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タナカの異世界成り上がり  作者: ぐり
黄昏ゆく世界編
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第百四話 運命

「どうやらオレのいない間に、ずいぶんと状況が変わってしまったようだな」


 タナカが見つめる先では儀式場の床は破壊され、神の悪意を前に倒れ伏した者たちがそこかしこに転がっていた。瓦礫の上に横たわっているのは味方だけでなく、敵だったモリナーガの使徒も含めて等しく意識を失わされている。


「それでやったのはお前というわけか……。いずれ現れるのは分かってはいたが、オレがいない間にこうも動くのはあからさますぎじゃないかねえ」


 タナカは「これだから素人は」とお約束のヤレヤレを披露した。これで今回のノルマは達成である。

 一方の破界神側はというと、タナカの一撃で吹き飛ばされたとはいえ化身たちはすぐに態勢を立て直していた。その数はすでに十体以上になっており、今もこじ開けられた空間の歪みから次々と新たな化身を侵入させ続けている。しかし化身たちはタナカを警戒するように空に陣を構えるだけで動けずにいた。

 化身を吹き飛ばした先の一撃から感じた力、そして目の前で余裕の態度を崩さないその漢から発せられる気配で察したのだ。


「そんな馬鹿な……、この短期間で神の力を自分のものにしたとでもいうのか」


 破界神がこの世界で最も危険視していたのは確かにタナカだった。しかし、次に戦えば間違いなく勝てることも確信していた。同じく神の力を扱うにしてもそのプロセスに大きな隔たりがあるからだ。

 タナカだけでなく勇者たちやスケカクコンビの合わせ技にしてもいえることだが、戦いの最中に「使う」という行為が必要な時点でそれは一種の枷である。少なくとも神を相手にする場合は欠点にしかならない。

 以前の戦いでタナカが化身と渡り合えたのは、当初は破界神の予想を超えるポテンシャルでごまかせたがゆえで、最後は『大罪三重奏殲滅陣(アーディ・アマルタ)』で疑似的に神の力を常に発動した状態になったからである。

 先ほどの戦いでもカクさんが神の力を制御し、スケさんが戦いに専念できたからこそこの欠点は表面化しなかった。最後の『破邪拳昇(ライジングサン)』が隙を突くかたちで決まったのは幸運だったといえる。

 つまり神の力を使う必要がある以上、使ってないタイミングが破界神にとっての好機となるのである。実際、モリナーガがその弱点を突くかたちで、タナカの排除を成功させたことからも明らかだろう。もっともこれについては偶然そうなったにすぎないのであるが。

 しかし今、化身たちの前にいる漢は以前までの彼とは明らかに違っていた。


「ありえん……。そんなバカげた成長の速さなどあるわけがない!」


「なにを狼狽えているのかよくわからんな。そんなに恐ろしいのか? オレの力が」


 タナカが応えるや否やこの場に光が満ち溢れる。


「うわっ! なんなんすかいったい?」


 タナカの後ろにいたトビーが驚きに声をあげていた。

 光の発生源は破壊された儀式場の床だった。すぐに輝きは止み、儀式場は破壊される前の姿を取り戻していた。

 それだけではない。倒れていたものたちも敵味方関係なく意識を取り戻し始めた。


「どうなってるんすか!? あれ? さっきまで感じていた圧迫感がなくなった?」


 不思議がっているトビーを尻目に飛び上がるタナカ。空に陣を構える化身たちにひとり立ち向かおうとしていた。






「相変わらず出鱈目な力ね」


 ミコトは復元された儀式場を目の当たりにしてそう呟いた。


「いや、そうじゃねえ」


 自分の呟きに応えた相手を振り返るミコト。彼女に言葉を返していたのはカクさんだったが、その表情は驚きに固まっているようにミコトには見えた。


「どういうこと?」


 そのミコトの質問にカクさんはすぐに返答することができなかった。

 タナカとつきあいが長いのはスケさんであるが、タナカの力を理解しているという点では、世界管理者のはしくれであるカクさんのほうになるだろう。実際、魔法や大魔法の修行に付き合ってきた経験もあり、タナカがやらかす大小様々な奇跡の数々についてもあらかた原理を理解していた。

