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タナカの異世界成り上がり  作者: ぐり
旅立ち編
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第十二話 竜殺し

 ギルドの一室でエチゴヤとタナカが向かい合って座り些細な世間話をしていた。


「聞きましたか? なんでも神様が現れて街の方々を治療してまわったそうですよ」


 エチゴヤは目が笑ってないような笑顔でタナカを見つめつつ話をふる。


「へえ、それは初耳だなあ。俺朝から夕方まで魔物狩りで街にいない時間おおいしなあ。そんな話があったんだ」


 タナカはクールに目を泳がせながらエチゴヤの話に答える。


「こちらとしましても人手不足で治療は遅れてましたから大変ありがたいことだったのですが……この手の話は噂が広まって余計なもめ事を引き起こしかねないので困りますね」


 タナカから目を離さずそう話を続けるエチゴヤ。そんなエチゴヤからタナカはとてつもないプレッシャーを感じている。


「ですよねえ。まったくどこの誰だか知らないけどけしからん! 実にけしからんですな!」


 適当に憤慨してみせるタナカ。しかしエチゴヤからのプレッシャーはおさまらない。

 自分がやったことがばれてると諦めかけるタナカであったがそこでエチゴヤは目をつむりプレッシャーはおさまる。


「最近いろいろとよくない事件が多いものですから、あまり目立つ行動はとってほしくないものです」


 エチゴヤとしてはタナカの力は隠しておきたい。今後大きな事件が起きた際に切り札として残しておきたい手札なので使うにしても誰にも知られないように使っていきたいのだ。


「ですよねえ。俺も気を付けますよ。もうそれはすんごく気を付けます」


 温泉街の人々を使って魔法の実験をやってたことにかなり怒っているようだと感じたタナカはエチゴヤの意見に力強く賛同する。

 これからはエチゴヤさんの頼みは断れないなと心の中でうなだれるタナカ。

 そんな風にお互いの考えが理解できていないまま二人の雑談はなぜか問題なく進んでいくのだった。






 温泉街の復興作業も落ち着き始めたとある日。ニシの街の食堂兼酒場でタナカはのんびりと食事をとっていた。


「親父さん、なんだか最近やたらごつい客が多くないか?」


 タナカは食事をしながら酒場の親父に話しかける。酒場といえば情報のあつまる場所である。タナカはセオリーどおりに酒場の親父に聞いてみた。


「ああ、ドラゴンを倒して名をあげようって奴らがこの街に集まってきてるからな」


 親父は酒場の片隅で雑談しているグループに目を向けながらタナカに答える。その一団がドラゴンを倒そうとしている連中なのであろう。


「へえ、しかしドラゴンなんて本当に倒せるのかねえ」


 破壊された温泉街を思い出す。アレを生み出したドラゴン。人間がそう簡単に倒せるとは思えずタナカはそんな感想をもらす。


「あいつら皆Cランカーだし、それなりの力は持ってるだろうからやれるんじゃねーか。結構名前の知れてる奴もいるしな」


「ほう、そんなのが来てるんだ」


 タナカは親父の発言した内容に興味が湧く。アニメやゲームを思い出し名の売れた人物とはどんな感じなのだろうと心躍らせる。ミルクを飲みながら酒場の片隅のグループを盗み見る。


「壁際で大剣を携え寄りかかってる奴。あいつはもうすぐBランクになるって噂されてる。大剣のカレーパンって言えばかなりの有名人だぜ」


「ブッ! ゲホッゲホッ!」


 タナカは思わずミルクを噴き出してしまう。


「きったねえな! なにやってんだよ」


 親父が文句を言いながら布巾でテーブルを拭き始める。


「なんだよそれ! いやがらせか? なんか壁際で目を瞑って渋くたたずんでるオッサンがいじけて部屋の隅で涙こらえてるようにしか見えなくなっちまったじゃねえか!」


 タナカは渋いオッサンの目じりに涙が光ってる幻覚すら見えそうになる。もはやこのオッサンをまともに見ることもできなくなって親父にツッコミするしかなくなる。


「何わけわかんねーこと言ってんだよ。カレーパンっていやあかつて皇国にこの人ありといわれた剣聖の名だぜ。それにあやかってカレーパンって名をつける親がいるもんだ。大剣もその口だろうよ」


「剣聖……なんて罪作りなことをしてるんだ。せめて人間にしてやれよ。いやそれだと三枚目になってしまうな。典型的なかませキャラに……」


「なにブツブツ言ってるんだよ」


 そんな風に大剣の話が盛り上がっていたところ雑談していたグループから一人カウンターへとやってくる者がいた。


「親父さん、この店でお勧めの強いヤツもらえるかしら」


 歳は20代半ばくらいであろうか。少し強気そうな赤髪の女性が親父に酒を注文する。


「あいよ」


 親父は慣れた手つきで用意し酒が注がれたコップを渡してくる。女性はコップを受け取りながらタナカに話しかけてくる。


「ひょっとしてアナタもギルドメンバーかしら?」


 即座にシリアスモードに切り替えたタナカは無難に応対する。


「ああ、俺はタナカ。今はこの街で仕事を手伝っている」


 ミルクのはいったコップを掲げ乾杯すると女性も名を名乗る。


「私の名はホムラ。今私たちドラゴン退治のメンバーを集めているんだけどアナタも一緒にどう?」


 相手はドラゴンということで少しでも戦力がほしいといったところなのだろう。ホムラは気軽に誘いをかけてくる。


「遠慮しておこう。温泉街がドラゴンに襲われた時に街を守るため無理をしてしまってな……。怪我も治ったばかりでまだ本調子ではないんだ。今回はあんたらに手柄を譲ることにしておこう」


