婚約破棄された悪役令嬢ですが、9年ぶりに再会した大親友たちが全員規格外でした。
ぱっと思いついたのでぱっと書いたやつです。
設定はゆるふわです。
*一部修正しました
「はあ…………」
本日何度目かのため息が自然と口から漏れる。
私、ルーチェ・グレイゼアルは貴族魔法学院の生徒で、寮に帰る道を1人で歩いていた。
最近婚約者であるジェイド・レイベシュ侯爵令息がやけに冷たい気がしている。
「あの噂は本当なのかな…」
いま、学院で蔓延している噂。
第2王子殿下とその側近が編入してきた男爵令嬢に夢中だという話だ。
ジェイドは第2王子殿下の側近の1人であるため、その噂の対象の1人である。
つまり、ジェイドも男爵令嬢に夢中だということである。
「ジェイドから一方的に婚約破棄ってこと?理不尽……」
気分は沈んだまま全く晴れない。一体どうしようかと考えたところで前に大親友からの手紙に書いてあったカフェが近くにあることを思い出した。
「よし。せっかくだし行ってみよう。もうヤケ食いしよ!」
カフェで美味しいお菓子とかを食べまくって悩みを一瞬でも忘れよう、と私は決心した。
***
「ここか…」
学校から外出許可を取って徒歩数分。可愛らしい雰囲気のお店が見えてきた。
白で統一された清潔そうで焼き菓子の甘い香りが漂う小さなカフェにたどり着いた。看板には《カフェ・イレミア》の文字。
お店は路地裏にあるため、他にお客さんはいない。
「こんなによさそうなお店なのにね…」
意を決して扉を開いてお店に入る。
カランカラン、扉についていたベルが落ち着いた音を鳴らす。店内は焼き菓子の香りでリラックスできそうな空間が広がっている。
「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」
「あ、はい。そうです…」
薄茶色の髪のお姉さんが対応してくれる。見たところ、他には店員さんも、お客さんもいない。
「こちらのカウンター席にどうぞ。」
案内された席でメニューを見る。端のほうに添えられた写真はどれも美味しそうで選べない。
「このパフェも美味しそうだけど、こっちのオムライスも捨てがたい…どうしよ…」
「私の個人的なおすすめはこれだよ。」
声が聞こえて顔を上げるとそこには白いフードを被っている顔が見えない女性。フードから除く口もとは微笑んでいる。そして、他にも顔を同じように色違いのフードで隠している3人。ちょっぴり警戒するが、特に敵意は感じられない。
「ここ、私たちの行きつけなんです。仕事に行き詰まった時の息抜きにちょうどいいので…いつものお願いします。」
「私たちも〜!」
「じゃあ、私は季節のケーキを…」
「かしこまりました。」
お姉さんがカウンター越しに調理を始めたのが見えた。
「初めてみる子だけど貴族魔法学院の生徒?」
「そうですね。あなた達は?」
「私は騎士学校の卒業生よ。私達は幼馴染でよく4人で遊んでるの。」
「そうなんですね」
「ま、もう1人の幼馴染は最近忙しそうで会えないけどね〜。ふわぁ………」
黒いフードを被った人が眠たげに言う。あくびしてるし、カウンターに突っ伏してる…
「そうそう、その子も貴族魔法学院に通ってたはず…」
銀色のフードを被った人が呟いた。
「うん。確か今年で卒業するんじゃなかったっけ?」
緑色のフードを被った人の言った通り、今年で卒業って事は私と同い年か。
「うん。あっ!よかったらその子に伝言してくれない?」
「確かに。それはありかも…」
「最近手紙の返事はありませんでしたし…ちょっと心配で。」
「あたしも手紙送ってるんだけど読んでくれてるかな?」
白色のフードを被った人が名案だ!とでも言うように言った言葉に
それぞれが反応する。
「私の知り合いかもしれないですし、知ってたら伝えますね。」
「ほんと!?ありがとう!じゃあ、ルーチェ・グレイゼアルって子にセレナと他3人からって伝えてくれない?」
突然告げられた自分の名前と…幼馴染の名前に飲みかけていた水が変なところに入った。
「ゲホッゲホ……る、ルーチェですか?」
「知ってるの?」
眠ったと思っていた黒いフードの人が反応する。
ようやく全てがつながった気がした。