 これまでタナカは幾度となく大気や大地を自在に操ってはいたが、それはあくまで生活魔法の応用による範囲内のことである。それですら圧倒的な潜在能力と膨大な魔力、そして非凡な妄想力があってはじめて可能となる前人未踏の技術であるが、先の儀式場の復元はあきらかに大魔法レベルの変化だった。

 まだ大魔法を自在に操ることができなかったはずのタナカが、わずかひと月ほどの間にそれをマスターしてしまったことは驚くべきことなのである。しかし真に恐るべきは別のところにあった。


「いったい彼は何者なのですか? 創世神様」


 パタパタと飛んできた上様がミコトの肩に着地した。彼だけではない。先ほどまで倒れていたトルテやエクレア、そしてガナッシュも立ち上がりこちらに集まってきた。

 これこそカクさんが驚いていたタナカの真の力である。破界神の干渉から皆を守っているのは明らかにタナカの力であり、それは大魔法ですら不可能な神の領域である。タナカから供給されていた神の力を制御した経験のあるカクさんだからこそ、その困難さが理解できた。


「さてな。創世神の俺ですら、なんであんなとんでもないヤツが存在するのかわからねえよ。もし神ですら及ばない運命なんてもんがあるのだとしたら、その導きってやつだろうな」


 遠い未来に起こるはずだった破界神との戦いは、イレギュラーによってあまりにも早くに始まってしまった。その始まりは最初の化身との遭遇戦で切り札たる深淵の魔女を失うという絶望的なものだった。

 しかし最後の希望が消えようとしたとき、偶然にもそこに居合わせた漢がいた。その漢は偶然にもとんでもない力をもっており、それこそ深淵の魔女が悠久のときを経て辿り着いたであろう境地に届くほどのポテンシャルだった。これを運命といわずしてなんとやらである。


「すべてはタナカに託そう。アイツの……、人間の可能性ってやつに」


 酒場の親父こと創世神は真実に気づいていた。タナカがついに自分のいる場所にたどり着いたということを。


「それにしてもアイツには期待しちゃいたが、まさかこれほど早く成長するとは思わなかったぜ」


 この言葉をヤシチは近くで聞いていた。その真意はわからなかったがこれだけは感じていた。彼の友人がいままでとはどこか違うということを。

 そしてエクレアは辺りを見渡していた。あの魅惑の悪魔像をお土産として持って帰るために、ひとり空気を読まずに探索モードに移りつつあった。

 とにかく大方の者が敵味方問わず今はただ空を見上げていた。すべてが決まるであろうこの戦いの行く末を見届けるために。






 いっぽう破界神と対峙したタナカさんはというと、期待と興奮で鼻の穴を大きく膨らませていた。

 自分が持つ強大な力を自覚した以上、タナカに遠慮する理由などなかった。このままカッコよく決めて、モテモテ主人公ルートへ向かおうとするのはもはや必然であろう。

 ここには彼のお目当ての勇者ちゃんをはじめとしてお嬢にメイド。ついでにどこかで見たちびっ娘。さらにモリナーガをはじめとして美女揃いの使徒たちもいるのだから。

 タナカ的にはもう狙うしかないだろう。このビッグイベントを!

