第三試合 強い味方が加わりました。
今回いつもと比べたらめちゃくちゃ長いです。
頑張って下さい><
本日もどうぞ宜しくお願い致します。
「ハッ……、ハッ……、」
「止まれゴルァア!!」
____皆さんどうも、こんにちは。
さてさて、今日も始まりました。恒例の強制校内鬼ごっこ大会です。
いつもの如く鬼は朝倉氏の下っ端全員……つまり参加者のうち私以外が鬼。逃げども逃げども遭遇するのは鬼ばかり……鬼畜にも程がある。
それでも今の所、全勝という輝かしい成績だ。凄いよね、私。インターハイも夢じゃない気がする。
「チッ……おい、お前ら例のルートで回り込め!!」
「ハイ!!」
「了解っス!!」
……後ろから不穏な会話が聞こえた。チラリと後ろを振り返ると、今日も赤、緑、ピンクと色取り取りな頭が揃っている。こんなところで鬼ごっこなんてしてないで、是非とも戦隊モノにでも参加してきて下さい。不良レンジャー……正義か悪か微妙なところだ。
……ってそんなくだらない事より、さっきの声……やっぱりあの人いるのね。
こうほぼ毎日追い掛けられると鬼の面子も徐々に覚えてくる。といってもやはり顔で判断は出来ないので髪の色や体付き、身長、声などで判断するのだけれども。
先程指示を出した緑髪の人。最近この茶番に加わり出した不良さんなのだが中々に要注意人物だ。会話からして上の地位にいるとみた。森羅の幹部だろうか?
他の下っ端と比べると足は速いし、何より頭を使う。今まではただシンプルに追い掛け回されるだけだったので、こちらも走って逃げるだけで良かったのだが、先程のように姑息な作戦を行使してくるのだ。
昨日もそれで捕まりかけた……今度はどんな作戦なのだろう。気を付けなければ____
「ハッ!掛かったな!!」
え?え?何!?
今、十字に別れた廊下を右に曲がったのだが、そこを曲がってはいけなかったようだ。早速私は罠に掛かったらしい。
後ろをチラリと見るとニヤリと笑われた……こ、怖い……ッ!!不良って何であんな笑い方をするのかな!?
視線を前に戻してとにかく走る。先は行き止まりで左に曲がれば上りと下りの階段しかない。
現地点は2階だ。さて、下に下りるか、上へ上るか……。
「ハッ……、ハッ……、ん……?」
何だろう、前方から沢山の足音がする……え、嘘、ちょっと待って……?
顔面蒼白になりながら後ろをもう一度振り返る……勝ち誇った顔をされた。……恐らくこの先には鬼が先回りしているのだろう。それも上り、下りの両方の階段に。
「……、」
タラリと背中に嫌な汗が流れる。
や、ヤバイ……ッ!!
階段まであと10メートルもない。後ろからは相変わらずカラフル不良戦隊が追い掛けて来る。私なんて追っかけてないで世に蔓延る悪をやっつけて来て下さい。あ、そうなると自分成敗になるか!出来るなら親玉を真っ先に潰して下さいね!
混乱してまたもやどうでも良い事を考えつつも視線を辺りに走らせ、抜け道はないかとない頭をフル回転させる。
早く早く、何かないかな、打開策……ッ!!
________あっ!!
「あった!!」
私はそう叫ぶや否や、バスケ部もかくやという勢いで上履きを切れ良くキュッと鳴らしながら急停止し、窓に手を掛けた。
「な――ッ!!」
後ろから追ってきている不良さん達がギョッとした顔で驚いている。だが彼らに構っている場合ではない。
私は急いで鍵を外し、窓を開け放った。
下を覗き込むとジャストミートな位置である。珍しくラッキー!