 大人らしく余裕の表情で誘いを辞退するタナカ。


「あらそれは残念ね。それじゃあ遠慮なく私たちが仕留めてみせるわ」


 とくに断られたことを気にする風もなく、あっさりとした態度で勝利予告をして仲間の元に戻っていく。そんなホムラにタナカが振り向きもせず背中越しに語りかける。


「ひとつ忠告しておく。ヤツは温泉街を壊滅させたほどのドラゴンだ。……気をつけろ、ヤツは強い」


「肝に銘じておくわ」


 ホムラは少し立ち止まると振り返りもせずそう答え仲間の元に戻る。


「フッ、若いってやつは……怖いもの知らずでうらやましいもんだぜ」


 タナカは笑みを浮かべるとミルクのそそがれたコップを傾ける。こうして強敵に立ち向かう若者を見守る自分を演出しその渋さに酔いしれるのだった。


「おめえドラゴンと出会ってすらいないだろ……」


 それまで黙って聞いていた親父があきれた表情でようやく言葉を発した。






 先日の酒場ではドラゴンの情報をあらかた収集し終えての前祝をしていたといったところだったのだろう。

 数日後、朝早くにドラゴン退治のため準備の整ったギルドメンバーの一団が山岳地帯へと旅立っていく。

 ギルド二階の窓からそんな一団を不安そうに見送るエチゴヤ。そのとき宿屋の一室でタナカは桃色の夢に旅立ったままだった。

 ドラゴン討伐の一団は何の問題もなく山岳地帯にたどり着く。そこで一夜を明かし次の日ドラゴンが未だ徘徊していると噂されている一帯に偵察を出す。

 ドラゴンの寝床らしき洞窟を発見した彼らは細かな作戦を確認しあう。そうして討伐作戦は翌日実行されることとなる。

 洞窟にドラゴンがいるのを確認した後、一人の魔術師がおびき寄せるために先行し火の玉の魔法で遠距離から奇襲する。

 魔術師は即座に撤退し洞窟から出てくる。その後それを追ってドラゴンが現れる。そこに待ち構えていたもう一人の魔術師が第七位魔法を唱える。


「アイスストーム!」


 ドラゴンは突然の吹雪に襲われ必死にあがくが無駄に終わり表面に水や氷がまとわりつき動きが封じられていく。

 とくに背中の翼は動きがぎこちなくなっていった。そこに大剣他ギルドメンバーが一斉に攻撃を仕掛ける。

 ドラゴンの翼は空を飛ぶための天然の魔道具である。まずは機動力を削ぐため、そして逃亡を阻止するため翼を攻撃する討伐隊。

 吹雪の魔法で凍りつきかけていた翼に集中的に攻撃を加えたため片方の翼が見るも無残な状態にまで破壊されていく。 飛行不可能な状態になったと判断するや討伐隊は作戦をつぎの段階に移す。

 大剣カレーパンがその自慢の攻撃力でドラゴンを攻撃していく。今の彼には魔術師により第八位魔法の能力強化がかけられておりBランカーに匹敵する力を有している。

 ドラゴンの体力を順調に削っていく大剣カレーパン。ドラゴンの攻撃から彼を守るためタイミングよく弓矢や攻撃魔法がドラゴンを襲う。

 作戦は順調でドラゴン討伐も時間の問題のように思われた。しかしその時異変が起こる。

 突然ドラゴンが攻撃をやめ天を仰ぎ苦しそうに咆哮する。身体のあちこちに黒い斑点が浮き出ていき徐々に体表全体が深緑色から漆黒に変色していく。


「なんだ? 何が起こっている!?」


 誰かがそう叫ぶ。確かに異常な事態である。全員攻撃の動きが止まる。


「落ち着け。作戦は順調に進んでいる。このまま押し切るんだ!」


 大剣カレーパンが冷静に声をかけ攻撃を再開させる。討伐隊は二足で立ち上がったままのドラゴンに攻撃をし続ける。

 しかしドラゴンはそんな攻撃になんの反応も示さずただ身体が漆黒に変色していくのみだった。

 そして完全に漆黒のドラゴンとなったときドラゴンは攻撃に転じる。

 二足状態から身体を倒す勢いに任せて振るわれる前足の打ちおろし攻撃。

 もともと警戒していた大剣カレーパンはなんとか躱す。しかし予想以上のスピードにぎりぎりなんとか躱したといった状態であった。そこに立て続けにドラゴンの牙が襲う。

 能力強化がかけられていた大剣カレーパンも反応できないほどの攻撃だった。牽制の弓矢や魔法の攻撃もものともしないその動き。

 大剣カレーパンはドラゴンに咥えられあっけなく食い千切られてしまう。


「てっ! 撤退!」


 誰かがそう叫ぶ。いや全員がそう叫んだのかもしれない。

 それまで順調にいっていたドラゴン討伐。しかしいま目の前にいるのはさっきまで戦っていたドラゴンとはまるで別の生き物としか言えない強さだった。

 大剣カレーパンがやられた攻撃だけで皆がそれを察し、撤退戦にすばやく移る討伐隊。

 さすがはCランカーたちといったところだろうが今回は相手が悪かったかもしれない。

 漆黒のドラゴンは獲物を狩る狩人のように撤退していく討伐隊を追っていくのだった。

 一方その頃、タナカはというと街周辺の魔物を狩っていたのだが少し街から離れすぎたのか迷子になっていた。


名前:カレーパン レベル:58 経験値:1050/5800

体力:0.00/819.10 魔力:349.01/349.01

力:470.56 器用さ:377.49 素早さ:379.31 賢さ:258.72 精神:261.89

スキル:剣(4.05) 魔法(1.09)

装備:大剣 革の鎧


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[一言] 我が名はカレーパンマn・・・ごっほんっ
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