「はぁ。そういうことか…えーっと、私がルーチェ・グレイゼアル本人です。」
「え?」
「は?」
「ん?」
「ルーチェってあのルーチェですか?」
「お久しぶりです!セレナ、エレル、レムリア、フェルシアだよね?」
4人の驚いた顔が面白い。9年前よりも皆成長したな……
「ルーチェ、ルーチェだ…!」
「何年ぶりなのぉ…?寂しかったんだよ?」
「本当に、久しぶり、ですね!」
「あたしの事覚えててくれたんだ〜!」
4人ともうっすら涙ぐんで私に抱きつく。私も抱き返してこれが夢なんかじゃないと安心した。
皆、心配していたけど9年前と変わらず、純粋で明るいままだ。
「ふふ、おまたせしました〜。ルーチェさんに季節のケーキ、皆さんにいつものです。」
皆にいつものがあるということはみんなよくここに来てたんだ…私も早くここに来ればよかった…
「そういえばセレナは騎士学校の卒業生だってわかってるけど皆は何してたの?」
「あたしはセレナみたいに騎士には興味なかったしねー…レムは今冒険者になって稼いでるんだっけ?」
「ん。フェルシアは今あれでしょ?聖女。」
「はい?」
聖女ってあのこの大陸全体に結界を張って魔獣の被害を減らすのに一役買ったあの聖女様?っていうかレムは冒険者なんだ…家に引きこもってずっと寝てそうなのに。
「そういうレムだってあのS級冒険者レリアじゃないですか。」
「え…」
レリアってあの世界に数人しかいないS級冒険者で唯一ソロ活動して、どんなに危険度の高い任務でも無傷で帰って来る異名持ってなかったっけ?規格外すぎる。あの有名な聖女と冒険者が私の大親友だったとは……
「セレナはあれでしょ?聖騎士団団長。」
「もういいって…」
聖騎士団は規格外に強い人達しかいない対魔獣専門部隊で聖騎士団が発足してから魔獣による国民の死亡率が何十%も減ったと言われているあれでしょ?やばくない?
「え、エレルはさすがに普通だよね?」
「んー?あたしはセルエレフ商会会長やらせて頂いてます。」
「わー…皆すごすぎる…」
セルエレフ商会はこの国のほとんどの商会を束ねていて王家の御用達でもあったはず。
「なんで9年ぶりに再会した大親友たちが全員大物に?意味分からん。」
「まあルーチェだって大物の1人のくせに…」
「わーわー!なんのことですか?もうやだ。ケーキ食べる…」
色々と重大な事が発覚しまくってるって。私は昔から、魔法の研究が好きすぎただけだ。
本来の目的の美味しいもの食べて悩みを忘れるどころか増えてるような?
季節のケーキはちょうどこの季節が旬のりんごをふんだんに使ったケーキだった。飾り付けもおしゃれで食べるのがもったいないほどだ。
「いただきます。」
ケーキの端をフォークで刺して口に運ぶ。甘すぎない生クリームが美味しい。
「美味し…」
このお店本当に良いお店なのになんでこんなにお客さんが少ないのだろうか。絶対人気になると思うのに…
「そういえばルーチェはなんでこのお店に?」
「あ、ちょっと悩みごとで気分転換に。」
「あのルーチェに悩み事ですか?」
「せっかくだし聖女様に相談してみたら?」
「そうだね…実はカクカクシカジカで……………」
4人にジェイドの事や編入してきた男爵令嬢の事について相談する。
すべて説明し終わる頃にはセレナはコップがミシミシと音を立てるくらいに握りしめ、エレルは血管が浮き出ているし、レムは指の関節をぽきぽきと鳴らし、フェルシアは
「天罰を下しますか」
なんて恐ろしい事を言った。
「そこまでしなくても…」
「「「「する必要があるんです!」」」」
見事に4人ハモってるし。
「9年ぶりに再会した大親友の婚約者が浮気してるって聞いて激怒しない人がいるとでも?」
まずい。4人共権力は十分にあるしこのままジェイドを殺しに行くかとでも言わんばかりの目をしている。
「まだ確証は無いし、あくまで噂だよ。」
4人を説得してからまた《カフェ・イレミア》で会う事を約束し、寮まで戻る。
自分の部屋に入った瞬間、どっと疲労感が押し寄せてきた。今日は色々とあったからね。
久しぶりに皆に会えてうれしかったなあ…
そんなことを思いながら私は課題を終わらせ、湯浴みをして、眠りについた。