「では、失礼します!!」
私は窓枠に手を掛けて跨ぐと、そのまま颯爽と身体を外へ投げ出した。
「え、消えた!?」
「んなわけねぇだろ!!……飛び降りたのか?」
「この高さをか!?俺だって躊躇うぞ!?」
「じゃあ一体何処に……」
ワイワイと論議する不良達の声が二階から聞こえる。私の行方を探しているようだが、もう無駄だ。
私はもう安全地帯にいるのだから。
「うー、かなちゃん、いてくれて良かったぁーっ!ありがとー!!」
「気にするな。葵も毎日大変だな」
泣きつく私を優しく抱きしめ、よしよしと頭を撫でてくれているのは篠塚加奈子、通称かなちゃんだ。そう、彼女はこの学校でたった3人しかいない女子生徒のうちの一人、私の姉的存在である。同級生だけれども。
上でガヤガヤと騒いでいる私の逃走経路だが、勿論飛び降りたわけではない。そこらの家の二階ならともかく、学校の二階は構造上かなりの高さがある。下に兄がいるなら別だが、一人で跳んで下りられるわけがない。下手すると骨折ものだろう。
ではどうやって逃げたのか。答えは簡単、パイプにぶら下がったのだ。
窓を開けるとそのすぐ下に人が一人ギリギリ立っていられるくらいの足場がある。その下に太いパイプが横へ走っているのだ。足場に立っているだけでは逃げられない。引きずり込まれて終了である。だから私は足場に降り立った後、手を伸ばして下のパイプにぶらりとぶら下がった。下からだと丸見えだが、真上から覗いて見る分には足場で遮られ、私の姿は確認できない。
鬼達の視界から逃れた私はその後軽く窓を蹴って、目の前にいたかなちゃんに上窓を開けてもらったのだ。そこからお邪魔させてもらい、現在に至る。
「よしよし、怖かったなぁ。もう大丈夫だ」
抱擁力満載な、かなちゃんに遠慮なく甘えさせて頂く。うぅ、女の子だよう。良い匂いだよう。柔らかいよう。
普段ゴツい男共に追いかけ回されている身にとって女の子は癒し以外の何ものでもない。少々変態臭いが目を瞑って下さい。
たかが一時的に逃れられ、何故こんなにも私が安心していられるのか。それはかなちゃんに理由がある。先程安全地帯と私は言ったが、それは彼女自体を指すのだ。
喋り方は男らしいし、抱擁力抜群な彼女であるが、見た目はそれを真逆にした感じだ。背は150センチをいっているかいないかというくらいにちまっこいし、顔はとても可愛らしい美少女。背中に流れる茶色の髪はフワフワと波を打ち綿菓子のようだ。そんな天使を再現したかのような彼女だが、何故か不良共は近寄らない。真っ先に絡まれそうな容姿なのに一切それがないのだ。本人にも聞いてみた事があるのだが「何でだろうな?」と笑顔で返されただけで真相は謎のまま。それは私の中で学校の七不思議の一つとなっている。
出来るならばいつも一緒にいたい……しかし、悲しきかな、私と彼女のクラスは端っこ同士なのである。私が安全地帯に駆け込む前にカラフル不良戦隊に邪魔をされるのだ。しかし、二階からの侵入は考えてもみなかったのだろう。ふふ。
「……葵、すまんがトイレに行ってくる。大丈夫か?」
勝利に浸っていたらかなちゃんがすまなさそうにこちらを見上げてきた。う……可愛いな。こんな可愛い子を遠巻きにするなんてうちの男子生徒は馬鹿じゃないのか?まぁ纏わり付かなくて良いのだけれど。
私はかなちゃんに「大丈夫、大丈夫」と笑いかける。でも、なるべく早く帰ってきてくれると嬉しいなっ。
いってらっしゃーい、と手を振って彼女を見送った後、私は彼女の席と壁の間にうずくまった。たった数分くらいこうしていれば大丈夫だろう____
「――――見付けた」
____……、そう思ってたんだけど、な……。
声と同時にぽん、と肩に置かれる大きな手。……何故かなちゃんと一緒に行かなかった、30秒前の私。
私は一瞬で石化した。……この声には物凄く覚えがある。
「迎えに来てやった」
……いえいえいえいえ、来なくて良いです……ッ!!
ってか、何で居場所がバレたの!?
何処から…………______ハッ!!
私は徐に窓の外へ視線を向けた。
……ま、まさか____
「――御名答。そこから面白れぇもんが見えたからな」
聞いてもいないのに実に楽しそうな様子で答えてくれる。
……嫌な予想が見事に当たってしまった。
私の視線の先は隣の棟の屋上。お約束とばかりにその場所は不良共の溜まり場となっている。確かにそこからならば先程の騒動は丸見えだろう。
…………っていうか、あの間抜けな姿を!!うぉおおお!!は、恥ずかし過ぎる……ッ!!
脳内で悶え叫ぶばかりで実際には石化したまま反応を返さない私。その様子がおかしいのかクツクツと笑い出す背後の男。うひぃっ、いつ聞いても笑い方が怖いよ……ッ!!もっと爽やかに笑えないのかこの男はっ!!
油の切れたブリキの如く、ぎこちなく首を後ろへ回す。
そこには紛う事なき悪魔が微笑んでいた。
「んぎゃあぁああぁあああ!!」
でたぁーーーーーーッ!!
それを見た瞬間、大絶叫して逃げだそうとする私。これは最早条件反射だ。
だが、肩を押さえられている今、逃げられる訳がなく……しかも、あろう事か軽々と肩へと担がれてしまった。
「んうぇっ!」っと色気もへったくれもない声を上げた私はそのまま悪魔に連行される。
かなちゃーーーーんッ!!
