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GPSヘイブン

作者: 谷 風汰
掲載日:2026/06/13

 日本の最北端にある島、その地中に俺はいた。

 大勢の人間が敷き詰められていて吐きそうなほど窮屈だった。

 電気はまばらにしか点いておらず、とても暗い。


 俺は薄い布を抱きしめた。

 寒い。

 咳とくしゃみが止まらない。

 俺は薄い布を抱きしめた。


「触ったわ!」


 女の声がした。

 しわがれていた。


「はあ!? 誰が触るかよ! ババア!」


 男が叫んだ。

 

「うるさい!」


 別の男の声がした。


 俺はそちらに顔を向けた。

 女は濃い化粧をしており、肌は白かった。

 しかし、木目のような皺が顔に刻まれていた。

 年齢は分からない。

 

 再び叫び声が聞こえ、言い合いは激しさを増した。

 なんてことはなかった。

 毎日起こっていることだった。

 

「自由! 自由! 自由!」


 さっきとは違う方向から、別の男の声が聞こえた。

 力強いが、焦点のあってない声だった。

 

「私たちは自由です! 誰にも捕捉されません!

 人工衛星を破壊しろ! 私たちは自由だ!」


 叫び続けている。

 

「GPSは毒! 猛毒だ! 頭が支配される!

 前頭葉が腐ってしまう! シナプスが壊される!

 実際の研究で示されている! 脳細胞の数が健常時より⋯⋯」


 叫び続けている。


 俺は耳をふさいだ。

 声が遠のいていく。

 何も聞きたくない。

 

 耳鳴りがする。

 ハエの羽音が鼓膜に張り付いているみたいだった。

 鼓膜を突き抜けて、脳みそに到達しそうだった。

 いや、むしろそうなった欲しかった。

 頭の中に埋め込まれたチップまで突き抜けて、破壊してほしかった。


 人差し指で耳をほじくった。

 全力で突き刺した。

 届かない。

 届くはずがない。

 

 ここにいる人間は、生まれたときからチップが埋め込まれていた。

 いや、日本にいる全ての人間か。

 チップは人工衛星と繋がり、位置情報を政治家どもに明け渡す。

 俺達は監視されている。

 だからここまで逃げてきた。

 そんな不自由はこりごりだから。

 

 失敗だった。

 薄暗い地下、巨大なアリの巣。

 排泄物と垢の匂い、精神異常者の叫び声。

 養豚場の豚のように敷き詰められた逃亡者たち。

 自由は地獄の顔をして現れた。

 

 俺は絶望に監視されていた。


「触っただろ!」


 俺は衆人に監視されていた。


 この狭い土の部屋が、自由の安全地帯だった。

 地獄の地中に掘削された、天国だった。

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