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後悔先に立たず

 次の日。というかその日のうちから私は後悔に苛まれていた。

 

 どうしてあんなことを言ってしまったのだろう。

 

 学園長先生の持っていたものに対して偽物、だなんて大胆にもほどがある。

 

 他にいくらでも言いようはあっただろうに、真っ直ぐにぶつけてしまった言葉に悔恨しかない。

 

 騙されているのを見て見ぬふりはできなかった。

 

 これは私の性分のようなものだし、そこはしょうがないと割り切っている。

 

 でも、その伝え方には大いに後悔していた。

 

 もっとこう優しい口調で、貴族的な遠回しな言い方とかいくらでもあっただろうと、今更ながらに浮かんできては私の心にチクチクと刺さった。

 

「……はぁ、言い過ぎちゃったかな。」

 

 トントンと教科書を整えながら独り言のように呟くと、声をかけにきたのであろうルーナに苦笑された。

 

「エリーナって変に度胸あるよね。昨日は私も流石に肝を冷やしたよ。」

 

 その核心めいた言葉がグサッと胸に突き刺さる。

 

「うぅ、私も反省してるからこれ以上傷口を抉らないで……」

 

 胸を押さえながら弱々しくそう言うと、ポンと肩に優しく手を置かれた。

 

「あはは、ごめんごめん。エリーナは引きずっちゃうタイプだったね。ま、今更後悔しても気持ちが落ち込むだけだし、混んじゃう前に学食行こ。んで、美味しいもの食べて忘れよう!」

 

「……うん、そうだね。」

 

 ルーナの励ましの言葉に私は席を立って、学食のある食堂へと向かう。

 

 ご飯を食べてお腹が満たされたら、多少は気持ちも紛れるかもしれない。

 

「今日の日替わりって何だったっけ?」

 

「デミグラスハンバーグだよ! 私イチ押し!」

 

「じゃあ、それにしようかな。」

 

 頭の中に熱々のハンバーグの香ばしい匂いを思い浮かべてにんまりとする。

 

 うん、楽しみかも。

 

「そう言えば聞いた? 殿下の側近が決まったんだって。」

 

「え、初耳! ようやくだね。結構時間かかったみたいだけど、どうしてだろう。」

 

「やっぱり王太子だからだじゃない? それで他の王子よりも慎重になったんじゃないかって、もっぱらの噂だし。」

 

 この国には三人の王子様がいる。

 

 第一王子のリアム・ロバート様。

 

 彼は文武両道で眉目秀麗の誰もが憧れる理想の王子様的存在。

 

 第二王子はイーサン・ロバート様。

 

 剣技において右に出るものは居ないと言われるほどの腕前の持ち主で、将来は騎士団長として第一王子を支える存在になると言われている。

 

 第三王子はヘンリー・ロバート様。

 

 魔道具の研究に勤しんでいて、将来は画期的な魔道具を製作することを目標に猛勉強中らしい。

 

 第二王子と第三王子は早々に側近が決まっていたが、第一王子は今まで未定とされていた。

 

 それが決まったのだから、ビックニュースと言えるだろう。

 

「そうそう、それからね……」


 他愛もない話をしながら人混みを縫って二階の食堂へと足を運ぶ。

 

「スミスくん」

 

 その道中で後ろから突然声をかけられた私達はほとんど同時に振り返った。

 

「学園長、先生……」

 

 その声の主がわかると、さぁっと血の気が引いて焦りと不安が出てくる。

 

 それが顔に現れてしまっていたのだろう。

 

 学園長先生は苦笑した後、優しい声で話しかけてくれる。

 

「少し時間いいかね。昨日の件で話したいことがあるのだが……」

 

 予想通りのその言葉にきた、と手を握りしめた。

 

「はい、大丈夫です。」

 

 心配そうに私の様子を伺っているルーナにも大丈夫だとわかるように堂々と返答すると、学園長先生はいつものように感情の読めない笑顔を作った。

 

「それじゃあ、スコットくん。少しの間スミスくんをお借りするよ。」

 

 言葉を返す代わりにルーナは軽くお辞儀をして、私に先に行ってるねと合図をしてから立ち去った。

 

「ここでは目立つ。少し場所を移動しようか。」

 

「……はい」

 

 学園長先生の言葉に人が集まり始めていることに気がついて、私はコクンと首を縦に振った。

 

 嫌な噂が流れている今、変に目立つのは避けたかったから、私としても有難い提案だったからだ。

 

 それ以前に学園長先生という身分の高い人の提案を断れる人など数えるほどしかいないのだから、私の選択は何を言われようともう決まっていたのだけれど。

 

 突き刺さる視線に顔が引き攣らないようにしながら学園長先生の後に続くと、『応接室』と書かれた部屋の前で立ち止まってゆっくりとその重々しいドアを開く。

 

 クラシックな雰囲気の上質な作りの室内は、それだけで私の居心地を悪くした。

 

 他の教室とは明らかにグレードの異なる家具に、高そうな壺が置かれている。

 

 これはあれだ。幸運の壺とかって売ってそうなやつ。

 

 そう思うと変な緊張感が相まって吹き出しそうになってしまった。危ない危ない。

 

 気持ちを落ち着かせるために深呼吸をしていると学園長先生と目があった。

 

 肌触りの良いソファにかけるように促されて、腰掛けるとふわっと体が沈む。

 

 おぉ、家にあるソファより高そう。

 

 そう思うだけで背筋がピンと伸びる。

 

「そんなに硬くならなくても良い。ここは私と君だけなんだから。」

 

「……はい、お気遣いありがとうございます。」

 

 とは言ったものの、指先の動きにまで集中してしまうのも無理はないだろう。

 

 学園長先生が私の前に腰掛けて顔の前で腕を組む。

 

 その神妙そうな様子になんだか嫌な予感がして私はゴクンと唾を飲み込んだのだった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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