辺りを見回すが、愛しき人の姿は見えない。
私は逃げるのを諦めて腹と肩の間に手を捩込み、ダメージを軽減してから身体の力をダラリと抜いた。
小牛を乗せた荷馬車の歌が脳内に流れる。私は一体どうなるのだろう。
遠い目をしているうちにどうやら目的地に着いたようで、ストンと地面に下ろされた。悪魔の背中で一杯だった私の視界が解放される。
____屋上だ。
入口をチラリと見たが、既に下っ端によって封鎖されている。流石に屋上ともなればそこを通らないと脱出は不可能だ。本日何回目かの嫌な汗がタラリと背中を伝った…………万事休す……ッ!!
「ようこそ、桐谷葵依ちゃん?」
急に名前を呼ばれて身体が恐怖でビクリと反応する。ゆっくり振り返るとニッコリとは言えない禍々しさで悪魔が笑っていた……こここ、怖い。
彼は怯える私を気にする事もなくドカリと座り込んだ。屋上の一番奥まった場所……恐らくそこが彼の定位置なのだろう。飲み物や雑誌などが周りに散乱して____
「……――――ッ!?」
私の視線はある一点で止まる。
アレは____
「――コレがどうかしたか?」
私の目が釘付けになったもの。ニヤリと笑って悪魔がそれを手に取った。
______私の、帽子。
「気になる?」
探るように覗き込まれる。今更だがこの反応はマズイ。
「…………い、いえ、それだけこの場になんか浮いてるなと思いまして……、」
……私は今どんな表情をしているだろうか。不良に囲まれている恐怖からくるものと取って貰えると有り難い。
内心バレないかとかなりあわあわしている。どうしよう、どうしたら、どうすれば。
この場所から今すぐ逃げ出したい。心臓はやけにゆっくりだがその脈は頭の中まで響いている。
「……ふぅん?」
やけに含みを持たせたような返事が返ってきた。
……バレているのか、私の思い過ごしか……まだ分からない。決定打に欠ける。
「ッ!!」
私の腕を掴み、引き寄せる悪魔。私と彼の距離が一気に狭まった。
目の前にあるその表情は至極楽しそうだ。
尚も固まる私に彼はニヒルな笑みを浮かべて口を開く。
聞きたくない。
だが私にはそれを止める術を持っていない。
「――――ねぇ」
「葵ー、ここかー?」
____開く事はないと思っていたドアが開いた……いや、破れた。
ガァンッ、というけたたましい音と同時に聞こえたのは、この場にそぐわぬ鈴の鳴るような可愛らしい声。
それが耳に入った瞬間、金縛りが解けたかのように私はそちらを振り返る。
「か、かなちゃん……ッ!!」
「お、いた」
かなちゃんは私を視界に入れるなり、フワリと花が咲き誇るような笑みを浮かべた。
__うあぁああぁあ!!ヤバイ、惚れてしまいそう!!かなちゃんがもし男の子だったら私、今この瞬間絶対に恋に落ちた!!かなちゃん、何で男の子じゃないの!?
思いもよらなかった救世主の登場に頭が大混乱する。涙まで滲んで半泣き状態だ。
かなちゃんは私のそんな様子に「おやおや」と苦笑を漏らして屋上に足を踏み入れる。
そんな彼女の前へ、行かせまいと下っ端が立ち塞がった。
ちょ、この不良共!!かなちゃんに何かしたら許さないからね!?
「……ん?」
そう思った所でふと考える。今までは不良共は近寄る事もなく指一本彼女に触れることはなかったが今はどうだろう。奴らは彼女に戸惑っているようだが引く様子はない。トップがいるこの場で引くに引けないのだろう。
という事は……このままいくとかなちゃん、タダでは済まないのでは……?
サーッと私の顔色がなくなる。どうしよう、巻き込んでしまった。惚れてしまうとか馬鹿な事を言っている場合ではない。いざとなったら私が身を呈して守るつもりだが、足に自信があるだけで軟弱な私ではそんな事をしても時間稼ぎにもならないだろう。結局巻き込んでしまう……そして私と違って美少女の彼女はどんな扱いになるか分からない。
彼女の背後にある扉は開いたままだ。私は彼女にそのまま逃げてと目で強く訴える。
必死な私にかなちゃんが気付いた。私は更に強く訴える。逃げて!早く逃げて!!
私のその様子にかなちゃんは一瞬キョトンとし、次いでフワリと微笑んだ。……あれ!?ちょっと、え!?伝わってない!?
出来れば他の奴らに気付かれたくなかったがそうも言っていられない。今度はブンブンと頭を横に振る私。
それを見たかなちゃんは苦笑した。え!?これでも伝わってない!?
