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贋作を見分ける方法(エリーナver)

 

「一体どうゆうことだい?」

 

 先ほどと変わらずゆったりとした口調だった。

 

 だけどどこか冷たさがあって、見定められていると肌で感じる。

 

 私の真意を探るためか、先生は瞳に一瞬鋭い光を浮かべた。

 

「はい。私は本物の『花姫』を拝見したことがあります。その上で言わせていただきますと、それとは別物であることはまず間違いありません。」

 

 私は緊張しながらこれが贋作であるという補足をしていく。

 

 声はプレッシャーからか硬くなっていた。

 

 目上の人に感じる威圧感と不都合なことを述べる申し訳なさが合わさって、手に汗が滲む。

 

 信用してもらえるかは半信半疑。だけど、騙されている人を放ってなんて置けなかった。

 

「スミスくんは知らないかもしれないが、リリアム・ロペスは同じ作品を三作描くことで有名なんだ。」

 

 だから私が見た作品とこの作品が違っていても不思議はない。

 

 そう言いたいのだろう。

 

「はい、存じております。」

 

 私はゆっくりと頷いた。

 

「では……」

 

 完璧だった笑みが少しだけほころびを見せる。

 

「存じた上で申しております。この作品は贋作です。」

 

 断言すると、先生の絵に込める力が強まったように見えた。

 

 怒られる。直感的にそう思って、ぎゅっと目を瞑った。

 

 言い方が悪かったのかもしれない。もう少し柔らかい表現にすれば……

 

 ドクドクと心臓の音が大きくなる。

 

「しかし、これは寄贈品だ。多額の金額を支払ったわけではない。それはわかるね?」

 

「はい」

 

 幼子に言い聞かせるような優しい声色に私は素直に頷いた。

 

 そうだ。先生は最初にこれは寄付されたものだと言っていた。

 

 そのことを今更ながらに思い出して、きゅっと唇を結んだ。

 

 普通ならお金を騙す取るために行われるこの行為。

 

 何の対価もなしに偽物を贈ることなんてするはずがない。

 

 だって、バレる可能性が出てくるから。

 

 そこでやっと先生が私を疑っている理由がわかった気がした。

 

 普通ならありえない。そのことを口にしているのだから、信じられないのも当然だろう。

 

 隣にいるルーナはヒヤヒヤとした様子で私と学園長先生を交互に見ていた。

 

 私は気持ちを奮い立たせるためにとびきりの笑顔を作った。

 

 一瞬、先生の目が見開かれる。

 

「ロペス様は特殊な筆で絵を描いています。」

 

「あぁ、知っているよ。」

 

 確認するように事実を口にすると頷かれたので、そのまま話を続ける。

 

「その筆は絵に特徴的な模様を描きます。」

 

「模様……?」

 

 私の言葉を複勝した後、先生はじっと絵画を観察する。

 

 だが、わからなかったようで少しだけ首を傾げて尋ねるように私を見た。

 

「筆の穂先の長さが一部異なっているので、そこが凹凸になって線に現れます。」

 

 私は一番長い曲線を空中に浮かせた指でなぞりながら先生にも見えるように絵画を傾ける。

 

「この絵にはそれがありません。」

 

 私の話に聞き入っていた先生はきっぱりとした口調に目を瞬かせた。

 

「なるほど。私はそこまで詳しいわけではない。だが、君がここまで言うんだ。この絵は鑑定に出すことにしよう。」

 

 その言葉に安堵の息が漏れる。

 

 良かった、取り敢えずは納得してもらえたみたい。

 

「しかし、」

 

 先生は改めて私は頭の先からつま先まで見極めるように見てからふむと息をついた。

 

「それをあの一瞬で見分けるとは、大したものだね。」

 

 ニッコリと優しく目を細めて言われたその言葉は本心からのようだった。

 

「視力が、良いものですから。」

 

 私は曖昧に笑顔を浮かべて答える。

 

「そうかそうか。おっと、そろそろ授業に遅れてしまうよ。」

 

