GPSヘイブン
日本の最北端にある島、その地中に俺はいた。
大勢の人間が敷き詰められていて吐きそうなほど窮屈だった。
電気はまばらにしか点いておらず、とても暗い。
俺は薄い布を抱きしめた。
寒い。
咳とくしゃみが止まらない。
俺は薄い布を抱きしめた。
「触ったわ!」
女の声がした。
しわがれていた。
「はあ!? 誰が触るかよ! ババア!」
男が叫んだ。
「うるさい!」
別の男の声がした。
俺はそちらに顔を向けた。
女は濃い化粧をしており、肌は白かった。
しかし、木目のような皺が顔に刻まれていた。
年齢は分からない。
再び叫び声が聞こえ、言い合いは激しさを増した。
なんてことはなかった。
毎日起こっていることだった。
「自由! 自由! 自由!」
さっきとは違う方向から、別の男の声が聞こえた。
力強いが、焦点のあってない声だった。
「私たちは自由です! 誰にも捕捉されません!
人工衛星を破壊しろ! 私たちは自由だ!」
叫び続けている。
「GPSは毒! 猛毒だ! 頭が支配される!
前頭葉が腐ってしまう! シナプスが壊される!
実際の研究で示されている! 脳細胞の数が健常時より⋯⋯」
叫び続けている。
俺は耳をふさいだ。
声が遠のいていく。
何も聞きたくない。
耳鳴りがする。
ハエの羽音が鼓膜に張り付いているみたいだった。
鼓膜を突き抜けて、脳みそに到達しそうだった。
いや、むしろそうなった欲しかった。
頭の中に埋め込まれたチップまで突き抜けて、破壊してほしかった。
人差し指で耳をほじくった。
全力で突き刺した。
届かない。
届くはずがない。
ここにいる人間は、生まれたときからチップが埋め込まれていた。
いや、日本にいる全ての人間か。
チップは人工衛星と繋がり、位置情報を政治家どもに明け渡す。
俺達は監視されている。
だからここまで逃げてきた。
そんな不自由はこりごりだから。
失敗だった。
薄暗い地下、巨大なアリの巣。
排泄物と垢の匂い、精神異常者の叫び声。
養豚場の豚のように敷き詰められた逃亡者たち。
自由は地獄の顔をして現れた。
俺は絶望に監視されていた。
「触っただろ!」
俺は衆人に監視されていた。
この狭い土の部屋が、自由の安全地帯だった。
地獄の地中に掘削された、天国だった。