「葵、大丈夫だ」
私とは正反対にかなちゃんは穏やかに言葉を紡ぐ。
いや、大丈夫じゃないでしょ!!
そう叫ぼうとしたが言葉は口から出ることはなかった。
__何故ならかなちゃんが手を自らの背に回し、制服の下からスラリと木刀を取り出したからだ。
え、ちょ、何ですかアレ!?
「退け」
木刀を構えることもなくブラリと片手に持ったまま、かなちゃんがにこやかに命令する。
不良共はビクッと肩を跳ねさせたが尚も道を開ける様子はない。そりゃそうだろう。華奢な女の子が武器を持った所で脅しにもならない。もしかしたら何発か喰らうかもしれないが、取り押さえて終了だ。
かなちゃんは慌てる様子も見せない所か呆れたように溜息を吐き出し、ゆっくりと木刀を構えた。
その動きにまた不良共の肩が跳ねる。……何で?
私がビビる不良共に首を傾げたその時____かなちゃんを纏う空気が変わった。
「後悔するなよ?」
言うや否やかなちゃんは素早い動きで前に踏み込み、木刀を薙いだ。その攻撃を喰らった一人が呻き声を上げながら横に吹っ飛ぶ。
……。
…………吹っ飛ぶ?
私はポカーンとその光景を眺めた。
かなちゃんは縦横無尽に動きながら的確な攻撃を繰り出し、一発で確実に敵を沈めていく。まるで舞を舞っているかのようなその動きに私は思わず目が釘付けになった。
かなちゃんを取り囲んでいたはずの不良共はどんどん数を削がれ、残り三人に……あ、一人死んだ。あと二人だ。
野郎共の怒号が飛び交う中、彼女のフワフワの長い髪とスカートが綺麗に宙を舞う。あれだけ動き回っているというのにギリギリまで捲くり上がるものの、スカートの下は決して見えない……美少女故に絶対領域補正でもかけられているのだろうか。
ボケーッとしているうちに勝負が終わった。勿論かなちゃんの圧勝だ。
「終わりか」
つまらない、と言わんばかりに転がった不良共を一瞥しながらポツリと呟いた彼女は、前に零れ落ちていた髪を後ろに払いながらこちらに近づいて来る。
目の前まで来たかなちゃんは私が悪魔に腕を捕まれている事に気が付き、躊躇うことなく片手で木刀を振り下ろした。
すんでの所で私の腕を離し、それを回避する朝倉氏。離れた瞬間、今度はかなちゃんが私の腕を掴み、優しく引っ張って自らの背に避難させた。
「返してもらうぞ」
「……チッ」
……か、かなちゃん、惚れ惚れする程漢らしいね!!
ってか、かなちゃんって一体何者………?
かなちゃんは振り返って未だポカンとしている私を見た。
考えている事が解ったのだろう。彼女は気まずそうにしながら説明してくれた。
「私、警察官の娘なんだ。幼い頃から沢山の武芸を学んでいてな、この通り腕はそれなりにある。……今までに幾つか族を潰した事もあるんだ。面も割れている。だから不良共は滅多な事では私に近付こうとはしない」
七不思議が一つ解決した。
そういう事情があったのか……なるほど。ってか族潰しとか凄過ぎるよ……!!
思考がいまいちついて行けず相変わらずボケーッとする私。かなちゃんは放心する私に今度は少し寂しそうな表情を見せながら続けた。
「……葵に今まで黙っていて悪かった。嫌われたくなかったんだ…………怖いか?」
その言葉に即、頭を横に振る。ビックリはしたけど怖くはない。寧ろ惚れちゃいそうです。
これだけは伝えたいと、私は口を開いた。
「……助けてくれてありがと!かなちゃん、大好き!」
笑ってそう告げる私に彼女は驚いた後、破顔し、「そうか」と嬉しそうに言った。うひぃっ!ま、眩しい……!!
「戻ろう」
もうここに用はないと言わんばかりにかなちゃんは私を引っ張って出口に向かう。しかし、途中まで来た所で私は足を止めた。
気付いたかなちゃんが振り返って不思議そうに小首を傾げる。
……私にはまだ心配事があるのだ。
「……怨み買ってかなちゃんが学校で酷い目に遭わない?」
恐る恐る尋ねる私に、かなちゃんは「あぁ」と前置きした後、何でもない事のようにサラッと衝撃の事実を明かしてくれた。
「それは大丈夫だ。私と朝倉和斗はハトコだからな」
…………え!?
ショッキング過ぎてまた放心する私。
今度は構うことなく、かなちゃんは笑いながら私を引っ張って屋上から連れ出していく。
その様子を心底詰まらなさそうな目をして朝倉氏は見送っていた……らしい。
お疲れ様でしたっ。
誤字・脱字などあれば報告して下さると有難いです (´・ω・`)