***
そして、4人と再会した日から数ヶ月が過ぎ、今日は卒業ダンスパーティだ。
数カ月間、忙しい日を除いてほぼ毎週4人と会って世間話をしたり、それぞれがどのように過ごしていたのかを話していた。
私からは、貴族魔法学院の事と噂を。
この今日の卒業ダンスパーティで第2王子殿下とその側近の方々がそれぞれ婚約破棄を宣言するという噂もあるし…
ジェイドは次期宰相でテストでも常に上位の成績を収めている。そんな馬鹿みたいな事をするとは思えない。
そんな事をすればまあ宰相になる可能性はほぼ0になるだろう。なんせお父様がね…
「まさかねえ?そんな馬鹿げた事があるもんですか。」
侍女に手伝ってもらいながら、ドレスを着て、髪を結う。最近流行りのかわいい髪型は、ちょっぴり私の気分を上げる。
しかしそれは本当にちょっぴりで私の心は沈んだままだ。卒業ダンパのドレスだって、ジェイドは送ってくれなかったから。
婚約者のいる令嬢は、というかこの年齢だとほぼ全員がいるけど、婚約者から送られたドレスを着るのが習わしだ。
まあ元々ジェイドはセンスない人だから似合わないドレスを送られても困るけど。着るしかなくなるから。
「はぁ…まあなるようになれ!」
普通はありえないけどパートナーを同伴せずに1人で会場に入る。
ここからは完全アウェーだ。気を抜くな私。
いつもの令嬢スマイルでニコニコしながら会場を1人で歩く。向けられる視線は99%が好奇で、1%以下は同情だ。
それにしても、ずっとヒソヒソと話されてちょっとうざい。何か言いたいことがあるなら堂々と言ってくれればいいのに。クスクスと笑い声も聞こえて、陰口も丸聞こえなのにこれでも声を潜めてるつもりなのかな? 全部無視するけど。
せっかく美味しいご飯もあるのに食べないなんてもったいないかと思ってケーキをお皿に取り分ける。
壁際に落ち着いて、口に運ぼうとしたところで照明が暗くなり、卒業ダンスパーティが始まった。ちっ、ケーキ食べたかったのに。
ぱっと一部のライトだけがついてそこに立っているのは第2王子殿下。その後ろには側近たち___もちろんジェイドもいる。
「皆のもの、今日は卒業ダンスパーティだ。卒業前のひとときを楽しんでくれ。そして、ヴィクトリア!こちらに来い。」
「ルーチェも来てくれ。」
「メル!いるのはわかっている。出てこい。」
それぞれがそれぞれの婚約者にお呼び出しを受けた。まさかまさかとは思っていたけどマジでやるつもりかこいつら。アホすぎね?
言われた通りに歩いていく。第2王子殿下の婚約者のヴィクトリア様も1人で背筋を伸ばして前を見据えている。次期騎士団長の婚約者であるメル様も青い顔をして前に歩み出た。
このタイミングで婚約破棄されたら誰が実際に婚約しなおしてくれるだろうか。この年齢で婚約を結んでいない貴族はもうほとんどいない。悪い噂が流れていたり、どうのこうののパターンだよね…
「お前らに告げる。私、セドリック・ディ・エネルダイスはヴィクトリア・レインカーテと婚約を破棄する!」
広間は一瞬の静寂に包まれ、すぐにざわめきが広がった。
「ルーチェ。お前との婚約も破棄する!」
「メル。お前にはがっかりだ。」
おっと…完全に見世物状態じゃん。
「は?まじかよこいつら……」
誰にも聞こえないように呟く。
「理由をお伺いしても?わたくしたちが一体何をして、そしてどのように婚約破棄という結論が出たのか理解できませんわ。」
ヴィクトリア様がはっきりと通る声で抗議し、広間は再び静まりかえった。
「理由?ここまでしてとぼけるつもりか?アリス、来い!」
「はい!殿下ぁ。」
ポテポテと足音を立てて駆け寄るアリスと呼ばれた噂の男爵令嬢。いや、走るなよ。令嬢教育絶対受けてないじゃん
「お前達はアリスをいじめていたそうじゃないか!」
「はあ?」
思わず私の声が漏れた。いや、全く心当たり無いし。
「殿下、わたくしはアリス? 嬢をいじめた記憶がありません。わたくしたちがいじめたとどのように知ったのですか?」
私もヴィクトリア様と同じように質問する。だって最近は《カフェ・イレミア》に行くか寮の自室に引きこもって課題をするかのどっちかだもん!
