学園長先生との遭遇
「それにしても、侯爵家は何を考えてるのかな。」
口を尖らせて私の心の声を代弁してくれるルーナに苦笑いを浮かべた。
「まあ、学校側にも考えはあるんだろうし……」
宥めるようにそう言ったものの、私も不満は尽きなかった。
規律を破ったのに、私の元婚約者には謹慎すら言い渡されなかった。
そのことに怒ってくれている。
「いやいや、エリーナはもうちょっと怒っても良いと思うよ? あれは絶対圧力で揉み消したんだろうし。」
はぁと深くため息をつきながらルーナは『学園長室』と書かれた部屋のある方向を恨めしそうにチラッと見た。
「そうかもしれないね。……侯爵家って影響力があるもん。」
同意しながら渡り廊下を進んでいくと、隙間から太陽の光が溢れた場所に差し掛かった。
「なら抗議しに行こうよ! こんなの納得できない。」
バッと両腕を広げて怒りを体全体で表現するルーナに笑顔を向けた。
「大丈夫。学校側は侯爵家に恩を売ったみたいだけど、ちゃんと罰は与えられたみたいだよ。侯爵様から個人的にね。それに、ルーナが私の代わりに怒ってくれてるから、私は冷静でいられてる。」
だから、大丈夫。
もう一度そう言うとルーナは探るようにじっと私の目を見てから、諦めたように肩を落とした。
「うん、エリーナが良いなら私も良いや。あんなやつのこと、早く忘れちゃお!」
くるっと進行方向へと体を向けたルーナのツインテールが揺れる。
その先を見て、私は足を止めた。
奥に学園長先生が見えたからだ。
一瞬、聞かれてしまったのではないかと冷や汗が流れる。
立ち止まった私の視線の先を追いかけたルーナもその存在に気づいたようで目を見開いて動きを止める。
先生の手には何やら布がかけられた四角いものが握られている。
多分、大きさ的に絵画だろうけど、新しく飾るのかなと思いながら、顔を動かして行方を追ってしまう。
「おや、スミスくんにスコットくん。移動かい?」
視線に気づいたのか、学園長先生が会釈をしてくれる。
スミスは私の家名で、スコットはルーナの家名だ。
名前を呼ばれた私達は慌てて礼をとって挨拶を返した。
「こんにちは、学園長先生。はい、美術室に向かう途中でして。」
「そちらは絵画かとお見受けしますが、どこかに飾られるのでしょうか。」
ずいっと身を乗り出して物怖じせずに話しかけるルーナに感心しながら見ていると、学園長先生が横にして持っていたものを私達の前に差し出して見せてくれる。
「あぁ、今朝寄贈されてね。素晴らしい一品だから是非生徒の目にも触れる場所に置こうと思ってね。」
言いながら布を外して見せてくれる。
横顔の綺麗な女性が髪に花を飾っているとても神秘的な作品。
その絵を目にした途端、私は息を呑んで固まった。
ルーナはわぁと感嘆の声をあげていて、先生はそれを見て満足そうに頷いた。
私の反応も感動してのものだと受け取ったのだろう。
だけど、私が固まったのはあまりの綺麗さに驚いたからではない。
「これはリリアム・ロペス作の『花姫』という作品でね、非常に価値のあるものなんだ。」
嬉しそうに話す先生に、私はどうしたものかと頭を働かせた。もちろん顔には笑顔を貼り付けたまま。
「……あの、僭越ながらよろしいでしょうか。」
最後まで話を聞いた後、私は恐る恐る口を開いて、先生の目をしっかりと見た。
「なんだい?」
気を悪くした様子もなくゆったりとした口調の学園長先生に私は感謝の気持ちを込めて一度礼を取ってから口を開いた。
「その作品は贋作……本物によく似せた模倣品です。」
私の言葉に学園長先生は笑顔のままフリーズする。
その場の空気が信じられないほど凍った、気がした。
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