 そしてそんな妄想に忙しいタナカを正面から見るはめになった破界神は激情にかられるように攻撃を開始した。


「消えよ! 貴様という存在を我は許さぬ!」


 すでに世界に干渉していた化身たちは、時の流れから切り離された領域で一斉にタナカへと襲い掛かる。しかしタナカの身体から放たれた黒い雷光が彼らの接近を阻んだ。

 それはまるで生きているようにタナカのまわりを取り囲み、化身たちに対抗せんばかりの陣地を築いた。


「チートに目覚めたオレに負けはない! まとめて片付けてやる! 秘儀『神鳴り起こし(ラースオブゴッド)』!」


 タナカを取り巻く黒い雷光からいくつもの稲妻が放たれる。そのひとつひとつには、洋菓子に負けぬという和菓子の気概にも匹敵するほどの力強さがあった。

 それら漆黒の稲妻が一体も逃さぬとばかりに化身たちに襲い掛かる。

 化身たちは防ぐ構えをみせるが、圧倒的な和菓子の力を前に一瞬のうちに霧散する。以前の苦戦が嘘のようなあっけなさで、十体以上いた化身たちは全滅した。

 いよいよこの作品もちょっとエッチでキャッキャウフフな日常系ストーリーに路線変更してしまうのか。

 しかしタナカさんが鼻ホジで余裕な態度を見せつけることはなかった。すでに巨大に成長した空間の歪みから禍々しい力を感じていたからだ。

 そして現れる――。

 それはこれまでとは違う巨大な化身の頭だった。続けて巨大な腕が姿をあらわし、この世界にはい出ようとする動きを見せた。


「そいつはやばい! なんとかヤツを向こう側へ押し返してくれ! あとは俺がなんとかする!」


 いつの間に空に上がってきていたのか、創世神が慌てていた。


「え? おやっさん? なんでここに……。え? おやっさんが空飛んでる? というかそんな派手なパンツ一丁でなにやってんだよ……。しかもいったいなんなの? その油まみれな顔――」


「つべこべ言ってんじゃねえ! 今はそれどころじゃねえだろ! いいからヤツを押しこむんだよ!」


「お、おう。なんだかよくわからんが、わかったよ」


 肉汁まみれな顔の創世神の迫力に負けたタナカは戦いに意識を戻す。巨大な化身のほうに向きなおると魔剣デスアビアゲーテを取り出し構えた。


「三界の神々が生み出せし調停者は、稲妻をまとった剣技を得意としたそうだが、俺にも似たような技がある――」


 タナカの周りを漂っていた黒い雷電が、上段に構えられた魔剣に収束していった。もともと大きすぎるほどだった魔剣が、さらに巨大化した稲妻の剣と化す。それは巨大な化身を前にして、なんら見劣りしないほどの巨大な看板だった。


「見せてやろう! 我が究極の斬撃を!」


 蓄えられたエネルギーを一気に振り下ろす。


「砕け散れ! 『忘我の断頭台(テクノブレイク)』!」


 タナカを押しつぶさんとせまっていた巨大な化身が漆黒の斬撃に襲われる。その漆黒の剣閃はまるでなんの障害物もないかのように通り過ぎて行った。

 そんな攻撃などきかないとばかりにタナカを掴もうとした巨大な手が動きを止める。


『こ……、これは……』


 巨大な化身から声が漏れ出る。このときなんの凹凸もなく、表情などないはずの化身が快楽にも似た表情を浮かべたように見えた。

 次の瞬間、その巨体は縦一線まっぷたつにわかたれる。

 徐々に分かれていく巨体。その切り口は粒子化するように消滅していった。


「押し返せっつってんのに! まったくやってくれるぜ!」


 巨大な化身が消え去るのを確認すると、創世神は構えをとって結界の力を解放する。すると巨大な空間の歪みを押し包むように光の格子が現れた。


『おのれ! またしても逃げのびるというのか創世神!』


 空間の歪みから新たにはい出ようとしていた巨大な化身が怨嗟の声をあげる。しかし声をあげるだけでそこからはい出ることはできなかった。

 やがて空間の歪みが徐々に収縮していく。


『我はあきらめぬ! あきらめぬぞ! かならずやうち滅ぼしてくれる!』


 歪みが消える間際、創世神が静かに答えた。


「もう少しだけ待ってな。すぐに決着のときはくるさ」


 その言葉を最後に空間の歪みが消える。

 こうして皇都を舞台に繰り広げられた戦いは、ようやく決着がついたのだった。


( ゜д゜) イッてしまわれたか……

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[一言] 破界神はMの一族か・・・ 極上の『痛み』を求めて・・・
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