実の汚さを確認させてんじゃねえよ! 返せ! ピュアに感心した俺の心を返せ!」
そんなタナカの叫びを無視してエチゴヤは話を続ける。
「この街から北に少し進むと小さな街ができていて魔族派遣業を核として発展していく兆しが見えてきています。まあつまるところこの辺りは発展途上でいろいろと大変なんですよ」
「つまりはアレか。俺はここでも大量の依頼の消化をしろと……」
さすがに次のオチが解りタナカは口をはさむ。
「いやあ、タナカさんは話が早くて実に助かります。詳しくはギルドについてから話しましょう」
「……」
タナカが無言のまま荷馬車はギルドへと向かっていくのだった。
タナカはエチゴヤとギルドでこの辺りのことや今後のことについて話しをする。
最北端の街はまだ正式名がないらしく皆はエチゴヤの街と呼んでいた。タナカはなにやらエチゴヤの凄さを垣間見た気がした。
エチゴヤの街の北にある魔族領の街にも名前はないらしくこちらはナナシの街と呼ばれていた。ナナシの街は魔族領であるが街として機能させるためかなりの人間が滞在している。そしてエチゴヤの街のギルドが出張所を置きさまざまな仕事を斡旋していた。
エチゴヤはエチゴヤの街で滞っている仕事を終わらせてからナナシの街に向かうことになった。そしてタナカはそれに先行してナナシの街へ向かい出張所の依頼消化をやっておくことに決まる。
こうしてタナカは手早く準備をしてひとりナナシの街へと向かった。そんな道中でタナカはなにやら争う声が聞こえたような気がした。
「これはまさかテンプレというやつか!? よしきたー! まってろ美少女。オジサンがいまいくぞ!」
タナカは張り切って声のするほうへと向かう。心の中は今後の展開で起こるであろう桃色なあんなことやそんなことでいっぱいだ。
この辺りはすでに魔族領に入っており道から外れるとでこぼこな荒野が続いていた。タナカは期待で3倍になった俊足で現場に駆けつけそこで翼の生えた美女を見つける。そのナイスバディを見た瞬間タナカの胸は高鳴る。ついでにその美女に追いかけられているガイコツも目に入る。一気に熱が冷める。
「ぎゃー! やめてほしいでござる! 見逃してほしいでござる!」
そしてなぜかガイコツは侍口調だった。美女は剣を抜いてガイコツを追い立てている。そんな状況を見てタナカはその場で立ちすくむ。プルプル震えながら言葉を絞り出す。
「いろいろツッコミどころ満載なわけだが……とりあえず返せ! さっきまでの俺のトキメキを返せ!」
タナカは天に向かって吠えた。そんなタナカの叫び声に反応してガイコツがタナカのほうへ向かってくる。
「おおー! こんな場所で出会うとは奇遇でござるな! 是非とも助けてほしいでござる!!
ガイコツは喜びながら駆け寄ってくる。ついでに剣を抜いた美女も引き連れてくる。それを見て慌てるタナカ。
「どわっ! こっちくんな! そもそもなんでお前が追われてるんだよ! 普通逆だろうが!」
「わからないでござる! いきなり襲いかかってきたでござるよ!」
タナカは放っておいて逃げようかと考える。しかし必死に訴えかけてくるガイコツが可哀そうに思えてとりあえず仲裁することにした。
「ちょっと落ち着こうか御嬢さん。まずは落ち着いて話を……ふぉっあ!」
翼の生えた美女はタナカにまで襲いかかってきた。タナカは剣を抜いて防戦する。ガイコツはタナカの後ろにまわりこみタナカを盾にしている。
「馬鹿野郎! てめえ人を盾にしてんじゃねえよ! お前はそんなんだからいつまでたってもガイコツなんだよ!」
タナカは美女の攻撃を防ぎながら後ろのガイコツに文句を言いまくる。慌てているので言っている内容が支離滅裂になっている。
「拙者さっき生まれたばかりでござるよ」
ガイコツはタナカを盾となったため少し安心したのか冷静にタナカに答える。当然タナカの後ろをキープし続けたままである。
「なにぃ! 生まれたてだと? やはりこの世界の赤子は化け物だな。というか盾にすんのやめろよ!」