「ルーチェ、お前は殿下を疑うのか?アリスがそう言っていたのだ。お前達にいじめられたと。証拠の破かれた教科書や噴水に入れられたというカバンを持ってな!」
「ジェイド?それは私たちがやったという証拠にはならないじゃないの。他の令嬢がやった可能性は?もしくは、私たちを陥れるために彼女が自作自演したという説は無いの?」
正直ここまで来たら馬鹿にはこれくらい言わないとわかんないでしょ?馬鹿だから。
「女の癖に私に指図するな!」
うわ出た。ジェイドの男尊女卑の考え。私が一番ジェイドの嫌いなところだ。これはあくまでも政略結婚だから耐えなくちゃとか思ってた過去の私に耐えなくていいって言ってあげたい。
「え……これは何かの間違いですよね……だってなんでこんな事…」
「メル。私はいじめをするような悪女が一番キライなんだ。お前はまさにその悪女だった。」
私とジェイドの話聞いてた?次期騎士団長さん?
「ヴィクトリア、お前は国外追放だ!アリスをいじめる者などこれで十分だろう!他の二人は温情で国外追放は無しにしてやる。」
おっと?強硬手段にでたか。っていうかただの聖女でもないなんでもない男爵令嬢をいじめただけで国外追放はやばいって。いじめてないけど。
っていうかこれからどうしよう…正体明かせば行けるだろうけど外野がうるさいだろうし…面倒事は避けたい。もうすでに面倒だけど。
「殿下。国外追放の必要などありませんわ。」
背後から掛けられた声は妙に聞き慣れた、それでいて威厳と怒りに満ちた声だった。
振り向けば再会した時と同じように白いフードを目深に被った顔が見えない大親友がコツコツと足音を立ててこちらに歩いてきていた。
帯刀しており、完全に誰も声を発せないオーラを身にまとっている。
「だ、誰だお前は!警備は!?警備はどうした!」
「え、あれ警備だったの?弱すぎね?よくあんなんで守れるね、むしろ戦場だと足手まといになるレベルの弱さだったよ?」
拍子抜けしたとでも言った声色の私の大親友はぱっとフードを払い、その顔をあらわにした。
「セレナ?」
なんでここにという声は周囲のざわめきによってかき消された。
「聖騎士団団長セレナ?」
「あの鬼神がなぜここへ…」
セレナはその冷たい碧い瞳を殿下に向けて、手に持っていた水晶を掲げた。
「私はこの学院の警備に携わっています。これは警備のカメラに写った映像です。」
スクリーンを展開し、映像を見せた。それは、アリス嬢が自分で教科書を破り、カバンを噴水に投げ入れている映像だった。
「何よこれ………知らない。知らないわ!きっと何かの間違いよ!」
アリス嬢が叫ぶが映像は止まらない。映像の中では階段を降りている最中にも、アリス嬢は勝手に階段を転げ落ちて、後ろにいたヴィクトリア様に押されたと証言していた。
「これでも彼女の言葉を信じますか?」
「な、これは………いや、その映像をお前が作った可能性だってあるだろう!信用できん!」
いや、お前はなんでそこまでアリス嬢を信じるんだよ?