 私の返答に愉快そうに笑った後、懐中時計で時間を確認した先生はそう言って会話を切り上げた。

 

「失礼します。」

 

 私達は礼をとってから次の移動先である美術室へと向ったのだった。


 * * *

 

「これはよくできた偽物ですね。」

 

 その鑑定結果にいつもニコニコと穏やかな表情の学園長は今回ばかりは表情を取り繕えなかったようだ。

 

 その証拠に綺麗なアーモンドの瞳は大きく開かれている。

 

『学園長室』に見合った高そうな家具の並ぶ部屋で二人の男性が向かい合うようにして腰を下ろしている。

 

 片方は質のいいスーツを上品に着こなし、学園長という呼び名に相応しい見た目だ。

 

 一方で向かいに座っているのは長い前髪で目が隠れて見えない、スーツを無理矢理着こなしたような姿の男。明らかにこの場から浮いているその人こそ、腕利の鑑定士だということを一体何人が一目で判別できるだろうか。

 

「それは、間違いないのかね。」

 

「はい、間違いなく偽物です。」

 

 長い足を組み直して問いかける学園長に臆することもなく答える男性の声は変声期を過ぎたにしては少し高く、防音の室内にしっかりと響いた。

 

「……そうか。」

 

 学園長の静かに答えたその顔には薄い笑みが浮かんでいた。

 

 鑑定士の男は何度も偽物の通告をしたことがある。その経験から言わせてもらうと、学園長の反応は奇妙なものだった。

 

 普通、偽物をつかまされたと知ったら自分の見る目のなさに悲しむか騙されたことに怒るものではないのだろうか。

 

 興味深そうに前髪の奥で目を瞬かせた男は面白いものを見つけたと言わんばかりに口角を上げる。

 

「……随分と、嬉しそうですね?」

 

 何やら考え込んでいたらしい学園長は一瞬の沈黙の後肯定の言葉を述べた。

 

「あぁ、この作品を鑑定すると決めた時のことを思い出してね。」

 

「ほぅ、それは気になる話ですね。」

 

 鑑定を決めた理由。鑑定士としてはどうゆう経緯でこの限りなく本物に近い贋作を見破ったのか気になるところだった。

 

「生徒が一目で偽物だと見分けたんだよ。」

 

「一目で!?」

 

 学園長の言葉に鑑定士は机に手をついて勢いよく立ち上がった。これでもかというほど身を乗り出している。

 

「やはり、驚かれることかね。」

 

「当たり前です!鑑定用のルーペを使わずに判断するなんて、普通なら不可能です。」

 

 鑑定士は学園長に噛み付かんばかりに力説する。

 

「その方はどうやって判断したのですか!」

 

 疑問というよりも問いただすような口調。

 

 学園長はニッコリと含みのある笑顔のまま口だけを動かした。

 

「線に凹凸がないと言っていたかな。」

 

「おう、とつ……?」

 

 鑑定士の常識とは異なったその判断基準に首を傾げた。

 

「リリアム・ロペスは特殊な筆で絵を描くことで有名だ。その特徴が絵画に模様として現れているらしい。」

 

 エリーナの言葉をそのまま伝えると、鑑定士は愉快そうに目を細めた。

 

「そうですか。その方はそんなことを……」

 

「普通ではないのかね。」

 

 その反応を学園長は見逃さなかった。

 

「はい。一般的には濃淡で判断します。それをその方は凹凸という新しい見方をした。これは素晴らしいことですよ!」

 

 熱く語るその姿は研究者としては正しい在り方なのかもしれない。

 

 しかし、学園長の目には不審に映った。

 

 この人を大事な生徒に近づけてはいけない。ほとんど反射的にそう判断した。

 

「是非、その方に合わせてください!」

 

 その期待に満ちた眼差しに学園長は不敵な笑みを浮かべた。

 

「機会があればこちらから連絡しよう。」

 

 遠回しなお断りの言葉だった。

 

 ……が、その意図が鑑定士に伝わったかどうかは定かではない。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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