第1話:うちのサンタが凶暴すぎる!
⭐︎全年齢対象ですが銃火器描写あります。
⭐︎ヤバいサンタコメディです。
聖ニコラウス知ってる?
そう、サンタクロース。
クリスマスの夜に、トナカイの引くソリで空を駆け、
良い子たちにプレゼントを配る、
あの赤い服の優しいおじいさんだ。
彼には一人娘がいる。
髪は朝日に照らされた金色の小麦畑のように輝き、
瞳は北極の空を映したサファイアのよう。
雪のように白い肌に、
クリスマスローズの花びらのような淡いピンクの唇。
人々に夢を届けるように、と願いを込めて
「ノエル」と名付けられた、
まるで聖なる夜そのものが形になったような美しい娘だ。
時は流れ、現在。
丸太を重ねた暖かなコテージ。
暖炉の火がパチパチとはじけ、
オレンジ色の灯りが壁に揺れている。
薪が燃える匂いと、ほのかに漂うシナモンの香り。
ここがサンタクロースの家。
先代ニコラウスが引退して以来、
ずっと静かに時が流れていた。
ソファに寝転がるノエルは、膝の上に
巨大なポップコーンボウルを抱え、
マフィア映画の銃撃戦に目を輝かせている。
画面でドンパチやってるたびに
「うわ、かっけえ……」と呟きながら、
ポップコーンを口に放り込む。
その横で、立派な角を生やした赤鼻のトナカイ──ルドルフが、深いため息をついた。
「ノエル……ニコラウス様はキミみたいにダラけてなかったよ。もっとサンタとしての自覚を持ってくれないかな」
ノエルはポップコーンを頬張りながら、
気だるそうにルドルフのほうを見る。
花のように可憐で、でもどこか毒のある声で、ぽつり。
「じじいが引退してから、サンタクロース協会が出来ただろ? あいつらに任せとけよ」
その一言で、ルドルフの肩がガクンと落ちた。
そう、ノエルはサンタになってからずっとこの調子。
ニコラウスから「お前はワシより立派なサンタになりなさい」と言われ続けて育ったせいか、300歳を超えた今でも永遠の反抗期。
あまりに扱いにくいので「あいつには任せておけない」と仕方なく協会が作られ、エルフたちがサンタを代行するようになったのである。
「人任せにするのは良くないよ。キミは良い子に夢を届けるのが仕事じゃないか」
「じゃあ聞くけどよ。今どきのガキ共がショウガ味のクッキーに夢を感じるか? 罰ゲームに近いぜ?」
「でも伝統だから……」
「だったら伝統のクソまずいクッキーを、10キロ食え、と押し付けられたらどうよ?」
「そういう極論を言わないで。それに、品物だけじゃない。
ソリにプレゼント袋を乗せて聖夜に空を駆けるキミの姿に、子供たちは夢を見……」
言いかけて、ルドルフは言葉を呑み込んだ。
ノエルの「正式サンタ服」を改めてまじまじと見つめる。
短いフレアスカートに、ふわふわの白いファートリム。
太ももをぎゅっと包むモコモコのレッグウォーマー。
首には金色の大きなベルがついたチョーカー。
ピンクのハートマークがキラキラ輝くケープ。
どれもこれも、先代ニコラウスが「娘の美しさを最大限に引き出すため」と考案した結果、「中学生が考えたエロ可愛い女サンタさん」のような仕上がりになった逸品だ。
「子供たちも……えーと、大きなお友達も、キミの姿に夢を……うひゃあっ!?」
チュイン!!
空気を切り裂く甲高い音。
ルドルフの耳のすぐ横を、熱い鉛玉がかすめ飛ぶ。
ノエルは愛用のコルト・ガバメントを片手でくるくる回しながら、にこーっ、と笑みを浮かべた。
目がまったく笑っていない。
「この部屋、トナカイの頭の剥製とか飾ったらいい感じだと思わないか?」
ルドルフは震える前脚で自分の頭を撫で、生きてることを確認しながら青ざめる。
その瞬間、
リンリンリン、リンリンリン、リリリリリン♪
スマホがジングルベルの着信音で鳴った。
ノエルの表情が、一瞬で死魚の目のように曇る。
「はいよ、こちらノエル……」
「こちらサンタクロース協会事務長ジングルです。
本日はノエル様の業務についてお話が」
事務的で、どこか冷たい男性の声。
「ここ70年間、ノエル様が全く活動されていません。当協会では、本年をもちましてノエル様のサンタクロース資格を停止し、毎年の援助金も打ち切る方向で検討しております」
「えっとぉ、それは住む家とか食費とかが無くなるってことですよねぇ? ノエル困りますぅ」
「甘い声を出されてもダメです」
「協会本部の敷地にホームレスとして住み着いてやろうかコラァ」
「サンタが路上生活者になる瞬間に立ち会えるとは光栄です。資格を継続したいなら、今年からはきちんとプレゼントを用意し、サンタとして活動をお願いします」
ノエルは電話を切ると、深いため息をついた。
コルトガバメントの安全装置をカチッと外しながら、
ぼそり。
「……ちっ……やるか」
ルドルフは雪のように血の気を引かせ、
「殺るって、誰を!?」
「なに勘違いしてんだ? サンタの仕事をやるって言ってんだよ。だが今からじゃプレゼント用意する時間ねえ。ルドルフ、心当たりは?」
「あるよ! でも教える前に、拳銃を下ろして? マジで怖いから」
「怖いって感じられるのは、生きてる証だよなァ。素晴らしいと思わないか? ルドルフ」
銃口を突きつけられたルドルフの脳裏に、
走馬灯が爆速で流れる。
第一線で活躍していた黄金時代。
幼いノエルが銃をぶっ放してきた日。
ノエルが無断撮影してきた大きなお友達を半殺しにした日。
……ロマンチックすぎる。
「プレゼントなら、ノースポール工場が有名だよ。お願い、撃たないで」
「ふん……じゃあさっそく工場見学に行くか」
「一応言っておくけど、もし工場で発砲なんてしたら、資格剥奪どころじゃないからね?」
「おいおい、俺はニコラウスの娘だぜ? 暴力なんて野蛮なことするわけないだろ。隙を見てプレゼントのストック分をパクり……お借りするだけだ」
「頼むから銃火器だけは持ち込まないで。社会的に抹殺されるから」
「ちっ……じゃあ、笛ならいいよな?」
ノエルが首から下げてみせたのは、銀色に輝く小さな笛。
ニコラウスから贈られた、大切なお守りだ。
「クランプスの笛……う、うん、それならいいんじゃないかな。笛だから……武器じゃないから」
ルドルフは目をマグロのように泳がせながら、なんとか頷いた。
──ここまで読んでくれた良い子たちへ。
お疲れ様だったな。
だが、まだ帰るなよ?
・ブックマークしてない奴、手あげろ。
ホールドアップしろとは言ってねえ。
・活動報告も要チェックだ。
小話をアップしていくよう、作者を脅しといた。
本編が待てない良い子は、そっちも読め。
・次のエピソードは12月8日、20時に投稿予定だとよ。
──ノエルより。