「ふわぁ………ねえセレナ。話終わった?眠い…」
「レム。ここからが本番ですよ?私たちの大親友を侮辱した罪を償っていただかなくては。」
「そうそう。あたしめちゃくちゃキレてるんだからね?レムも後で《イレミア》のフルーツタルトを奢るから。」
「そうだねぇ。じゃあ一仕事しますか。」
いつでもどこでもマイペースな大親友たちがまた会場に入ってきた。
「なんで皆ここに………」
「あ、ちょっと言いたいことがあってねぇ…眠いけどまあ私達の大事な大事な大親友のピンチに駆けつけたってわけ。」
有名人3人の登場に、広間はどんどん騒がしくなっていく。さらに何度も口にしている大親友という言葉に野次馬は食いつく。
「大親友ですって!」
「彼女たちの大親友がこの会場に!?」
「なんて羨ましい…一体誰なのかしら?」
「えーっと!セドリック第2王子殿下?今後一切セルエレフ商会は王家に干渉しません。医療機器も食料も全部他の商会からがんばってください。まあ、他の商会にも根回ししてるけどね!」
にっこりと笑顔で言い放ったエレル。にしても商会長の影響力は凄まじいねな…他の商会にも根回しって……
そんな事を思っているとレムとフェルシアも一歩前に出て言い放った。
「私も。こんな馬鹿王子が治める国なんて終わるから冒険者として働きたくないし。そんな暇あったら寝る。」
「その殿下が信用していらしてる令嬢からは悪意と嘘の気配がします。警告です。彼女は国を滅ぼしかねない存在です。」
私の大親友たちは、いつも私を助けてくれる。9年前だって、今だって。
この有名人4人からの攻撃を受けて王家が無事でいられるわけがない。
セレアが魔獣を減らして他国への牽制という役割を果たし、エレルのセルエレフ商会に生活は頼り切っていて、レムリアがセレアが倒しきれなかった魔獣を倒して治安維持の役割も果たして、フェルシアという聖女の力でこの国は成り立っている。
「な、なぜだ…一体我々が何をしたっていうんだ!」
顔面蒼白を通り越して土気色の顔をしている殿下。よほどショックだったのだろう。
「え、だってあなた達は私たちの大親友をこの大勢の前で侮辱したんだよ?許せるわけないじゃん。」
「私たちの大事な大事なルーチェに手を出しといて無事でなんか済ませませんよ。」
え、というあっけない声を漏らして硬直する。このタイミングで注目は浴びたくないって。名前出さないでほしかったのに!
この場にいる全員の視線が向けられ居心地が悪い。
「ルーチェもなんで黙ってるのさ〜!」
「ルーチェがあのアステラだって知ったら誰もルーチェに反論できないのに…」
「げっ!」
なんでこのタイミングで言っちゃうかな!?
アステラはこの世界の魔法を底上げした有名な魔法使いだ。
たくさんの魔法を開発し、民間向けの魔獣を簡単に倒せる魔導具を発明し、その他諸々の魔法に関する分野において色々と活躍した正体不明の魔法使い、だった…今までは。
「レム?いや皆?黙ってろって言ってたよね?お仕置き魔法使おっか?」
今まで誰にもバレずに過ごせたのに…面倒な事になるってわかってたからわざと学院でも成績を上の下程度に収めてたのに……こんなところでバラされるなんて…
「そ、そんな………………」
第2王子殿下や側近が崩れ落ちた。そして、卒業ダンパは一旦お開きとなった。
***
そして1週間後。
あのダンパで第2王子は王位継承権を剥奪され、一応侯爵位はもらったらしい。ただ領地はこの王国の最北端で作物は育たない厳しい土地らしい。自業自得だ。
卒業ダンスパーティは昨日、改めて行われた。やはり古くからの慣習を途切れさせるわけにはいかないとの事。
(主にセレナたちのせいで)私はあのダンパでたくさんのものを失った気がするし、参加したくないと抗議したが、卒業生だし強制参加させられた。視線が痛かったしめちゃくちゃ話しかけられたしどこで皆と知り合ったのかとか聞き出させれて散々だった。
そして今、《カフェ・イレミア》で4人と密会中だ。
「にしてもよくもバラしてくれたな?」
「ごめんって!」
「ああでもしなきゃだめでしょ。」
「私達のルーチェに二度と手を出すなという意思表示ですし、しかたないですよ。」
「そうそう!ちなみに私さ、あのアリスとかいう奴への事情聴取に立ち会っただけどさ、自分はヒロインだ〜とか悪役令嬢のくせに?とか意味わかんない事ばっか言ってた。ヒロインって何?」
