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タナカの異世界成り上がり  作者: ぐり
黄昏ゆく世界編
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第百一話 創世

 ハムスターたちは目の前に現れたタナカのことをまったく気にした様子もなく、相変わらずビーチチェアに身体を預けたままくつろいでいた。


「……」


 なんとも豪胆なハムスターたちである。その洋々たる姿は勝利を確信する十万隻の艦隊にも劣ることはないだろう。高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応することを旨としてきたタナカも、これには立ちすくまざるを得ない。

 タナカがいたたまれぬこと山のごとしな感じで固まっていると、一匹のハムスターがようやく反応をしめした。彼?はおもむろにサングラスをはずすとタナカと目線をあわせる。


「おお、サンキュー。なんか気を遣わせてしまったみたいで悪いな」


 いつの間にか目の前には人間用のビーチチェアが出現していた。タナカはなんの疑問も抱かずに腰をおろす。そしてゆっくりと力を抜いた。


「フゥ、これで一息つけるぜ……。ってアレ?」


 ここでタナカはようやく気付く。


「なんでオレはこんなに無警戒になってんだ? というか今突然この椅子が現れたのになんで疑問に感じなかった? それ以前になんでハムスターと意思の疎通ができている?」


 タナカはもう一度件のハムスターに目を戻す。そこにはまるで「まだ寝ぼけているのかよ」とでもいうように、ヤレヤレとジェスチャーをするハムスターがいた。というかタナカにはそのハムスターの意思が明確に伝わっていた。


「オレは知っているのか? この場所を……」


 くつろいだままだった他のハムスターたちも今はタナカを見つめている。


「そうだ……、お前たちはオレ自身――。そしてここはオレの世界――」


 モリナーガにより世界から追放されたタナカは世界の狭間に堕とされた。そこは何もない虚無の世界。強靭な肉体を持つタナカといえども、そのままでは死を免れざるをえない暗黒の世界だった。極度の混乱状態のなか、タナカは無意識のうちに助かるための唯一の手段を実行していたのだ。

 創世――。新たな世界の創造である。

 しかし世界の創造は強大な力をもつタナカといえども簡単にできるものではなかった。そこでタナカは自分の内なる世界を具現化することによって手間を省き緊急事態から脱出したのだ。

 つまりタナカの今いる世界は彼が造り出した新たなる世界であり、彼の半身といえる存在でもあった。世界そのものが彼自身であるようなもののため、自ずとすべてが理解できてしまう。しかしそれはこれまで経験したことのない未知の感覚であるため、タナカはこの世界での認識に不思議な違和感を感じていたのだ。


「何気にかなりやばい状況だったんだな。でもまあ、なんとか助かったんだしよしとするか」


 そしてタナカはあらためて周りを見渡す。

 この世界に存在するのはいま彼が立っている小さな星。それをとりまく青空、そして申し訳ない程度に浮かぶ雲。すべてがパチモン臭かったが確かにこれらは存在している。


「我ながらなんとも拙い出来栄えだな。ん? なにやってんだ?」


 いつの間にかハムスターたちが立ち上がり移動していた。彼らが輪になって集まっているのはなんの変哲もない芝生の上だった。しかし徐々になにかが浮き彫りになってくる。それはもはや原型をほとんどとどめていないボロボロの魔法陣だった。

 タナカが世界を創造した後その消耗のため気を失っている間に、タナカの半身たるハムスターたちはこの小さな世界を舵取りし、虚無の世界を探索していたのだ。そして何もない世界でようやく発見したのがこの壊れかけた魔法陣だった。それは初めて見るにもかかわらずどこか懐かしくて温かい。

 タナカはその身をかがめるとそっとこの魔法陣に触れた。そこから幾多の情報が溢れ出てくる。


「――って! 誰が冴えないオッサンだ! 無機物のくせにふざけんなよ!」


 タナカは怒りをあらわにする。タナカが垣間見たのはこの魔法陣が稼働していたとき実際に起こった出来事の記録。そう、この魔法陣こそがすべての元凶ともいうべき行いの証拠だった。それにしても無機物が自意識に目覚めてしまうほどのオッサンちからをもつとは、やはりタナカさんは只者ではなかったということだろう。

 そしてプリン王国がおこなった勇者召喚。創世神の異世界人召喚とは違う異質なる儀式。本来行ってはいけない時期に創世神の結界を開いてしまったがために、破界神の介入を招き破界の化身の侵入を許すという結果を生んだ愚行の残骸がこの魔方陣である。しかし、同時にタナカというイレギュラーな存在を生み出した功労者でもあった。


