第16話:うちのサンタがマジすぎる!
《 前回のあらすじ 》
七福神ワールドツアーがマジでプロの仕事だった。ちと大盤振る舞いすぎたがな
北極の果て、サンタクロースの家は元旦の朝も雪に埋もれていた。
外は猛吹雪。
窓ガラスを容赦なくバシバシ叩く風の唸りと、暖炉の中で薪がパチパチとはじける乾いた音だけが室内に響き渡る。
部屋の中は、シナモンの甘い香りと、どこからともなく漂ってくる黒糖シナモンクッキーのあまりにも濃厚な匂いが絡み合い、「もう一枚だけ……」と悪魔が耳元で囁くように罪悪感をそっとくすぐっていた。
革のソファにどっかりと腰を沈めたノエルは、膝の上に巨大なポップコーンボウルを抱え、テレビをぼんやり眺めながら鼻を鳴らした。
「ふーん、日本は初詣で大行列か。七福神の連中が昨日あれだけ福をドバドバぶちまけたのに、まだ足りねえって、人間の欲深すぎだろ」
その隣ではクランプスが、黒いモコモココートにすっぽり包まり、頭にちょこんと乗せたヤギキャップを指先で直しながら、漆黒のクッキー袋を大切そうに抱えていた。
袋には金糸で「Bad Santa Only ♡」の文字と、小さな金色のヤギマークが刺繍され、暖炉の炎を受けて妖しくきらめいている。
ノエルが横目でチラリと見て、口角を吊り上げた。
「またそのクッキーかよ。『Bad Santa Only』って書いてあるけど、俺のことディスってんのか?」
クランプスはクッキーを優雅に一口かじり、目を細める。
「ふふ、違いますわ。Bad Santaは私ですもの。ノエルはWorst Santaですわよ?」
瞬間、ルドルフが飲んでいたホットコーヒーを喉に詰まらせ、むせ返る。
「うわっ! 朝っぱらからディスり合い開幕キター!」
ノエルが手を伸ばす。クランプスが素早く袋をガード。微笑ましい攻防が始まる。
「ちょっと喰わせてくれ」
「だめですわ。私専用ですもの」
「ケチが……。でもクリスマス思い出すな。あのとき世界中がクッキー十キロで地獄絵図だったのに、元旦にはもう普通に初詣って、人類の適応力だけはマジで認めるわ」
ルドルフがカップを置いて首を傾げる。
「なんであんなにすぐ収まったんだろうね」
クランプスがクッキーを頬張りながら、ふと遠くを見るような目をした。
「……誰かが、バランスを取ってくれたのかもしれませんわね」
その一言が合図だったかのように、テレビがけたたましい警報音とともに緊急速報に切り替わった。
アナウンサーの声は完全に裏返り、絶叫に近い。
「──速報です!! 日本全国で“福”が消滅しています!! 七福神の力が急激に低下!! 原因は……『貧乏神の復活』との情報が──!!」
ポップコーンが床にぶちまけられた。
「……は?」
クランプスが珍しくクッキーをポロリと落とし、表情を消す。
「……これは、ただ事ではありませんわ」
スマホがけたたましく鳴り響く。画面に「弁才天」。
ノエルは反射的に通話ボタンを叩いた。
「よお、正月早々──」
「ノエルちゃん緊急事態よぉっ!! 貧乏神に福がどんどん吸い取られてるの!! お願い助けて!!!」
ノエルの指が、つまんでいたポップコーンを粉々に砕いた。
「……助けて、だと?」
部屋が凍りついた。
ルドルフもクランプスも息を呑む。
ノエルはゆっくりと目を伏せ、低く、掠れた声で呟いた。
「……昔、俺が普通にサンタやってた頃。
似たような電話が来たことがあった。
『助けて』って。
着いた時には、手遅れだった」
静寂が落ちる。
やがてノエルが顔を上げた。
身体が小さく震えている。
「行くぜ」
コルト・ガバメントを腰から下げ、静かに笑う。
「ルドルフ、ソリ。クランプス、プレゼント袋を忘れるな。
今度は、絶対に間に合わせる」
暖炉の火が、まるでその決意に応えるように、ビュオオオオッと高く、赤く燃え上がった。
──ここまで読んでくれた良い子たちへ。
お疲れ様だったな。
だが、まだ帰るなよ?
・次のエピソードは1月3日、20時に投稿予定だとよ。
用意された服、マジ何なんだよ!?
・ブックマークしてない奴、手あげろ。
ホールドアップしろとは言ってねえ。
・活動報告も要チェックだ。
小話をアップしていくよう、作者を脅しといた。
本編が待てない良い子は、そっちも読め。
──ノエルより。