タナカは改めて異世界の赤子の恐ろしさに驚愕する。そしてあいかわらず矢面に立たされ美女の攻撃を受け続けている。とりあえずタナカは荒事をおさめることにする。美女に自分は敵ではないとアピールすることにする。
「御嬢さん! ちょっと落ち着いてよ! わかった! わかったから! アレだろ? ゆとり世代とか言われて腹立っているんだろう? オジサンちゃんとわかってるから! 若者は悪くない! 悪いのはゆとり教育なんて導入した頭がお花畑の大人たちだって解ってるから!」
タナカは必死になって美女の説得を試みたがうまくいかなかった。
「聞く耳持ってねえよ! いったいお前なにしたんだ!」
タナカは美女の攻撃を受け続けながらガイコツに抗議する。常にタナカの後ろをキープしているところが憎々しい。
「何もしてないでござる。しばらく前に生まれてボーッとしてたら突然やってきて襲いかかってきたでござるよ」
ガイコツはあいかわらず襲われただけだと主張している。
「ぬぉおお! よくわからんが……いかん。いかんぞ! なにか訳があるのかもしれんがまずは理由を話さないと! っていうか俺全然関係ないよね? 盾にされてるだけだよね? なんで俺に切りかかってんだよ! せめて急所ぐらいはずそうよ!」
タナカは的確に急所を突いてくる美女に抗議する。しかし美女に変化は見られず感情のない表情でただ攻撃を加えてくるのみであった。さすがにタナカも怒りをあらわにする。
「いいかげんにしろよ! ちょっと美人だからっていい気になってんなよ! オジサンだって必死に働いてるんだよ! みんないろいろと背負ったもののために必死に働いてんだよ! 陰口とか叩いてんじゃねえよ!」
タナカの抗議がヒートアップする。ついでに過去のトラウマまで口から垂れ流されてしまう。そんなタナカの言葉をまったく意に介さず、美女は容赦なく攻撃をし続ける。
「くそっ! いいかげんにしやがれ! こうなったら必殺スケスケおしおきの術! ウォーター」
頭上に巨大な水塊が現れる。突然のことで美女の攻撃が止む。ガイコツはただ茫然としている。タナカは慌てふためく。
「ぎゃー、興奮して制御ミスったー! ブハッ!」
そして3人は激流に揉まれ流される。タナカはどうしようもないので身を任せしばらく流され続ける。水流がおさまったときタナカのそばにはガイコツだけがいた。
「さっきのは何でござるか? 拙者びっくりしたでござるよ」
すばやく復活したガイコツは緊張感のない口調で先ほどの魔法にのんきに驚き続けていた。そんなゴザル調のガイコツを無視してタナカは呟きが漏れる。
「結局テンプレ展開もなく、美女のスケスケは見れず仕舞いで、変なのが付いてきただけか……」
タナカはショックで打ちひしがれている。ガイコツはそんなタナカの呟きが聞こえたのか抗議する。
「変なの扱いはひどいでござるよ。拙者生まれたての名もなきスケルトンでござる」
ガイコツは骨だけの胸をはって自己アピールをする。
「ああそう。そんじゃお前の名前は今日からスケな」
気の抜けた状態のままタナカは投げやりに名前をつける。
「ほう。なかなかいい名前でござるな。気に入ったでござるよ」
ガイコツは適当につけられた名前をとても気に入った様子だ。かなり人柄のいいガイコツのようである。
「ああ、スケスケ美女のかわりに目にしたスケルトンを略してスケな」
空気をよまないタナカは素直に喜んでいるガイコツに名前の由来を暴露する。
「それはひどいでござるよ! 名前の由来だけは秘密にしてほしいでござる!」
必死に訴え始めるガイコツ。しかし名前はどうやら気に入ったらしく名前を変えろとはいってこない。
「ああ、わかったから落ち着け。俺はここから北にあるナナシの街ってところに向かってたんだ。そういうわけだからとりあえず街に向かおうぜ、スケさん」
こうしてタナカは相棒を得てナナシの街に向かうのだった。
名前:スケ レベル:1 経験値:0/100
体力:60.00/60.00 魔力:70.00/70.00
力:6.00 器用さ:6.00 素早さ:8.00 賢さ:7.00 精神:7.00
スキル:なし
装備:なし
お金:なし