「そうだったのか……、ここがオレの生まれた場所。そしてオレは持っていたのか。チートなくらいの力を……」


 タナカは自身の手のひらを見つめる。そしてグッと握り締めた。その力を噛みしめるように――。

 そこでハムスターたちに注目されていることに気づく。


「いや、実はうすうす気づいていたから。というか実は初めからなんとなくそうじゃないかなあって思ってたから。イヤほんとマジで!」


 ハムスターたちがヒソヒソと審議を始めた。結果は明らかだったためか話し合いはすぐに終わりハムスターたちは振り返る。タナカを見つめるそのつぶらな瞳は言っていた。否決であると。


「なんでだよ! お前らオレ自身のくせになんでわかんねえんだよ! ここはそういうことにしておけって。これまでオレは頭脳明晰な主人公ってのがウリで人気を築いてきただろう? だからここはそういうことにしておかないとやばいよ。女性ファンとか減ってマジでやばいから」


 タナカさんの論理的な説得もむなしく、ハムスターさんたちはジト目を返すだけだった。


「わかったよ! じゃあアレね。お互いの意見を尊重してちょうどはんぶんこのところにしようね! というわけで途中で気づいたってことにしよう。そうだな……、ハザマの街で活動しはじめたころ、ジョディさんがオレに一目ぼれしたあたりで『そうか、これがオレの真の力か……』的な感じで気づいたことにしようね! ハイ決まり!」


 タナカは強引にこの話題を終わらせようとするが、ハムスターたちは再び審議に入ってしまう。結果はまたもや否決。


「わがままもいいかげんにしろよ! 流せよ、適当なところで! 今、話を切り上げる絶好のタイミングだっただろ! ……もうやめようぜ、むなしくなるだけだから。これ以上はつらいから……」


 自分自身にさえ否定されるタナカさん。滑稽なまでにボッチオーラ溢れる姿はまさに孤高。孤高な漢に憧れを抱く小学生のための教材としてはうってつけであろう。その結果、そのまま孤高な漢をめざすか、道をあらためるかは読者様の想像にまかせる。


「まあアレだな。これからどうするかを考えないとな」


 タナカは気持ちを切り替え空を見上げる。

 タナカ自身が創りあげた空。そこは空間が広がっているわけではなく、モニターのように僅かな光源をもつ壁だった。その向こう側には何もない。この体育館の広さにも及ばない程度の大きさしかない世界は虚無の世界を漂っているのだ。

 不意に青空が消える。

 まるで夜にでもなったかのような世界。しかし夜空と思しき闇には星一つないただの黒が広がっていた。そこはまぎれもなくなにもない虚無の世界だった。なにもないため認識すら不可能な闇。実際は闇ですらないただの無。

 タナカは意識を集中する。自分の中にある神の力。その力をもってこの虚無に潜む本質を読み解こうと意識を拡大させた。

 やがて浮き上がってくる様々な光。それはまるで星が煌く夜空のように。虚無のなかにあって矛盾する有という存在だった。

 数多の神の造りたもうた無数の世界。あるものはただのガス状のエネルギーが満ちあふれる世界。あるものはすべてが岩石に占められた世界。そしてタナカのよく知る宇宙が広がる世界。大小さまざまな世界が虚無の海のなかで芽吹いていた。それらは虚無のなかにあって暖かな光を思わせるような存在だった。そのひとつひとつには源泉たるエネルギーが満ち溢れ、生命が芽吹いているのだ。しかしそんななかで唯一つ他とは違う存在があった。タナカの心を締め付け凍らせるようなその存在は――。


「こいつが破界神か……」


 虚無の世界にあって圧倒的な存在感をしめす負のエネルギー。それはひとつの世界に漂う魔力を吸い尽くしたタナカをもってしてでも計り知れないほど不気味な存在だった。小さいとはいえ新たな世界を創造したタナカはある意味神に並んだに等しい。しかし古の神との力の差は歴然と存在しているのだ。

 タナカは焦りにも似た感情を覚える。

 今は感じられないがその向こうに確かに存在しているはずなのだ。さきほどまでいた世界が。破界神が虎視眈々と狙う世界が。

 しかし今のタナカには破界神の存在が邪魔でなにも感じられない。たとえ運よく破界神の干渉を乗り越えたとしても、その向こうには創世神の結界があるはずである。破界神が破れない結界をタナカが越えられるとはとても思えない。

 先ほど調べた魔法陣にも結界を破るためのヒントは残っていなかった。儀式のとき結界を開いたのはモリナーガがもつ特異な力によるものなのだろう。

 タナカは自らが創り上げた世界とともに、今はただ虚無の世界を漂い続けるしかなかった。みなの無事を祈りながら――。

 ちなみにその対象はいままで出会った女性限定である。


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