「知らないことを言ってもわかんないままだからどうでもいいでしょ。」
まあセレナにそれは同意するけど。悪役令嬢って演劇でいうあの悪役令嬢?ヒロインは……主人公みたいな意味かな?わかんないけど。
「結局そのアリスっていう人はどうなったの?あたしの商会は今も王家には干渉してないからあっちは散々らしいけど。」
「うんうん。ジェイド…レイベシュ侯爵令息が謝ってきて婚約を結び直してくれって言われたけど返事する前にお父様が断っちゃった。婚約破棄して貶めようとして更に男尊女卑な発言をしておいてよくもそんな事言えたなって。他の婚約破棄した側の人はもう既に街を歩けないぐらいにあの事件は広まってるけど。」
「アリスさんはもう既に辺境の修道院に送られたらしいですよ。事情聴取で変な事を言ったので精神異常者だと思われたからあそこで静養だって。実質社交界からの追放。」
「えっもう?早いねぇ…貴族様は恐ろしい。」
「まあ貴族も平民もスキャンダルだとかは大好物だしね。今回はまあ尊厳を傷つけられたから私は被害者だし、お父様がブチギレてたから………早めに手を打って怒らせたくなかったんじゃない?」
お父様がブチギレたらこの国は本気で終わるからなあ…怖い怖い。
「魔王が直々に手をくださなかっただけありがたいんじゃないの?魔王も事情聴取に立ち会ってたけどめちゃくちゃ怖かった。」
「レムがそれほど言うんですか?あのS級冒険者が?」
「なんていうんだろ?殺気がやばい。戦いたくない。」
魔王とは、私のお父様だ。別名氷の宰相。この国で宰相をしていて、魔力量も仕事の速さも桁違いらしい。
私はお父様の1人娘だけど私が宰相になることを断固拒否したから婚約者だったジェイドが次期宰相として扱われていた。直々に手ほどき受けていたしね。
「にしても数ヶ月前にルーチェと久しぶりに会ったときは驚いたよ…髪も目も変わってたから。」
「あー………まあ幻影魔法使ってたしね。」
9年前の事を思い出す。
初めて会った日、私はお父様と大喧嘩をして家出していて、必死に家から逃げていた。その時に出会って仲良くなったのがこの4人なんだよね。
私は幼い頃から大好きな魔法の研究とかをしていて、その一環で編み出したのが幻影魔法だ。
それを駆使して目立つ銀白色の髪だとか淡紫の目だとかを違うように見せていたんだよね…
家出先で路頭に迷っていたところを4人が見つけてくれて助かったんだよね。そのあとあっけなくお父様に見つかって怒られたけど泣きつかれた。大の大人がギャン泣きして幼女にすがりつく場面ほど怖いものはなかった。
それからまた会えるようにはなったけど婚約を結んで簡単に外出できなくなったんだよね。
「そう言えばあの時も喧嘩で家出したって言ってたけどさ、なんで家出したの?」
「魔法の研究のために外で色々と調査したいのにお父様が危ないからだめだの一点張りで、怒って家を飛び出たってわけ。」
魔王とか言われてるくせに親バカだからね…
「まあルーチェらしいね。」
「ルーチェに普通は似合わないわ。」
「ルーチェはルーチェだった…」
「相変わらずの魔法好きですね。」
はあ、とため息をつくも、それは皆と出会う前とは違う理由だ。
「言っとくけど4人のせいでこっちは大変なんだからね。」
全員がどういう事?と疑問に思った顔だ。
私のいつものになった季節のケーキを運びながら、部屋の惨状を思い出す。
「皆が私をアステラだってバラしたせいで釣書が送られたり魔法の論文についての意見を求められたりで散々よ!どうしてくれるのよ〜!」
「「「「ああ〜………」」」」
私の寮の部屋には既にたくさんの手紙が届いている。お父様からの手紙には私への釣書とかお見合いの話がたくさん来ていると書いてあった。
「もう婚約とかしたくないんですけど…めんどい。私はのんびり研究ライフを送っていたいです。」
「まあどんまい!」
皆がお疲れ!というような笑みを浮かべているが、これは全部セレナたちのせいだからな?という言葉は季節のケーキと共に飲み込んだ。
今日はいちごのケーキだった。
また《カフェ・イレミア》で皆と一緒に食べる時はどんなケーキになっているだろうか。
そんな事を思いながら、私はまたケーキを口に運んだ。
好評でしたらシリーズ化しようと思います。




